六話 大切な仲間、懐かしの時間
「…わ!美和…!」
聞こえてきた声は、紗雪の声だった。
ゆっくりと目を開けると、紗雪が心配そうに私の顔を覗いていた。
「さ、ゆき…。」
かすれた声で名前を呼ぶと、紗雪はほっとした表情を浮かべた。
体を起こそうと思って、体に力を入れた。
「痛っ!」
全身に痛みが走った。多分、痛いのはあの時地面に叩きつけられたからだ。
「まだ動いちゃダメだよ。」
紗雪は私を寝かせた。
私が寝かされていた場所は、駐車場みたいなところだった。
まるで、映画の中に出てきそうな場所だ。
壁はコンテナみたいにジグザグしていて、少しガソリン臭がする。
今にも大型トラックが突っ込んで来そう。
「ここは?」
「大輝の、住み家的な?」
紗雪は曖昧な顔をしていた。
「あれだけ吹き飛ばされたら当分は起き上がれないんじゃない?」
向こうから大輝の声が聞こえてきた。
紗雪は、もう大輝のことを警戒していない様子だ。
あれから、何か信頼できることでも掴めたのだろうか。
それより今が何月何日か知りたい。
「紗雪…。今、何日?」
「ん。」
紗雪はデジタル時計の電気を付けて、私に見せてくれた。
≪12. 16. 19:23≫
「私って、あれから二日も寝てたの!?」
驚いて、つい叫んでしまった。
「うん。死んでるのかと思って、大声で呼んだら、起きた。」
紗雪は平然と言った。
いや、もう少し寝かせてくれればよかったのに…。
「紗雪。大輝って信頼して大丈夫なの?」
小声で聞くと、紗雪は詳しく説明してくれた。
「大輝、どうも学校だと見張られてるらしいよ。だから、ああせざるを得なかったんだって。それで、私たちの家に爆弾が仕掛けられたのを知って、急いで知らせに来てくれたみたい。でも、そのおかげでもう大輝はいつ殺されてもおかしくないんだって。」
大輝は、自分の命を捨ててまでも私たちを守ろうとしてくれたんだ。
ふと、紗雪の腕を見ると、包帯が巻かれていた。
「紗雪、腕どうしたの!」
私はばっと起き上がった。また全身に痛みが走ったけど、今は紗雪の腕が心配だ。
紗雪は慌てる私の様子を見て、ふっと笑った。
「美和に比べたら、何ともないよ。自分の体を見てごらんよ。」
言われるがまま、視線を自分の体に移した。
「うわあ。」
思わず声が出た。なぜなら、私のからだ中、包帯と大きなばんそうこうだらけだったから。吹き飛ばされただけで、こんなことになるんだ…。
「美和。」
「ん?」
紗雪は、さっきとはどこか違う表情をしていた。
「私って…。やっぱり何でもない。」
「あ。それ久しぶりに聞いた。」
紗雪は、驚いた顔をした。そして、笑った。
「いつも、言わなくてごめん。」
「別に、いいよ。思い出せないんでしょ?」
「うん…。」
思い出せないならしょうがない。
紗雪が言いたいときに言えばいいんだから。
でも一つ、知りたいことがある。
なんでいつも、その質問をするときだけ、とても寂しそうな顔をするのか。
その表情は、言葉では表せないほど深く、何かを思うような顔。
紗雪は本当に、何を聞きたいのだろう。
次に目を覚ましたのは、真夜中の二時だった。
しばらく寝ていたから、気持ちも体も落ち着いた。
ゆっくりと体を起こすと、体の痛みはほんとんど無かった。
ずっと寝ているのも退屈だと思って、起き上がった。
周りを見渡すと、大輝と紗雪が寝ていた。
二人とも、孤児院で暮らしていた時のような寝顔だった。
「いたた…。」
腕だけはまだ痛かった。それほど強く叩きつけられたのか…。
当たり所が悪かったら私、本当に死んでいたかもしれない。
それほど、裏社会とか呼ばれる人たちは私たちを狙っているんだ。
目的は、殺すことなのか、拉致することなのか。
何はともあれこの爆発で、すべてが証明された。
私たちは狙われているんだ。
「大輝ー。これどこ置けばいい?」
「あーっと。そこの棚でいいよ。」
翌朝、すっかり元気になった私。
私達は、『大輝の住み家』を大掃除していた。
掃除が終わった後、大輝が私たちに詳しいことを話してくれるらしい。
全員が元気になって、すべてがまとまったら、話そうと思っていたらしい。
「これで全部かな。」
「そうみたいだね。」
紗雪は、よっこらせ、と言いながら椅子にどかっと座った。
「紗雪、おやじみてえ。」
大輝は紗雪を見て大笑いした。
大輝の大笑いを、四年ぶりに見て、つい見入ってしまった。
その視線に気づいた大輝はこちらを見て、
「なに?俺そんなにカッコいい?」
と白い歯を見せてニッと笑ってきた。
「ああ?」
私はやくざの顔真似をして大輝を見た。
それを見た大輝はまた、大笑いしていた。
「美和の変顔、四年ぶり。やっぱおもしれえ。」
ツボに入ったのか、ずっと笑っていた。
そんな大輝を見た紗雪は、大輝のように笑い始めた。
これが、笑いの連鎖というものなのか。
なんだか、とても懐かしい時間だ。
また、あの頃に戻れたような感覚になった。
大笑いをしている二人を見ていたら、自然と私も笑顔になった。
こんな時間がずっと続けばいいのに。
こうして三人でいれば、どんな壁だって乗り越えられるはずだ。
絶対に。
次の投稿日は、6月2日です!