儀式の前の前(リヒャルト視点)
九州出身なのでリヒャルトさんを九州弁にしてみた。単語部分は弄ってないので伝わるはず。気持ち部分だけ九州弁にしたりして強調してるつもりです。
あと、九州弁の主人公(男)の話も考え中。
ーリヒャルトside
【ヒャクミ】に新たな働き手と住人が1人加わった。
おいの名前はリヒャルト。黒い髪に琥珀色の目をした男だ。この店の店長でキッチンの責任者である。
次においの嫁さんであるクリス。茶髪に青い目をしたおいの可愛い嫁さん。客の注文や料理の運び出し等を任せている。
息子のミュランはおいの髪とクリスの目を受け継いで黒い髪と青い目をしている。【ヒャクミ】の後を継ぐと言って、今はキッチンにて、おいの味付けば盗もうとして日々、料理を学んでいる。
そして、最後にアキト。黒い髪に珍しい黒い目をした性別が一目では分かりにくい少女。こん子はクリスのお手伝いとして表を任せている。
「え?もう教会に行って良いんですか?」
「おう、ついでにその辺でも案内してもらってこい」
「でも、もう少ししたら昼時ですよ?」
「子供がそがん事、気にせんで良か。さっさと行き」
「う、分かりました。ゼルトさん、普段着に着てきますので待ってて下さい。店長、ありがとうございますっ」
「お礼ば言われる事は何もしとらんぞ」
「ちゃんと待ってるから急がなくて良いよ~」
デュークの頼みで預かる事になった子供、アキト。凄んだおいの顔を見てたじろいでは申し訳なさそうに頷いた。納得した後は迎えに来たゼルトに声を掛けては着替えるために裏に引っ込んで行った。
そんなアキトの声に柔やかな表情で応えるゼルト。もう見慣れたもんだがデューク並みの顔面凶器さは雰囲気と声のおかげだろうか、そこまでの強烈さを感じなかった。特にここ最近はゼルトが纏うモノは穏やかとなり、声音も柔らかくなって親しみやすさが出ていた。
「すまんな。おい達の代わりに教会まで……本当はおい達が暇ば見つけてせんばやった事とに」
「いえ、僕が進んで、した事ですから」
「そうか、進んでか」
「はい、進んで、です」
デュークに紹介された時のような頼りなさと不安定さは形を潜めて、しっかりしていた。第5警備隊で揉まれた経験がゼルトを少なからず人として大きくしてきたのだろう。
「そうか、まだ、あの子については分からんからな。気をつけんといかんぞ」
「そう、ですね……」
おいの忠告に目を下げて返事を返すゼルト。その胸中に何を思ったのか。
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腕っぷしと料理しか取り柄がないおいは自然と稼ぎが良い腕っぷしで働ける職業に付いていた。それが第5警備隊だ。それからはとんとん拍子で副隊長の座を任されてた。
今はもう辞めたから元第5警備隊副隊長だがな。
可愛い嫁さんと出会え、警備隊で金を貯めては自分の店を開くという夢を叶えた。警備隊も良かったが今はこうして第2の人生を歩んでいる。
そんなおいは副隊長時代に可愛がっていた後輩からある頼み事されていた。後輩と言ったが、おいの後釜となり、現第5警備隊副隊長のデュークは今では頼れる男だ。やはり、目を掛けて正解だった。
「一応、魔法の誤作動でここに来たって事にしてますが、ちょっと様子見したいと思いまして」
「転移の誤作動……魔法か魔法陣か知らんが大層な誤作動に巻き込まれたなぁ。転移自体が希少やろ。あんなもん作った奴や出来る奴は頭ん中が別次元やろ」
おいの呟きに返すことなく、顔を顰めたデュークは言い辛そうに口を開け、
「先輩に頼むのは心苦しいんですが、何かあった時に即対応出来そうですし、第5警備隊から近いから……」
「まぁ、おいは元副隊長。ミュランもああ見えて、おいに似て腕っぷしは強いけん鍛えてやっとるが、クリスがなぁ……」
「クリスさんは魔法の扱いが上手いだけですからね……。出来る限り店に隊員たちを行かせて窺いますから置いてもらえませんか?」
とある子どもを保護したが、どうも信用出来るか微妙なので預かって欲しいとのこと。後輩からの頼みに二つ返事で返したいが愛する家族に何かあっては堪ったものではないから返事を窮していた。
何処から来たのか不明、魔法を知らない上に常識さえも欠けてる無知さ加減、無知な割に人との接し方は貴族顔負け。余りにも普通ではないその存在に拷問でも掛けて所在を突き止めたいぐらいだ。
しかし、デュークはそれを良しとしなかった。どうやら、お人好しのゼルトが凄く気にしているようである上にデュークも手荒な事をしたくないらしい。
まさか、不審人物に絆されてるとは……鍛え直した方が良かやろか?
「分かった。連れて来て良か」
「良いのですかっ?」
「お前が頼み込んだとにその態度は何や、分かったら早よ連れて来い」
「分かりましたっ!!リヒャルト先輩ありがとうございます!!明日の昼過ぎに連れて来ますが、大丈夫ですか?」
「問題なか」
「分かりました。本当にありがとうございますっ」
頼られたからにはやらにゃ男が廃る。デュークの頼みを受けたおいは腹を括った。感嘆した様子で出て行ったデュークを見送ってから、妻であるクリスに軽く事の経緯を話した。
「10になる子が1人で?それは心細いでしょうね」
「本人は15才と主張しとるらしいけど、色々問題があってな。孤児院に預けたくても預けれんとで……迷惑掛けるな」
「ふふ、そんなの今更じゃないのよ。それに女の子なんでしょ?私、それ聞いて少し楽しみなの」
「……何があってもおいが守るけん」
「はいはい、ありがとね」
苦虫を噛みつぶしたかのように話すおいに対して、妻は嬉しそうに穏やかな様子でその不審人物であろう子供を楽しみにしていた。
昔から少し抜けたところが可愛いっちゃけど、もう少し気を引き締めて欲しかったんやけどなぁ……良か、おいがクリスもミュランも守れば、それで十分たいね。
クリスの代わりに更に気を引き締めたおいは次の日の昼過ぎにデュークが連れて来た不審人物である子供に出会った。
「何でもしますのでここに置かせて下さい!!お願いします!!」
軽い自己紹介の後に気合いのこもった宣言をされた。
黒い髪に黒い目。どう見ても10才ぐらいの子供にしか見えない背丈。しかし、見た目に反してしっかりとしてろのか、状況を把握してはおいを見据えて頼み込むその姿に少しばかり感心した。
始終デュークに頼っているようだったら、どうしようかと思っていただけに不審人物である子供のその姿はおいの見方を変える良い切っ掛けだった。
「良いだろう。好きにしろ」
「ありがとうございます!!これからよろしくお願いします!!」
「普通に喋ろ、仰々《ぎょうぎょう》しい。おいはただ働き手を決めただけだ」
許しを得た時の顔つきなんて15才よりも更に幼く見えた。子供は子供らしく。ただ、背中が痒くなるような丁寧な物言いさえ取ったら何処にでも居るような子供にしか見えない。
これから過ごす内に子供の色んな内面が少しは見れるに違いない。それを見てから善し悪しを決めても遅くはないだろう。デュークが絆されたのが少し分かった瞬間であった。
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今ではそこまで警戒するほどでもないと思っている。
預かることになったアキトは文字や金勘定と言った常識を学び、【ヒャクミ】で働いているその姿は必死といった様子だ。まるで鬱憤を晴らすかのように動く、その姿に腹に何か抱えているようであったが、無理に聞き出すのも躊躇われた。無理に聞いたら壊れそうな感じに思えたからだ。
何よりクリスがその働きっぷりを見て気に入ったみたいで仕切りに「ミュランと並んだら兄妹みたいなのよ。もう並んだ姿も何だかそっくりで微笑ましいでしょ?」と、おいに言ってくる。
「おやじー、アキトは?」
「儀式を受けるなら準備してこいって言ったところだ」
「今日、受けるのか?」
「あぁ、だから、今日は表の手伝いも頼む」
「あぁ、分かった」
アキトを探してたのか、ミュランがおいに聞いてきた。それに答えると、ミュランは納得したように呟いては表の手伝いをするために裏に引っ込んでいった。
ミュランとアキト。下準備をさせる時によく一緒になっていたせいか、今ではクリスの言ったように距離感が兄妹か友人のように近い。下手したら兄と妹と言うより、兄と弟に見えることもある。しかも、腕っぷしや料理以外でミュランが率先して魔法を考えて使うようになったのは驚いたもんだ。
楽しそうに魔法について語って試しているようでこんな風になるとは予想外も良いところだ。息子には良い刺激を与えてくれただけにデュークの頼みを聞いて良かったと思い返す。
「リヒャルトさん」
「あ?どうした?」
「アキトの好きな食べ物分かりますか?どうせなら昼食は好きな物を食べさせたいのですが」
「確か……」
「あの子はあっさりした味付けが好みみたいだわ」
「そうそう、あと鳥も好きみたいだぞ」
ゼルトから聞かれたことにおいより先にクリスが答えた。それに続くように答えると、クリスから笑われながら「しっかりして下さい」と肩を叩かれた。
こうして見たら、おいとクリスって本当に仲良し夫婦だな。常連客に是非とも見せつけたいが、仕事においの惚気を持ち込む訳にはいかんからな。
「あっさりに、鳥……参考になりました。ありがとうございます」
「良いのよ。あの子、まだ張り詰めてるみたいだから、息抜きしないと」
「休め言うても聞かん時もあるしな」
「そうなんですか?だったら、今日はしっかり休ませますね」
クリスの言葉においも同意するように頷いた。自分の居場所を見つけようとして足掻いてるように見えるだけに心苦しい。必死さが滲み出てるのが丸わかりだ。それでも仕事ぶりは驚く程、出来るのだから質が悪い。
注意しても聞く耳持たんとがなぁ……悪い子じゃなかとは確かばってん……。
「ミュランと居るときは魔法に夢中で楽しんでるみたいなのが唯一の救いなのよね」
「そうなのか?」
「そうなんですか?」
「ミュランには砕けた態度でたまに接してるのよ?あなた、知らなかったの?」
「仲良いな、ぐらいにしか見えんかった」
「それが砕けてるのよ~。もう、女の子は人のちょっとした機微で変わるのだから気を付けないといけないのよ」
「おいはそういうのは苦手けん、クリスに任せる。そんかわりにおいがクリスば守る」
「仕方ない人ね……」
「…………」(あれ、アキトの事を聞いてたらリヒャルト夫妻の惚気になってる……?)
まさか、ミュランに懐いていたとは……クリスに懐くかと思ったんだが。
「すいません!着替えてきましたっ」
「大丈夫ですから慌てなくて良いよ」
「あら、アキトちゃん、スカートじゃないの?」
「え?」
「折角のお出掛けなんだから、着てこないと」
急いで戻って来た様子にゼルトは笑って返し、クリスはスカートではないその姿に残念そうにしていた。それに不思議そうに何故?といった感じで言葉を溢すアキト。
「何かあった時にこれが1番なんですが、駄目ですか?」
その一言におい達は固まった。
この子にとってココは、この街はまだ安心出来る居場所ではない事を知らしめられたようであった。その辺の子供よりは色んな経験をしたに違いない。時折、大人顔負けの行動をすることがある。
確かに初めは不審人物として見ていたが今では【ヒャクミ】の立派な従業員だ。だから、もう少しおい達の前では年相応になっても良かとばってんなぁ……。
ゼルトと出て行った小さな後ろ姿に小さな溜め息を吐き出した。
「こういうのは時間と共に解決されるのよ。だから、気落ちしないで」
「分かっとる。ただ少し頼まれた身としては不甲斐なか……」
「その時は私も一緒よ。それでも駄目ならミュランも一緒。困った時こそ、家族で支え合わないと」
「…………」
「どうしたの?私の顔なんか見て?」
「おいは本当に良か嫁さんに巡り会えたなぁ、と思っただけたい」
「ふふ、本当にあなたって人は」
照れるクリスも可愛かばい。
気持ちがまた前を向いたところで昼時の準備を始めた。頼れる大人が余裕ば持たんばね。そがん事ではアキトも不安になるやろう。
何よりおいには最高に可愛い嫁さんと息子がおるちゃっけん、どう転んでも受け止めてやるたい。
主人公がクリスに懐かない理由、仲良くお喋りをする度にリヒャルトさんから羨む視線が刺さってたため。