五話 迫る危険、意識の中
「紗雪…。」
紗雪は椅子に座って爆破事件の新聞を読んでいた。
私が名前を呼ぶと、普通に顔をあげた。
「なに?」
「これ、大輝が送ってきたのかな。」
「分からない。」
紗雪は本当に、誰が送ってきたか分からない様子だ。
ピーンポーン
その時、また家のチャイムが鳴った。
さっき鳴ったばかりなのに、これは不自然だ。
「美和、美和はここにいて。」
紗雪はゆっくりと玄関に歩いていった。
「紗雪!」
小声で呼ぶと紗雪は振り返った。
そして、そこにいてという合図をされた。
私は紗雪一人では行かせられなくて、気付かれないようにそっと後をつけた。
ガチャ
鍵の開く音がした。
紗雪はドア触れていないのに、勝手に鍵が開いたのだ。
私は大急ぎで紗雪の方へ走った。
「美和!来ないでって言ったのに!」
「紗雪を一人で行かせられるわけないじゃん!」
紗雪だけが私のことを守るなんておかしい。
だったら私だって紗雪のことを守りたい。
お互い守り合えばいいんだ。
そうすれば、怖くないはず。
私たちは、傘立ての傘を手にし、ゆっくりと鍵を閉めようとした。
その時、扉が向こうから開いた。
私は怖くなり、目をぎゅっとつぶった。
「お前ら、何してんの?」
扉の向こうから聞こえてきたのは、大輝の声だった。
紗雪と私はゆっくりと顔をあげた。
「大輝…?」
紗雪を見ると、とても警戒している様子だ。
「二人とも、早くこの家から離れろ。」
大輝はいきなり真剣な表情になった。
「今から五分以内に離れないと、二人とも死ぬぞ。」
大輝は私達に訴えかけてきた。
信じたほうがいいのか、信じない方がいいのか、どっちなんだろう。
紗雪と私は顔を見合わせた。
紗雪の表情は、迷いの顔だった。
そんな私たちを見た大輝は、こうしてられないと思ったのか、私たちの手を思いっきり引っ張り、家の外に出した。
「ちょっと!パジャマなんだけど!」
私が叫ぶと、
「お前バカなの?死にたくなかったらそんな事気にしないことだな!」
私たちは大輝に無理やり引っ張られ、走らされた。
「ちょっと、離して!」
紗雪は大輝の手を振りきった。
大輝は振り返った。
「紗雪!俺は二人に生きて欲しいんだよ!」
大輝は紗雪に向かって叫んだ。
その時、
私たちは、突然物凄く強い風に吹き飛ばされた。
爆発音と共に。
固い地面に自分の体がドサッと叩きつけられたのが分かった。
痛みで起き上がれない。
キーンという耳鳴りのような音が頭に響く。
「…わ!…美和!」
必死に私の名前を呼ぶ大輝の声が聞こえたが、意識がだんだん薄れていった。
……私、死ぬのかな…。
目を開けると、目の前は真っ白だった。
上下左右、どこを見渡しても、真っ白。
私は立ち上がった。そして、
「おーい。誰かー。」
と小さめの声で言ってみた。
こういうセリフ、一度は言ってみたかった。
けど、どこからも声がしない。
私はしばらく、何もない真っ白なところを歩いた。そんな時、
「美和。」
後ろから誰かに呼ばれた。
聞いたことの無い、女の人の声だ。
とても優しくて、温かい声。
「誰?」
振り向くと、ぼやっとした人影が、はるか遠くに見えた。
おかしいな、と思った。
今聞こえた声はもっと近くからだったはず。
今の声は、聞いたことの無い声のはずだけど、どこかで聞いたことのあるような、とても懐かしい声だった。
しばらく、ここにいたい。
ここは、とても安心するところだ。
そういえば、大輝と紗雪はどこだろう。
紗雪…。そうだ、紗雪の声を聞いていない。
私があの風で吹き飛ばされたなら、紗雪も同じはず。
落ち着いていた心はだんだんと不安な気持ちになっていった。
すると、視界がだんだん崩れていった。砂のように。
そしてまた、私の意識は薄れていった。
ああ、もう少しだけここにいたかったな…。
また、あの声に呼ばれたい。