Episode:08
「そんな、同情なんて……。そうじゃなくて……あたしたち、どうして……」
言葉が続かない。
ただただ、悲しかった。
どうしてあたしたち、普通に育っちゃいけなかったんだろう?
それを望むのって、そんなにいけないんだろうか?
でも先輩は、静かな声のまま言った。
「昔のことです。忘れろとは言いませんが、気にしすぎると前に進めませんよ」
「あ、はい」
急いで涙をふく。
そうだ。泣いてたってどうにもならない。
「おや、迎えが来たようですね」
「え?」
言われて先輩の視線をたどると、さっきの蹴りからやっと回復したみたいで、イマドがこっちへ歩いてくるところだった。
そっと手を振ってみると、すぐ気が付いてこっちへ走り出す。それを見て思った。イマドってやっぱり、「真っ直ぐ」な感じがする。
「ったく、もうちっと手加減しろよな。
――って、また泣かされたのか?」
先輩が間髪入れずに言い返す。
「人聞きの悪いことを言わないで下さい。私は何もしていませんよ」
イマドが「ホントか?」って顔で、あたしを見た。
彼の視線にうなずいて返す。
「あたしが、勝手に……泣いたの」
「お前がそう言うなら、そうなんだろな」
あっさりイマドはあたしの言うことを信じる。そして先輩の方に向き直った。
「すみません先輩、こいつが迷惑かけたみたいで」
なんだかいきなり、ヒドいことを言われる。
「おやおや、まるで保護者ですね。」
「あー、それ、こいつのお袋に頼まれてんで」
まただ。
誰がどう見ても変わってるってしか言いようがない母さん、その割にかなり世話焼きで過保護だ。あたしの知らないとこでさっさと話が通されてたりと、根回しされてることはしょっちゅうだった。
恥ずかしいからやめてって言ってるのに、気にもしてくれないし。
「つか、こいつ野放しとか、けっこう怖いですよ?」
「それは否定できませんね。
まぁ不要な傷を作らないように、彼女の背中を守ってあげるのですね」
先輩まで……。
みんなから思いっきり、好き勝手言われてる気がする。
――でもこういうのって、あったかいかも。
また、涙がこぼれた。