破2
短い ヒロイン?登場しない
これは果たして恋愛小説うんぬんかんぬん
「まさか、巫女が本当に現れるなんて…予言は本当だったのか…!
魔族を消滅させるなんて、なんて力なんだ」
「俺には普通に倒したように見えたがね。
ホントにこのお嬢さんにそんな力あんのか?」
「どうだっていいだろ?こいつはこいつだ」
「そんな事より、彼女が心配だ」
深い森の中の切り開かれた広場。
座り込んだ1人の女性とそれを囲み、守るように立つ4人の男性がいる。
「大丈夫かい」
「ご、ごめんなさい、力が…入らなくて…それに、なんだか気持ち悪いの…」
綺麗というよりは可愛いというべき幼げな容姿の桃色の髪を女性。
「大丈夫。僕が君を守る」
金の髪。自信に満ちた頼もしい声。これぞ美男子とばかりに整った顔。
優しげな微笑みを浮かべて、淡い虹色の燐光を放つ剣を携えた青年。
「俺達、だろ?一人でいいカッコはさせねぇぜ?」
黒髪で白い歯を見せ獰猛に笑い、鍛え上げられた体躯に大剣を担う屈強な青年。
女性に流し目を送りながらも周囲をにらみつけ警戒を緩めない。
「ええ。聖女様を、この世界の希望をお守りするのは私達、教会の至上命題でありますゆえ」
青髪の切れ長の目と涼しげな風貌をやや興奮したように紅潮させた神官服に身を包んだ青年。
「そんな事より早くしてくれ。なんか駄目だ。ここにいるとまずい」
橙色の髪を持ち、短剣とボウガンを構え、険しい表情で辺りを油断なく警戒する青年。
「静かに。彼女はまだ動けるような顔色じゃない」
「んな事言ったって俺の勘が危険域とかいうレベルじゃねーんだけど!」
「うるせぇぞへなちょこ野郎!こいつの顔色が見えねーのかよ!声を抑えろ!」
「んなこと言ってる場合じゃねぇんだよ筋肉馬鹿!マジでここはやばいんだって!
こう、いつでもこっちを仕留められる奴みたいなのに見られてんだよこの感じ!」
「あぁ!?そんな奴いるわけねーだろ!いたとしてもぶっ飛ばせば問題ねーだろ!」
言い争う橙と黒の2人。
その光景を見て、青の神官は苛立しそうに中指の腹で眼鏡を押し上げ、
「静かに!全くこれだから空気も払うべき敬意も理解しない野蛮人は…」
「だが、ここから離れるべきなのは確かだろう。
僕達の邪魔をする兵士がいつここに来るかもわからない」
「アーク…。そうですね」
神官は考え、頷き。
「さぁ、聖女様。教会へ参り、我らと共に世界へその威光を示しましょう。
混迷を打ち払い、この世界を導くのです」
戸惑い、起こった事態を飲み込めず、覇気のないままの女性は問う。
「私が、聖女…?…貴方達は一体?」
「僕はアーク。アーク・グローリー。勇者として選ばれた人間さ」
「勇者、さま?」
ああ、と鷹揚に頷き。
「ここは危険だ、さあ手を」
金の髪を持つ勇者に手をとられ立ち上がる女性。
それは正しく絵画に描かれるような確かに歴史が動いた一瞬。
だが当事者の女性は未だ状況を認識できず戸惑ったまま、手を引かれ、立ち上がる。
そして、5人の男女のパーティは足早にこの場を去っていった。
バックで燃え上がる森。
広場の中心の粉砕された封印遺構。
女性の第一目標であったはずの男の子を置いて。
あー、思い出したわ。そうだ。こんなんだったわ。うん。
そう納得と少々の憤りを思いながらちょっと離れた木陰から見守っている俺。
この後勇者聖女パーティは王都にいくんだっけ、王国西部にある教会本部だっけ。
まあどっちでも大して変わらないか。この様子ならどちらにせよ被害は出る。
ある日、隣の領の領主からレギンレイヴ領に依頼が来た。
その領内の森の巡回と魔獣の討伐そしてその中にある封印遺構の調査とできるなら修繕。
軍事力を保持できない貴族の為にレギンレイヴ領から派兵する事は結構ある事で。
個人でそれなりの戦闘力があり、保全しかできなかった封印遺構の修復出来る俺はここ数年便利使いされていた。
パシリは望む所さ!たまに出るボス級とも戦えるからな!
魔獣もそこそこいて危険だからって部外者を排除する為に立ち入り禁止にしてもらったのになぁ。
見張りにどういう状況でなんで立ち入り禁止なのかの説明も頼んだし、
一緒に監視・見届け役の騎士3人もいるんだが。
無謀な少年が自領の騎士の活躍を見たいが為に忍び込んで、
それを聞いた姉貴分が誰にも相談もなく森に飛び込み、
更にそれを見ていた自称御人好しな4人組が見張りに立っていた兵士を突破して森に侵入。
見張りさんが一体何をしたって言うんだ。
というか奴らは何をしたかったんだ?
保護した忍び込み少年からの話と張り倒された見張りさんが
頑張ってこっちに狼煙魔法で連絡してくれたので今の状態に気が付けた。
あとで差し入れしなければ。
そして慌てて駆けつければ封印の遺構が壊されている現場と
怪しい5人組が立ち去っていった光景が今の全てだった。
やっぱ、うん。ひでーな。多分、また奴ら見張りを突破して行くんだろうな。
奴らの良心がこの場の惨事を収めてくれる事を願っていたんだが。
今、出ていかなかったのは事の成り行きを見守りたかったのと単純に関わりたくなかった。
奴等の話してた内容的に出ていって引き留めても間違いなく時間の無駄になるだろうし。
兵士が邪魔するってお前さんら。
不審者を見逃すのは間違いなく駄目なんだろうけど、
この領地は多少なりとも教会の影響下にあるから引き留めるだけ無駄だろうし。
今は火災を止めるのが先だろう。燃え盛る森に対する感想もなくただここを去った奴らはただ邪魔だ。
「どうするでありますか!トーマ殿!」
「とりあえず貴方達は今見たありのままを憶えておいて
後で領主殿に報告してくださいな。水魔法は得意ですか?」
「得意ではないですが、多少は」
「問題なく」
「うらやましい。あの火災をどうにかしましょう。
俺は延焼を広げないようにしますので周辺の消火お願いします」
「はい、応援を。え、はい?」
「おい下がれ新人」
「サーチ」
両掌を上に。軽く腕を広げ、目を閉じ、集中。詠唱。
地面を通じて、感じるものが広がり、感覚の根本が変わっていく。
燃える熱、揺らぐ空気、弾ける生木の音。逃げていく獣の足音。
怒涛のように押し寄せる多くの情報から今必要なものを抜き取る。
広がった認知できる世界は想像の中に周囲の地形を再現したミニチュアがある感じだ。
ゲームなんかでよく見たステージの簡易の立体図を見る感覚に情報を足していく。
大体の延焼範囲を確認。オッケ。
「ムーブ・マテリアル」
地面の砂、森の中に転がっている岩、埋まっている岩石を砕き細かく砂にして操作。
気分はいつかの昔に見た漫画のNINJA。NINJAってすごい。
「う、わ…」
一番若そうな一人の騎士が声を漏らして光景に足を止めた。
操る俺からも局所的な砂嵐のような、…空を飛ぶ虫の群にも見えるからな。
ちょっと気持ち悪いよね。
意志を以って動かす。集まり、広がり、うねらせ、準備運動は終わり。
火災は火元の空気の供給を断って、燃え広がらないようにするのが大事だと聞いた。
これ以上燃え広がらないように燃えている箇所や燃えそうな枯れ木を重点に土砂で覆い、埋めていく。
あとは騎士達に周辺で燻っている所を水魔法で鎮火していってもらえば被害は少なくできるだろう。
「ぼーっとしてんな新人。煙んとこに水だ」
「は、はい!」
「いつ見てもすさまじいものでありますな!トーマ殿!」
「いやこの程度、普通でしょう?」
「ハハ…」
何言ってんだこいつみたいに見られる。解せぬ。
流石でありますな!と目を輝かせてる女性騎士の反応もなんか違くね?と思うが。
「お、おれもてつだう!」
「おう、騎士様方の補助を頼んだぞ。まだ魔獣は居るだろうから離れないようにな」
「うん!」
「そしてあとで説教な?」
「は、はい…」
良い返事だと頷き返すと、騎士の一人に続いて行く少年。
今森の外に出そうとするのは危険だしここにいてもらわねばな。
敵を倒すために魔法使ったんで別に森を燃やそうとしてたわけじゃないんだろうけどさ。
考えてくれよ。火魔法と風魔法を同時にしかも森の中で使えばどうなるかぐらい。
結果として着火して風で火の粉が盛大に舞って大惨事。
故郷の森も男の子も放置して素直に帰るなよ。とゲームしてた頃の俺と現在の俺が一致した。
溜息一つ。
っと。
「お前は逃がさん」
振動探査の中もう一つ追っていた存在に対処する。
レギンレイヴ卿によると王国にある封印遺構には二つ種類があるらしい。
ひとつは瘴気の封印。
瘴気をそこから放出させない為の要石。穴に対する蓋に該当するもの。
レギンレイヴ卿が昔、あるだけでよい、といったのはそういう事らしい。
遺構に刻まれていた文様に意味があるらしく、周囲の魔力を吸って機能するものなのだとか。
もう一つが魔獣の封印。
かつてこの地で暴れていた魔獣そのものを封入し隔離の魔法で封印している棺。
ただこれの中にいる魔獣は封印の過程で弱り、長期間封印される事で力が著しく落ちるのだとか。
だから破損していてもすぐに危険、という訳ではない。
それならなぜそもそも討伐ではなく封印されていたのかと言うと、
「倒しきるのが難しい、もしくは不可能だった魔獣か」
封印するしかなかったほど強かった。
もしくは面倒な特性を持っていた、という事だ。
だから封入されている封印の棺本体に破損がないか、
封印の魔法陣がしっかりと機能しているかなどの確認を定期的にしており、チェックは厳しめらしい。
――振動探査。捕捉。地下の金属抽出。変形。地中操作。
地面の方に手を向け「むむむ」とうなってるだけじゃないんだよ!
周りからはそうとしか見えない地味さが最近の悩み。
閑話休題。
文献によるとここに封印されていたのはアルラウネという植物系の魔獣らしい。
基本的に本体は球根型で根と魔法を操り、地下に隠れ潜み根を伸ばして、通常の植物と同じく成長する。
ある程度育つと地上に根を伸ばし、見目麗しい人間型の分体を送り込んで獲物を捕らえ、養分を吸い取る。
分体がいくら倒されようと本体に損害はなく、地下で養分を得て際限なく成長していく魔獣なのだとか。
問題なのは植物なんで株分けで時間と栄養さえあれば際限なく増える。
で、本体は地面の中を動き回る事ができるので倒しにくい。
倒す寸前で株分けで本体が分裂して逃げる事もする。
そして株分けされたアルラウネがまた成長して分体が出てくるまで基本的にその存在を察知できない。
つまり本体を根絶させるまで終わらないいたちごっこになるわけだ。
俺みたいに地下の振動探査できれば割とわかると思うんだけど深く潜られるとわからんのだろうな。
存在がわかっていても倒せるかとはまた別の問題になるのだろうし。
むむむと唸る事、5分。
地下へと潜ったアルラウネ本体を鉄製の球体檻で密閉・隔離し捕獲完了。オッケ。
出ようともがいているが封印が解けた直後で金属の檻を破壊できるほどの力はないらしい。
あとはその檻を更に地下にある溶岩の中に放り込んで、燃え尽き焼失するまで確認。よし。
種とか分体も特に確認できない。よし。
これで俺の知識では後に起こるかもしれなかったここ周辺の街への魔獣災害はなくなるな。
思い出す。
知識の一番初め、ゲームのオープニングイベント。
兵士が立って、侵入を禁じている森へ主人公一人で少年を探しに行くイベント。
なお兵士は大変だ!直に探すよ!と上司に報告と相談をしにその場を離れる。
無事に森へ忍び込んだ聖女が石碑の前にて魔族に襲われる。
その危機に駆け付ける青年4人。勇者の存在と聖女の誕生。
そのバックで燃え盛る森と壊された遺構は特にコメントなしでそのまま帰る5人。
後に街を訪問すると何故か燃え尽きている森。変わった領主。
非協力的でよそよそしい領民。増えているたくさんのお墓。
そして、それに対して「どうしてなの皆?」としか言わない聖女。
うん。どうしてだろうね?
…そしてこの話には続きがある。
森が蘇れば街の皆が喜び、昔みたいに活気が戻るかもと聖女。
それはいいと賛同する勇者パーティ。
霊薬を作る為に必要だからと貴重な素材を使い、作る。
途中内乱で材料が足りなくなり、イチャイチャイベントを挟みつつ乱獲。完成。
その怪しげな薬を勝手に撒き、祈りを捧げ、不思議な植物が大繁殖して森が蘇った!
結果、周辺の複数の街がその不思議な植物に侵食されて全滅。
その果てに出てくるのがユグドラウネとかいう植物系のボスだっけ。
その後は特に会話もイベントもない。特に枯れずに元気なままの森(元街)が残るだけである。
勿論それは俺が知る知識の中だけの話だ。この世界ではそんな事は起こらないだろう。多分。
しかしこれで決めつけるのも時期尚早なのだろうが、
俺の知る知識とそう変わらない勇者聖女パーティが完成した。
やがて、王国中に聖女と勇者の誕生の報がもたらされるだろう。
とはいえ、できる事はそう多くはない。
するべき事をするだけだ。
彼らは勇者や巫女ではある。
これから多くの領主や領が彼らに助けを求めるだろう。
それを無視して何も起こっていない所に救援に行く等という事はできない。
つまり、何の問題も起きなければ。
起きても奴らが嘴を挟む暇なく対処すれば良い。
今回の事で勇者を倦厭する地域が少しでも増えれば勇者達が北東地域に進出しにくくなる。
忙しくなるなぁ。楽しいなぁ。
意図せず口の端が上がる。
希望を貶めたい駄目人間だな。と多少の自己嫌悪の腹持ち。
希望なのかどうかは彼らの今後の行動が決めるだろう。
少なくともここでの出来事がきちんと報告されれば
周辺地域の勇者の対する信頼は多少なりとも損なわれる。
それはきっと勇者というわかりやすい希望を貶める事になるだろう。
だが、そんな事は知らん。どうでもいい。
一等一番の男になる。
そうさ、当然だ。
そしてそんな男なら、友達も家族も地域の平和も当然の様に守るのだ。
「父さんとレギンレイヴ卿に話付けなきゃな」
勇者や巫女などいなくともレギンレイヴ領もその周辺も
どうとでも守れるのだとそう見せつけてやらなければならない。
戦うだけじゃない。打てる手は打つ。
そしてその上でしたい事をする。全部全力で。
贅沢で、無謀で、馬鹿らしいからこそ、素晴らしい。
ゲームヒーローたちがあまりにも駄目なテンプレすぎる
他の作者様ならもう少し造形を書き込めるのだろうけど
俺にはこれが限界でした まともに作りこむのを諦めたとも言う
こんな拙作ですが誰かの暇つぶしになるのを願って