初めての殺人
冒険者達は帰って行った。お土産にナイフを一本くれてやったが不穏な言葉が聞こえたぞおい。
「なんか盗賊がどうの言ってなかったか?そいつ等に殺されでもしたらここのせいにされねーよな?」
「マスターは心配性ですね。ああ、チキン以下の虫ですものね、仕方ありませんか」
まあうん……心配性だとは思うよ。この世界にも物流はあるだろうし、捜索隊だって生まれたてのダンジョンよりまずはそちらを心配するはずだとは思う。けど万が一というのもありえる。
「仕方ありませんね。弱虫なマスターの為に一肌脱ぎましょう」
「あ、じゃあこれ持ってけ」
「?これは……」
「ログインボーナスの景品」
ガチャようの資金も出てくるなんてますますネトゲみたいだ。そのうちショップに魔結晶が売るようになったりして。
「それ使えばCP全快できるんだろ?わざわざ封印状態維持してもらって悪いし、いざとなったら使ってくれ」
「マスターの現状限界値では封印を完全にとくことは出来ませんが……」
「直接使うことも出来るみたいだぞ。俺の許可がいるみたいだけど」
そう、この魔結晶、実はCP回復やガチャ以外にもモンスター用のCPとしても渡せるみたいだ。モンスターの強さ関係なく。つまりゴブリンに使えば4しか補えないが下級ドラゴンなどに使えば1000は補えるわけだ。
「ちなみにリリィって本来のコストどんだけなんだ?」
1%が140CPだし、百倍の14000CPかな?
「二万です」
わあ、すっげぇ。俺のマックスCPが10150だから半分ほどしかないや。がんばらねーと。
「では…」
そういえば一肌脱ぐって何するんだろ?まあ今更聞こうにももう行っちゃったが。はやいな、うちのメイド。
さて、1日が60×60×24で86400秒だから、それ割る30で2880CPが1日の回復CPだ。これかける一週間で20160が回復の値になる。もっとも、10150以上は溜まらないが。
朝消費したのは150なので残り10000CP。
有り余ってるな。DPは冒険者の滞在の14と倒したことを証明するために耳を持ってかれたゴブリンの死体から得た7と手持ちの10で34。魔結晶はログインボーナスで三つ。つまり引けない。
する事がないな。
プシューと糸を出して遊んでみる。
綾取りでもするか?一人じゃ出来ねー。なんか糸で作るか。
というわけで蜘蛛の巣を造ってみた。我ながら良い出来だ。
「………………」
「ああ!?」
その蜘蛛の巣はやってきた男達に壊された。って、やば!隠れろ隠れろ!
慌てて岩の透き間に隠れる俺。男達はふらふら覚束無い足取りでダンジョンの奥に向かっていく。
「マスター、どちらに?安全ですから出てきてください」
「……………」
そっと顔を出すとリリィが居た。
「魅了中です。安心してください」
「……魅了?」
「はい。私は魅了の魔眼、魅惑の芳香、魅力の声、誘惑の肌、媚態の味などの魅了系を持ってます」
「目、臭い、聴覚、触覚は解らんでもないが味覚って?」
「私とキスをしたり、私の体液を味わった者を魅了状態にすることです。まあ、この程度封印されていても魅惑の芳香で十分ですが」
つまり此奴等は全員魅了状態なのか。ああ、だからでボーッとしてるのか。
「取り敢えず縄を」
「ほいほい。2Pだな」
縄を出すとリリィはなれた様子で縛っていく。そしてパチンと指を鳴らすと男達の目に色が戻る。
「!?な、なんだこりゃ!?」
「何で縛られてんだ!?」
「………で、此奴等誰だ?」
狼狽える男達を後目に俺はリリィに尋ねる。
「盗賊です」
なる程。盗賊ね。俺が心配してたからわざわざ捕まえに行ってくれたのか。
「おいこらそこの女!てめーの仕業か!?」
「ほどけオラ!殺すぞごらぁ!」
「おうこら!聞いてんのか!?」
「黙れゴミども」
ゴシャ!とリリィが盗賊の一人の頭を踏みつけ地面に押さえつける。
「ダンジョンマスターの前だぞ。頭が高い」
「が、あが!?」
「て、てめ!この女!」
「マスターだあ!?んな奴どこにいんだよ!」
「ここにおります」
と、リリィは俺を片手に乗せ盗賊達に見せつける。ポカンとしていた盗賊達は、直ぐにブハハハと笑い始めた。
「そんな虫螻がダンジョンマスターだと!?んな虫に従うとかバカなんじゃねーの!!」
「それとも虫をあそこに入れて満足してんのかぁ?なら俺がもっと太いので満足させてやるよ!」
「……………」
ゴキャンと盗賊達の一人の首が一回転して骨が外れ皮膚が破れ肉が千切れ首が落ちる。
あ、DPが52増えた。
「失礼しました、マスター。一人殺してしまいました」
「あ、うん……」
ハンカチで手を拭いていることから、おそらくは触れたのだろう。全く見えなかったけど。
「な、なあ!?」
「て、てめぇ!この野郎!」
「殺す!よくもオヤビンを、ぶち殺してやらぁ!おいこらほどけ!」
「……………」
リリィは見下した目で盗賊達を睨みつけると俺を抱えてダンジョンの外に出た。
「で、彼等はどうします」
「ん?そりゃ、DPにしたりCPにするんじゃないのか?」
「マスターは元人間でしょう?CPを稼ぐために飼うのも手ですよ?DPは彼等に狩りをやらせれば良い」
「……………」
あれ、もしかしてだけど俺気を使われてる?マジか、此奴俺に気を使ってくるのか。
「もちろん私としては、マスターに魔結晶と言うアイテムがある以上は殺すのをおすすめしますが、マスターを傷つけてまで実行しようとは思いません。所詮、今の私は単なる眷属にすぎませんから」
「んー………」
殺すと言えば、きっと迷いなく殺すんだろうな。そしたら殺したのは俺だ。言い訳はしない。
ダンジョンで飼うってのもリリィの魅了系スキルがあればまあ、余裕なんだろう。ただ、多分だけどそうすると人間達にばれれば絶対に要破壊対象になる。
俺でも気付くことをリリィが気づけないとは思えないし……やはり気を使われているのか。
「よし、殺しとこう」
「良いのですか?」
「だって俺死にたくないもん。他人の命なんて気にしてたらこの先生きてけないだろうし」
うん、死にたくないからあの盗賊達は殺そう。何か明らかに俺の思考おかしくないか?我ながら人殺しは忌避すべきと洗脳教育受けた日本人の思考とは思えない。
「まあやっくん様に何かされたのでしょう」
「やっくん何でも出来んの?」
「最高神の一角ですから。光の神の生み出した神々などとは比べ物になりませんよ。人の中から倫理観や罪悪感を消すなど簡単なことです」
「……………俺って本当に俺なの?」
自分が持つ記憶すら不安になってきたんだけど。
「いくら彼等が異世界にすら干渉できると言っても、新しい人の記憶を造ったりはしないでしょう。手間がかかりますし。記憶のコピーにしろ本人の魂にしろその記憶は確かにあったことだと思いますよ」
そりゃ安心だ。
ダンジョンの中に戻ると落ち着きを取り戻したのか盗賊達がニヤニヤとリリィを見ていた。
「おう遅かったな」
「おやぶん殺したのは許せねーけどよ、その体払えば──」
「…………」
ヒュ!とリリィが腕を振るうと斬撃が飛び盗賊全員を真っ二つにした。あ、DPと魔結晶ゲット。
魔蟲王 DL Lv4 魔結晶6
HP 34/34
MP 23/23
CP 最大10359
DP 1567
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