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Episode:07

 ヴァサーナは東の大陸にある国で、こちら側の世界とはあまり付き合いがない。魔獣や海竜の棲む大洋が、行き来を阻んでるからだ。

 ただシュマー家経由で入ってくる情報だと、独自の文化と、高い科学力を持ってるらしい。

 だから昔から、とても興味があった。


 けどこの質問で、なんとなく先輩の表情が変わった気がした。聞いちゃいけないことを、聞いてしまったのかもしれない。

「あの、すみません。えっと、いいです……」

 慌ててそう言う。

 でもタシュア先輩の答えは、ちょっと思ってたのとは違った。


「構いませんよ。聞いていいといったのは、こちらですからね。

――ヴァサーナですか。荒野に無理矢理人間の居場所を造った、居心地の悪いところです」

「そう、なんですか……?」

 ぜんぜん想像していなかった答えに驚く。もっと素敵なところだと、想像してたのに。

「もっとも私も、すべてを知っているわけではありませんがね。ずっと研究所にいて、あとはそのまま戦場行きでしたから」

「じゃぁ、やっぱりその傷痕……?」


 さっきからずっと気になってた。

 上着を羽織ってはいるけれど、時々その陰から見え隠れしている。

 それもひとつふたつじゃない。中には死にかけたに違いないもの――胸の傷は間違いなくそうだ――まで、信じたくない数 だった。


「そういうことです」

「そんな、ヒドい……」

 涙がこぼれそうになる。


 あたしも何度か大怪我をしてるから分かる。これだけの傷を負いながら生き延びることが、どれだけ難しいかが。

 しかもずっと研究所に押し込められていて、そのあとはこんなひどい怪我をする場所に放り出されたなんて。


 胸の傷が疼いた。

 あたしにとってはいちばん大きかった怪我だ。

 もっとも見た目には、何もない。あたしの場合ごく小さなものまで含めて傷痕はすべて、シュマーの医療技術を結集して消されてる。

 それでも痛かった。


――どうしてあたしたち、こんな目に遭ってるんだろう?

 涙があふれて、止まらなくなる。

 そんなあたしを見て、タシュア先輩が冷ややかに言った。


「同情ですか? そんなものは欲しくありませんね」

「ちがいます!」

 自分でもびっくりするくらい、強い口調だった。





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