二十九話 本の正体、真実
「ミワ、これが例の本よ。」
図書室の最上段に着いて、女の人はあの本棚の前に立った。
この図書室は、私の時代の頃と全く変わっていないから、戻った気分になる。
でも、事実は違う。
私と紗雪は、確実にどこかの時代に飛ばされたんだ。
それは多分、あの本が関わっている気がする。
ガラスの本は私の時代と同じ場所にあった。
「この本の表紙を…ってあれ?」
女の人はガラスの本を見て首をかしげた。
「割れて、ないわよ?」
本の表紙を私に見せてきた。
あたりまえだ。
なぜなら、本は今、二冊あるから。
紗雪が持っている表紙の割れた本。
この時代に実体としてある本。
「私、実はこの時代の人間じゃないんです…。」
信じてくれるかは分からないけど、言ってみるしかない。
しばらく沈黙が続いた。
女の人は下をうつむいている。
怪しまれたかな……。
「も、もしかして…。」
女の人は、何かを呟いたみたい。
でも、うまく聞こえない。
私は耳を近づけた。
すると、女の人はいきなり顔をばっと上げた。
「あなた、未来から来たの!?」
キラキラな目で聞かれた。
「は、はい…。そうですけど…。」
私は後ずさった。
「私たちの本は、未来まで残っていたのね!」
女の人はとても嬉しそうな顔をした。
私たち?なんで〝たち〟なんだろう。
「あなたの時代で、この邸宅は何になっているの?」
「ネーヴェという組織の最高司令官の家になっています。」
理解してもらえるかどうか分からなかったけど全部説明するのも面倒臭いし、話してしまうと未来が変わりそうだから、一気に言った。
「ネーヴェ?それって、私のこと?」
やっぱり、女の人は首をかしげた。
この時代にはまだネーヴェはないんだ。
それを今、確かに確認することができた。
いつから、ネーヴェはあるんだろう。
「ネーヴェってイタリア語で雪って意味なのよ。」
女の人は私の言う『ネーヴェ』については一切聞いてこないで、私を優しい笑顔で見つめた。
そして、思い出すように語り始めた。
「私の母は、魔法界では有名な、フォレスタ家の人間だったの。フォレスタ家の人間は、主に水を操る魔力を持って生まれてくるのよ。」
「水を操る?」
話がファンタジー小説の中に出てきそうな話で、頭がついていかない。
まるで、水篠家の能力のことを聞いたときみたいに。
「ええ。水を動かしたり、形にしたり、いろいろ。」
そんなことが出来るんだ。
でもじゃあ、なんでこの人はこの邸宅にいるんだろう。
「でも、私の母は、氷を操る魔力を持って生まれてきてしまったの。」
「しまった?」
私が首をかしげると、女の人はうなずいた。
「氷は、水を凍らせたものでしょ?だから、フォレスタ家の魔力も凍らせてしまうじゃない。そうすると、〝災い〟が起きると言い伝えられていたの。」
「災い?」
「ええ。でも、母がおばあさまから聞いたと言っていたけど、災いなんて起きないらしいわ。氷を操る魔力は、突然変異みたいなもので、実際水の魔法を凍らすことも出来ないらしい。それでも、氷の魔法は子孫にも続いてしまうから、母はフォレスタ家から追い出された。〝災い〟という偽りの理由付きでね。」
「そんな…。」
災いが起きないなら追い出さなくてもいいのに。
もし起きてしまうのだとしても、魔法が使えるなら何か策を講じて、全身全霊で子供を守るべきだと思う。
「でもその後、影でおばあさまがお金をくれたり、仕事を探してくれたりして、何とか私もこの世に生まれてこれた。」
もう過ぎた話なのに、私はほっとしてしまった。
「ミワは優しいわね。」
女の人はにこっと笑った。
「もちろん、私も氷を操る魔力を持って生まれたわ。まあ、氷の魔力を持って生まれたら、運命を受け入れて、フォレスタ家から出ていくしかないわ。」
「あはは…。」
「あ、そうよ!そんな話じゃなくて、私の名前の由来を話そうと思っていたんだわ。」
女の人は思い出したように手を叩いた。
「ネーヴェは、雪って意味でしょ?母は、『降っている間は氷のように凍っているけど、地面に落ちたら溶けて水になる雪。水でもないし氷でもない、つまりフォレスタ家の人間でもないし、氷を操れる魔法使いでもない、あなたはあなた』っていう意味で『ネーヴェ』になったのよ。いい名前でしょ?」
女の人、いや、ネーヴェさんは自慢するように笑った。
「そっか…。」
雪は、水でもないし、氷でもないんだ。
私はうっすらと紗雪を思い浮かべて、ネーヴェさんのお母さんの言葉をしみじみと心に感じた。
「だから、今の主人との間に子供ができたら、名前に『雪』って字を入れたいわ。」
ネーヴェさんは、嬉しそうで寂しそうな表情をした。
「…ネーヴェさん。なんで、今のご主人とご結婚されたんですか?」
あの、大輝と瓜二つの『輝』って人との話で、『主人が私を部屋に閉じ込めるんだもの。』って言っていた気がする。
「母が日本に働きに来た時、地位の高い男が船から降りてきた私たちに目を付けたの。
その男は母の美貌に目を奪われたみたいで。それで、母がその人に結婚を申し込まれて、断ったけど、しつこく着いてきて、最後には『娘を殺す』って脅されたの。」
「ひどい…。」
「それで母は私を守るためにその人と結婚することにした。でも、私たちは外国人だから、いろんな人にいじめられた。それでも母は私を守ってくれた。そして三年前、病気で亡くなった。母が亡くなった後すぐ私は、その男に適当な家に嫁がされた。私が邪魔だから。」
「……。」
こういう話をされた時、なんと返せばいいのか分からなくなってしまう。
「私は外国人だし、その男とは血も繋がってないから。それで、世間からは全く知名度の低い、裏の裏のようなこの家に嫁がされた。でも、私にとってはこの家の方が静かに暮らせるからいいのだけれど。」
悲しい過去を淡々と暗い顔で話すネーヴェさん。
その姿は、どうしても紗雪と一致してしまう。
あの、どこか寂しそうな表情。
ここで、私が慰めていいのかな。
抱きしめて、いいのかな。
この人の、心の傷を癒してあげたい。
でも、その役目は、私の役目じゃないような気がした。
「美子さんとは、いつ会ったんですか?」
いつのまにか、ネーヴェさんにそんなことを聞いていた。
「美子と…?」
「はい。」
ネーヴェさんは美子さんを思い出したのか、ふんわりとした笑顔になった。
「美子とは、ここに嫁ぐ前に会ったわ。まだ、母も生きてた。母が、あの男の妻として、食事会に出席しなければいけない時、私はよく一人になった。私はあの男の血も引き継いでないから、ほったらかしにされていた。でも、私はその方が気楽だった。だって、ほったらかしにされないと、屋敷から出れないから。私はよく、こっそり屋敷を抜け出して外をぶらぶらしてた…
✱ ✱ ✱
『うわっ。見て。あそこにあの屋敷の娘がいるわ。』
『ほんとだ。あの子、あの屋敷の旦那と全然血が繋がってないそうよ。』
『そうなの?』
『ええ。それなのに働きもせずに豪華な暮らししちゃって。』
いつものように、私の悪口を言うひそひそ声が聞こえた。
わざと、私に聞こえるように言っているんだろうけど。
人が悪口を言う時の顔は、とても醜い。
多分、悪口を言う人はみんな、自分への自己評価が低いんだ。
人の悪口を言うことで、自分はその人よりも優位に立っていると感じる。
その人は、『自分はあの人よりは大丈夫』と思って安心しているんだ。
私は気にせずぶらぶらと自由気ままに歩いた。
しばらく歩いてると、さっき聞こえてきたひそひそ声も聞こえなくなった。
ほら、変に反論したらいけないんだわ。
そうやって、すまし顔で歩いていると、目の前から物凄いスピードで走ってくる人影が見えた。
目を凝らして見ていると、女の子だった。
まさか、そんなに私のことを気に入らない子が!?
私は戦ってやろうと思い、身構えた。
『そこ、どいてえぇぇぇぇ!!』
走ってくる女の子は、慌てているように見えた。
そして、私とその子は正面衝突した。
『いたた……。』
『ごめん!大丈夫?』
顔をあげると女の子は手を差し伸べてきた。
その女の子は周りの女の子と違って、とても綺麗な顔だちをしていた。
ふんわりとした瞳、透き通るような白い肌、整った髪の毛。
おまけにとても綺麗な柄の袴を着ていた。
でも、どうせ私の手を掴んだら、すぐに離して私を笑い者にするんだ。
そう思って、そっぽを向いた。
『どうしたの?機嫌悪いの?』
その女の子は興味津々に私を見た。
『わあ!あなたの瞳、海のように青い!綺麗!』
今度は、私の目を興味津々に覗き込んできた。
『ちょっと。やめなさいよ。』
私は手で追い払って立ち上がった。
『あ!それに髪の毛が、銀色だ!いいなあ。私の髪は真っ黒だよ…。』
女の子は自分の髪を手で触りながら言った。
『あ、そうだ!私、今ものすごーく急いでるの!できれば早くここを立ち去りたいんだけど?』
女の子は足踏みして言ってきた。
『勝手に話しかけてきたのはあなたでしょ?早く行けばいいじゃないの。』
私は冷たく言った。
女の子はぽかんとした表情になった。
『違うでしょ?ぶつかったら、仲直りしなきゃいけないんだよ?』
まるで、小さい子どものように言ってきた。
私はそんな事を言ってきた女の子が私を笑いものにするような子には見えなくなってきた。
『ご、ごめんなさいね。どかなくて。』
私はぎこちなく謝った。
すると女の子はとっても嬉しそうな顔をした。
『いいよ!私も、ぶつかってごめん!』
こんなに嬉しそうに謝る子は今まで一度も見たことがない。
『あなた、名前は?』
聞かれて、言うのが恥ずかしかった。
『ネ、ネーヴェ…。』
『ネーヴェ!かっこいい名前!どういう意味なの?』
『イタリア語で、雪っていう意味だけど…。』
『ほほう…。なかなかかっこいいね。』
そんな時、
『美子さまあぁぁぁぁ!!!』
遠くからこちらに向かって走ってくる人影が見えた。
それを見た女の子はひっと小さな悲鳴をあげた。
『ネーヴェ、走って!』
『えっ!』
私は手を思い切り引っ張られた。
女の子はどんどん走っていく。
私も手を引っ張られているから走るしかない。
『あの人、一体誰なの?』
走りながら聞いた。
『説明は、あとで!』
そうして辿り着いたのは、誰かの家。
女の子は勝手に扉を開けて中に入った。
『輝!入るよ!』
女の子は誰もいないのに誰かに話しかけた。
『入って大丈夫なの?』
『多分ね…。』
女の子は自信なさげに言った。
『さっき追いかけてきた人は、私のお付きの人。ひふみって言うんだけど。』
お付きの人ってことはこの子、結構地位が高いのかしら。
『なんで追いかけられてるのよ。』
『私、女学校に通ってるんだけど、行きたくなくて家を飛び出したの。また、お父さんとお母さんに怒られる…。』
女の子はため息をついた。
その時、勢いよく扉が開いた。
『ひっ。』
女の子は飛びあがった。
でも、扉の先にいたのは、ひふみって人じゃないみたい。
『美子おぉぉぉぉ!お前、また勝手に俺の家に入ったな!?』
『ごめんなさい!!』
女の子は、扉の先にいる男の子を見るなり逃げまわった。
それを追いかける男の子。
そんな光景が、私にとっては新鮮だった。
そして、面白くって、つい笑ってしまった。
するとその追いかけっこはぴたりと止んだ。
『美子、この子は誰だ?』
『ああ、ネーヴェっていうの。たまたま道でぶつかった。だから友達になった。』
〝友達〟と初めて言われて、何かが心に広がっていった。
驚いて固まっていると、
『この子、お前のこと友達って思ってないみたいだぜ?』
と男の子が言った。
『そうなの!?ネーヴェ!?』
『はっ。そ、そうかもしれいわね。』
本当は、『違う。』と言いたかったけど、恥ずかしくてつい正反対なことを言ってしまった。
せっかく初めてできた『友達』なのに、嫌われる…。
『もう、ネーヴェは恥ずかしがり屋さんなんだね?そういえば、名前言ってなかったね。さっきからいろんな人が言うから分かってるだろうけど、私は美子。美しいっていう漢字に子供の子。美しい子!!』
女の子は床に漢字を指で書きながら恥ずかしそうに笑った。
『美子ってそうやって書くのね…。知らなかったわ。』
顔を真っ赤にしてやっと言えた言葉は、ちゃんと伝わったかしら。
本当は、〝ありがとう〟って言いたかったのに。
『うん!』
それでも、美子は悪い顔をせず、元気よくうなずいてくれた。
『自分で美しい子って言いやがった!』
隣にいた男の子は美子を馬鹿にした。
『俺は、輝。輝くって字を書くんだぜ。』
輝っていう男の子も床に漢字を指で書いてくれた。
『自分だって輝くとか言ってんじゃん!』
美子は輝を笑った。
『うるせえ!』
そしてまた二人は追いかけっこし始めた。
それがやっぱり面白くて、私はまた笑ってしまった。
すると二人は恥ずかしそうに追いかけっこを止めた。
『そういえば、ネーヴェはイタリア語で雪でしょ?ということはネーヴェ自身もイタリア人なの?』
『そうよ。』
『へえー。私イタリア人初めて見たよ!』
美子は楽しそうに言った。
✱ ✱ ✱
それでその後、美子はひふみさんに見つかって、その日は別れた。でも、それから母がお食事会の時はよく美子と輝と私で会うようになったの。」
ネーヴェさんはとても懐かしそうな顔で話してくれた。
「でも、そんな美子も、もう結婚してしまったわ。」
「け、結婚!?」
どういうことだろう。
さっきのお茶会ではそんな話してなかった。
「ええ。半年前、結婚したの。なんだったかしら。水篠家とかいうところに嫁いだの。」
その時、コンコンコンと図書室の扉をノックする音が聞こえた。
紗雪…?のはずがない。物には触れないから。
でも、どうしてネーヴェさんは私の姿が見えるんだろう。
さっきのお茶会の部屋では、見えてなかったのに。
「ミワ。ちょっとしゃがんでて。」
ネーヴェさんは手で示した。
「でも、ここの人に私の姿は見えてないそうですよ。」
私は正直に言った。
「なんで私が未来から来たあなたのことが見えたと思う?それはこの図書室自体に魔法がかかっているからよ。とりあえず、今は石像の後ろに隠れて。」
「分かりました。」
私は言う通りにして石像の後ろにしゃがみこんだ。
「入りなさい。」
ネーヴェさんの声を合図に中に入ってきたのは、輝さんだった。
それに、後ろに紗雪がいた。
今ので図書室に入ることに成功したんだ。
でも、この図書室の中にいたらばれてしまう。
「輝!久しぶりね!」
でも、ネーヴェさんは紗雪に気づいていない。
どういうことだろう。
明らかに見える場所だ。
ネーヴェさんは輝さんを見てとても喜んでいた。
でも、さっきお茶会で会ってたはず。
久しぶり、なんて変な話だ。
それに、輝さんもこの邸宅から出たはず。
「ああ、一年ぶりだな。」
「そうね。」
その二人の会話を聞いて、息が止まるかと思った。
一年…?そんなに経ってない。
あのお茶会は、ほんの三十分くらい前だったはず。
私には、何が何だか分からない。
「ネーヴェ。さっき聞いた話なんだが、落ち着いて聞いてくれ。」
輝さんは久しぶりにネーヴェさんに会えたはずなのに、その顔には喜びはなかった。
どうしたんだろう。
「美子が、死んだ。」
その言葉を聞いて、思わず立ち上がりそうになった。
でも、我慢した。
ネーヴェさんを見ると、固まっていた。
「ネーヴェ。美子は、水篠家で双子を生んだ後、産後の肥立ちが悪く、すぐに息を引き取ったそうだ。双子を生むことが美子の体への負担となったみたいで…。」
輝さんの声は震えていた。
「嘘よ…。そんなの。」
ネーヴェさんの声も震えていた。
「本当だ。」
「嘘よ!」
ネーヴェさんの悲しみの声は、図書室中に広がった。
その瞬間、螺旋階段が、凍りついた。
いや、氷になったと言った方がいいのかもしれない。
私のしゃがんでたところもつるつるになってしまい、私はつるんと滑った。
「あっ!」
手すりに掴もうとしても手すりも氷になってしまい、できなかった。
輝さんは突然現れた私を見て驚いている様子だ。
「美子…?」
輝さんは下から私にそう言った。
つるつると階段を滑り落ちていく。
「うわー!」
止まりたいけど止まれない。
そうしてどんどん落ちていき、一番下に辿り着いた。
目の前には大輝と瓜二つの輝さん。
「美和!!」
その時、紗雪が私の方へ駆け寄った。
手には表紙の割れたガラスの本。
輝さんは紗雪の声ではっと我に返って私たちを見た。
紗雪を見た輝さんは目を見開いた。
「ネーヴェ!?」
私は最上段の方を見上げて、ネーヴェさんに向かって叫んだ。
「ネーヴェさん!その本には、どんな秘密があるんですか!?ネーヴェさん!」
これ以上この時代の人に姿を見られたらいけない気がして、秘密の解明を急いだ。
どうもこの図書室は見えてはいけないはずの物、人が見えてしまうらしいから。
でも、美子さんが亡くなった事実にショックを受けて下をうつむくネーヴェさんは答えてくれそうになかった。
「美子!に似てる人!」
輝さんは私を見た。
「その本は、ネーヴェの日記なんだ。」
「…日記?」
「ああ。そして、俺のもある。それは、ネーヴェと美子が二人の魔法を合わせて俺に作ってくれた日記。美子も持ってる。それぞれの出来事をそこに書くんだ。その本の表紙を割れば、いくら歳を取ってても、俺たちが楽しく過ごしていた時に戻れるんだ!ただ、それを出来るのは一回だけ。だから、いつかのときまで割らないって三人で約束したんだ。ただ、それだけの本。今、なんでか分からないけど、あんたに全てを言わなきゃって気がして、全部言ったよ!」
輝さんは笑いながら言った。
その表情は、笑ったときの大輝と本当に似ていた。
輝さんを見ている紗雪も、同じことを思っているのか、懐かしそうな顔で見ていた。
「本の裏表紙を、割って!」
その時、再び氷のような声で叫んだのは、ネーヴェさん。
「どういうことですか?」
「そうすれば、あなたたちの時代に帰れるわ!」
「紗雪、割って!」
「どうやって!?」
そうだ。この本は固くて落としたところで割れない。
どうすれば…。
「バカな俺には今の状況がよく分からないけど、俺の銃を使ってくれ!」
輝さんはそう言って銃を出した。
「撃って下さい!」
紗雪は輝さんに本の裏表紙を向けて言った。
「でも、ここからじゃ危ないんじゃ…。」
輝さんは戸惑っている。
「大丈夫です!それよりこの時代の人達には私達のことは一切話しちゃダメですよ!?」
「分かった!絶対言わないって誓うよ。」
輝さんは笑顔で言った。
でも、すぐに真剣な顔になる。
もう一度、笑顔を見せて欲しい。
大輝が目の前にいるみたいだから…。
でも、その願いは叶わず、図書室に銃声が響いた。
それと共に空間がぐにゃりと歪んだ。