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『王の菜園』の騎士と、『野菜』のお嬢様  作者: 江本マシメサ
本編

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お嬢様は、働き方改革をする!

 リュシアンはソレーユの主席侍女として、慌ただしい日々を過ごす。

 王宮で一日過ごすさいは、あっという間に時間が過ぎていった。気がつけば夜、ということも少なくない。

 ただ、毎日毎日忙しいというわけではなく、王の菜園で過ごすときは比較的のんびりとしていた。

 リュシアンがなんとかやっていけているのは、母クリスティーヌの存在が大きい。

 けれど、いつかはフォートリエ領へと帰ってしまう。

 クリスティーヌの代わりとなるような信頼のおける侍女を増やして、王妃を支える必要があるのだ。


 ただ今回選ぶのは、王宮での出仕のさいに侍る者である。

 王の菜園の人手は、そこまで必要ない。

 問題は、どうやって選ぶか、である。

 正直な話、リュシアンは社交界に知り合いはほとんどいない。

 王都にきても、積極的に夜会に参加したり、茶会を開いたりしなかったから。

 野菜ばかりに構っていたつけが、今やってきたというわけである。

 クリスティーヌからは、自分の力でなんとかしなさいと言われてしまった。


 リュシアンは、侍女仲間の一人に相談してみる。それは、ティエール侯爵夫人であった。

 彼女は王妃の侍女選考で残った猛者である。


「私にそんなこと相談されても、困るのだけれど」


 なんて言っていたが、後日、ティエール侯爵夫人はいくつかのサロンで、評判のいい貴族女性の情報を聞き出してきてくれた。

 その中に、ティエール侯爵夫人と親しい者はいないという。

 なんとも公平な一覧表だったのだ。


 どうやって新しい侍女を選別すればいいのか、悩みの種だった。けれど、ティエール侯爵夫人のおかげで、対象を絞ることができた。


「ティエール侯爵夫人、ここまで集めるのは、大変な苦労だったでしょう? 心から、感謝いたします」


 リュシアンが礼を言った瞬間、ティエール侯爵夫人の頬はカッと赤く染まる。が、それと同時に扇が広げられ、顔の半分は隠されてしまった。


「べ、別に、あなたのためにしたことではなくってよ。王妃様の侍女は、共に働く同僚になるのですから、きちんとした人を引き入れたいと思っただけで」

「それでも、感謝していることにかわりはありませんので」


 リュシアンがティエール侯爵夫人はとても親切だと褒めると、耳まで真っ赤にしていた。

 初めて出会ったときは、子を育てる母熊のように気性が荒かった。

 しかし、仲間として働いてみれば、実に頼りになる。

 リュシアンとクリスティーヌに一目置き、自分がと前に出てくることはない。

 王妃のためならば、命すら捧げるくらいの忠誠心もある。

 侍女選考で、ティエール侯爵夫人を採用できたことは、幸運だったのだ。


「問題は、選考方法ですわね」

「この前のような、争わせる形のものでないほうがいいかと」

「わたくしも、そう思います」


 侍女選考のあと、監督官を務めていたコンスタンタンの怯えっぷりは気の毒になるレベルであった。

 それに、選考方法に対する苦情も、後日、何通か届いた。

 正直、選考当日より、後始末のほうが大変だったくらいだ。


「一人一人選考するのも、正直無駄だと思うのよね。サロンの主が推薦してくるような人達ですもの。性格もよく、品行方正な人達ばかりよ。だから、あとはあなたとの相性で選べばいいのでは?」

「わたくしとの、相性、ですか」

「ええ。ただ、面談をするとなれば、相手は本性なんて見せないと思うわ。だってあなたは、王妃様の主席侍女ですもの。皆、あなたに話を合わせるだろうし、機嫌を損ねることは言わないでしょうね」

「それは、そうですね」


 侍女として迎え入れたら、長い付き合いになるだろう。それならば、気が合う者のほうが仕事はしやすい。


「推薦を受けた人達は、おそらく“猫かぶりが上手”な人が大勢いると思うの」

「人当たりがいいから、推薦された、というわけですね」

「ええ。でも、本性はわからないわ。それに、サロンは趣味の場所ですもの。仕事となれば、態度が一変するかもしれない」


 そのため、本性を知ることは大事だと。


「人は、どういったときに本性を出すものなのでしょうか?」

「自分よりも、弱い立場の者を前にしたとき、かしら?」


 いまいちピンとこず、リュシアンは首を傾げる。


「たとえば、ドレスにワインをかけられたとするでしょう? ワインをこぼしたのが王妃様だったら、誰も怒らないとおもうの。けれど、メイドがうっかりワインをこぼしたとしたら、なりふり構わずに感情を露わにすると思うのよね」

「それが、本性、ですか」

「ええ、そうよ」


 ここで、ティエール侯爵夫人がある提案をする。


「今度、知り合いの伯爵夫人が立食パーティーを開くの。私に、招待客を紹介してくれと言われているから、この候補をお招きするように言いましょうか?」


 またとない提案だが、リュシアンはシュンと俯く。


「どうしたの?」

「いえ、ドレスに、ワインをこぼして調べて回るのかなと思いまして」

「ワインの話は、たとえばの話よ。そこまでしなくてもいいのよ」


 再び、ティエール侯爵夫人は例をあげる。


「リュシアンさんが、田舎の娘に変装して、私が紹介するの。そのときの態度でも、いろいろわかると思うわ」

「な、なるほど。それくらいであれば、できそうな気がします」


 よりよい職場作りのため、リュシアンとティエール侯爵夫人は協力して、侍女の選考を行うこととなった。


 ◇◇◇


 夜、リュシアンはコンスタンタンに一日あったことを報告する。


「――というわけで、変装して、パーティーに参加することとなりました」

「また、アンは仕事を増やして」

「侍女を増員したら、これまで以上に楽になります」

「どうだか」


 そこまで働いていないと主張しても、信じてもらえなかった。

 リュシアンには、“前科”がありすぎるからなのだろう。


 話し終えた瞬間、欠伸をしてしまう。

 今朝は太陽が出るよりも早く起きたのだ。明らかに睡眠が足りていないのだろう。

 当然、コンスタンタンはリュシアンの状態に気づく。


「アン、疲れているのならば、私のもとへはこなくてもいい」

「疲れているからこそ、コンスタンタン様のもとに来ているのです。こうして、コンスタンタン様とお話しするのは、わたくしにとって癒やしですから」


 今晩は、少しだけ甘えていいのだろうか。

 じっとコンスタンタンを見上げると、ため息をつかれてしまった。

 それを、許可のサインとして受け取る。

 リュシアンはそっとコンスタンタンに寄り添い、体重を預けた。

 それだけで、疲れが吹っ飛んだような気がした。

大変更新が遅くなり、申し訳ありませんでした。おそらく、最終章です。

完結後は番外編も書きますので、どうぞよろしくお願いいたします。


そして、新連載もスタートしております。

『養蜂家と蜜薬師の花嫁』

https://ncode.syosetu.com/n1330fz/

山暮らしの、ほのぼのスローライフ(※前半ドロドロ展開)です。どうぞよろしくお願いいたします。

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