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勇者の愚行

 ダンジョンから一足先に戻ってきた冒険者からダンジョン崩落の知らせが来て、救助隊が向かった。俺?宿で休んでましたとも。

 ダンジョンの方には顔の知れてるリリィとアルカードを向かわせた。アルカードとハクは女魔法使いとエリザ相手に戦っていたがリリスをぶち殺した時点で撤退させた。崩れダンジョンから守る意味合いも含めて杭の檻に閉じ込めてな。おかげで勇者一行に死者は無し。アルカードの頭を撫でてやった。

 めっちゃ喜んでた。キモい。

 それはさておき、勇者は何やら決心の付いた表情でキッ、と森を睨んでいる。こりゃあれだ、悲しみを生むダンジョンを、全て破壊してみせる!なんて考えてる。このままだと俺のダンジョンにも来そうだ。

 と、その時──


「そもそも何でダンジョンが崩落したんだよ、そのせいで──!」

「誰かがダンジョンマスターを殺したんだろ?目撃証言を集めるとラミア、ヴェアウルフなんてのも居たらしいが……」

「冗談だろ?何でそんなやべー魔物が出たんだよ………」


 怪我をしている冒険者達が話し始める。最初の男が叫んだせいで注目を集めている。ん?彼奴の怪我、そこまでひどくないのに随分大げさに………ああ、ラークスの差し金か。取り敢えず怪我だけさせて仮設治療院に紛れ込ませたんだろうな。

 取り敢えず上手く勇者に自分がボスを倒したと言わせねーとな。とわ言え、この状況で堂々宣言するなんて馬鹿な真似───


「安心してくれ。ダンジョンマスターは倒した、もう君達が魔物に脅える必要はない!」


 あ、此奴馬鹿だったわ。

 なぁにが安心してくれ(キリッ!)だよ。此奴の脳味噌耳と連結したトンネルか?『誰かがダンジョンマスターを殺したんだろ?』の部分が突き抜けて『何でそんなやべー魔物が出たんだよ』の部分が脳にとどまっていたようだな。

 見ろ、桜達も困惑して俺に助けを求めるような視線向けてきたじゃねーか。あ、やっぱ見るな。バレる。まあ良い、せっかくのチャンスだ。


「てめぇ!ふざけんな、じゃあてめぇがダンジョン壊しやがったのか!」


 俺が叫ぶと視線が集まる。俺に、そして俺に叫ばれた勇者に。勇者は俺の姿を見てむっと顔をしかめる。


「またお前か。今度は何だ………聞けば今回のダンジョン攻略に参加すらしなかったそうじゃないか。あのダンジョンの悪辣さも知らないで、金の成る木を切るな何て宣うつもりかい?」

「………………悪辣?」


 驚いたな、此奴こんな言い回しが出来たのか。おいおいどうした勇者?金の成る木とか宣うとか知ってるなんて予想外なんだが……。まるで知能レベルが急に上がったみたいだな。


「ああ、あのダンジョンは、多くの人間を操り、人間と争わせていた。しかもダンジョンマスターはその事を少しも悪いことだと思わない邪悪な鬼だった。死に際に沢山の道連れを作ろうとするほどに──!」

「ああ、なんか数が増えてると思ったら行方不明者か。てか、一つ訂せ──」


 と、そこまで言い掛けた時粥の残った椀が飛んできて頭に当たる。勇者の………。

 キョトンとした顔の勇者に対して真っ先に復活したのは勇者の後ろから此方を睨んでいたお姫様と女魔法使い。エリザの奴は何時の間にかこの場から去っていた。引き際をわきまえてるな。


「あなた達、いきなり何をするのですか!?」

「責める相手を間違えているだろう!」

「いや間違えてねーだ───」

「間違えてねーだろうが!てめぇの、てめぇのせいで俺のダチが!」

「俺の弟を良くも!」「私の恋人を返しなさい!」「息子を生き返らせろ!」「兄貴の足を治せ!」


 お姫様と女魔法使いの言葉に俺が呆れながら返事しようとした瞬間俺の言葉をかぶせ怒号が飛ぶ。それが呼び水となり仮設治療院の彼方此方から非難の声が飛び食器や濡れた布などが勇者に向かって飛んでいく。

 近くにいた俺にも飛んできたが俺の俊敏は10002。全てかわしながら距離を取る。狙っていたのは勇者とは言え何処の何奴だ畜生め。


「ど、どうしたんですか皆さん!?落ち着いて!」

「お前が、お前さえ余計なことしなけりゃ!ダンジョンマスターは倒すなって言ったろうが!稼ぎ場も消えて、俺達これからどうすりゃ良いんだよ!?」

「な、何を言って……あなた達だって知っているはずだ!あのダンジョンで捕まった人達がどんな目に遭っていたか!」

「ダンジョン内での不利益は全て自己責任。街が滅びるほどの被害でもなし、わざわざ壊すほどでもないだろ」


 俺の言葉に勇者がまた俺を睨んでくる。俺が先導しているとでも思っているのかね?

 俺の後ろで殺気が二つ。アルカードとリリィが殺る気だ………。待てよ、俺の話は続いているぞ?と視線を送ると殺気を納める。


「壊す必要が、ないだと?」

「ああ、ないさ。だと言うのにお前が悪戯に馬鹿でかい技を使い魔物を混乱させ街を襲わせるわ、ダンジョンマスターぶち殺して何人も生き埋めにして殺すわ……」

「あの鬼の罪を俺に被せる気か?随分せこい手を使うな──」

「はぁ?ダンジョンマスター殺せば─ダンジョンが崩──」

「ダンジョンマスター殺せばダンジョンが崩壊することがあるなんて常識だろうが!」

「………………」


 もういっか。十分火はついたし後は勝手に燃え広がるだろう。


「お前がダンジョンマスターを殺さなきゃ、こんな被害でなかったんだ!」

「だ、だがダンジョンマスターが残ればこの先もっと被害が!」

「そうです!セイヤ様がダンジョンマスターを倒さなければ、さらなる被害者が生まれた。それでもよろしいのですか?」

「いや、魅了対さ──」

「既に手の内が知れてんだから魅了対策の魔道具着けりゃ良い話だ!第一、ダンジョンで死んだところでお前等にゃ関係ないだろ!」

「な!?き、貴様等!セイヤ殿は貴様等のことを思って!」

「思って?思ってなんだ!?思って行動した結果がこれだろうがよ!」


 さて、俺はそろそろ帰るか。あ、そうだ忘れるところだった。勇者にスパイ付けておきたかったんだ。そのための仕込みを忘れちゃいけねぇよな。


「これだけ被害出しておいて反省の色なしか。実は操られてる奴ぶち殺して、その証拠隠滅も出来て一石二鳥とでも思ってんじゃねーのか?」

「───っ!ち、違う!あれは、ワザとじゃ──!」

「何だ、やっぱり殺してんのか」


 まあ知ってるけどね。俺見てたし。

 とはいえあの状況だ、普段なら、殺された奴の知人ぐらいしか責めないだろう。

 まあ、普段なら、だ。口には出さないが非難の視線が飛び交う。自分は正しいことをしたはずなのに、何でこんなと言いたげな視線で周囲をみる勇者。

 此奴は、間違いなくオタクだな。イケメンだがオタクだ。勇者召喚の類に憧れて、世界を救ってみせると宣うオタクだ。だからこそ、自分が悪いなんて事実は受け入れない………。


「そ、それに!ユノだって、殺した!僕と違って、殺す気で……!」

「………え」


 ロリッ娘が目を見開き勇者を見て、すがりつくように近付く。


「ち、違───私、セイヤを……守ろうと。殺そうとした訳じゃ、無い……だって、セイヤ言ってた。殺すのは良くないって、私、覚えてたから……私も、わざとじゃ」

「…………ユノ、僕を守ろうとしてくれたのは嬉しい。でも、人を殺した、その罪を誰かのせいにしちゃ駄目だ。それは、自分で背負わなければならない」

「ならてめぇもダンジョン崩してみんな殺した罪を償えよ!しかも、操られてた奴一人は殺してんだろ!?」

「だから、僕はワザとじゃないって言っているだろう!?」


 さて、此奴はこの街での信用は地に落ちたな。仕込みも上々。

 しかし愚かだなぁ此奴。大好きで大嫌いな両親の大嫌いな部分に似ていると思ったが、それより酷いな。

 だって此奴の言葉は空っぽだ。薄っぺらくて、しかも他人の幸せが自分の幸せと宣う阿呆じゃなくて他人を幸福にして自分を崇めさせたいクズだった。俺も見る目がねぇな、一瞬でもあの人たちに重ねちまうなんて……。


「なにやら騒がしいな」


 あ、ラークス来た。流石にこの街の長よりも偉い実質的支配者の登場に騒いでいた連中も黙る。


「さて勇者殿、ダンジョンを破壊したらしいな。声が此方まで響いていた」

「あ、ああ………この街の住民が何人も捕らえられていましたからね」


 だから褒めろ、そう言いたげだな。が、ラークスは眉間にしわを寄せこめかみを押さえてため息を吐く。


「全く余計なことをしてくれた。では、この仮設治療院が私がこの街にしてやれる最後の仕事となるだろう」

「な!?」

「「「「───!?」」」」


 勇者のみならず町民も驚く。そりゃそうだ、前回俺が魔物をけしかけた際女魔法使いに燃やされた商店街の復旧はもちろんその際の魔物との戦闘、逃げる際の転倒、お姫様が放たせた矢、今回のダンジョン崩落による怪我人多発故の働き手の激減。支援が打ち切られたら積む。


「ほ、本気ですか貴方は!この街を、切り捨てると言うのですか!?」

「ダンジョンを失った今、この街に商人が寄りつくとは思えません。商人がこなければ、金も動かない。金が動かなければ、税も入らない。そのような地を守る必要性はありません」


 お姫様を諭すように言葉を投げかけるラークス。街の住人は何かを言い掛け、しかし押し黙る。此処は貧民が存在する街。税金も払えぬ彼らを差別していた事実を持つ故に、税に関して指摘されると何も言えぬのだろう。


「ま、待て!見捨てるなんて、あんまりじゃないか!あんたは貴族なんだろ?お金なんて沢山──!」

「沢山、何だ?その金は全て領民の税から出ている。私達に金を渡す代わりに、生活を守ってくれとな……ならばそれは商売だ。故に、何も払わない者達に同じ扱いをするのは、不義理だ」


 もちろん、んなわけがない。そんなわけがあったら免税なんて言葉は生まれない。


「いや、すまない。言い方がきつくなってしまった。とにかく、私のこの街だけを治めているわけではない。他の領民のためにも、切り捨てなくては成らない事もある」

「そ、そんな……じゃあ俺達これから、どうしたら」

「私、引っ越すお金なんて───」

「なら俺がこの街買って良いですか?」


 と、俺が挙手しながら声を出す。打ち合わせしていたわけではないが、言うタイミングなら此処だろう。


「さっきぶりですね領主様」

「君は、リューゲ君か。街を救ってくれたことは感謝する………が、本気かね?」

「金は余ってますしね。それに、せっかく守ったのに住民が飢え死になんて寝覚めが悪いですから」

「………ガルの森は魔物の群生地、木の実や薬草一つとるのにもそこそこの依頼料が発生するし、農業も行えない。ダンジョンが崩落した今、この土地に価値などないと言っても良い」

「それを見つけるのが腕の見せ所。幸い俺には他に優先する領民も居ない」

「ふむ………」

「取り敢えず一年は免税で良いが、お前達はどうしたい?」


 と、住民達を見る。当然困惑、しかし掴みは悪くなさそうだ。縋れるモノになら藁にだって縋るのだろう。とはいえ、それを快く思わない者も居る。


「待て!お前がこの人達の面倒を見るだと?たった一人の少女に施しを与えず、僕への嫌がらせのために殺したお前が?信用できるか!ここの住民達をどうする気だ!」

「は?いや、あのガキ殺したの俺じゃなくてあの酔っ払いだっつってんだろ」

「嘘だ!」


 お前は何処のヤンデレですか。そんなに俺を悪役にしたいか。まあ悪だけどね、街襲わせたし死体飾ったりしたし。


「そもそもお前が殺してないとしても、あんな幼い少女に伸ばされた手を振り払うような奴が人を救おうなんて考えてるはずがない!言え、何を考えている!」

「お前への嫌がらせさ」

「────!?」

「マスター………?」

「ほぉ……」

「な!?」


 あっさり本来隠すべき理由の一部を暴露した俺にアルカードが驚きリリィが困惑しラークスが笑みを浮かべ勇者が目を見開く。

 俺は固まる勇者の前まで歩く。ロリッ娘は既に心此処にあらず、お姫様と女魔法使いはリリィに睨まれ動けない。


「悔しいか?街を救うだ何だとほざいておいて、このざまだもんなぁ?街を救うのはお前が大っ嫌いな俺。

 だから安心しろよ、お前が生き埋めにして殺した奴等の友人も家族も、お前が放った攻撃に驚いて逃げて街に向かってきた魔物を退治してやった時同様、俺が救っておいてやるから」

「─────!!」


 身長差から下から覗き込むように目を合わせてやると、勇者の顔が歪み──


「────おい」


 俊敏チートの俺には勇者が拳を振り上げようとしたのは見えていた。もちろん受けてやる気はないし、かわそうと足に力を込めた瞬間リリィが勇者の腕を掴む。動きが全く見えなかった。やっぱ此奴俺より遙かに強い俺の部下の中でも別格だわ。


「一度目は、まだ見逃す。二度目は、本人が利用したから、傷つけても我慢してやる………だが、今のは完全に貴様に非がありそれを認めないために攻撃しようとした………殺すぞ小僧」

「が───!?」


 グシャリと腕を覆う鎧を握り潰し中の腕の骨をへし折る。うわぁ、どうやってあの鎧取ればいいんだろう。


「セイヤ殿、貴様ぁ!」

「セイヤ様に何て事を!」

「黙れ小娘ども。何を、だと?貴様等の雄こそ良くもこの人に……一度ならず三度も。絶対に許さん、今此処で──」

「リリィ」

「……………はい、何でしょう」


 パッと腕を放し何時もの口調に戻るリリィ。此奴、俺が止めなきゃ勇者一行をぶち殺してたな。


「アカツキ殿の腕を治してやれ」

「………チッ。かしこまりましたマスター」

「舌打ちすんなよ……まぁ、悪かったな。宿と、再び旅立つための食料集めは此方で手配してやる。流石に、アカツキ殿達をほっぽりだして飢え死にさせたとなれば事だしな」

「誰が、お前の助けなんて……」

「俺だけの問題じゃないんだよ。魔物に殺されて死ぬのなら知った事じゃねぇが、俺の街が異端認定されたらてめぇ責任とれんのか?」

「…………………」

「待ちなさい!何が俺の街、ですか!ラークス、王家として命じます。民を見捨てるなど───」


 と、黙り込む勇者の代わりにお姫様が叫ぶ。が、ラークスは何処に吹く風。


「この街は魔物の群生地と近すぎる。そうなれば金がかかる。故にダンジョンが崩壊した今見捨てるよう王より勅命を受けています。私としても、此処の住民達の力になりたいですがそのために他の、より多くの領民を苦しめるわけには行かない。

 ではリューゲ君、この街の権利譲渡の書類、それと私が行っていた政策か企画について話し合おう」

「ええ、若輩者故、手解きの程よろしくお願いします…………ではアカツキ殿。私はこれで」


 そういって礼をすると俺はその場か出て行く。

 勇者達が睨んでいたが知らん。




────────────


「ははは!あの愉快な顔を見たか?くくく、思い出しただけでどんな肴より酒が進む」


 愉しそうに笑うラークスの目の前で俺は書類に目を通す。


「ああ、人攫い共の尻尾掴んでたのか」

「掴んでいたが、そのタイミングであの愚者が来てな」

「街への被害考慮せずに暴れそうだもんなぁ」

「それに、組織のお得意の中には私より地位のある者もいる。迂闊に動けないのだよ」

「…………ふぅん、まあ、そういうことから俺が潰しておいてやるよ」

「………良いのか?」

「普通にはつぶさねぇけど、な………んじゃ、俺はこれから面白い人材を勧誘してくる。組織もそのついでに潰しておいておく」

「人材?ああ、なるほど………」


 俺とラークスはどちらとともなく笑い出す。リリィが呆れたようにため息を吐いた。

魔蟲王 名前:シュヴァハ 状態:寄生 Lv17 魔結晶48

HP 7895/789

MP 880/880

CP 最大11000

DP 15742

攻撃力:201

防御力:104

精神攻撃:212

精神防御:1556

命中力:167

素早さ:10002

運:2402


スキル

《ガチャ》 《ログインボーナス》 《創糸Lv4》《操糸Lv6》 《残機Lv3》 《斬糸Lv4》

《寄生》《韋駄天Lv2》《逃げ足Lv2》

《蜃気楼Lv2》




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