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『王の菜園』の騎士と、『野菜』のお嬢様  作者: 江本マシメサ
本編

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堅物騎士は、女性達の戦場に戦々恐々とする

 ソレーユの侍女の選定を行う前に、王の菜園の騎士たちの見直しが行われた。

 新たに、ソレーユの親衛隊が送られるようになる。警備を強化するわけだ。

 隊長は、シルヴィ・ド・ポアレという、男爵家出身の女性騎士である。年齢は四十で、コンスタンタンよりも背が高く、屈強な騎士であった。

 なんとも頼りがいがありそうな護衛の存在に、コンスタンタンは野菜の騎士達も負けてはいられないと決意を新たにした。


 ◇◇◇


 開業前となっている王の菜園の宿泊施設に、ソレーユの侍女候補が集められた。

 今回、コンスタンタンは侍女の選定の監督を命じられた。

 待合室に集まった女性の数は五十名ほど。ジロジロと見られ、なんとも居心地が悪くなる。侍女の選定の責任者はリュシアンである。

 これから、リュシアンの戦いが始まるわけだ。コンスタンタンは監督するだけだが、戦々恐々としていた。

 ここは、女達の戦場なのだ。


 年齢は二十歳前半から、五十代後半までと幅広い。


 そんな女性陣を見つめるリュシアンの横顔は、実に凜々しい。母親と修行した結果、貫禄を手に入れたのか。

 果たして、十八歳の女性が身に着けていいものかは謎であるが。

 理髪師や書記、化粧師、護衛などの専門職の人選は、すでに終わっている。

 今回選抜するのは、ソレーユの傍に付き添う侍女である。十名ほど選ぶ予定だ。

 常に五名連れ歩き、交代勤務を行う。

 王太子妃の侍女としてはかなり少ない人数である。あまり人数が多いと、把握が難しいとソレーユが判断したため、とりあえず十名だけ選ぼうという方向に決まった。


 ソレーユが挙げた侍女の条件は、既婚女性で、王の菜園での就業が可能な明るく健康的な女性。


 未来の王妃の侍女となれば、何かおいしい目にありつけるかもしれない。

 そんな目論見が見え見えな応募が、殺到した。

 たった十名の募集に、三百通もの応募があったという。一次選考通過させるのは、百名もの貴族女性だ。ここから、十名の侍女が厳選される。

 リュシアンは母親と共に書類審査を行った。半数は、未婚の女性だったのでそこまで苦労はしなかったという。

 一次選考通過、不通過の知らせも印刷所に頼んで書面を作り、宛名書きも人を雇ったというので、そこまで手間ではなかったらしい。

 短期間で、リュシアンは実に人を使いこなせるようになった。


 ただ、ほんのちょっとの休憩時間に、コンスタンタンが贈った温室で野菜の種を蒔き苗を植えている様子は、いつものリュシアンである。

 野菜への情熱は、筆頭侍女となっても変わらない。

 コンスタンタンも、なるべく一緒に過ごせる時間を作り、二人で野菜を愛でていた。


 全員揃ったので、選考が始まる。

 まず、ソレーユがやってきた。彼女も、花嫁修業を経て、未来の王妃に相応しい威厳や風格を身に着けている。

 ソレーユが人々の前に立ち、ひと睨みした瞬間、誰もが口を閉ざした。

 ざわざわ騒がしかった空間が、静寂に支配される。

 ここまで人は変わるのかと、コンスタンタンは内心舌を巻いていた。


「みなさん、今日はお集まりいただき、心から感謝しているわ」


 まずは、ソレーユの想いが語られる。


「ここは、王の菜園。国王陛下の健康を考え、野菜が作られる重要な拠点なの。わたくしはこの地を、王家の第二の拠点にしようと、計画を練っているわ」


 集まった女性陣の緊張感が、増していく。ソレーユは政治から一歩引くために、王の菜園に身を置くわけではないようだ。


 間違いなく侍女に選ばれた者は、重要な役割を任される。なんとしてでも選ばれたい。そんな各々の野心が、よりいっそう強くなったようにコンスタンタンは感じた。


「また、王の菜園は夫となる王太子殿下の、心安らぐ場所であればと思っているの」


 ただ、ここは市民に食を通して、王家に親近感を抱いてもらえるような施設もある。人の出入りは多い。


「一度、王の菜園は襲撃を受けているわ。厳重な警備の見直しも、視野に入れているの」


 王の菜園は太陽光を遮らないように、高い塀は作っていない。それが、弱点となっている。

 どうすれば、安全で平和な王の菜園を造れるのか。その意見についても、話を聞きたい。

 ソレーユは宣言する。


「もちろん、それだけではなく、ここは王の菜園だから、畑のお世話や収穫ができるかどうかの適性も、調べさせていただくわ」


 彼女が求めているのは、従順なだけの侍女ではない。

 ありとあらゆる面で能力を発揮できる、自分の手足のように使える者であった。 


 女性陣の目が、ギラギラ輝く。コンスタンタンは先ほどから、悪寒が止まらなかった。

 選考の監督を受けたことを、後悔した瞬間でもある。


 無事に終わりますようにと、祈らずにはいられなかった。

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