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天使と悪魔はそりが合わない!  作者: 紀堂 紗葉
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第2話

「救世主?」


「うん。そうなの」


「誰が選んだんだ?」


「あたし」




 ずんっと一歩前に出て、やけに綺麗に整った自分の顔を近づけてくる。




「その……異世界とやらはなんなんだ? どこか異次元にワープでもして新しい世界に旅に出かけられるとかか?」


「そうね。だいたい合っているわ」


「はっ、ばかばかしい! そんなことできるわけねーだろ。聞いたことないぞそんな世界。現代人はみんなこの世界がいやいや言ってなんとかやってんだ。百兆円だと? 人をおちょくるのもいい加減にしろよな!」


「そんなこといわれてもなぁ……あ、そうだ!」




 パドメは内側から人差し指を画面に触れさせる。




「あたしの指、触ってみて」




 なんだ? ピリッとくるやつか?


 だまされ半分に触ってみる。




 すると、画面が次第にやわらかくなり、手がそのまま吸い込まれる。




「お、おい! なんだよこれ! はぁっ?!」




 腕がそのまま入っていく。


 向こうで女の子がおれの腕を掴み、おれをテレビの中に引きずりこむ。




「おい! 離せ! 離せって、おいぃっ!!!」




 抵抗することができず、そのまま体ごと全部吸い込まれた。




 テレビの中に入ると、抜け出たすぐ下に床は無く、そのまま落下した。


 落下先にはクッションが突如出現し、ぽよーんと宙を舞った後、うつぶせに倒れた。


 四つんばいになり周囲を見渡すと、そこはさっきまで見ていた画面と同じ真っ白な部屋だった。




 上を見上げると、さっきまで無かった二つの大きな白い羽を背中から生やした自称天使が本当に天使のように宙に浮きながら笑みを浮かべていた。


「どう? これで信じられた? ここも君からしたら異世界みたいなものだと思うけど」




 ……確かに。テレビの中に入ったんだよな。




 入ってきた四角い穴を見上げる。


 その先には見慣れた自分の部屋が見えている。




「ん? っていうことはもしかして、百兆円っていうのも本当か?!」


「もちのロンロンよっ! あたし、嘘つかないし」




 百兆円あればなんでもできるぞ。


 むしろできないことなんてない。


 会社だって買い戻せる。


 家族でこんな逃走ごっこをしなくてよくなる。




「……やるよ。やらせてくれ」


「わぉ!」




 パドナが目の前に降りてきて手を差し出してきた。


 素直にその手を握ると、そこが青く光る。




「契約成立だね。えっと名前は……」


「晴彦はるひこ。杉並晴彦すぎなみはるひこだ」


「そう。よろしくね。ハルヒコ」




 やわらかい手を握りながら、次第に白い光に包まれる。


 天使のやさしい笑顔を見て、そのままおれは意識を失った。






 ―――ここは?




 意識が戻った。


 ……が、動けなかった。


 一ミリたりとも動けず、瞬きすらできない。


 微動だにできないという言葉を、今ほど使いたいと思うことはない。


 周囲はなんだか、曇っていて良く見えない。


 目を凝らすと、何かが見える。




 ……肌色?




 どうやら動いているようだ。




 ん? 


 なんだあの丸みのある肌色は。


 白い布のようなもので覆われているが。




「いいお湯ねぇ」


「ほんと~。気持ちいいわ」




 女の声……か。





 ―――ん? ちょっとまて。





 まさかこれ……風呂か? 女湯か……?!


 なんで女湯の中にいるんだ? それになんで動けない?! 


 何がどうなってやがる!




「ねえ、ちょっと見てよ、この銅像、なんか鼻から血が出てない?」


「えー、そんなこと……あ、ほんとだわ」


「気持ちわるーい」


「ていうかなんなのこの銅像。こんなのあったっけ?」


 この会話を聞いた女の子が集まってきて物珍しそうにまじまじと見てくる。


 裸体を白い布で隠し切れない女の子たちがおれの目の前に近寄ってくる。胸をはだけさせている子もいる。


 おれの視界は肌色……いや、ばら色だ。




「ねえ、ちょっと……どんどん出てくるわよ、鼻血」


「もしかしてこれ……本物の鼻血なんじゃないの?」




 女の子たちはみんなで目配せし、そのうちの一人がなにやら呪文のようなものを唱え始めた。


 すると、急に体が自由に動かせるようになった。そして、そのままバランスを崩し風呂の中に落ちた。




「やったぞ、やっと体が動いた!」




 手を握り締めては広げ、自分の体が動くことを確認していると、近づいてくる影に気づく。


 見上げると、一糸纏わぬも一布で体を隠す女の子たちがすごい剣幕でおれを見下ろしていた。


 鼻からは血が垂れてきてしかたがない。


 おれの周囲は血の湯みたいになっている。




「絶対に許せないわ! 覗きなんて」


「石像になって覗きなんて、なんてふてぶてしいのかしら」


「こんなにお湯よごしちゃって。とんでもない男だわ」




 次から次へとくる罵倒はとどまることを知らない。




「ま、待ってくれ! 一番驚いているのはおれなんだ! 確かにここに居るということについては百パーセントおれが悪い。しかし、そもそもこうしようと思ってこうなったわけではな…………」




 おれはみんなの誤解を解くため、立ち上がって説明を始めた。




 しかし何やら様子がおかしい。女の子たちの視線がおれの顔ではなく、明らかに下方に……股間あたりに集中している。




 おれも自分の股間に目を落とした。


 すると、それはそれはとんでもないことになっており、わかりやすく言うと、真っ裸な自分がそこにはいました。




「きゃーーー!!!」




 すぐさま股間を両手で隠すも、女の子たちは怒り、一斉に呪文を唱え始める。




「ちょちょちょっと待ってくれ! 誤解だーーー!」




 次の瞬間、ものすごい爆音と共におれの体は天井を破壊し、そのまま空へと投げ出され宙を舞った。


 これまでに読んできた不遇なラブコメ主人公たちに同情の思いを馳せながら、風呂屋の前の道に顔面から落ちそうになる。




 すると、急にふわっと体が軽くなった。宙に浮いて体勢が反転し、そのままゆっくりと地面に降り立つ。




「よかった~。間に合って」




 振り向くとそこには自称天使がいた。


 おれは安堵すると共に今の自分の姿を思い出し、急いで股間を隠す。




「やっと見つけたよ。大丈夫?」


「あぁ……ってか何でいきなりこんなことになってんだ?」


「う~ん。それがねぇ。よくわかんないんだよねぇ。本来ならあそこにいるはずだったんだけど……う~ん」




 人差し指をこめかみに当てて不思議がっているパドメの視線の先には、遠くにあるにも関わらず見上げるほど大きな城があった。


 おれにくれると言っていた城はもしかしてこれのことか?


 でかすぎて使いこなせる気がしないぞ。もはや城というか要塞だ。


 しかしなんにしても一つだけ気になることがある。


 それは、城の周囲がおよそ幅二百メートルはあるであろうとんでもなく大きな堀で囲まれていることだ。




「いたぞーー!」




 いつのまにかたくさんの男に周囲を囲まれていた。




「貴様だな。うれしそうに自分の恥部を露出して女湯に侵入していたというのは! 逮捕する!」


「おい! だから誤解なんだって! 誤解なの! ……ってちょっとおれの両手を掴むなって。出てしまうだろうが! 今度はうれしそうに自分の恥部を露出して公道を歩いた罪がかかってしまうだろうが!」




 パドメは遠くから「ごめんごめん」と言いながら顔の前で手を合わせていた。

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