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書きたい所だけ書く予定。時間軸は飛び飛びですので注意。

果たしてこれは乙女ゲームや恋愛カテゴリでいいのか。



緑の草原が広がる。撫でるような風と草の擦れあう静かな音の中。


敷き詰められるように生えた草を踏みしめ、

風を追い抜けとただ飛ぶように走っていく。


興奮の熱。体の熱。息苦しさ。だけどそれ以上の、想いの熱量を放射するために。


右手の遠くには背の高い木々立ち並び暗い洞のような奥行きの森。

左手の遠くには岩肌を見せ、頂上が雪と雲に覆われている山。


走る、走る、走っていく。



勇者の冒険、英雄譚、将軍の戦記物語。



景色が変わり、木が増えて、草花が減り、代わりに石交じりの荒野。


汗が浮かび、呼吸は荒く、大きくなってもまだ足は止まらない。

足りない。まだ冷めない。冷めやらない。


走って飛んで、木を駆け上って。



魔獣!魔族!魔王!



木の枝を走り伝って、宙に身を投げ飛ばす。まだだ。足りない。もっと。もっと!



剣と拳と魔法!



目に見えない自分のもう一つの腕を地面に向かって伸ばす不思議な感覚。

それが地面に届くと同時。地面が持ち上がり、石の塊がその場に生えてきた。


普通の事だ。少なくともこの世界では。

10人いたら9人できるぐらいには普通の事。


だけどテンション上がるぜ。ヒャーイ!


持ち上がってきた石塊を足場に、あがったままのテンションで川を飛び越える。


わくわくするよな!どきどきだよな!


知らない。まだ見たことない世界。


知っているはずがないのに、知っている。

この世界とは違う、生まれる前の世界の広さ。


何故知ってる?だがそんな事はどうだっていい。

考えたって意味がない。暇もない。


広いのだ、この世界は。きっと知り尽くせないくらいに。


だから鍛錬だ!練習だ!只管に鍛えるのだ!


そう全ては



「一番強い男になる!」



ひゃっほう!



ズドン、と唐突に体全体を揺らし、足からも伝わり響く轟音。



足を止め、素早く身構え、周囲を確認する。


敵か魔物か!自慢じゃないが街から飛び出したのは今日が初めてだぞ!


鼓動はずっと高鳴りのまま、萎まない。

怖いのに、興奮がそれを凌駕していて。


そして、



「よく言った息子よ!」



10数m級の猪を足場に立っている凛とした声と御姿。


かーさんだった。


あっれ、確か飛び出してくる時兵士達と訓練してたよねマイマザー。


上がったテンションのまま本を読み聞かせてくれてたとーさんを置いて飛び出した俺も俺だけど。

一体いつ追い抜かれたのか。そして晩御飯になるであろう猪君は一撃か。


世界は広いのに見えてる高さが既に無慈悲!いいね!


かーさんは見上げた猪の上から華麗に飛び降り、



「だが、まだこの先はちょっとだけ気が早いな!そら帰るぞ」



そう言ってワハハと豪快に笑うかーさんに腰のベルト引っ掴まれ肩に担がれる。

風が吹き、見れば吹き上げるような風の音と共に見えない何かが猪を持ち上げていて。


「かーさん!かーさん!かーさんが猪持った方が楽じゃね!?筋力的に!」

「息子持ち上げるのに忙しいから魔法で運んだ方が楽なのさ、母親的に」


このワイルドなマザーがまずは目標だ、といまだ冷めやらぬ興奮の熱を覚えている。


俺、トーマ・クランズ、最初の冒険の記憶。







さて、月日が流れるのは早い。


日々の中で自分の至らなさの確認と多少なりともそれが満ちていく感覚を得て。

だが見上げる壁の高さを見ればそんなもので満足している場合でないと心は急かす。


野山を駆け回って魔物をシバいたり、魔法で我が家の壁直したり、

家財道具直したり、かーさんのはっちゃけの後始末したり。


とーさんに「ちょっとだけ!ちょっとだけだから!」とか言われながら鉱脈探したり掘ったり。

その後とーさんはかーさんに連れてかれたが。


体中の生傷の痛みを友として、魔法で癒しつつ走り回る日々である。


夢中のままに毎日を走り、ある時は叩きのめされ、またある時は魔物の群れに投げ込まれ。

密度の濃い充実の中での時間は、同じであるはずなのにひどく体感時間を短く感じる。


かーさんにそこそこの才能、と切ないお墨付きをもらった俺にはくよくよしてる時間はない。


もちろん痛みや疲れで体が動かない時もあるのでそういう時は勉強を進めていく。

知識は大切。色々な事を理解して身にしていくのは楽しい。


俺の生まれ育った国はミティアス王国。

その北東部域のレギンレイヴ辺境伯領にあるアトリエという街。


うちの家はそのレギンレイヴ家に仕えるクランズ男爵家なのだとか。

なんだか聞いた事があるような無いような?


自分の中だけにあるズレた常識がここはこうだろう、それはこう、あれは知らん。

昔一度聞いた事を再度聞いたような、虫食いの知識の空いた穴に情報を補填していく感覚はなんだかもどかしい。


腐っても貴族の端くれなので権限の守備範囲くらいは抑えておかねば。


とーさん曰く、「最低限の礼儀さえ整えときゃ大丈夫さ!とーさんと辺境伯マブダチだし!」

すぐ後にかーさんに笑みでシバかれてたけど。


今はただ走るのだ。全て出し切る為に、悔いを残さない為に。

もしもの時に疲れて何もできないなんて格好悪いからね!


「おう、トーマ!お帰り、今日はどこまで行ってきたんだ?」

「ただいまゲンさん。今日は北限のシノ防壁まで道引ききってきたよ!」


最近のトレンドは体力作り兼魔力操作兼自分の限界を知るために、

レギンレイヴ領内の街と街をつなぐ道を魔法で石畳で作ったり補修したりしながらのマラソンである。


でも、そろそろ街道も手を付ける所なくなってきたし次は開拓の真似事でもやるかな。


なんせ魔法はすごい。


転がってる石やら粉砕して、土でゴーレム作って大木の根っこを引っこ抜いて。

ふんと意気と魔力を入れて硬い表面の地面を適度に砕いてほぐして。


ヒャア枯れた荒野が半日で畑に適した平地に早変わり!

俺にできる程度なら大体の人は出来るはずだしこの世界の人やっぱやべーな!


あとはその筋の人に任せればいいかな?とーさんに相談しておこう。既にやっちゃった部分含めて。


「ハッハッハ。ご苦労さん。まあレイアさんの子だし考えるだけ無駄だぁな。

 おーい門開けろぉ。トーマ坊が帰ってきたぞぅ!」


ワシャワシャと馴染みの街の衛兵に遠い目で頭撫でられる。


かーさんは美人でゴリラと有名人らしい。だろうね!

とーさんも奇人腹黒眼鏡として有名らしい。だろうな!


挨拶もそこそこに門を開けてもらって街へと入る。


歩く人波の足音と会話や生活音が響き、良い匂いが漂ってくる夕食前の穏やかな夕暮れ。

暖かくなってきたがまだ少し肌寒い季節、そろそろと暗くなってきた家路をたどっていく。


「お帰りトーマちゃん。野菜持ってくかい?」

「トーマ!すまねぇ!明日向こう通りの看板直してくれねぇか!」

「おいトーマ坊!言ってやってくれよ。この腑抜け共に。

 魔獣を単独で鼻歌でダースで倒せてこそレギンレイヴの兵士だってさ!」

「タイチョー!坊はなんか規格違いだから比較はしないで下さい。

 というかアンタ、それ出来んの?」

「おいおいおい、仕方ないな語ってやるよ!トーマ坊が助けてくれたあの時の事を…!」

『助けられてんじゃねーよ!』


馴染みある多くの賑やかさと温かさとちょっとの心配の声。

野菜をもらって、約束して、苦笑のいつもの家路。


そんな帰り道に、


――ん?


違和感。いつもと違う感じ。途中に見覚えのない金の色。

何かを抱えて、大通りと隣の路地をうろうろしている奴がいた。


見た事のない、同年代くらいの金髪。

きょろきょろと不安そうに辺りを伺い、なんというか。


「おーい、どうした迷子か?」

「ひ、わ…!」


近付いてよく見るとえらく良い作りの服だ。

布の見た感じからもう既に高価な雰囲気が出てる。


貴族かね、とあたりを付ける。

長袖、長ズボンの高そうな布で袖のところまで細かく装飾されてる服なんて

貴族以外はそうそう着ている人間はいない。多分。


鼻筋の通った凛とした中性的な顔。うーむ。


「なんだてめーキラキラして格好良いな!」

「え、ぼく、カッコいい?」


えへ、とちょっと照れたように笑う金髪。


少々軟弱な感じがしなくはないが約束された勝利のイケメンになるだろう事が既にわかる。


「おう、きっと将来はイケメンになるぜ!爆発しろ」

「うん、ばくはつする!」


変な奴だった、と思いながら、抱えてる何かに目を移す。


光のかえらないつぶらな瞳。鱗っぽい艶々とした体表。

細くなっていくしなやかな尻尾。細長い胴体に後ろ足。


…ええっと。なんだこの、爬虫類と魚類混ぜて前足取ったような生き物。


そんな怪訝な表情に気づいた奴はその謎生物を俺の目の前に掲げて、


「あ、この子?かわいいよね!」

「おう!うん…?おう?」


変な奴だった。まあその辺は個人の好みだし。


ナマモノのギョロリと生気のない瞳がこっちを見てくる。

かと思えばビッタンビッタンと反り返りこちらを威嚇するように挑発してきた。


やんのかアァン?


とちょっとガンつけたら小僧の手の中で力なくうなだれ無抵抗のポーズ。


「ど、どうしたんだい!ジョセフィーヌ!」


ジョセフィーヌ…。


「で、こんなとこでうろうろしてどうしたんだ?もうそろそろ暗くなるぞ」

「う、いや、その」


しどろもどろに迷う。


「お前もしかして」

「ち、ちがうもん!まよってないもん!

 ジョセフィーヌ追いかけてたらちょっと家から遠くまで来ちゃっただけだもん!」


ちょっと涙目になりながら必死に否定する小僧。


とはいえ、この町で貴族っていえばうちか、


「レギンレイヴ卿の息子さんだろ?街中とはいえ一人じゃ危ないから送っていくぜ」

「え」


この町にいる同年代くらいの貴族はレギンレイヴ卿の子しか聞いた事ないし多分そうだろう。


前に家に来ていたレギンレイヴ夫人もあったら仲良くしてあげてねと言っていてくれたし。

もし会えたらしっかり気に入られるんだぞ、とはとーさんの言。


「俺、トーマ・クランズ。将来お前の下で働く事になるんだ。よろしく」

「クランズ…レイアさんとゼーマさんの?」

「そうそう」


とりあえず上司の令息を護衛無しで歩かせるのはいかんよな。

魔法で周辺探査したけど護衛っぽい人いないし。


住民や兵士さん達の生暖かい視線は感じるが。


ちょっと考え、ハッとして、ジョセフィーヌを地面に降ろし、

服の埃を簡単に払い、襟を正して、ジョセフィーヌを再び抱え、


「ご苦労、アトリ・レギンレイヴだ。その、アトリと呼んでくれていいよ」


こころなしか抱えられたジョセフィーヌも誇らしげな魚類顔だ。


「ええ、よろしくお願いいたしますアトリ様」


微笑ましく一瞬思ったけど、そういや将来の上司だと思って敬語に切り替える。


こういう程度の腹芸はできないとね。

変なとこで軋轢作るぐらいならその場その場で適当に合わせるくらいは必要だろう。


そんな言葉を聞いた将来の上司様はちょっと悲しそうな顔。


「呼び捨てじゃないの?」

「呼び捨てでいいなら、まあいいけど。公私判断とかその辺りはしっかりしとけってとーさん言ってた」


そう呼ばなきゃいけない時もある。少なくともパーティーとか君の親父さんの前とかはね!


「キチッと姿勢正した君に対してなら様付けだよ。そういうもんだ」

「…」


だから、


「一緒に帰ろうぜ、アトリ。友達なら、呼び捨てだし手をつないだって構わないよな?」


右手を伸ばす。今は、肩肘張らない友達の時間帯だと。


アトリは目を丸くして、俺の顔と手を交互に見て、考え、


「…うん。一緒に帰ろう、トーマ」


ふわりと嬉しそうに笑い、伸ばした手をつなぐ。


確かな柔らかさと熱。なんとなく嬉しくなる。


けれど、と。


「先に言うけど、きっと将来、俺、お前の部下になって一杯アトリ困らせるかも。ごめんな!」


フハハとこらえきれない笑いで言う。


とーさんもかーさんもレギンレイヴ卿困らせてるらしいしな!

一等一番になるには多分色々踏みつぶしたり跳ね飛ばしたりするだろうし。


「大丈夫」


ギュッとそう握り返すアトリ。


「ぼくも、きっと困らせちゃうからそれで一緒。

 父様もレイアさんやゼーマさんの事困った奴らだっていうけど、それでも楽しそうだから」


良い奴だ。間違いない。抱えているジョセフィーヌの目線が気になるがまあいい。


笑いあい、歩きながら互いの事を話す。

きっと、長い付き合いになるだろうし。


つまりは、


「これからどうぞよろしくってな」

「うん!よろしくね!」







アトリエの街からほど近い森林。その中心部の人工的に切り開かれ石畳により整備された広場がある。

街から森の中を通り広場まで続く石畳の道が敷かれており、ちょっとした散歩コースとして最近人気らしい。


はい、俺が整備しました。だってこの辺、春になると美味しい野草が取れるんだ。

アトリ巻き込んで天ぷらやったら油を無駄にするなって怒られたけどね!


美味しかったです!俺の妄想も捨てたもんじゃないな!


なんとか食べ物は充実させたい所存、などと主張する生まれる前の記憶の所為で贅沢が身に付きすぎている。

もう少し頑張って記憶発掘しないと作り方わかんねぇよ!


しかしこの森、魔獣も出現するので新人兵士の初級巡回コースでもある。

魔獣出るのに散歩コースにするあたり住民も肝が太いな。たのもしい。


広場の中心部。

俺が整備する前より広場が作られていた要因であろう複雑怪奇様々な文様の入った石碑。


だったモノがそこにあった。


「これが砕かれたのはいつか分かるか、クランズの倅」

「は、昨日、アトリ様とペットとの散歩の際、ジョセフィーヌ…

 ペットの一匹が突然ビーム催したらしく。我慢むなしく溶断破砕してしまったとか」

「そうか」


渋い声でそう言い、ダンディに髭をいじりながら破砕された石碑を眺めるダンテ・レギンレイヴ辺境伯。

アトリの親父様であり俺のとーさんの上司。つまり圧迫面接だなこれは。


説明した通り昨日アトリのペット達と一緒に護衛兼散歩していたら、

突然ジョセフィーヌが突然ビーム撃って散歩コースにあった石碑を粉砕。


アトリは青い顔して隠そうとしていたのを何とか説得して一緒にレギンレイヴ卿に謝りに行ったのだが、

翌日改めてレギンレイヴ卿に呼びつけられたという現在。


「全く、可愛いとはいえ危険なペットは飼うなとちゃんと言いつけておいただろうに…」


そういい眉間刻まれた皺をほぐすように揉みながら言うレギンレイヴ卿。


アトリの美的センスは家系的なものなのかとちょっと納得。


出会った頃は小さかったジョセフィーヌはすくすくと育ち、前足が生えてトカゲっぽくなった。

ついでに口からビーム撃つようになった。やべーなこの世界。


ジョセフィーヌの他にも色々濃いペット盛りだくさんです。やべーなこの領地。

何が一番やばいってアトリがそいつらをほぼ完全に統制してるって事だよ。やべーな俺の友達。


将来を思うと色々胃が痛いです。


「アトリとは仲良くやっているのか?」

「度々、気にかけていただいております。手習いではありますが護衛替わりに使っていただければと」

「そのような事を気にするな。レイア殿からお前の実力の程度は聞いている」


かーさんレベルから見りゃまあその程度ですよね。

魔族をダースで倒したり、魔鹿・魔猪狩りとか頑張ってんだけどまだまだって事だな!


レギンレイヴ卿は壊れた石碑を示し、


「直せるか」

「術式的なものはわかりませんが、形だけならば」

「やって見せろ」


お許しが出たので魔法を使い、地質系歴史解析で元々の全体像を砕けた破片から読み取っていく。


昨日アトリに、出来る?と隠蔽を依頼されたがそれは駄目だろうと断ったので

そもそも試してないんだが大丈夫だろうか。…あーオッケオッケこれなら十分許容範囲内。


事故で砕けた石材を元のように大枠で戻し、

粉砕して無くなった部分・風化で削れたと思わしき部分も成形魔法で追加。

模様を描くために使われた金属を解析、模様を再成形・刻印。


「出来ました」


3分もあれば余裕だな!魔法ってスゲー!


まあ、形だけを再現したハリボテだけどね。

なんか封印してそうな形なんですけどこれで大丈夫なんだろうか。


レギンレイヴ卿は石碑に触り、確かめるように模様を指でなぞる。


そしてしばらく後にこちらに向き直りこちらの顔を見、眉間に深く皺を刻んで、


「…」


無言はやめていただけませんか。


厳めしい顔を難しく顰めて威圧感バリバリで睨まれてる気分。

こう、腕力で解決しちゃいけない系の人は苦手です。


「襲われたか?」

「多少の魔物に襲われましたが普段以上とは」

「最近この周辺で神官の類は見たか」

「神官かは定かではありませんが、揃いの装飾具を身に着けた付近の人間ではないと思われる何人かは」

「西か」

「はい。道を使わず森を抜けていった人間が何名か」


今のやり取りは多分、西に行ったか?という事だと思うんだけど。

言葉少なくないですかねレギンレイヴ卿。


地面振動検出系の応用で周辺1㎞くらいなら人間の動きは把握できるよ。

周辺の動きを探る、知る事は戦いにおいて大きな有利になるからと最優先で習得した。

かーさんは魔法使わずに同じような事出来るからもっと頑張らねば。


しかし神官か。この世界における宗教、一般的に神官と言われるのは確か。



混迷は彼方の世界より、魔と悪意を持って去来す。

世界に混迷が来る時、女神の加護を受けた聖女とそれを守護する勇者が現れる。

その聖女の祈りは混迷を払い、勇者の剣は聖女の行く先の危機を払ったという。


されど忘れるな。混迷は滅びぬ悪意。

されど怯えるな。女神の守りは絶えはしない。

そして恐れるな。聖女の祈りは現れる。


彼らのその偉業を称え、聖勇聖女教会と名付けられた。


かつてこの世界を作り、守る力を聖女に齎した名前のない女神と

その意を受ける彼らを奉り、いずれ現れる彼らを補助する為に作られた一大勢力。



こんな感じだっけ。もっと細かい聖句みたいなのもあった気がするけど俺は知らない。


つまりは大昔に女神がいて、この世界を作った。

で、侵略者?っぽい混迷と呼ばれる災厄があって、民が苦しんだ。

それに対抗する聖女と勇者が現れてなんやかんや頑張って退けた。

混迷は死なん何度でも蘇るさでもそれとセットで聖女達も現れるよ。頑張れ、な?

だからそれを助けるための組織作ったよ。女神に感謝を捧げる為でもあるよ。


大分マイルドに略したけれどそんな感じ?ありがち。


でも宗教って嫌いなんだよね。皆で騒げるお祭とかは好きだけどさ。

いざと言う時に頼れる精神的なものとしては必要なんだろうけど。


だからその程度の知識しかないんだけど、ないはずなんだけど。


「瘴気の封印はここだけなのでしょうか?」


少し、瞠目したレギンレイヴ卿。


やっぱりそうなのか。


なんとなく、思い出した事。

なんとなく、覚えていた事。


何故か既知であった国の名前。都市の名前。

王の名前。上司の名前。街の姿。幼少の絵物語。そして、この場所。


偶然などではない。


この世界は、俺が生まれる前に遊んでいた架空の、ゲームの世界に近いものではないだろうか、と。


そこそこ明確に覚えているのは前の人生が終わる前の直近にやっていて、

主役格達のあまりの理不尽な行動に憤っていた覚えがあるからだろうか。


俺、頭狂ったかな。まあ生まれる前の記憶なんて妄想が頭の中にある時点で正常じゃないけど。

まあ決定的な証拠というより人物が目の前に佇んでいるのだからある程度の信用置いていいかもしれない。


すさまじいインパクト共に覚えていた人物。


ダンテ・レギンレイヴ辺境伯。


もしかしたら数年後、碌でもない聖女・勇者の一団にこの領地を滅ぼされる人物。


日頃の領地見回りによって鍛えられ、今ぞまさに全盛期と言わんばかりの筋骨隆々の体。

鬼瓦のように厳めしい顔に気を使って整えられているのがわかる立派なカイゼル髭。


…艶々とした長い金髪をツインテールに結わえ、髪先にはカールがかかっている。

白と薄いピンク色にフリルをふんだんに飾り付けられた仕立てのいい引きちぎれんばかりの上着。

鍛え上げられたしなやかな太ももに押されてふわりと広がる上着と同色系統のフレアスカート。


まあ、うん。視覚の暴力だ。そらもう要らん事まで思い出すよ。


しかし知識の中ではレギンレイヴ領が壊滅してから出てくる人だったから、

領地が壊滅し家族を失ったショックからこんな姿になってると思ってたが元からだったとは。


そんなレギンレイヴ卿は険しく顔を歪ませ、


「…私が知る限りではもう2箇所。だが1箇所は先月破壊されていた」

「それは、」


わーい。凄まじく胡散臭い展開になってきたぞう。


そういやあのゲームでも何かしら起こるたびに神官が都合良く現れてた気がする。

この世界ではメジャーな宗教だからそこかしこにいると勝手に納得してたけれど。


「レギンレイヴの領地では自然崇拝が主で彼らはあまり活動していませんよね?」

「ここは広さはあるが多くが未開拓で貧しい土地であるからな。

 北の攻勢もある故、彼奴らには旨味がないように見えたのだろうよ」


あざ笑うような声音。


レギンレイヴ領は領土自体は広いが山岳や未だ未開拓の荒野が多くあり、

ようやく領土として軌道に乗り始めたばかりなのだととーさんは胸を張っていた。


また北にある国とは現在休戦状態にあるが数年前まで戦争していた敵対国家。

そしてかの国家は教会の存在を認めていない、それどころか排斥している国だ。


そんな最前線であり経済的に不安定な状態のレギンレイヴ領には教会もあまり進出したくないのか、

この領では聖女教はあまりというか全然信仰されていない。

勇者の冒険物語的なモノが子供の寝物語に語られる程度だ。


まあ見た感じレギンレイヴ卿自体もあまり彼らに対し友好的な感情は持っていないようだし、

意図的にこちらへの布教を阻止し続けてるのもあるのだろうけれど。


だが、と更に深く眉間にしわを刻み。


「このところ、アトリエや王都に近い西部のフィリーに教会を立てたいなどと申し込みが来てな」

「お断りに?」

「無論。今更、奴らに無駄な金を払う義理はない。勇者を助けるモノ?

 名もなき女神に仕えるもの?否、あれは拝金主義者の巣窟よ」


吐き捨てるように言う。


やっぱり物語のお約束のように腐ってるのだろうかな?

まあ長く続いた宗教は大体腐ってるなんて偏見は俺個人の印象だけなんだけど。


でも数年後、俺の脳内に存在する知識が確かならば、

この国全体に混迷と呼ばれる何かが現れ、国全体が混乱する可能性はある。


その時に教会や彼らの存在は必要になるだろう。

例え碌でもない事をそこらじゅうで巻き起こす存在だとしても。


…現状、調べ知っていく様々なものが俺の中にある知識と同一のものが多い。

知識の方が擦り合わさっていって多くの事をまるで知っていて見た事があるように錯覚していく。


この感覚はさっさと矯正しなきゃならんね。

記憶の中のものは現実にはまだ起こっていない自分の頭の中だけにある物語。

実物を見た事がないのに頭から碌でもないと決めつける方がよっぽどに碌でもない奴だ。


「この封印は?」

「このままでよい。あるだけでよいものだ、しばらく見張りは置かせるが問題はないだろう。

 貴様はできるだけ早く破損した石碑へ行き、修復しろ。場所は南部のエスカにいるグラール卿に聞け」

「仰せのままに」


言って、頭を下げる。


レギンレイヴ卿は気に入らないという風情でふん、と鼻を鳴らし、


「可愛げのない小僧だ。やはりゼーマの子だな」

「恐れ入ります」

「修復が終わったら報告に来い。貴様が無茶苦茶にした開拓計画を修正せねばならんからな」

「りょ、了解いたしました…」


嫌な脂汗が滲む。


相談するの忘れて好き勝手荒野を開拓してたら怒られた。勝手に道を整備したのも超怒られた。

街道整備計画とか開拓計画とか聞いてないです。


はい。確認不足です申し開きようもございません。

特に北部への道は戦争になった時に備えてわざと引いてなかったとか言われて真っ青になったよね。


利便性だけで物事を考えてはいけない。ちょっとだけ賢くなった。


「雇った人足が無駄になった分は働いてもらうぞ。

 次からはゼーマにしっかりと話して計画をあげろ。いいな?」

「…はッ」


全くクランズの連中は、とぼやくように言いながらレギンレイヴ卿はその場を後にする。


ぎ、ギリギリ助かった、のかな?

報連相って大事。ホントに。


とーさんと比べられたのはまあ良い事なのだろう。

普段はちょっとあれだけど一応筆頭の内政官らしいし。


息を深く吐く。


息を吸えば、森林の少し湿った樹木の匂い。

風に吹かれた木々と葉っぱの擦れあう音。

まぎれもなく現実だ。モニタを通した架空じゃあない。


さて、この世界がゲームに似た世界なのか?

それとも生まれ変わりなんていうのは俺の頭がおかしくなった果ての妄想なのか。


だが、そんな事は知らん。どうでもいい。


考えよう。備えよう。鍛えよう。


何が来ても撥ね退けられるように。

ああすれば良かったなどと後に悔いを残さない為に。


己の心の行く先だけはもう決まっている。


俺はただ一等一番の男を目指すのだ!


短編を読んでくださった方々。感想をくださった方々。

本当にありがとうございました。なんか思った以上に反響があって少し調子に乗りました。


が。


知識はない。センスもない。想像力も語彙力もない。

分かったのは長編はかけないな!と言う事だけ。

そんな才NO人の作品ですが誰かの暇つぶしになる事を願って。


ハーレムなんていらない。対等な幼馴染だけいればいいじゃない。

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