芋洗いは珍しくない
ミュランが芋洗いで操った水流操作に関しては別段珍しいものではないようだった。機転を利かせた人が扱えるだけであって、つまり、皆やろうと思えば出来る魔法。
スゲー!!までには至らない。ただ、おぉ、出来たのか良かったな!ぐらいだ。魔法を知らない私が思い浮かぶ時点で既にお察しものだが、ミュランが滑った感が半端ない。そして、滑らせてしまった私も居たたまれない感じだ。
「アキト」
「何ですか?」
「俺、今度から魔法に関しては何も語らないっ」
「奇偶ですね。私も今思ってました」
直接的に滑ったミュランと間接的にミュランを滑らせた私は誓った。魔法の自慢はもうしない!と。また、滑って恥をかくぐらいなら黙っておこうと2人して誓った。
リヒャルトさんにあんなボロクソのように言われ、クリスさんからは困ったような顔で見られたミュランの精神は最早紙くず同然であった。
「もしかして、俺にはまだ扱えないものがあるかもしれない」
「そうですね。因みに水流操作は先程見てしまったんですが、近所のおばちゃんが「それはもう知ってたから傷を抉るな」……さいですか」
「アキト、これからはもし魔法で出来そうな事があったら、お互いに意見し合おう」
「分かりました。魔法で効率を良くするんですね」
無表情ながら必死さがこちらまで伝わってきた。余程、悔しかったとみる。
私が提案したばかりに……ホントごめん。でも、自慢するなんて意外というか、口軽くない?不謹慎な事に少しばかりそう思ってしまった。
「友人に会おうと思ったがお預け決定だ」
「………?」
「よし、折角だからこの空いた時間を魔法に使おう」
「えっ、マジですか!」
「あぁ、マジだ」
うわーやったー!!
暇な時間、街の探索でもしようかなーと思っていただけにテンションが上がった。今なら飛び跳ねれるよ!!是非ともアニメや漫画、ゲームの再現を!!年甲斐もなく、心が浮き足立った。
「水流操作以外で何が思い浮かぶ?」
「うーん……いきなり、言われてもですね」
「因みに魔力は少ないから生活魔法あと1、2回ぐらいだから」
えー少ない。
思ったより実験が出来ないことが残念に思えた。でも、水流操作をするため、色々試してる内に無くなったと見た方が良いよね。集中力や気合いやら、魔力って目に見えない精神値だからなー。数値化されたらサイコーなんだけど。
ま、現代でも脳味噌やらアストラル体とか色々分かってない部分もあるし魔法の世界で解ってます、とか私としてはショックかもしれない。
「さっき色々したせいで減ったが、俺の魔力値は母さんより少ないが父さんよりは有る」
「………」
どうやら大まかな数値化はされてそうであった。というか、ショックだよ!!
生活水準が微妙に低いのに何故そこだけ進展してるのかな!!意味不明だな!だったら、もっとより良い生活送れるようにしようよ!!
トイレに関しては合格だけどさー、ここで言う電話みたいな連絡手段は主に貴族にしか普及してないし、音楽は直に楽器使わないと聞けないし、テレビなんて論外。水道ガスみたいな役目を担ってる魔道具は一々気合い(魔力)注入で動かさないといけない面倒さ。
(その内、〇木になれそうだよなー。「元気ですかー!」って気合い注入しそうな私がいる……)
「やはり、急だから思い浮かばない?」
「……そうですね。ミュランさんもどうですか?」
「水流操作をもっと煮詰めたいと思ってる。攻撃魔法になったら面白くない?」
「確かに。そうなったら面白そうですね」
私も出来たら攻撃魔法の1つや2つ欲しいところだが、儀式をやってないのでまだ扱えない。だから、ミュランで予行演習と行こう。想像力だけなら漫画やアニメ、ゲームに触れてきた現代人には容易だよな、想像力だけなら。
「水の竜とか出来たら最高だと思ってる」
「龍ですか」
「ゼルトがやってたんだ。確か……『水よ、竜の形を象り…を纏い空へ……』とか何とか言ってた」
「全部は聞けてないんですね」
「まぁな。それよりゼルトは魔力値が俺より多いからおなじサイズは無理でも小さいサイズでも良いから、あんなの出来てみたい」
分かる分かる。4元素から獣の姿を象るの結構オーソドックスというか、スタンダードというか私もしてみたいから分かるよ。
しかし、ゼルトさんはもう発現させてたのか……上手くいかない時はそれとなくアドバイスを貰おうかなー。
「もし、出来たら……格好いいかもしれない」
「あー…ある時、ピンチの女性を助ける的な展開でそんな魔法使ったら確かに一目置かれますね」
「そうだ。やはり、モテも一緒にセットされたら良い」
無表情ながら真面目な顔つきで言うミュラン。願望出まくりだなー。中身と顔つきのギャップに笑いそうになりながらも我慢して続けた。
「そこは出来たら良いね、ぐらいの気持ちでいきましょう。高望みしても良いことないですし、現実を見据えましょう、現実を」
「耳が痛い話だ」
「過ぎたるは猶及ばざるが如し。強過ぎる力は畏怖と畏敬しか手に入らないですよ。そこそこの力で無難に過ごしたり、謙虚にした方が良くないですか?」
「謙虚……お前の居たところではそうかもしれないが、ここでは違う。基本、強い男はモテる。自身の力を誇示してこそであるって感じだ。逆に謙虚なんてものしたら自分に自信の無い野郎と見なされて回りに迷惑が掛かる可能性もある」
「そうなんですか?」
拳で色々利かせるとか、態度がデカい奴がモテるとか、日和見主義者の日本人である私には寝耳に水であった。
そんな乱暴者や自己顕示欲の固まりみたいな奴とかは今の日本からしたら1歩間違えば警察にお縄か職質だし、控えめで地味なのを好む日本人からしたら一緒に居たくない人種だ。宴会とかで騒ぐ分は全然問題ないが。
「力を回りに誇示しないと舐められて回りに迷惑が掛かる。だから、自己主張しないとこの街、いや、これから過ごすには厳しいと思う」
「…………」
他人に迷惑を掛けることは恥ずかしい事であり、自身を貶める行為である。日本の常識と違うことを知り、唐突に帰りたいと漠然に思った。
住む世界が違い過ぎる……法治国家であったからこその価値観はここでは合わないかもなー。過ごしてきた内に感じてきた微かな違和感が今、小さな不安となって胸を締め付けた。
思考が暗くなりそうであったので慌てて頭を振っては話題を盛り上げるために話し出す。
「強い人がモテるなら、デュークさんやゼルトさんもモテるんですね」
「あ゛~~~、その、2人は流石に……」(何でより寄って、その2人をチョイスすんの!?)
「2人とも優しい上に副隊長に魔法使いですから、モテない方が可笑しいですよね?」
「そ、そうだな……」(言いにくいっ!果てしなく言いにくいんだけど!!どんなステータスも顔面凶器のせいで塵と化してるなんて、2人を恩人として見てるこの子には言えない!!)
凄く言い渋るミュランに何か可笑しな事を聞いたか考え直す。
デュークさんもゼルトさんもタイプは違えどイケメンだ。カッコイイ。見てるだけで十分過ぎるのに迷子であった私に優しくしてくれた上に副隊長と魔法使いという強者だからこそ手に入れることが出来た職業をお持ちだ。これでモテないとか世の中可笑しい。
可笑しいのにミュランの反応がイマイチだった。これに少しばかり引っかかりを覚えた。嫉妬してる感じでもない反応、これが何を示してるのか私には解らなかった。
「と、とにかく、俺も魔法で颯爽と美女を助けたい」
「はぁ、そうですか」
生返事しながら話題がまた戻ったことに敢えて何も言わなかった。今の事を無かったことにしたように見えるんだけど、私の気のせいかなー?
「たまに店で見掛ける美女を助けて、そこから仲を育む……最高だ」(あの小さな目に鷲鼻と大きながま口のバランスが絶妙な美女。考えただけで最高じゃね?)
「確かに店に美人さん、来ますね」(ぱっちりお目々にスッとした鼻筋にピンク色の唇の美人さん、あの人も目の保養というか優しいから好きー)
「俺は強くなって親父や母さんみたいな鴛鴦夫婦になる」
「頑張って下さい!応援してます!」
「援護射撃宜しく」
「了解致しました!!」
結果、強くなってモテたいというミュランの願望のために魔法を高めようと決めた私達は今後の方針が決まり満足して解散した。私は少しでも援護射撃出来るように美人さんの特徴と注文の傾向を思い浮かべては大まかな味の好みを考えていたところで気付いた。気付いてしまった。
……あれ?魔法の実験は?
微妙にすれ違う2人。何時、美醜反転してるのに気付くのか。
友人の助言からタグを取り外しました。
検索した人に迷惑掛かるからそういう要素が入ってからでもタグを入れていった方が良いと言われた。仰る通りだよ、私もその口で「あれ?タグは付いてるのに違う?」ってなったから……申し訳ないことしたな。