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お嬢様は、グルグル思い悩む

 頑張るあまり、たくさんの人に迷惑をかけてしまった。

 リュシアンはひとり反省する。

 しっかり休んで、体力を回復させないといけないだろう。

 食事を取って、眠る。それだけなのに、横たわってもなかなか眠れるものではない。

 すると、目を閉じた状態でぐるぐる考えてしまう。

 そんな状態で、一睡もできないまま夜を迎えてしまった。


「アンお嬢様、アランブール卿がいらっしゃっていますが、大丈夫でしょうか?」

「コ、コンスタンタン様が!?」


 まったく、大丈夫ではない。結局、気持ちに整理はついておらず、反省もままならない状態だった。

 それに、今は化粧をしていない。

 これも罰だと、現状を受け入れる。


「あの、はい。大丈夫です」

「わかりました」


 ロザリーは廊下で待っているコンスタンタンに、「問題ないようです」と声をかける。

 ドキドキと、緊張していた。さすがのコンスタンタンも、今回ばかりは怒っているだろう。

 シュンとしながら、リュシアンはコンスタンタンを待つ。


「失礼する」

「は、はい」


 リュシアンはコンスタンタンのほうを見ることができなかった。

 怒鳴られてしまうのか、それとも、淡々と怒るのか。

 コンスタンタンがどのように怒るものか、まったく想像がつかない。

 いつだって、彼は冷静だったのだ。

 目を伏せ、ぎゅっと拳を握るリュシアンの目の前に、突然何かが差し出される。

 よくよく見たら、キャベツだった。


「あ、あの、こ、これは――?」

「春キャベツだ。休憩時間に収穫して、買い取ってきた」

「そ、そうなのですね」


 リュシアンは春キャベツを受け取り、胸に抱く。すると、どうしてかざわついていた心が、ほんの少しだけ落ち着いた。


「もう、春なのだな」

「そうですわね。火事のあとに植えたキャベツも、こんなに大きく育って」


 キャベツとしては小ぶりだが、葉は柔らかく驚くほど甘い。

 今の時期に作るキャベツのスープは、春のごちそうなのだ。


「農業従事者が、今年の春キャベツは特に甘いと、食べさせてもらったら、本当に甘くて驚き――アンにも、食べさせたくなったんだ」

「コンスタンタン様、ありがとう、ございます」

「味見を、してみよう」


 リュシアンからキャベツを受け取り、ナイフでカットする。刃を入れた瞬間に、キャベツの断面から水分が滲みでた。新鮮な証である。

 リュシアンはコンスタンタンに差し出されたキャベツを受け取り、口に含んだ。

 キャベツの葉はパリッと張りがあり、強い甘みをあとから感じる。


「とても、おいしい、です」

「だろう?」


 しばらく、二人でキャベツをパリパリと食べる。あっという間に、四分の一を食べきってしまった。

 手持ち無沙汰となると、リュシアンはやっとコンスタンタンを見ることができた。


「あの、コンスタンタン様!」

「顔色が、よくなった」

「あの……はい。おかげさまで」

「でも、元気は戻っていないな」


 気落ちしている状態なので、元気がないように見えたのだろう。


「私は、アンが元気なことが、何よりも嬉しい。だから、一刻も早く、元気になってくれ」


 コンスタンタンの言葉を聞いた瞬間、リュシアンは涙を流した。


「コンスタンタン様、も、申し訳、ありません。ご、ご迷惑を、おかけして」


 何も言わずに、コンスタンタンはリュシアンの震える手を優しく包み込むように握った。


「お、怒って、いらっしゃると、思って……」

「怖かったのか?」


 コンスタンタンの言葉に、コクリと頷く。


「私は、アンに無理をさせてしまった自分に、怒っていただけだ。アンはアンで、倒れてから自らを責めていただろう? 何が悪かったか、すでに気付いているはずだ。そんなアンに、いろいろ言うわけがない」

「コンスタンタン様……!」

「もう、自分を責めないでくれ。何も考えず、ゆっくり休んで、急がなくてもいいから元気になってほしい」

「はい」


 心がスッと軽くなる。コンスタンタンと話ができて、本当によかったとリュシアンは思った。


 ◇◇◇


 三日後に、リュシアンは仕事に復帰する。

 どこに行くにも、何をするにも、母クリスティーヌの監視付きだった。

 若干仕事がしにくくなったが、今までやりすぎていたのだろう。

 休憩も一日三回から、七回に増やされてしまった。

 クリスティーヌはリュシアンだけでなく、コンスタンタンも一緒に休憩をしようと巻き込んでいた。


 ロザリーが緊張の面持ちで、紅茶を淹れる。


「あら、ロザリー。腕を上げましたね」

「も、もったいないお言葉でございます」


 ロザリーは完全に萎縮していた。リュシアンはチラリとコンスタンタンを横目で見る。

 さすがと言えばいいのか。クリスティーヌを前にしても、コンスタンタンは堂々たる態度でいた。

 改めて、素敵な人だと思ってしまう。


「そういえば、ずっと気になっていたのですが――二人の結婚式の準備は進んでいるのですか?」


クリスティーヌの指摘に、リュシアンは心の中で頭を抱え込む。

 ここ二ヶ月ほど、バタバタしていて何も手についていなかったのだ。

 言葉を探すリュシアンの代わりに、コンスタンタンが答えた。


「招待状の準備は完了しております。料理の手配は、話し合っている途中です。婚礼衣装につきましては、すでに発注済みで来月に試着を予定しています」


 コンスタンタンはスラスラと答える。リュシアンが忙しくしている間に、準備を進めていたようだ。

クリスティーヌも、満足げに頷いていた。コンスタンタンに心から感謝する。 

本日からコミックファイアにて、王の菜園の騎士〜のコミカライズが始まります!

何時から掲載されるかはわからないので、ちょこちょこ覗きに行っていただけたら嬉しいです!

http://hobbyjapan.co.jp/comic/

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