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冷たい雪は、温かく笑った。  作者: 海松みる
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二十五話 本の地図、殺気に満ちた廊下


 急いで二人に本に浮かび上がった線のことについて話そうと思い、本を二人の前に突き出した。

「あ、そろそろ戻らないと。」

私が本を突き出したほんの少し前に懐中時計に視線を落とした九重さん。

タイミングが悪すぎる。

紗雪は私が何か言おうとしていたことに気づいたみたいだけど、小さく手で制した。

理由は分からないけど、とりあえず紗雪の言う通りにした。

 私たちは図書室から出て、部屋に戻った。

「じゃあ、私とはここでお別れです。」

九重さんは部屋の扉を丁寧に開けながら言った。

「あ、その本の言語は、多分イタリア語だと思いますよ。あの図書室の本の言語はすべてイタリア語ですから。」

私が抱えていたガラスの本を見て思い出したように言った。

私たちはお礼を言って部屋に入った。

紗雪は扉を閉めて扉に耳を当てた。

「紗雪、何してんの?」

机に本を置きながら紗雪を振り返った。

「よし、足音は消えた。で、美和はあの時なんて言おうとしたの?」

紗雪は小声で聞いてきた。

「なんで、九重さんには言っちゃダメなの?」

「美和、すぐ人のこと信じるから言っちゃいけないことまで言うじゃん。言ってからじゃ戻れないんだよ。」

紗雪は人差し指を立てて言った。

確かに、私は思いつきで行動している。

あとから後悔していることだってたくさんある。

この本に浮かび上がった地図のことは、言っちゃいけないことだったのかもしれない。

「で、内容は何?その本についてでしょ?」

そうだ、と急いで本を持ってきた。

「さっき図書室の最上段で丸い窓から月明かりが差してたの。その真下に行ったら本の上に地図みたいな線が浮かび上がってきて…。」

「うん。それは地図だね。」

見てもいないのにそう断言した紗雪。

「美和は、なにかやばいものを見つけちゃったみたいだね。」

紗雪は困った表情をした。

「美和は、天馬誠の側近、九重さんにそのことを言おうとしてたんだよ?もう、本の存在を見られたのもやばいけど、どうも九重さんはその本について知らないみたいだし。それは不幸中の幸いだよ。」

紗雪は呆れた顔で言った。

「私はバカだ……。」

落ち込んでいると、

「あ、ダーク美和になった。」

と真顔で言われた。

「でも、この地図ってなんだと思う?」

紗雪にペンダントを渡した。

「覗いてみて。」

言われたとおりに覗いた紗雪はあっと驚いた。

「なんでこのペンダントに映ってるの!?」

「分かんない。このペンダントと一緒に丸い窓の下に行ったからかな。」

そう推測すると、紗雪はうなずきながらペンダントを見た。

「美和。このペンダント、記憶を固体化させたものって水崎さんが言ってたけど、もう記憶は美和の心に戻ったじゃん?それでもペンダントが残ってるっていうことは、なにか別の物も保管できるのかもね。」

ペンダントを返された私はもう一度覗いた。

「そうかもね。だからこの地図も、ここに移動できたのかも。」

紗雪はうなずいた。

「この出発点って図書室かな。」

私はペンダントを紗雪に渡しながら聞いた。

「んー。分からない。その本があった所からって考えるか…。」

「考えるか?」

「ネーヴェの最高司令官、天馬誠の部屋からって考えるか。」

紗雪の推理能力は高い。

探偵気分になっていた自分が少し恥ずかしくなった。

「あ!そういえばこの本の内容も知りたいんだよね。言語も教えてもらったし。」

「イタリア語だっけ?確か、『ネーヴェ』っていう名前もイタリア語だよね。」

「どういう意味だっけ?」

「『雪』だよ。」

「なんで覚えてんの!?」

私は心底驚いた。

『雪』。雪と言えばいろんなことが思い当たる。

まず、紗雪の名前。次に、あの本の表紙。そして、あの丸い窓の模様。

「ねえ、紗雪。私さ、この本の地図の先に何があるか知りたい。」

それを聞いた紗雪は呆れた顔で笑った。

「言うと思ったよ。いいよ。でも、天馬誠はもう私たちが何かを見つけたことに気づいているかもしれない。だから、動くなら今日だよ。」

真剣な表情の紗雪。

「うん、分かった。」



 私たちはまず、図書室を出発点として行ってみることにした。

「まず、曲がり角があるまで左に進んで。」

「紗雪…。左は存在しないよ。」

えっと言いながら左を見た紗雪。

「私、図書室から出発することを期待してたのに…。天馬誠の部屋の近くとか絶対やばいって。」

紗雪は肩を落とした。

「紗雪、ガラスの本、交代。」

本を紗雪に渡した。

「早くない?部屋から出てまだ五分も経ってないからね?」

文句を言いながらだけど交代してくれた。

この本、ガラスでできているからとても重たい。

だから、私たちは交代で持つことにしたのだ。

天馬誠の部屋に行く途中、私たちはあるものを探すのにハマっていた。

それは、雪の結晶の模様だ。

壁の、所々に雪の結晶の模様があり、特に規則性が無いから探しがいがあった。

「あ!あった!」

「どれ?」

こんなやりとりをしているせいで、本来たどり着くまでにかかる時間の二倍はかかっている気がする。

それでも楽しいからいいんだと表では言わないけどお互い思っている、はず。

「紗雪、これってそうかな?」

「どれどれ?」

いつの間にかメガネをかけながら探していた紗雪。

こういうところで本気になっている紗雪は面白い。

「あ!あった!」

ちょうど紗雪が二十個目の雪の結晶を見つけて、叫んだ。

「君たち、何をしているんだい?」

その時、低い声がフロアじゅうに響き渡った。

間違いない。天馬誠だ。

私たちはゆっくりと振り向いた。

「あ、あの…。壁にあった雪の結晶が面白くて、探していたんです…。」

これは、事実だ。

本来の目的は違うけど。

「はっはっはっは。そうかい。もう夜も遅い。早く部屋に戻るんだぞ。」

天馬誠はそう言いながら自分の部屋に入っっていった。

でも、私は見逃さなかった。

私の抱えていたガラスの本を睨んだことを。

私たちはすでに、天馬誠の部屋の前に着いていたんだ。

「紗雪、早く行こう。」

「そうだね。」

さっきは、とっても静だった廊下。

たった今、静けさは変わらない。

でも、今私たちがいる廊下はさっきとは違う静けさだ。

声も出せないほど張りつめた空気。

それは――。

―――廊下がとてつもない〝殺気〟に満ちていたからだ。


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