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14話 新番組! 突撃隣の不倫現場!

「分からないなら行ってみよう! 突撃隣の不倫現場!」


 お団子頭の幼馴染が繰り出したのは、野次馬根性にもほどがある言葉だった。そして行動だった。有言実行とばかりに、美鳥をぐいぐい引っ張っていく。だがしかし、美鳥は己の良心を支柱にして自らの肉体をその場になんとか踏ん張らせた。


「ちょっとちょっと! 駄目だってデリケートな問題だから!」

「でもトリちゃんだって気になるでしょ? むしろトリちゃんの方が気になるでしょ?」


 あっという間に支柱が緩んだ。


「ぐっ。そりゃあちょー、気になるけども……うわぁ!」


 良心の支柱はあっさりと引っこ抜かれてしまい、そんでもって一気に引っ張られてしまう。そんでもってそんでもって。


「あっ、美鳥ちゃんに叶枝ちゃん!」


 ついに気づかれてしまった。


 「ふたりとも久しぶりー!」


 美鳥の心配も叶枝の企みも知らずに、歩は手をぱたぱたと振ってふたりに呼びかけてきた。ならば叶枝も当然その声に応えるし、そうなれば美鳥も当然応えなければいけなくなって。


「お久しぶりでーす!」

「お、お久しぶりです……」

 

 とうとう始まってしまった新番組。突撃隣の不倫現場。

 内心で戦々恐々と怯える美鳥だが、一方で歩は不倫現場かっこかりを目撃されてしまったというのに、平然とふたりを謎のイケメンに紹介していく。

 

「慧。このふたりは白の同級生なんだ」

「叶枝でーす! 慧さんって言うんですね! よろしくお願いします!」

「み、美鳥です。よろしくお願いします……」

 

 ふたりの挨拶に、謎のイケメンもとい慧が手を挙げて答えた。

 

「よろしく中学生たち! しっかしあの白ちゃんの友達か……」

 

 慧はそれだけ言うと、その手に持っていた棒アイスを勢い良く食べ始めた。シャリシャリシャリ……あっという間に食べ終わると、残った棒をふたりに突き出して。


「もしや、ふたりも女同士で付き合ってるのか?」

「慧!?」


 横に立っていた歩がぎょっとした。美鳥だってもちろんぎょっとする。しかし、叶枝だけが平然と。


「え~、どっちだと思います~?」

 

 繋ぎっぱなしの手と手を掲げながら、挑発的に問い返してきた。高校生ふたりから、感心と驚きの声がそれぞれ上がる。

 

「ほう、なるほど」

「ちょ、ちょ、ちょ、ま、ま、まさか……」

「そんなわけないじゃないですか! 叶枝もそういう冗談はやらないの!」


 美鳥はもちろん、急いで誤解を解きにかかった。ついでにぶんと手を振って叶枝の手を引っぺがした。それからさらに念を押す。誤解は良くないのだ、人として。


「叶枝とはただの幼馴染であって、それ以上でも以下でもないですから!」

「ということなのでぇ、ごめんなさいっ」


 叶枝も両手を合わせて謝った。片目でぱちんとウインクしながらではどうにも説得力が足りないのだが、慧は気にする様子もなくむしろ楽しそうな微笑みを浮かべてしみじみと言った。

 

「中学生って若くていいなぁ。俺もこんなんだったっけ」


 それを聞いた歩が、呆れたような口調でツッコミを入れた。


「慧は昔から変わんないでしょ。ていうか若さを振り返る歳でもないでしょ」


 それから歩は手に持っていたソフトクリームを一口齧る。美鳥たちが来る前から食べてたそれは、もうコーンの部分、その先端しか残っていない。歩が最後の一口を食べようとしたその瞬間。


「ほいっと」


 慧が横からコーンを掠め取ってひょいと自らの口に放り込んだ。


「あー!!」

「この手のアイスってコーンの尻が一番旨いまであるんだよな。ごっそさん」

「そうだよ! だから楽しみにしてたのに! 返せ! 吐かす!」


 歩がキレながら慧の口目掛けて手を伸ばすが、慧は軽々とその手をかわしたり掴み取ったりする。それは、当人たちからしたらいつものじゃれ合いだったが……


「やばい、やばいよ白……!」 

 

 部外者である美鳥からしてみれば、それは完全にいちゃついているだけだった。しかもよく考えれば間接キスのおまけつきだ。ゆえに彼女の中ではもう不倫現場から(仮)の部分が95%くらい削れてしまっていた。それこそ、コーンの尻程度の希望しか残っていない。

 美鳥はもうどうしたらいいのか分からない。だが……幼馴染は違っていた。


「あのー、おふたりにお聞きしたいことがあるんですけどー!」

 

 叶枝の言葉が、じゃれ合っていたふたりの注目を集める。それを見計らって、叶枝はひとつの質問をぶっこんだ。


「ふたりは結局付き合ってるんですかー? 白ちゃんからすれば、浮気的な?」

「叶枝!?」


 あまりに核心的過ぎる質問に美鳥がぎょっとした。歩だってぎょっとしていた。だが慧だけはひとり余裕で、むしろ歩の肩に自分から手を掛けてぐっと引き寄せたりしてた。歩の童顔に、己のイケメンフェイスをぴたりと寄せて。


「どういう関係だと思う?」


 凛々しいハスキーボイスをもって問いかけてきた。そこはかとなく、耽美な雰囲気が漂っている……ように美鳥には思えてならなかった。


「ほ、ほ、ほんとに」

「トリちゃん顔あかーい」

「あ、赤くないって! えっと、あの」


「そういうところが胡散臭いって言うんだよ!」


 否定したのは、他ならぬ歩だった。彼女は怒りを見せるやいなや、イケメンの頬を容赦なく両手で押した。端正な顔がぐにっと歪むが、気にせず無理矢理引きはがして。


「こんなやつと付き合うなんて、天地がひっくり返ってもあり得ないから! 僕は白一筋だからねマジのマジで!!」


 必死の形相で弁解をしてきた。あんまりにも必死でなんか一周回って怪しい気もするが、しかし慧の方からも「すまんすまん」と謝罪が投げられたので、やはりふたりは付き合っていないのだろう。そう理解して、美鳥はホッと一息ついた。そんな彼女を見てニシシと慧が笑う。


「年下見るとどーしても魔が差しちゃうんだ。やっぱ中学生って若いんだよなー」

「あーやだやだ確かに慧は年増だよ心が年増だおっさんだ」

「かもな。お前みたいなおこちゃまから見りゃしゃーない」

「なにをー!」


 またもじゃれ合いを始めだしたふたり。あんまりにも仲がいいが、しかし恋人ではないらしい。だったらつまりどういうこと? 美鳥の疑問は自然と言葉になっていた。


「あの、結局おふたりはどういう関係で……」


 送り出したひとつの問いは、すぐに二重の言葉で返ってきた。


「「幼馴染で」」

「腐れ縁」

「親友……っておいこら」

「ばーかばーか慧のばーか」

「うっせちーびちーび」

 

 ふたりはまたもじゃれ合いもとい喧嘩を始めた。語彙力皆無な煽りをぶつけ合うふたりを見て、美鳥はふと思い出した。


「そういえば、幼馴染がいるって言ってましたね歩さん……」


 ああそうだ。ふたを開けてみればなんてことない話だった。

 幼馴染。自分たちと同じ関係。だったらこの距離の近さも納得できる。


「まぁ、男女の幼馴染もそれはそれで恋愛漫画の定番だけど……」

 

 ぼそりと呟き、しかしすぐに首を横に振る。この場合は例外だろう……なにせ実際に歩が付き合っているのは白なのだ。つまり歩は女性と付き合っているのだ……そう思い返すと、美鳥の中で好奇心がうずきだした。

 

 実はずっと、面と向かって聞いてみたかったことがある。

 

「あ、あの」


 美鳥がおずおずと話しかけたのは、歩だった。彼女は可愛らしく小首を傾げて、美鳥を見返してきた。


「どうかした?」

「いえ、えっと……」

 

 美鳥は意を決して切り出した。


「白から聞いたんですけど、あの子と付き合ってるって本当ですか……?」


 美鳥はそれをおそるおそる口にしていた。

 もしかしたらこんな聞き方は失礼かもしれないと頭の片隅では思っている。だがそれでも、どうしてもこういう聞き方になってしまう。

 なぜなら美鳥にとって……同性愛というのを実際見たのは初めてだったからだ。


 ――わりと軽率に性別が変わる奇病が出てきてから50年。そんな現実が"馴染んできた"ついでに性別に関する諸々の問題も、なんかあんまり問題じゃなくなってきたこの時代。

 だから今時の若者である美鳥は同性愛というものにさしたる偏見こそない。しかし……珍しい物はどうしたって珍しいのだ。四文字で言うと興味津々。

 一方で、尋ねられた歩はすぐに顔を赤らめた。例えそれが隠していない事実であれ、改めて口にするのは恥ずかしいのだろう。両手で口を抑えながら、か細い声で一言。


「うん……」

(可愛い反応だぁ!)


 歩の回りに白百合の花が咲きほこる。そんな光景を美鳥は幻視した。


(うわーほんとに付き合ってるんだ。でもどうすんの女の子同士って普段のデートってどんなんだろうキスとか男の人とするより柔らかいのかな私恋愛したことないし知らないけどていうかアレとかコレとかどうす――)


 そこまで考えて、美鳥は妄想を払うために首を振った。恋愛フィクションの摂取過剰だ。自分で自分を諫めて、それからもう一度歩を見た。


(本当に、数か月前よりも綺麗になったな)


 女の美鳥から見てもぶっちゃけ普通に綺麗で可愛い。しかも普通に性格もいい。しかし、だからこそある種の違和感が浮き彫りになる。興味津々。美鳥は抑えきれずに口を開いた。


「あの、なんで白を選んだんですか?」

「なんでって……」

「いや、だって白って正直かなりの変人だし、こう言ってはなんですが特別美しいわけでもないし……」

「え? めちゃめちゃかっこよくない? 高い背とか、大人びた顔つきとか」

「えっ」


 おっと出鼻をくじかれた。もしかして単にあの手の変わった見た目が好みだった? いやきっと違うというか違ってほしい。もうちょいこう、なんていうか素敵な理由が欲しいのだ。そんなわがままを願いつつ、しかし図々しい質問をする罪悪感に苛まれて、美鳥は結局俯きながら遠慮がちに問いかけた。


「えっと、とにかくですね、その……歩さんみたいに綺麗で性格もいい人が白みたいな人と付き合う理由ってあんま思いつかなくて、だから気になって……」


 言いながら美鳥が面を上げると、歩は両手で口を覆ってこれでもかと驚きを露わにしていた。


(やっぱり失礼だった?)


 そう直感した美鳥は慌てて一言付け加える。


「あの、デリケートな話なので! 言いたくないなら全然いいですからほんと! ていうかあのほんと、白のこともぶっちゃけよく知らないのになんか色々とすみません!」


 その謝罪を聞いて、歩が両手から口を離した。断られる? 怒られる? 美鳥が身構えた次の瞬間。


「綺麗で性格もいいって、ほんと!?」

「へ?」


 歩の顔が、いきなりぱぁっと輝いた。今度は美鳥が驚く番だった。


「確かに思ったままを言っただけですけど……えっと……怒ってないんですか?」

「ないない、だって褒めてくれたし! 慧のやつは全然褒めてくんないし、白だって褒めてはくれるけど……」


 歩の顔にほんの一瞬陰りが映ったが、それは本当に一瞬だった。彼女はすぐに輝きを取り戻して。


「褒めてもらえるのが嬉しいんだ。ちゃんと前に進んでるって実感があるから」

「前、に……」

「あ、それよりも白に惚れた理由だったよね! 早い話が……一目惚れだったんだ」

「一目惚れ?」

 

 一目見て恋に落ちる。

 それは恋愛物のド定番だが、美鳥は正直なところその存在に懐疑的だった。

 なぜなら美鳥は恋をしたことがなかったから。保育園のイケメン先生にも、小3のときに交友があった天才少年にも、中1のときにお世話になった優しい先輩にも恋ができなかった。

 だから、実感がどうしてもできないのだ。例えばある種の利害関係だったり単純に見た目が好みだったりするなど、明確な理由があって恋をするならせめて理解はできる。

 だが一目惚れは分からない。理解するにはあまりに直感的過ぎるのだ。だから……美鳥はさらに深く問いただす。

 

「一目惚れって、どこにどうやって惚れたんですか?」

「えっと、その……結構恥ずかしいなぁ……」


 照れくさそうに頬を掻く歩を見て、さすがに突っ込み過ぎたかと美鳥は内心で反省する。だが結局、歩は照れながらもゆっくりと答えてくれた。

 

「白の瞳を見た瞬間、こう、ガツンって来たんだ」

「白の、瞳……?」


 美鳥にはそれがすぐに思い浮かばなかった。なぜなら白はそれをいつも隠しているから。たまにちらちらと覗く瞳は確か茶色だった……気がする。美鳥にとってはその程度の価値だったが。


「なんでそこに惚れたのかって言われると……なんでだろうね。言葉で説明するのは難しいし、僕自身でもやっと『ああこういうことなのかな』って、少しずつ見えてきたところなんだけど……あの目にはなにかが詰まってて、それをガツンとぶつけられた……って、分かんないよねこんなの! ごめん、上手く言えなくて」

「い、いえいえ。わざわざ教えてもらってありがとうございます」


 実際、美鳥にも歩の言っていることはほとんど理解できなかった。だがなんとなく、それを話す歩の姿から実感できたこともひとつだけ。


「本当に好きなんですね、白のこと」

「うん。大好き」

 

 歩は呟くように言うと、静かに俯いてからなにかを思い出すように、愛おしげに瞳を細める。その光景に美鳥は思った。

 

(本気で恋をしている人の顔だ)

 

 美鳥はそれを初めて見た。正確には、"現実において"それを初めて見た。

 テレビや本を通してなら、何度だって見たことがある。しかし現実で本物で、それもこんな間近で見たのは初めてだった。


(なんか、見てるこっちが苦しくなってきた……)


 それはある種の憧れかもしれない。あるいは……同情かもしれない。そう美鳥は自覚していた。なぜなら歩に同情してしまうような事情を、美鳥は知っていたから。そして美鳥はついそれを口にしてしまった。


「でも……白から聞きました。遊び、なんですよねあの子いわく」

「っ!」

「あっ……!」

 

 歩の目に宿っていた恋心が一瞬で霧散して、代わりにショックでいっぱいになった。みるみるうちに大きく開かれていく目を見て、美鳥は己の失言に気づいてしまった。

 

(なんでこんな余計なことを! いくらなんだって野次馬根性が過ぎるでしょ自分!)

 

 どうしよう。美鳥は慌てて言葉を探し始めた。歩を励ますための言葉を。なにか、なにかないか――

 

「そういえば」

 

 思い出したのは、少し前にすれ違った様子のおかしい白だった。浮気の目撃と言う線は結局外れたが、しかし白がなにかしらの勘違いをした可能性はまだ残っている。美鳥は咄嗟の判断で、ひとつの質問を投げてみた。

 

「歩さん。私たちに会う前に白と会いました?」

「うん。ちょっと話したけど……あ。そういえばキミたちの来た方向に、白は帰ってったんだよね。もしかして白とすれ違ってた?」

「ええ、まぁそうなんですけど……」

(つまり白は私たちみたいにふたりを目撃してなにかを勘違いしたわけじゃなくて、歩さんとなにか話したことでショックを受けた……? でも喧嘩したわけじゃないんだよね。だって歩さんには変わった様子ないし……)

「どしたの美鳥ちゃん。白となんかあった?」

「ひゃい!?」

「ふぁい!?」


 ふたり一緒に驚いて、それから美鳥が慌てて謝った。我に返った美鳥の脳内には、しかしひとつの仮定が残っていて。


「あ、いや。ごめんなさい! 違うんです! ちょっと気になったことがあっただけで」

「気になったこと?」

「えっと、その、白ですけど、もしかしたら……歩さんが思ってるよりも本気なんじゃ――」

「ほんと!? ほんとに!? マジで!!??」

(しまった!)


 よく考えずに口走ってしまったことを、美鳥は一秒で後悔した。


「本気、かも……」

「かも……?」


 なんか冷静に考えたら、言うほど本気でもない気がしてきた。


「ワンチャン」

「わんちゃん……」

 

 やっぱ飛躍しすぎだろう。『白が本気だから、歩の些細な言葉にもなにかしらのショックを受けた』だなんて仮説。

 

「微粒子レベルで……」

「びりゅうし……」

「ごめんなさい恋愛弱者ごときが変なこと言っちゃって本当にごめんなさい!」

 

 罪悪感に耐え切れなかった美鳥は、その場で何度も頭をぺこぺこと下げて謝り始めた。だが、どうやら歩は意外と気にしていないらしく。


「や、そんな気にしないでよ! むしろキミが微粒子レベルでも可能性を感じてくれたなら希望が持てるまであるし! だって白の友達ってある意味僕なんかよりずっと身近だろうし!」

「う˝っっ!!」

 

 美鳥は思わず胸を押さえてしまった。罪悪感で心臓が止まりそうになったのは、人生初めての経験だった。

 

(実は白のこと言うほど知らないんですなんかもうほんとごめんなさい!)

 

 だが当然、歩がそんな胸中を察することはない。むしろ美鳥と白の心温まる友情かっこわらいについて興味津々といった様子で。

 

「そういえばさ、白とどうやって友達になったの?」

「へ?」

「あ、いや、なんか美鳥ちゃんってちゃんとしたいい子だし、それに僕とちょっと似てるから……あ、ごめんね僕なんかと似てるなんて!」

「いえ、全然いいですけど……」

「それなら良かった。で、そんなキミが白と接点持った理由が分かれば、白に近づけるヒントになるかなって……」

(健気な人だ)


 あまりに健気過ぎて……美鳥は軽く死にたくなった。なにせ白の出会いなんて、本当に大したことないのだ。これがなにかのヒントになるとは到底思えないが、しかし問われたからには話さないわけにもいかない。がっかりさせることは分かり切っていたが、それがせめてもの礼儀だと思った。


「歩さんは、ご近所さんだから白に目を付けられたんですよね」

「まあね」

「だったらそれと大差ないですよ。クラスメイトになったから目を付けられた。中一で一緒のクラスになって……それからあの子は私、というか”私たち”に興味を持ったんです」


 美鳥の脳内で記憶という名のカセットテープが再生される。


『あなたたち、面白いですね』


 それが美鳥が聞いた、白の第一声だった。


「あの子が興味を持ったのは、私というより――」


 続きを語ろうとしたその瞬間、


「分かった! キミたちが幼馴染だからでしょう!」


 いきなりの回答に、美鳥は呆然としてしまった。そして呆然と呟いてしまった。


「正解……」

「でしょう! すごい仲良いもんねふたりとも。白、そういう特殊な関係みたいなの好きそうだし」

「すごい。分かるんですか、そういうの」

「そりゃ今まで何回もデートしたしね!」


 歩はそう自慢げに答えたが、しかしすぐに腕を組んで悩ましげな表情を見せてきた。


「って言っても趣味とか性格とか他愛のないことばかりで……そっか、僕にはそもそも情報が足りないのかも! うーん、もっと深いこと……ねぇ美鳥ちゃん」

「はい?」

「あのさ、友達ならではの白情報とかないかな!?」

「ぐはっ!」

「え、どうしたのまるで刀で斬られたような声出して!」

「い、いえ、なんでも……」


 言葉の刀に斬られたんですよ、なんて言えるわけがなかった。

 歩はただ純粋に、美鳥を白の友達として信じているのだ。こんないい人を裏切るのはあまりに辛く、しかし自分にできることはなにもない。心の中で思わず叫んだ。

 

(助けて叶枝!)


 その瞬間、応える声が耳に響いた。


「トリちゃん!」


 それは、誰よりも安心する幼馴染の声だった。

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