教会に着くまで(ゼルト視点)
ゼルト視点2つに分けて載せたいと思います。後半はちょい長いので時間が掛かると。
あと、ゼルトの年齢がさり気なく出てたり……
ーゼルトside
『魔法の儀式を受けた時の様子を探れ。その後の経過も見るためにゼルト程の適任はないだろう。初めに接触した上にお前の顔は人の心根まで曝すほどのモノだからな……出来るか?辛いならデュークに頼むが?』
『いえ、やらせて下さい。僕があの子を……見極めます、アキトを』
『観察対象の名は出すな。それだけで情が湧く……もう手遅れに見えるが本当に大丈夫なのか?もし、アレがこの街に危害を加えようした時は『……直ちに拘束します。それでも逃げられそうなら、消します』……分かった。ゼルト、信頼している』
第5警備隊隊長から任された案件。誰にも任せたくない一心で受けた。それが何を意味するのか分かった上で受けた。
調べても身元不明。珍しい黒い目。常識が欠けた知識。反比例する丁寧な対応が出来るアキト。
副隊長から『観察対象』という危うい判定を喰らい、それを知らされた隊長は経過観察として、今も『観察対象』は解除されていない状況だった。これからの行動で拘束か無害認定か、将又、排除か。領主様にとって、仇なす存在であるのならば、それは僕等と敵対関係になる。
彼女は知らない。まだ、安定を手に入れてないことを。
仮初めの安定の中で生かされてることを、彼女は知らない。
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「今日はよろしくお願いしますっ」
「……うん、よろしくね」
困ったな。どう返したら良いんだろう、こういう時って?
【ヒャクミ】を出たアキトは僕に向かって笑顔で頭を下げた。その律儀さに余り対応したことがないので少し困りつつも笑って頷いて対応した。
「教会まで行くのに迷ったら大変だから」
「手、繋ぐんですか?あの時みたいに迷子ではないんですが……」
僕の差し出した手に苦笑しながら見上げてくるアキト。
隊長からの命令に「お前のその顔は違う意味で武器だ。だから、接触して相手の気力を削いで意図を調べろ。精神的な疲れから何か吐くかもしれないからな」と言われたから無理矢理でも繋がないといけない。
でも少し楽しいかもしれない、これはこれで。理由はアキトにあった。
まず、僕の容姿が嫌で困ってると言うより手を繋ぐことに羞恥していたのが分かったからだ。容姿で嫌悪する人の様子なんて28年間も生きてれば、大なり小なり嫌でも解る。逆に好感を持たれた場合は経験値が少なすぎて解らないけど。
だから、出会った時に凄く興味を抱いたんだ、アキトに。
この子は僕の容姿ではなく、僕自身を見ているのでは?と。
「もし、逸れたら儀式の機会が伸びるけど良いの?」
「うぅ、よろしくです……」(背に腹はかえられぬか……)
「そんなに僕と手繋ぎたくないの?」
「いえ、そうではないのです。ただ、いい年して恥ずかしいと言いますか、何といいますか。だから、嫌では無いんですよ。嫌では!寧ろ、こちらが謝りたいと言いますか、何と言えば良いのやら……っっ!」
気落ちした風に見せると慌てるアキトの様は見てて楽しかった。本気で落ち込んでる訳じゃないのに必死というか、身振り手振りで弁明するとか、この子見てて飽きないっ。
笑いそうになるのを鍛えた腹筋で隠し続け、恐る恐る手を重ねるアキトの姿が愛くるしくて目尻が下がった。今の僕の顔はヤバイ顔付きをしているに違いない。先程、【ヒャクミ】から出た客の1人が僕の顔を見て、ギョッとしてたから。
それより、慌てる様か、身長差のせいなのか、小動物を思いだしてしまうのは僕だけかな?胸に凄くクるの僕だけ?
アキトは【ヒャクミ】で働き始めてからは他のお客よりかは優遇してくれてたけど、客と店員という見えない壁を微かに感じていた。だから、今日は出来るだけその壁を取っていこうと思っ…………
(……あれ?今、隊長の命令忘れてなかったか?)
まさかの事態に思考が止まり掛けた。
隊長の命令は絶対で……いや、僕の事を認める数少ない人だからこそ、それに報いたくて頑張ってきた。王城勤め不採用の時も何気ない風に言った。
『あそこの試験管は見る目がないだけだ。ゼルトの良さは、お前の良さはこの第5警備隊の皆が解っている。だから、ここで腐るな。前を見ろ』
この言葉は今でも胸に秘めている。あの時ほど、僕の居場所は第5警備隊なんだと痛感した。それでも王城勤めを引っ張る僕は仲間から時折、女々しいと言われていたが気にしなくなった。だから……だから、僕は職務を全うしなくてはいけないのに……何で忘れているんだよ?
何だ、これは?こんな体たらくで命令なんて……
「……っ!」
「ゼルトさん?手、繋ぎましたが?」
僕の手を握る存在に意識が戻された。
身長差から上目遣いになってるアキトが僕の様子を伺っていた。その眼差しから大丈夫?という思いが声に出さなくてもこちらにまで伝わっていた。
何でこの子が観察対象なんだろうか?こんなにも僕を掛け値なしに心配してくれる子が観察対象な訳ないのに。
何で隊長の命令に頷いたのだろうか?それは尊敬する隊長に少しでも報いたくて、更に認めてもらいたいから。
相反する考えが頭の中で強く主張していた。
「あぁ、ごめんね。じゃあ、教会まで案内するよ」
「はいっ」
笑みを無理矢理、貼り付けて言うと僕を信用して笑顔で返す彼女。何故か、それが眩しくて仕方がなかった。
隊長、僕は今から観察対象の儀式を悉に観察し判断します。彼女が危険分子である、その時は忠実に命令を随行しますので少しだけ…少しの間だけで良いので………
(楽しんで良いでしょうか?)
アキトの手を引いて歩く僕は誰にも聞こえない言葉を吐露した。