表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『王の菜園』の騎士と、『野菜』のお嬢様  作者: 江本マシメサ
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

118/168

堅物騎士は、眉間に皺を寄せる

ソレーユの実家を侯爵家と書いておりましたが、正しくは公爵家でした。

 王太子の指名で、リュシアンはソレーユの首席侍女となる。それは異例中の異例の大抜擢で、社交界はざわついていた。

 国王を取り巻く王宮内には、いくつかの派閥がある。

 国内の改革を推し進める王太子派、慎重な政治を行う旧国王派、中立的な立場である騎士隊派。

 どこを支持、支援するかによって、社交界の立ち位置が変わってくるのだ。

 妃となるソレーユの実家であるデュヴィヴィエ公爵家は、言わずと知れた王太子派。その首席侍女は、他の派閥のものを取り入れて、バランスを取る必要がある。

 同じ派閥の者ばかり集めれば反感を買い、独裁的な政治をするものだと見なされるからだ。

 政治的にも影響力が高い首席侍女には、旧国王派から選ぶのが最適とされていた。しかし、首席侍女となったのはリュシアン・ド・フォートリエという、どこの派閥にも所属していない地方領主の娘である。

 これは、いったいどういうことなのか。さまざまな憶測が飛んでいた。


 リュシアンを取り巻く環境は変わりつつある。それを、コンスタンタンは目の当たりにしていた。


 リュシアンは今日一日の間に届いた手紙を、コンスタンタンに見せてくれた。


「こんなにも、お茶会や夜会の招待状をいただいてしまって……」


 数えずとも、三十通以上の手紙が並べられていた。


「思った以上に、とんでもない事態になっているな」


 コンスタンタンの本音に対し、リュシアンは眉尻を下げ、困ったように淡く微笑む。


「派閥ごとに分けてみたのですが、王太子派の方のお手紙は一通、旧国王派の方のお手紙が十五通、騎士隊派の方のお手紙が四通、という結果でした」

「非常にわかりやすい」


 旧国王派は焦っているのだろう。現国王は退位を決め、現在政治を掌握しているのは王太子である。さらに、『国王派』から『旧国王派』と呼ばれるようになり、立場も弱くなりつつあるのだ。


「アンに取り入って、社交界の立ち位置を確固たるものにしたいのか」

「困りますわ。わたくしには、そのような権力などありませんのに」

「そうだな」


 ただ、ソレーユはリュシアンを信用している。何か願えば、叶えるだろう。

 二人が親しい仲だったという話が、どこからか漏れたのだろうか。あまり喜ばしい状況ではない。

 リュシアンも、毎日毎日手紙の返事を書くのは大変だろう。


「どうしようかと考えたのですが――」


 王太子派の者とだけ会うわけにはいかないだろう。平等に選び抜き、角が立たないようにしないといけない。


「せっかくお誘いをいただいたのに、無下にするわけにもいかないなと思いまして」

「いや、しかし、無理はしないほうがい。会える人数にも、限界がある」

「ええ。ですが、皆様とお会いできる、すばらしい案を思いつきまして」

「すばらしい案、だと?」

「はい。王の菜園に、お招きすれば面会は一度で済みますわ」


 茶会に赴くのではなく、逆に招待する。そのほうが、効率的だ。


「それに、わたくし達の領域テリトリーにお招きするほうが、安全かなと」

「安全?」

「狩猟と同じですわ。獲物の巣穴に直接行くのは危険ですが、罠を用意しておけば、安全に仕留めることが可能です」

「ああ、なるほど」


 リュシアンの考えに、コンスタンタンは舌を巻く。

 招かれた先に誰がいるかわからない場所へ行くよりは、あらかじめ誰が来ると把握しているほうが安全である。


「畑のほうへは立ち入らないようにしますので、許可をいただけますでしょうか?」


 リュシアンは上目遣いで、コンスタンタンに願う。今すぐ頷きそうになったが、コンスタンタンは奥歯を噛みしめる。


「一度、父に聞いてみよう」

「はい、よろしくおねがいいたします」


 話が一段落ついたので、コンスタンタンは「ふー」と長い息をはきだした。


「コンスタンタン様、申し訳ありません。わたくしが、首席侍女になったばかりに」

「いや、いい。想定していた。アンは、ソレーユ嬢を助けたかったのだろう?」

「はい」

「だったら、気に病むことはない。首席侍女など、誰にでもできる仕事ではない。誇りを持て」

「ありがとうございます」


 コンスタンタンは向かい側に座るリュシアンを見て、こちらにくるようにと手招く。リュシアンは嬉しそうに、駆け寄って隣に腰を下ろした。

 コンスタンタンから行かなかったのは、まだ結婚していないからである。傍に寄るか寄らないかの判断は、リュシアンに一任している。


 手を差し出すと、リュシアンは細い指先をそっと重ねてくれた。コンスタンタンは優しく、リュシアンの手を握る。


「アン、約束してくれ。これから、大変な事態に巻き込まれるかもしれない。自分では解決できないこともあるだろう。そういうときは一人で抱え込まずに、相談してほしい。何があっても、私はアンを信じ、助けよう」

「はい、ありがとう、ございます」


 リュシアンは俯き、震える声で言葉を返す。

 平然としているように見えたが、実際は怖かったのだろう。


 社交界には、悪辣で狡猾な考えの者がわんさかいる。そういう者から、リュシアンを守らないといけない。


 コンスタンタンは決意する。何があっても、リュシアンの味方でいようと。

挿絵(By みてみん)

ホビージャパンHJノベルスより書籍化が決定しました!

イラストは仁藤あかね先生に担当いただいております。

本文加筆修正に加えて、3万字以上の書き下ろし番外編も収録されております。

12月21日発売です。どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ