表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冷たい雪は、温かく笑った。  作者: 海松みる
27/36

二十六話 大きな絵画、古い記憶


 「美和、急いで行こう。」

あと、角を右に曲がってまっすぐ歩いて左に曲がれば着く。

いったい地図の先には何があるのかな。

足早に角を曲がった。そして、まっすぐ歩いた。

その時、短い銃声が廊下に響いた。

後ろからだ。

隣にあった花瓶がパリンと音を立てて割れた。

私たちは足を止めた。

そして、ゆっくり振り向こうとした。

その時、再び短い銃声が廊下に響いた。

今度は目の前からだ。

後ろでうめき声と共にどさっと誰かが倒れる音がした。

さっと前を見ると、九重さんが銃を構えていた。

「美和様、紗雪様、早く行ってください!」

九重さんは私たちを首で促した。

私と紗雪は走って、最後の角を、左に曲がった。

目の前に現れたもの。

それは、大きな絵画だった。

そこは行き止まりになっていて、その大きな絵画しかなかった。

描かれているのは、椅子に正しく座った女の人。

日本人には見えない。

上品な桃色のドレスを着た女の人。

私たちはその絵画に目を奪われ、立ち尽くしてしまった。

私たちの目を見透かすようにこちらを見つめている。

その人が他の人間と違うところ、それは髪の毛が銀色なところ。

そして、目が青かった。

その青は深く、とても深い青。

群青色ともいえるかもしれない。

「二人とも、何で追いかけられてるんですか!?」

九重さんが銃を構えながら後ろ歩きでこっちに来た。

向こうには、五、六人の男たち。

みんな銃を持っていた。

「九重さん。ここってもう行き止まりですか?」

紗雪が必死な顔で九重さんに聞いた。

「どう見てもそうじゃないですか!」

九重さんは怒った。

その時。

「っ!!」

銃声と共に、目の前にいた九重さんがうずくまった。

撃たれた銃弾は九重さんの足に当たったみたいだ。

九重さんは足首を押さえる。

「九重さん!」

私と紗雪は九重さんに近寄った。

「だい、じょうぶです…。」

その時、私の心臓が大きく鳴った。

九重さんのかすれた声は、なぜか、私と紗雪の古い思い出を掘り起こしたのだ。

とても、古い記憶。


 「大輝ー。遊ぼうよー。何してんの?」

私たちが小学校三年生の時、いつものように孤児院の庭で遊んでいた私と紗雪。

いつまでたっても大輝が来ないから、大輝を探し回ってやっと見つけたのだ。

大輝は、裏口のところで、男の子と一緒にいた。

「あー。ごめん。将也君が俺と遊びたいって言うから。」

大輝は裏口で将也君という男のこと遊んでいた。

「将也君?誰?」

私と紗雪はお互い首をかしげた。

「お前ら、ひどいなあ。」

大輝は睨んできた。

「いいよ、別に。僕、いつも体調悪くて部屋にこもりっきりだから。知らないのは当然だよ。」

将也君という子は悲しそうに下を見た。

その様子を見て悪いことをしたと思った私たちは将也君に謝った。

「そうだ。将也君!私たちとも遊ぼうよ!」

私が元気よく提案すると、将也君はぱっと明るい顔になった。

「いいの!?」

ばっと立ち上がった将也君は、うっとうめいて、その場にうずくまった。

「大丈夫!?」

私たちは将也君の背中をさすった。

「だい、じょうぶだよ…。」

将也君はかすれた声で言った。

「将也君、これ、あげる!」

私は苦しそうな将也君に緑色と黄緑色の糸で編んだミサンガをあげた。

その頃、紗雪とミサンガを作るのにハマっていて、沢山あったのだ。

「いいの…?」

将也君はゆっくりと私の手からミサンガを取った。

「美和。お前って本当に空気読めないよな。そういうのなんて言うか知ってるか?KYって言うんだぜ。」

大輝はバカにするように言った。

「なんだって!?」

私は頭にきて大輝を追いかけまわした。

「そういう大輝が一番空気読めてないよ。」

でも、紗雪の冷たいひと言でその場は収まった。

そんな時、楽しそうな笑い声が響いた。

私たちは驚いてそっちを見た。

笑っていたのは、将也君だった。

「みんな、面白いね。」

「将也君、もう苦しくないの?」

私たちは駆け寄った。

「うん。みんなのおかげで元気になったよ。ありがとう。」

将也君は最高の笑顔で言った。

「そっか!良かった!」

「これ、大事にするね。」

将也君は私の作ったミサンガを大事そうにズボンのポケットにしまった。

 でもそれっきり、将也君に再び会った記憶はない。



 「将也、君…?」

私は、いつの間にかそう問いかけていた。

紗雪も、気づいたようだ。

九重さんは、はっと私たちを見た。

「気づいたんですか…?」

これは、そうだ、ということかな。

「敬語は、やめてよ。」

なぜか、涙が出てきた。

紗雪を見ると、紗雪も泣いていた。

「同い年だったんだね。」

私がしみじみ言うと、将也君は笑った。

「ミサンガ、切れました。」

「えっ?」

将也君はズボンのすそを上げた。

そこには、たった今銃で撃たれた痛々しい傷と、切れたミサンガがあった。

「まだ、持って、たの…?」

言っている途中、涙が溢れてうまく言えなかった。

「うん。いつかみんなの役に立ちたいなって思ってて。でも、今切れたってことは、役に立てたのかな。まあ、切れたのは銃で撃たれたからだけど。」

将也君は悪戯っぽく笑った。

そして将也君の目がきらりと光った。

頬に、それは流れた。

「最初は、二人が来た時心臓が飛び出るかと思ったよ。でも…。」

将也君は下を向いた。

「大輝君が亡くなったことを聞いて、僕はどう接すればいいのか分からなかった。二人は全然僕に気づいていないから、このままお世話係として過ごせたらいいな、なんて甘いこと考えてたよ。でも、再会したその日にこんなことになるなんて。」

将也君は涙をぬぐった。

「本当は、気づいていたんだ。あの時美和ちゃんがガラスの本を突き出したとき。何かいけないことを発見してしまったこと。でも、このままずっと二人と過ごしたかったから、わざとそろそろ戻ろうって言ったんだ。本当に自分勝手でごめんね。」

それを聞いた私たちは涙が堪えきれず、泣いてしまった。

将也君の気持ちに気づけなかった自分が情けなかった。

「二人とも、僕…」

「やあ。悲劇はまだ途中だったかな?」

将也君が何か言いかけた時、前で天馬誠の声がした。

私たちはばっと顔を上げた。

「っ!天馬、誠…。」

紗雪が歯を食いしばった。

「ほう、ここが鍵となる場所か…。案内ご苦労。紗雪、美和ちゃん。」

天馬誠は愉快そうに笑った。

一体、どういうこと?

「あとは、戻る方法だな…。さあて、どうしたものか…。」

天馬誠はぶつぶつと独り言を言う。

「水篠美和を殺せ。」

その時、天馬誠が部下に命じた。

部下はためらいもなく銃を構え引き金を引いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ