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冷たい雪は、温かく笑った。  作者: 海松みる
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二十話 手のぬくもり、最後の顔


 森全体に、銃声が響いた。

私はその場に座り込んで、ただ固まっていた。

「紗雪、手、離せ。」

その声を聞いた途端、我に返った。

「大輝!?」

私は崖を覗き込んだ。

紗雪は、崖から落ちる寸前の大輝の手を掴んで、引きとめていた。

「大輝、今助けるから!」

私はただ必死になった。

そして大輝を引き上げようとした。

でも、大輝の体は予想以上に重くて、紗雪と二人で頑張っても、無理そうだ。

私の目から絶え間なく溢れ出す大粒の涙は大輝の手にかかった。

紗雪は、下をうつむいたままだ。

何も言葉を発しようとしない。

でも、大輝を引きとめる手は強く大輝の手を握っていた。

「俺、足撃たれて踏ん張れないんだよ。ごめんな。」

大輝は力なく笑った。

振り向くと、いつの間にか集められたネーヴェの男たちが、私たちに銃を向けていた。

撃ってこない理由は紗雪がいるからだろう。

「美和を撃ったら、私は大輝と共にこの崖の下に飛び降りる。」

紗雪はネーヴェに背を向けて言い放った。

リーダー以外、一歩後ずさった。

「だいたい、あの爆破事件であなたが死んでいれば、こんな事にもならなかったんじゃないかい?」

リーダーは紗雪に向かって冷たく言った。

紗雪はこぶしを握り締めていた。

「そんな事ねえよ。気にすんな、紗雪。」

傷ついた紗雪にむかってそう言ったのは、大輝だった。

大輝は、自分が死にそうにな状況でも、紗雪を慰めた。

「紗雪。私も、紗雪がいなかったらあそこで一生暗い人生を送ることになってたよ。紗雪の存在は、私たちにとって大きいんだよ。」

私も、大輝に続けて言った。

紗雪の頬がきらりと光った。

それは、涙だ。

紗雪は、泣いているんだ。

「大輝、美和。私も、二人がいなかったら、今生きていなかったかもしれない。」

紗雪は泣きながら言った。

「大輝。絶対離さないから。」

「私も、絶対に。」

私と紗雪で大輝の手をもう一度強く握った。

大輝はそんな私たちを見て、顔を下に向けた。

「…もう、俺はいいから。」

喉から絞り出すように言ったその言葉は、私の心をぎゅっと締めつけた。

大輝の顔を覗きこもうとしたけど、身を乗り出すと落ちそうで、見ることはできなかった。けど、大体予想はついた。

きっと大輝は、泣いているんだ。

「手、痛い。手首伸びる。」

こんな状況でもそんな冗談を言う大輝。

「死ぬのって、怖いんだな。」

顔をあげて言った大輝。

涙で濡れている頬。無理やり笑った笑顔。

どれもが、見たことない顔だった。

「じゃあな。」

大輝は手を、無理やり自分から離した。

大輝の手が、離れていった。

大輝の手のぬくもりが、まだ私の手には残っている。

私と紗雪は、叫ぶこともせず、ただ呆然としていた。

自分たちの手に残った大輝の手のぬくもりを、大輝の最後の顔を、思い出しながら。


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