不返の城攻略戦②
C級の冒険者は明らかに地図が役立たなくなったダンジョンに舌打ちをしながら進む。
ダンジョンが形を変えることは良くあるが、よりによってこのタイミング……まさか備えていたのだろうか?
それにモンスターが思ったより少ない。そうなると、あの襲撃はダンジョンマスターの意思で行われたのだろうか?この程度の戦力しか用意できてないのに?
いや、増えた罠から考えるに、迎撃のみを目的としていたのだろう。だとしたら、誘われた。
「まあ、だからといって何もしないわけには行かないが」
ダンジョンは溜めた力に限界があるのか、形を変えた後しばらくは形を変えないし、モンスターの増える量も制限される。今の内に出来るだけ多くの罠を発見すればその情報が後で売れる。
「………ん?」
ゴブリンやコボルトなら問題なく倒せる。問題はオーガだ、と周囲を警戒していたのだが妙な影を見つける。
ゴブリンやコボルトにしては大きく、オーガにしては小さい。
「……ウルフマンか?」
「「「──ッ!!」」」
それは人に近い身長の、人ならざる狼の頭部を持ったモンスター。このダンジョンに住むコボルトというモンスターは進化するとウルフマンというモンスターになる。
知能は賢い猿並だが身体能力は人間の数倍。厄介だが熟練の冒険者の相手ではない。が、コボルトの群を統率している可能性もある。
リーダーの呟きに仲間が全員周囲を警戒する。が、奇襲はない……。
「おいおいどうした?急に辺りを見回して、俺が群れてると思ったのか?」
「「「!?」」」
と、不意に聞こえた声に男たちは目を見開く。今のはまさか、ウルフマンが発したのか?いや、ウルフマンは人の言葉を話せないはず……
「まさか。ヴェアウルフ!?」
「冗談だろ!?何でA級ダンジョンのボス部屋にいるような奴が……!」
ヴェアウルフ。ウルフマンの僅か数対だけが進化できるレアモンスター。人間並みの知能とウルフマン以上の身体能力を持ち、特に月光に満ちた空間においては《月光加護》というスキルで常にHPが回復し続けるという厄介などと言う言葉では足りない敵となる。
リーダーがヴェアウルフを警戒しながら残りが周囲を見回す。月光と同じ光を放つという月魔石は無い……。
「メイジ隊!魔法準備、他は俺と一緒に奴を押さえるぞ!」
「「「おお!」」」
「ひー、ふー……20人ぐらいか、複数のパーティー集まった感じか?」
威嚇の意味を含め叫びながら駆けてくる冒険者達に、しかし慌てることなく獰猛な笑みを浮かべた。
次の瞬間、ヴェアウルフの姿が掻き消える。
「──ぐ!?」
「へえ……!」
長年の経験で前方の重戦士が盾を構えた瞬間衝撃が走る。
重い。ガードしたのにHPが削られた。
「良いね!良い反応だ!──っうお!?」
牙を剥き出しに笑うヴェアウルフに向かい冒険者の1人が剣を突き出す。ヴェアウルフは身をそらし避けると別の冒険者がメイスを振るう。
「ちぃ!」
ヴェアウルフはそれを受け止めるが即座に別の冒険者達が矢を放ち距離を取った。
ガルドの街の冒険者は不返の城の上層部に入る際、幾つものチームが組むことある。連携は十分に取れている。
「詠唱終わりました!」
「よし、放て!」
リーダーの合図にメイジ隊が一斉に魔法を放つ。炎の蛇の群が襲いかかる範囲攻撃。広い通路を埋め尽くすほどの炎は、逃げ場を作らず炎の壁となってヴェアウルフに襲いかかった。
「………やったか?」
炎が通路を流れていくと、そこにはヴェアウルフの姿はなかった。原形を止めず灰になったのだろうか?
「へえ、ありゃちっと危なかったかもな」
「「「──!?」」」
警戒を若干解きかけたその瞬間、後ろから声が聞こえてくる。そこには無傷のヴェアウルフが立っていた。
「な!?馬鹿な、何故……避けたのか!?」
「おうよ!旦那にネームドにして貰った日から俺にゃ殺戮の獣つースキルが生まれてな?どんな場所にもひとっ飛び出来るようになった訳よ」
聞き覚えのないスキルだが、説明からして転移系のスキル。それを使用して背後に移動し攻撃を避けたのだろう。
しかもネームドモンスターだと?最悪だ。が、考え方を変えろ。つまり此奴は名前を与えられるだけの存在と言うこと。此奴さえ退ければこの先苦戦する相手がいないと言うことになる……。
「お前等!押さえるぞ!」
「「「おお!」」」
「メイジ隊!幾つかに分かれて全方位に注意しろ!」
「「「ああ!」」
再び陣形を取りメイジ隊の護衛と、ヴェアウルフに突っ込む隊に分かれる。ヴェアウルフが爪を振り下ろすと重戦士が盾を斜めに構え、接触と同時に別の冒険者が盾を裏から叩く。
「ぬお!?」
腕を身体に絡ませるような形でバランスを崩したヴェアウルフにアックスを叩き付ける。
「が!?」
鉄のような固さを誇る剛毛に邪魔され斬ることは叶わなかったが打撃によるダメージは与えられたはずだ。
「う、ぎ………ぎはははは!こんなもんより、姐さんの蹴りの方が数千倍痛ぇってぇのおぉぉぉ!」
「ぐ!?」
生来の頑強さに加え、恐らく実力が近いかそれ以上の相手と戦い戦闘経験を多く積んでのLvアップをしているのだろう。ステータス差が故に打撃ダメージも大して効いていないようだ。
姐さんというのは、まず間違いなくダンジョンマスターだろう。つまりここのダンジョンマスターは、配下を鍛えることの出来る程の強さを持っているという事になる。
こりゃ、勇者達死んだかもなと人事のように思いながらも安堵する。つまりこのダンジョンが破壊される確率は減ったわけだ。
残る問題は目の前のヴェアウルフをどうやって倒すか、あるいは逃げるかだ。
逃亡に関しては無理だ。相手は転移系のスキル持ち。追い付かれる。
ならば、やはり倒すしかない。
「うおおおおお!」
「おお!?良いね、やる気じゃねぇか!」
ヴェアウルフは突っ込んでくる冒険者達に嬉しそうに笑い、爪を振るう。
先頭の冒険者の盾が避けるが、その冒険者はある物をヴェアウルフに向かって投げつける。それはヴェアウルフの眼前で爆ぜ煙をまき散らした。
「──ッ!?ぐおおぉぉぉ!?」
それは本来、ガルの森の高ランクのモンスター除けに使われる刺激臭のする臭い玉と呼ばれるアイテム。
鼻の良いヴェアウルフが至近距離で浴びれば当然ただで済むはずがない。鼻を押さえ大きく仰け反る。
「今だ!たたみかけろ!」
ヴェアウルフと同じく刺激臭の至近距離で浴びた冒険者を1人が介抱し残りは一気に責める。
「ぐ、ぎ……!」
「うおお!」
「くたばれ!」「いけぇぇ!」
「死ねえぇぇ!」
「だああ!」「おらぁ!」「せいや!」
「む、がぐ!?……ぐぞ、がぁ!!」
その猛攻に何とか反撃しようとするヴェアウルフだが刺激臭に思考を持ってかれたのか反応が遅くだんだんと直撃し始めた。そして──
「離れろ!」
その言葉に冒険者達が離れメイジ隊が一斉に魔法を放つ。
ドガァァァァァン!!
「ガアアアアァァァ!!」
今度は直撃したようだ。炎の中で暴れるヴェアウルフが見える。
「これで、とどめだあ!!」
ズン!と大きく開かれたヴェアウルフの上顎に剣が突き刺さる。
「か、あが……」
ヴェアウルフの体はズルリと黒い液体になり溶けた。
「……倒した、のか?」
「……倒した」
「「「「うおおおおおお!」」」」
誰かの呟きが歓声に飲み込まれる。それはそうだろう。Cランクが最大のガルドの街の冒険者達が、Aランクのモンスターを多対1とはいえ倒したのだ。これは十分な偉業だ。
誰もが達成感に包まれる。瞬間──
「あーあー、やられちまったか……」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
歓声はピタリと止まり、全員がゆっくりと、まるでそちらを見たくないかのように、しかし見るために振り返る。
「やっぱりスペックはだいぶ落ちるみてーだな」
そこにいたのは、ヴェアウルフ。
先程と同じ個体なのかは、生憎と狼の顔の違いなど分からないから判断できないが威圧感は先程の非ではない。
「も、もう一匹?」
「う、嘘だろ……」
「ひゃはは!俺を倒せたかと思ったか?残念、てめーらが倒したのは殺戮の獣つースキルで産んだ俺の劣化コピーよ!」
冒険者達は知るよりも無いが、シュヴァハの生前の世界の異国の地にあるジェヴォーダンと言う地方で、ジェヴォーダンの獣と呼ばれる正体不明の獣の実話があった。
その獣の被害は本来数日かかる距離で短期間で確認され、しかもなかなか見つからない事からその獣は悪魔が化けた姿である、どんな長距離も一瞬で移動する能力がある、複数存在するなど様々な憶測がなされた。
ヴェアウルフのベートはその風説の能力として使えるスキルを持っていた。
転移と分身、そして後一つ……。
「くはは!んじゃ、まだまだ付き合って貰うぜ!なぁに、安心しろ旦那にゃ殺さねーように言われてんだ。てめー等を殺すのは別の奴の役目だからなぁ」
そう言ったベートの灰色の体毛が黒く染まっていく。
同時に、禍々しい魔力が身体から溢れる。
「あ、悪魔……」
「せいかーい。正解者には拍手……」
「あー……うん。分かってた事だけどよぉ、弱すぎだな。ついてねー………とと、旦那に取っちゃついてるのか」
気絶した冒険者達を一瞥したベートは頭をかきながらその場から去った。
魔蟲王 名前:シュヴァハ 状態:寄生 Lv12 魔結晶24
HP 654/654
MP 680/680
CP 最大10710
DP 5207
攻撃力:151
防御力:95
精神攻撃:168
精神防御:1204
命中力:104
素早さ:10000
運:2206
スキル
《ガチャ》 《ログインボーナス》 《創糸Lv3》
《操糸Lv6》 《残機Lv3》 《斬糸Lv4》
《寄生》《韋駄天Lv1》《逃げ足Lv1》
《蜃気楼Lv1》
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