求める者達
『う、うわあああああ!?』
大通りの方角から響いてくる声を目覚ましに俺が目を覚ます。
目を擦ろうとしたが出来なかった。だってこの体手、ないし。そもそも涙とか出ないし。
「おはようございますマスター」
「おうおはよう。朝飯は?」
「此方に」
リリィが用意してくれた肉を食い林檎を食い満腹になると俺は器に目を向ける。
ぼっーとして何もしないレイプ目の器。本当に自分じゃ何にもしねーんだな。
「おい、朝飯だ。食っとけ」
「………」
「……はぁ」
俺は器の首の後ろ辺りまでリリィに運んでもらうと髪の毛の中に潜り腹の下から数本の棘を生やし差し込む。皮膚の下で棘の先端から細い糸を出し神経に繋げる。
「……よし、寄生完了」
早速食事を始める。この体に死なれると困るんだよな。人間社会にとけ込めなくなる。
外の喧噪をBGMに食事を食べ終えると宿から出る。
門に繋がる大通りに向かって歩いていると人だかりが見えた。恐らく彼方に昨日の少女の死体が移動させられているのだろう。
「お気に召しましたか?」
「さて、それは勇者君次第かな」
と、噂をすれば影というのか、人垣を掻き分け勇者君が現れた。
「お前の仕業か!?」
「……開口一番に何だアカツキ殿。私がいったい何をした?」
「──ッ!とぼけるな!」
あえて礼儀を取ってやるとギリッと歯噛みした。チョッロ。
まあ慇懃無礼に聞こえるように言ったしな。
「あの少女だ、あの少女を殺したのはお前だろう!」
「……人に妙な疑いをかけるのはやめてもらいたい。不利を被るのは貴方ですよ?」
「お前が、僕の嫌がらせのためだけにあの子を殺したんだろ!?お前以外に、あの子を殺す動機がある奴なんていない!」
「………お前それ本気で言ってんの?」
俺が思わず睨むと勇者君の愉快な仲間達が杖や剣に手をかけ、此方はリリィとアルカードが俺の前に出る。
「俺がお前なんかの嫌がらせのために人を殺すってか?」
「年端もいかない少女を娼官に売り払おうとしてたな、それの口封じもあるんじゃないか?」
「人聞きの悪いことを言わないで貰いたいモノだな。
家もない、金もない。そんな、店の金を盗まれ雲隠れされたらお終いの少女なんて誰も雇わないから、雇ってくれそうな場所を教えてやっただけだろ。そこで働けなんていった覚えはない」
「同じようなモノだろ!」
全然違うだろ。というかこの街見る限り二桁にもならない血の繋がったガキを娼官で働かせたあげく稼ぎが悪いって殴りまくってた男が今も路地裏にいるんですけど?
無罪の奴に構ってる暇があったらそっち行けよ。
「よさないかセイヤ、証拠もなく人を疑うな」
「けど、此奴等には動機が!」
エリザの言葉にも耳を傾けようとしない勇者君。動機、ねえ……。
「動機なんて誰にもあるだろ。だってあの子、金持ってんじゃん」
「……は?」
「いや、持ってた…か。奪われてるみたいだし」
大金貨なんて目立つもん持ってたらすぐ解る。そして当然だがあの死体の遺品に大金貨は、ましてやお釣りなんて無い。
「ちなみに俺はいらんよ?金なら足りてる」
「うむ。私が証人になろう、彼は大金貨を16枚持っている」
「少し使って15になったけど金貨も銀貨も大銅貨だってある。たかが一枚の大金貨の為に殺すわけねーだろ」
「け、けど……僕への嫌がらせの可能性が消えた訳じゃ……!」
「ま、そうだな。それに加えて勇者君から貰った大金貨を奪うためって可能性が増えたわけだ」
俺の言葉にぐっ、と黙り込む勇者君。というか、いくら唆されたとは言え本気でそんな無茶苦茶な理論が通ると思ってんのか?
此奴結構バカなんじゃねーの?
ああ、時間を無駄にした。
「行くぞ二人とも、バカにつきあう暇はない。まああれだな、犯人は昨日まで金に困っていて今日は贅沢している奴だ。頑張って探しな。
あ、でも。見つからなかったらこう考えると良い『お金を渡したせいであの子は殺されてしまった』ってな……ほら、誰を恨めばいいか直ぐに解るだろ?」
と、次の瞬間勇者君の愉快な仲間達の一人の魔法使いが呪文を唱え炎を放つ。
「何も知らぬ、弱き者も助けようとしない屑がセイヤ殿を侮辱するな!フレイム・サーペント!!」
「……アルカード」
「はい」
炎は蛇のような形を取り襲いかかってくるがアルカードが片手を突き出した瞬間炎が掻き消える。どこかの不幸少年みたいだな。
ちなみに今のは弱点無効の効果。吸血鬼……というかアンデッドの弱点である炎をスキルで消滅させたわけだ。
「……っな!?私の魔法が……!?」
「ありえません!セイレンは宮廷魔導師ですよ!?」
へえ、宮廷魔導師。やばいな。俺じゃ勝てない。まあ宮廷魔導師じゃなくても俺は基本的に勝てないけどね。弱いから。
でも運は別だ。部下に恵まれている。部下なら勝てる。
「殺しますか?」
「仮にも勇者だ。やめとけやめとけ……ん?あれ、リリィは?」
アルカードがさっきを込め言うが諫めておく。面倒事は避けて通るべしってな。
さっさとリリィ連れて帰ろうとするが、そこで何時の間にかリリィが居なくなっているのに気づく。
「連れてきました」
「おか──誰それ」
リリィの声に振り替えるとリリィが見知らぬおっさんをボコボコにして引きずってきた。
「犯人です」
「へー……」
あ、本当だ。よく見りゃ昨日ガキ殺して金持っててたおっさんだ。
「酒場で酒を浴びるように飲んで『あのガキの泣き顔笑えるぜハハハ』と言っていたので」
棒読みでセリフを真似したリリィはそのままおっさんを勇者君──ではなく俺に向かって投げつけてきた。
足下に落ちたおっさんの腹蹴ると咳き込みながら目を覚ます。
「うげ!?ごほ、げほ……!な、なんだ!?」
「よー、おっさん、昨日ガキ殺したんだって?」
「うお!?な、何だこのガキ!何のことだ!」
おっさんは酒臭い息を吐きながら唾を飛ばして叫んできたのでもう一発、今度は顔面を蹴る。大したダメージは受けてないみたいだな。うん、解ってた。
「ああ!?んだこのへなちょこキックはよぉ、ガキの癖に何調子に乗ってやがる!殺すぞ!」
「……キャー、怖いー。勇者様助けてー」
相手が自分より弱いと判断したのか急に偉そうになったおっさんは酔っぱらっていたあげく急な変化で周囲の現状に気づいていなかったのか、俺の言葉で顔を青くして勇者君に振り返る。
「ひ、ひああ!?ゆ、ゆゆゆ勇者ぁ!?ち、違うんです俺は!」
「あ、これがその金か……」
腰に結んでいた巾着をひっくり返すとジャラジャラ金が落ちてくる。うん、完全に言い逃れ出来ないねぇ。
「あ、いや……これは、その……」
周囲の視線に酒で赤くなっていた顔を青くするおっさん。少しかわいそうに思えてきたな。良し、助け船を出してやろう。
「まあ、あれだ。自分達だって苦しんでるのに1人だけ金貰って良い思いしてりゃイラつくよな?」
「…………」
俺の言葉にぽかんとしたおっさんは次の瞬間俺の掌から巾着を奪い取り勇者君に投げつけた。
「ああ!そうだよふざけんな!母親が病気だか知らねーが、俺らだって明日生きるのすら大変なんだぞ!贔屓してんじゃねーぞ俺にも金寄越せ!」
「な!?」
「そ、そうだ!俺にも!」
「可愛そうって言うなら私にも寄越しなさいよ!」
おっさんの言葉をきっかけにスリ目的に来ていたであろう、路地裏の貧民達が一斉に叫ぶ。
「あ、貴方達恥ずかしくないのですか!?子供でもあるまいし、人に頼って!自分で働こうとは思わないんですか!?」
「はあ!?誰も雇ってくれないだろうが!」
「小汚い奴を店に入れられるか、ってゴミ投げつけられて終わりだ!」
「冒険者登録にだって金は掛かるしよぉ!」
「だったらせめて銭湯を月1だけでもただにする法律作れよ!身体綺麗にして、仕事探すから!」
「はん!バカかてめぇ、保証人居ない俺らが小綺麗になったところで此奴等が雇ってくれるかよ、此奴等は俺らが惨めに死ぬのを見るのが大好きなんだからよ」
下々の意見って大事だと俺は思うんだ。メモしとこ。
ん?エリザもメモしてるのか?
「おい勝手な事言うな!こっちだってなぁ、金が盗まれたら大変なんだよ、家族が飢え死んじまうだろうが!」
「知るか!こちとら何時飢え死にしてもおかしくねーんだよ!」
「だからって雇えるか!雇うには金が掛かるんだよ!」
「じゃあてめーらも勇者から金貰え!」
「っ!そうだ、俺らにも寄越せ!」
「てめーら!金あるくせに!」
さーて、そろそろ乱闘が起きそうだしこの場から去るか。
しかしあれだね、一人助けるとすぐまた一人が出て来るね。てめーらなんか知るか!って突っぱねりゃ楽なのにそれも出来ない。正義の味方ってのは大変だねぇ。俺、魔王で良かった。
「時にマスター」
「ん?」
「今回の発端はあの女でしょうが、殺しときますか?」
「……保留」
目的がわかんないしな。
リリィは俺の言葉に多少不服そうな顔をしたが大人しく従い付いてきてくれた。
おっと、それより今日のログインボーナスはっと……。ラッキー!魔結晶だ!
魔蟲王 名前:シュヴァハ 状態:寄生 Lv12 魔結晶19
HP 654/654
MP 680/680
CP 最大10710
DP 143205
攻撃力:151
防御力:95
精神攻撃:168
精神防御:1204
命中力:104
素早さ:11
運:2206
スキル
《ガチャ》 《ログインボーナス》 《創糸Lv3》
《操糸Lv6》 《残機Lv3》 《斬糸Lv4》
《寄生》
罪悪感などを消されているとは言え他人には以外と性格が悪い主人公回でした




