副隊長と迷子の初のコンタクト(デューク視点)
ーデュークside
ソレはゼルトが連れてきた迷子だった。
良く晴れた日つーか、あの日は洗濯日和だったな。
隊長不在、鬼の居ぬ間になんとやら、俺は専用の執務室で悠々自適に過ごしていたら第5警備隊詰め所の門前で番人と受け付けを担ってる頼れるハンスが慌てた様子で部屋に入ってきたのにはビックリしたぜ。
「お、そんなに慌ててどうしたんだ?」
何かが起きたのはハンスの様子を見て一目瞭然だった。ハンスは番人と受け付けの二役を熟せる程に物事に対して柔軟且つ、目利きの出来る部下なんだが……こいつがこんなに慌てるなんて珍しいものを見れたな。そのまま、ハンスの返答を待つがハンスは何とも言えない表情のまま口を濁していた。
「どうした?まさか、何か不味い事でも起きたのか?」
「い、いえ、ヤバくはないんですが……違う意味でマズイと言いますか………ゼルトがですね」
「ゼルトがどうしたんだ?宿直明けで今し方帰ったばかりだったろ?」
こんなに良い天気に殺傷沙汰かよ?信じられねえな。もっと、気楽に人生楽しめば良いのによぉ。
口には出さずに暴れた奴らをどうしてくれようかね、と考えながらも立てかけてあった剣を腰の剣帯に差してはハンスの返答を待った……が、言葉になっても今一容量が得られなかった。
ゼルトが関係してるのは解ったが…………?
ハンスの言いたい事が理解出来ずに眉を寄せると、口を濁していたハンスは俺の顔を見ては溜め息を吐き出して話し始めた。人の顔を見て溜め息吐くの止めてくれよ、違うと分かっていても気になるだろ。
「はあ゛~~……ゼルトが10になるぐらいの迷子のガキを保護してきたんですが」
「……それの何処が不味いんだ?」
「ガキの特徴が貴族か良いところの商家んところかと当たりはつけてるんですが、ゼルトの様子が可笑しいんですよっ!もう、ガキを見てはニヤニヤかニコニコかニタニタか知らないんすけど、本当アレは顔面凶器っすよ?!笑いかけられてるガキはガキで平気そうな面してるし、尋問のために入った隊員たちはそれを見ては心が削られ……とにかく、尋問室ん中ヤバイんですって!!こう……ゼルト1人による顔面凶器祭り?もうこれ以上は隊員たちが耐えられそうにないんですよ!!あんなゼルト、俺にはどうにも出来ないし、初めての自体ですって!!」
「そ、そうか、報告ご苦労」
「いえ……」
「とりあえず、俺も尋問室に行くか」
ゼルトがニコニコニヤニヤニタニタ、子供が貴族か商家のボンボンか……駄目だ、迷子を拾ってきた以外解らん。
ゼルトも俺同様にブサイクだからなぁ。少しばかり他人事に思えないなぁ。しかし、これ以上は埒があかない。面倒な予感がするが、もう俺が行くか。
剣帯に剣を差したまま執務室に出た俺は迷わず尋問室を目指して歩く俺の後ろには勿論ハンスがついてきていた。尋問室に近付くにつれて人のざわめきが耳に入ってきた。
「……おいおい、マジかよ」
尋問室前には多くの隊員が集まっていた。
地に伏するもの、座り込んで呟くもの、頭を抱えたまま動かないもの、壁に頭をぶつけるもの……こりゃ、収集つかねえな。阿鼻叫喚という訳ではないが、ハンスがあんなに取り乱していた訳が少し理解出来た。
既に執務室に帰りたい思いに駆られた俺は大きく息を吸った。
「お前等、持ち場を離れて何をしている!!」
大きな声で隊員に檄を飛ばすつもりで張り上げる。
「副隊長!」
「デューク副隊長!!」
「助けだ!援軍だ!!」
「これでゼルトも元に戻るっ!!」
「うわああぁ、副隊長、ナイスタイミング!!」
「目がね、何か見たんだけど、何見たか思い出せないんだ」
「だれか衛生兵呼んでー、精神が来してる馬鹿大多数だからー」
「副隊長が来たなら持ち場に戻って良さそうだな」
「あぁ…………」
涙目の隊員達からは期待の眼差しで見られ、対応に当たっていた隊員達からは安心したように見られた俺は回れ右をしたくなった。
隊長、何故今日は不在なのですか?
「俺が対応するからお前等はもう戻れ!巡回時刻は過ぎてるんじゃないのか?」
「あ、やべ忘れてた」
「こいつ使いもんなるか?」
「歩いてる内に回復すんだろ。副隊長が本格的にキレる前に連れてけ」
「了解!おい、しっかりしろよ」
「うぅ、アレは幻覚か?現実?夢?」
「おっもいなーさっさと歩いてよー。たかがゼルトのニヤけた面でブツブツウルサいなー」
各々が持ち場に戻っていく姿にどうにか場が収まったと思いたいが、まだゼルトと迷子が残っている。
「………はぁ」
「副隊長、お疲れです」
「あぁ、と言いたいがまだ問題の大元が残ってるだろ」
「俺は門前警備に戻ります。副隊長、ご武運を!」
溜め息を吐き出した俺に哀れみの眼差しを向けてきたハンス。尋問室の中は更に面倒なんだろうな。
ハンスも持ち場に戻り、その場で見送った俺は尋問室のドアノブを回して中に入るとそこは異様な光景だった。
「今の人、大丈夫なんですか?」(こっちを見た途端に顔色が悪くなったから私が原因か?)
「う~ん、多分大丈夫じゃないかな?」
「凄く具合悪そうでしたが……」(黒髪黒目がヤバイのか……あー、解らん。何で入ってきた奴が軒並み顔色を悪くして出て行ったのか解んないだけどなー)
「何でだろうねぇ?」
質素な机と椅子のある部屋に2人いた。机に添うように椅子2脚を並べて隣り合うように座る2人の青い髪と黒い髪が目に入り、次に2人の大人と子供の身長差が目にいき、最後に嬉しそうに子供に話し掛けるゼルトと困惑の表情を浮かべた子供の姿が映った。
成る程、これがニコニコニヤニヤニタニタか。笑うゼルトに俺はハンスの言ったことに人知れず納得して頷いた。慣れない奴が見たら中々のものだな。因みに俺は鏡で自分自身の顔を見慣れてるおかげでそこまでなかった。改めると自分で言っていて少し空しくなった。
そして、そんなゼルトの笑みを真正面から受け止めてるのに平気そうな子供が1人。迷子だと言うのに自身の心配より、隊員達の心配するをするとはなぁ。子供にしては落ち着いた対応だ。あと、言い方も丁寧というか固い印象を受けたが、無闇に暴れたり動揺する事もなさそうだな。何よりゼルトの相手をしてる時点で肝が大分据わってやがる。
「あ、副隊長」
「おぅ、迷子を保護したらしいな」
「はい。歩いていたら、声を掛けて聞いてきたんですよ、この子が。だから、今一緒なんです」(宿直明けなんて言ったら、アキトが気にするから言わないようにしないと)
「そうかそうか、そりゃご苦労だったな。後は俺に任せて「あ、僕もこのまま残るので」……解った。好きにしろ」
こちらに気付いたゼルトに軽く手を上げて応えながら向かい合うように座り、事の経緯を軽く聞いてみた。宿直明けに声を掛けられたのか。まさか、子供から声を掛けるとは将来は大物になれそうだな。
ゼルトに仕事を引き継ぐつもりで退室を許可しようとしたが、意外な事に残ると言ってきた。そして、その言葉に子供が少しだけ安堵したように見えた。
……懐かれてんのか。面白いものをまた見れたな。なんて、場違いな事を考えていたら子供と目があった。
「どうも、ゼルトさんに保護された者です。今日はその、よろしくお願いしますっ」(衣食住の保証付きなら、特によろしくしたい)
「おぅ、俺はこの第5警備隊副隊長のデュークだ。気軽に話してくれてかまわないからな」
「は、はい、ありがとうございますっ」(副隊長っ?!何でそんな偉い存在がっ?!わ、私何かしたのか?何かしたのか?!)
目が合った子供は椅子から立ち上がっては深々とお辞儀をしてきて保護されたことを受け止めていた。あぁ、確かに貴族特有のかたっ苦しい丁寧な言い方に物腰だな。だが、嫌な感じは受けなかった。むしろ、手助けがしたくなる初々しい感じだ。
何より俺の顔を見て泣き出したり怯えてないのが高評価だ。地味に嬉しいところだ。
「それじゃっ、迷子になった経緯でも聞こうかね。親と外れたのか?」
「この街に気付いたらいました。家までの帰り道の途中だったんですが……」(くしゃみをしたら異世界なんて言えないよなー)
「転移魔法の誤作動か、何かか?」
「え、魔法ですか?冗談ですよね?」
「魔法を知らないのか……!?」
「…………え、魔法あるの?」
貴族の子供みたいなので失礼のないように報告も兼ねて机から録音の魔道具を出して質問してみたら、予想外の答えが返ってきた。魔法をお伽話か何かのような反応に逆にこちらが驚かされた。
ナクラーキに望まない形でやって来た子供。しかも、魔法を知らないときた。おいおい、これって俺の手に治まる案件か?子供が田舎から来たのか、魔法を使わない国から来たのか……魔法を使わない国からだろうな。ただ、そんな国があるなら多少は知られるはずなのだが……隠れ里か?
「あ、あの、何か不味い事でも……」
「あ、あぁ、気にすんな。それより君の名前を教えてくれないかな?」
「明人です。」
「そうかそうか、アキトは……嬢ちゃんでいいのかな?」
「はい」
「年は10くらいみたいだが……」
「え?10って聞こえたんですが?」
「嬢ちゃんはどう見てもそれぐらいだろ?」
気を取り直して質問を重ねると性別は女の子のようだ。良かった、ここで間違って雰囲気が悪くなるのは避けたかったしな。
しかし、10才と言われて不思議そうにする嬢ちゃんに俺は机から手鏡を出しては手渡した。この手鏡、実は持った相手の魔力総量によって色で顕される優れ物だ。人間は悪気が合っても無くても嘘をつくものだ。相手の申告だけ鵜呑みにしては大変だからな。中には自分自身のことなのに知らない奴も居るからな。
だから、嬢ちゃんの魔力総量も確認しておこう。魔法を知らなくても魔力は誰もが持っているものだしな。身元不明の子供だ。少しでも情報が欲しい。
持ったのを確認して手鏡の色を見ると……おぉ、ゼルトよりは無いものの魔力総量は一般的より多いな。
「あ、どうも……え、これ、私ですか?」
「……は?」
「ここに映っているのって、私?」
「鏡知らないんだな」
「…………」(垢抜けない顔…高校ぐらいだよな)
鏡に映っているのが珍しいのか仕切りに瞬きを繰り返す嬢ちゃんに俺は頭が痛くなってきた。
魔法を知らない。鏡も知らない。無知な様子に不釣り合いな丁寧な言葉遣いに物腰。子供特有の物怖じしない性格に相手を思い遣れるほど状況を見極められる視点。
なんだ、この奇妙な子供は目に見えない矛盾が不安要素となって警戒を高めた。ゼルトもそれに気付いたのか、いつの間にか表情が引き締まっていた。
最後にスイダシユという国の名前を出してみた。スイダシユは魔道具生産が随一と知られる国だ。そして、ナクラーキはその魔道具生産5割を担っていたりするスイダシユ国を代表する街だ。下手したら王都よりも知名度が高い。
「スイダシユ国?聞いたことないですが?」
この瞬間からこの少女は保護扱いから観察対象となった。
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嬢ちゃんと出会った時のことを思い出してみると、濃い出会いだっな。あの後、実は15才だと自己申告されてゼルトと一緒に驚いたのは良い思い出だ。どう見ても10才だろ。あれで15なんて詐欺だろ。
そんな観察対象である嬢ちゃんは今俺の中では保護対象扱いに近い存在になっていたりする。
始めは観察対象として見ていた。監視という名目で【ヒャクミ】に昼飯を食べに来ていたが、俺が訪れる度に嬉しそうな表情を浮かべる姿がなぁ。和むというか、何というか……言葉に出来ねえな。ただ、胸に何かが湧き上がってくるのは確かだ。
出来るなら監視という名目でここには来たくない。俺を信用して慕うその姿に何度も心苦しく思ったことか。周りに上手く馴染もうとして頑張る姿に手助けしたくなってしまうことか。良い意味でも悪い意味でも目が離せねえんだよな。観察対象というよりは保護対象として見守っていた自身に気付いた時は愕然としたものだ。
(ま、今では慣れたもんだがな)
「おっ、今日は嬢ちゃんがいるのか」
「いらっしゃいませっ」
「いつもの」
「肉と野菜炒め定食ですね。分かりました」
居ることを見越してきたんだがな。そんなこと知らずに俺を出迎える嬢ちゃん。俺だと気付いた瞬間から嬉しそうに顔が緩る嬢ちゃんに俺も顔が緩んだ。そこからは慣れたやり取りをしてから席に座る。
頑張る嬢ちゃんを眺める俺。顔は普通なんだが、中性的なせいか神秘的というかスイダシユ国では見掛けない顔つきがまた良い。そこに笑顔付きというオマケが更に良い。実質、嬢ちゃん目当てで来てる奴もチラホラいたりする。あの笑顔に癒やされてるのだろう。俺もその内1人だから断言出来る。
「お待たせ致しました。肉と野菜炒め定食です」
「おぅ、ありがとな」
「いいえ、それではごゆっくり」
お互いに笑い返す、ただ当たり前のことなのに何でこんなにも心が弾むのだろう。俺の顔を見て笑い返してくれる出来た店員がこのナクラーキに居るだろうか?いや、居ない。少なからず俺の顔を見て無難な態度を取る店員は居るが、嬢ちゃんみたいに笑う子は居なかった。
「やっぱ、嬢ちゃん良いな~……成人してりゃ尚更」
「ん?何か言いましたか?」
「いんや、何でもねえよ」
ついつい漏れた呟きに振り返る嬢ちゃんに俺は誤魔化した。それに笑い返して仕事に戻っていく嬢ちゃん。はぁ~、やっぱり良いな、嬢ちゃん。これで大人になりゃ、俺は更にほっとけねえだろうな。望みは薄いがな……。
それでもこのままの笑い合う関係が変わらないことを祈りたい。だから、嬢ちゃん頼むからよ、
(悪さなんてするんじゃねえぞ)
俺に剣なんて抜けさせてくれるなよ?
容姿の説明なさ過ぎと友人に怒られたので1、2ページをちょっと加筆修正します。