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冷たい雪は、温かく笑った。  作者: 海松みる
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十三話 意見の違い、異質能力


 時間をもらってから十五分…。

私たちの意見は綺麗に真っ二つになった。

まず、紗雪の意見。

紗雪は水崎さんを信用できないようで、一緒に連れて行きたくはないそう。

次に、大輝の意見。大輝は「別にいいんじゃない?」という様子。

そして、私。私も、別にいいと思う。なぜならネーヴェのことについていろいろ知っているみたいだし、私のことも何か知っているのかもと思ったから。

「紗雪、何でそんなに信用できないの?」

「…何となく。」

さっきから紗雪はそればっかりだ。

 そういえば、さっき紗雪は私が連れて行かれそうになった時、水崎さんに小さな箱を渡そうとしていた。でも、水崎さんは受け取らなかったから今も紗雪が持ってるはず。

何を渡そうとしたんだろう。

たしか、あの箱は家に写真を取りに行ったとき紗雪が家から持ちだしたものだ。

「紗雪、とくに理由がないなら、一緒に行動してもいいだろ?なんか条件とか決めてよお。」

大輝は折れない紗雪に呆れたように言った。

紗雪は、このところ変だ。

私が夢の話をするとフリーズするし、問い詰めると、誤魔化すし。

「紗雪、紗雪って私に何か隠してる?」

私は思い切って言ってみた。

紗雪は私から目をそらした。

「…別に。」

「じゃあ、さっき水崎さんに渡そうとしてた小さな箱って何?」

私が続けて質問すると、

「…なんでもないよ。」

と肩をすくめた。

まただ。

また、何かを隠そうとしている。

「まあまあ。美和も、落ち着いて。」

大輝は困り顔で私をなだめるように言った。

落ち着いてないのは紗雪なのに。

「この三人の中で隠し事なんてしないでよ。」

私は紗雪に一人で抱え込まないでほしくて、知りたいのに。

「今は言えないの!」

何度も問い詰める私に苛立ったのか、紗雪は私を怒鳴った。

私も、心配して言ったのに、怒られるなんて、嫌な気分だ。

紗雪の頬は怒ってほのかに桃色に染まっていた。

「もういい。紗雪なんて知らない。」

ぽつりと口から出た言葉は、自分が思っていたより冷たく響いた。

「あの…。私は、ついていってもよろしいのですか?」

恐る恐る聞いてきた水崎さん。

紗雪はそっぽ向いていた。

「いいですよ。」

私は紗雪の意見を無視して言った。


 「なあ、美和。いいのか?」

水崎さんが車に戻って荷物を取ってくる間、紗雪はどこかに散歩しに行ってしまった。

大輝は紗雪がいなくなってすぐに私に聞いてきた。

「知らない。あんな隠し事しかしない人なんて。」

私は大輝を見ないで言った。

「でも、美和にだってあるだろ?」

「なにが?」

「何か理由があって人には言えない時。」

「そんなの覚えてない。」

大輝はこちらに向かって歩いてきた。

そして私の目の前にどかっと座ると、無理やり私の視界に入ってきた。

「なあ、美和。紗雪だって、お前のためを思っての何かだったりするかもしれないぜ?」

「大輝は、分かるの?」

大輝は私の目を真っ直ぐ見つめた。

大輝の目はとても綺麗だった。

純粋で、真っ直ぐ見つめる視線。

その目を見て、羨ましいと思った。

「大輝は、いいね。」

「なにが?」

「素直で。」

「そうか?」

大輝はにこっと笑った。

その笑顔は自分の心も素直になってしまうような笑顔だった。

やっぱり大輝は優しいな。

あとで、紗雪ともう一回話してみよう。

「私、紗雪ともう一回話してみる。」

「おう!頑張れ!」

するとそこにちょうど水崎さんが来た。

さっきの格好とは一変して、まるでアクションゲームの中に出てくる女の人みたいな格好になっていた。

「どうしたんですか?その格好…。」

「美和様、ネーヴェを舐めてはいけませんよ!」

水崎さんは人差し指をピンと立てて言った。

「水崎さん、その、『美和様』って呼ぶの止めてくれませんか?」

私はゆっくりと恐る恐る言った。

「なぜですか?美和様は正真正銘の美和様ですよ?あと、敬語じゃなくて結構です!」

だから、人違いなのに…。

言う気にもなれず、諦めた。

「そういえば、美和様のお友達の紗雪さんはどこへ?」

そうだ。紗雪が戻ってこない。

この状況、私が呼びに行かなきゃいけないのかな…。

「美和様、私が探して参りますね。」

水崎さんは手を胸に当て自信満々に言った。

「あ、だいじょ…」

言う終わる前にスタスタと探しに行ってしまった。

はあ、とため息を一つつくと、

「お騒がせキャラがもう一人増えたな。」

と大輝が笑っていた。

本当にそうだな、でも、あとのもう一人って誰だろう。

私じゃないといいけど。


 水崎さんが出発してから二十分くらいが経過した。

どれだけ探すのに時間がかかってるんだろう。

「美和様~。大輝さん~。紗雪さん、戻って来ましたよお。」

その時、水崎さんの声が耳元で聞こえた。でも、周りを見渡しても水崎さんはいない。

大輝の方を見ると、大輝も周りをきょろきょろしていた。

「大輝、今の声聞こえた?」

「ああ。でも、誰もいない。」

一体どういうことだろう。

しばらく待っていると、遠くの方に紗雪と水崎さんが見えた。

そして、二人はやっと洞窟にたどり着いた。

「水崎さん、さっき、水崎さんの声がして周りを見ても、誰もいなかったんですよ。」

「ああ!それはですね。テレパシーを使ったのです!」

水崎さんは人差し指でこめかみを差した。

「テレパシー?」

現実とは程遠い言葉を言われ、うまく理解できない。

「はい。私、水篠家の親戚でして、少しだけ異質能力が使えるんです。」

「異質能力?」

私の頭の中では、漫画やアニメでしか出てこない言葉が混ざり合ってハテナががたくさん浮かんだ。

「水篠家の人達は皆、『異質能力』という特殊な力を持っていて、血が濃ければ濃いほど人の記憶や時間などを操れてしまうんです。」

これは信じるものなのか…。

「実際に、やってみましょうか?」

私の表情を察した水崎さんは、遠くへ走っていった。

「水崎さん!」

慌てて止めようとした時には、もう彼方へと行ってしまっていた。

走るの、早いな。

「美和様。聞こえていらっしゃいますか?」

その時、耳元で水崎さんの声が聞こえた。

周りを見るも、水崎さんはさっきものすごいスピードで遠くへ行ったからいるはずがない。大声だったらもっと叫んでる感じで聞こえるはず。

でも、この声は、普通の大きさで、普通に会話しているみたいだった。

しばらくすると、ものすごいスピードで走ってくる水崎さんが遠くに見えた。

「美和様、信じてもらえたでしょうか?」

水崎さんはあれだけ走ったというのに全然息が切れていない。

ちゃんと見ていなかったから気付かなかったけど、手足がムキムキだった。

訓練してきたのかな…。

心の中で、水崎さんを尊敬した。

 私の表情を見た水崎さんはほっとしているようだった。

「まあ、テレパシーなんて、水篠家でいったら底辺の底辺な能力ですけどね。」

と頭を掻く水崎さん。

でも、これでハッキリとしたことが言える。

「水崎さん、やっぱり人違いですよ。私、能力なんてないですもん。」

私は言い切った。

これで、人違いも晴れるだろう。

「心当たりあるはずですよ。今は全然思い出されなくても大丈夫です。

でも、きっといつか役に立つときは来るのです。あなたのお母様、美咲様のように。」

水崎さんはしんみりと言った。

『私のお母さん』それを聞くたびに興味が少し湧いてしまう。

でも、きっと私は『美和様』じゃない。


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