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冷たい雪は、温かく笑った。  作者: 海松みる
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二十三話 螺旋階段、ガラスの本


 大きな幅の廊下を足早に歩いた。

天馬誠が言った、『全て』と言う言葉が何度も頭の中で再生される。

ネーヴェとは、一体何なのか。

水篠家とどういう関わりがあるのか。

そして今、天馬誠は何がしたいのか。

 九重さんの言う通りならこの扉の向こうに図書室がある。

この大きな扉の向こう。

ドアノブに触れた。

開けるのを少し戸惑ったけど、やっぱり『全て』知りたいことに変わりはなく、開けた。

まず目に入ってきたのは、当たり前だけど、本だ。

膨大な量の本。

次に大きな存在感を示していたのは、目の前の大きな石像。

中に入って、後ろ手で扉を閉めた。

「寒っ。」

さっきまで暖炉のある部屋にいたから、温度差で身震いした。

この石像は、なんの動物の石像だろう。

ライオン?にしては牙が大きくて鋭すぎる。

架空の動物なのかな。

見上げると、本棚が果てしなく天井まで続いていた。

そもそも、天井自体が高すぎて、一番上の本が豆粒サイズにしか見えない。

天井には、丸い窓が一つ。

そこから日が射している。

本当はもっと大きいんだろうけど、ここからだからやっぱり丸い窓も豆粒サイズだった。

あの窓意外に、この図書室には窓は一つもない。

『全て』を知りたいにしても、どの本を読めばいいのか分からない。

そもそも、ここにある本の言語ってちゃんと日本語だよね?

それにしてもこの図書室、本があんなに高い所にあるって言うのに、はしごが一つも見当たらない。

一番上の本が読みたいときは、どうするのだろう。

しばらく考えながら上を見上げていると、あることに気づいた。

あの、一番上の本棚の近く、少しだけ人が立てるようなスペースがあった。

階段の踊り場のような。

でもあんなところ、はしごもないのに誰が登るんだろう。

不思議に思いつつも、目の前の石像が気になって近づいた。

それにしても立派だな…。

この大きな牙が、特に好きだ。

そうやって、牙を触っていた。

「ん?」

牙の裏側に、でこぼことした感触がある。

「なんだろう。」

頑張って牙の裏側を覗き込んだ。

「これじゃあ私、この動物に食べられてるみたい…。」

独り言をつぶやきながらなんとか牙の裏側を見た。

「スノー…フラワー?雪の花?」

ガタン

その時、私の足元で何かが動いた。

床から何か、手すりのようなものが生えてきた。と思ったら、

「うわっ!」

いきなり自分の立っていた場所が上に上がった。

十五センチくらい上がると、今度は前に進み始めた。

手すりも最初の一本が前に進み、後ろにもう一本生えた。

下を見ると、私の下にもう一段石段のようなものが上がっていた。

「もしかして…階段?」

今気づいたけど、一段ずつ上がるたびに石像が少しずつ回っている。

どんどん回りながら段数を増やしていく階段。

螺旋状に階段が出来ていく。

私が乗っている段は、前が崖だからとても怖い。

一応手すりがあるけど、やっぱり怖い。

高さがどんどん高くなるから、私は五段くらい下に下りた。

もしかして、あの天井付近のスペースってこの階段のため?

この階段の最上段が辿り着くのはきっとあそこなんだ。

隣でゆっくりと回り続ける石像は、階段と共に上にも上がっているみたいだ。

どの本を読めば、ネーヴェの全てが分かるのか。

その時、一番上の本棚で、何かがきらりと光った。

丸い窓のすぐ近くだ。

一体何が光ったんだろう。

今はちょうど日中だから、日が高い。

日光が何かに反射したのかもしれない。

でも、光の正体はどうやら本棚にあるらしい。

本に光が反射してもあんなに光るかな。

私は首をかしげた。

下を見ると、さっきまで私が居たところは、はるか遠くにあった。

上を見上げると、光っていたものがさっきより鮮明に見えた。

あれは…本?

どう見ても、本棚の中の一冊が、光っていた。

早く正体を知りたいのに、石像は一定の速さで回り続ける。

しばらく回りながら上がり、ついに天井すれすれに到着した。

「はあ、やっと着いた。」

丸い窓を見ると、真っ青な空が見えた。

丸い窓は、下から見るより当たり前に大きくて感動した。

さっきは豆粒サイズだったのに、今は手を大きく広げたくらいの大きさだ。

よく見ると、薄く模様が入っていた。

雪の結晶?のようなものが見える。

随分と古いのか、ほぼ消えかかっていた。

本棚からの謎の光の正体を知ろうと、光っていた本棚の方へ体を向ける。

そこで、私は目を疑った。

本棚の光の正体は、本だった。

まさか、本当に本だったなんて…。

しかも、その本は、ガラスでできている。

そのガラスの本に窓から差す日光が反射して、光っていたんだ。

私は、そっとその本を本棚から取り出した。

ひんやりと冷たい温度の本。

それに結構重たい。

それを窓の真下にあった小さな丸テーブルの上に置いた。

「わあ、綺麗…。」

本の表紙は、上の窓の模様と同じ、『雪の結晶』だった。

「あ。これ…。」

私はふと思い出した。

紗雪が笑ったとき、いつも、雪の花が咲くようなイメージだったけど、その雪の花とぴったり同じだ。これは雪の結晶だけど、紗雪が笑った時はいつもこれが紗雪の周りに咲く。

 中に書いてある内容が気になり、その本を開いた。

「えっ!」

ページを開いた私は声が出るほど驚いた。

何故なら、ページが透明だったから。

しかも、文字が銀色だ。

中身まで美しいこの本。

このページ、何でできてるんだろう。

一ページづつ、指で触ってみた。

つるつるしている。触ってみたけど、何でできてるか分からない。

とりあえず読んでみようと、文字に視線を落とした。

文字を見た私はがっくりと肩を落とした。

銀色で書いてある文字は、アルファベットだった。

しかも筆記体。

これ、何語かな…。

どう見ても、英語には見えない。

英語の筆記体なら、読めたのに。

なんてったって、私の偏差値は八十だから!

それでも、読めない言語はある。

これ、この部屋から持ち出しちゃダメかな。

九重さんなら、きっとこの本の言語を教えてくれるはず。

さあ、下に下りよう。

と言いたいけど、戻り方が分からない。

石像は、私の方を向いていた。

さっきの牙の裏に書いてあった文字…。

あれを読めば下に下がれるかな。

さすがにこの距離をこの重い本を持ちながら一段ずつ下りるのは気が遠くなる。

「スノーフラワー!」

元気よく叫んだ。

急いで踊り場から離れた。

動いてくれ!

でも、階段は一ミリも動いてくれない。

私はため息をつき、悩んだ。

その時、突然図書室の扉が開いた。

「美和ー?」

下からは紗雪の声。

急いで階段を十段くらい下りた。

「紗雪!こっちこっち!」

紗雪はどうやら気がついたらしい。

私の居場所を九重さんに聞いてやってきたんだ。

「美和?なんでそんな所にいるの?」

「なんか、いろいろあってこの階段が現れたんだよ。でも、戻れない。」

「下りればいいじゃん普通に。」

「それがさあ、ちょっと本を見つけて、それが結構重いのと、ガラスで出来ていて…。」

置いていけと絶対に言われる。

「へえ。何それ、私も気になる。」

「えっ!」

予想外の返答に思わず大声で驚いてしまった。

「なに。なんか変?」

「い、いや。」

「それより、下りる方法でしょ?美和はどうやって上がったの?」

「なんか、今紗雪が立ってる所らへんにこの石像があって、そこに書いてあった『スノーフラワー』っていう文字を読んだら、上がれた。」

「下がるのはできないの?」

「そうみたい。」

ふーんと言いながら紗雪は石像の下に生えた石の塔のようなものに近づいた。

「なにしてんのー?」

こちらからは、階段が螺旋状になっているから、一番下の様子が見れない。

「なんかねー、ロウソクがたくさん灯ってるんだけどさ、美和、その石像って、何の石像?」

なんの石像?何だろう。獣?

「うーん。なんか、ライオンみたいな、かっこいい獣って感じかな。」

「ほうほう。」

紗雪はまるでおじいさんのように言った。

「その獣、上の歯は何本ある?」

謎に思ったけど、紗雪に聞かれたので、石像の方へ行って、獣の上の歯の本数を数えた。

一、二、三……。全部で十二本だ。立派な牙も含めて。

「紗雪!十二本だって!」

「オッケー!で、スノーホワイトって書いてある牙はどっち側から何番目?」

急いで確認しに行く。

見たところ、左から四番目だ。

「紗雪!左から四番目!」

「オッケー!美和、分かったよ。動くから階段に戻って!」

「はーい!」

元気よく返事して、私はガラスの本を持って急いで階段を十段くらい下りた。

本は落として割らないように、階段の上に置いた。

ガタン

その時、上がった時と同じような音を立てて、ゆっくりと石像が回り出した。

それと共に、私も下に下がっていく。


 「紗雪、どうやったの?」

一番下に下りて、階段の段が全て床に消えるのを見届けて、紗雪に聞いた。

「もう消えちゃったけど、石の塔に十二本のロウソクが灯ってて、左から四番目の炎を消したら動いたよ。」

平然と語る紗雪。

もし紗雪が来てくれなかったら私、一段ずつ下りてたんだろうな…。


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