Episode:06
「お久しぶりですね」
「――たっ、タシュア先輩!」
振り向くと真後ろに、先輩が立っていた。
銀髪と紅い瞳。金髪に碧い瞳のあたしとは、不思議なくらいに正反対の容姿だ。
上着を羽織ってるけど、その下はちゃんと水着だ。でも、眼鏡はかけたままだった。
この先輩を見ながら思う。やっぱり勝てないと。
なにしろこの先輩が片手で軽々と扱うあの両手剣――ラスニールというんだそう――は、あたしじゃ両手で持ち上げるのがやっとだ。
何よりあたし、先輩の胸あたりまでしか身長がない。体重なんかは倍くらい違うだろう。
羨ましかった。
たとえ大人になっても、女のあたしはきっと勝てないに違いない。
でもあたしは、この先輩が好きだった。細かくは知らないけれど、同じように戦場で育ったということに親近感を覚える。
それに、この先輩は強い。
こんな風に生きられたらいいだろうな、そう思って先輩の方を見る。
「何か、聞いてほしいことでもあるのですか?」
たぶんあたしの視線を違う意味に取ったみたいで、静かな声で先輩がそう言った。こういうことを言う人じゃないと思ってたから、ちょっと意外だ。
もしかすると、今日は授業がないから、機嫌がいいのかもしれない。
「なんでも……ないんです。ただ、平和慣れが……情けなくて」
なんとなくため息がでる。
そして、ふと思いついた。前からひとつだけ、知りたいことがある。
「あの……先輩、えっと、あの……」
「はっきり言ったらどうです。それでは何が言いたいのか、まったく分かりませんよ」
「あ、すみません……」
やっぱり怒られる。
でも今日はどういうわけか、それだけだった。だからちょっと勇気付けられて、続けてみる。
「えっと、だから、訊きたいことが……」
どうにかそれだけ言えた。
「なにを聞きたいのかは知りませんが――面白い話はできませんよ」
「あ、えぇと、そういう話じゃなくて……」
今度は怒られずに済んだけど、上手く説明ができなくなってしまう。
でも今日は先輩、いつもより機嫌がいいみたいだった。
「まぁ、答えられる範囲でなら、いいでしょう」
それでもなんだか言い出せなくて、しばらくためらってからやっと、あたしは聞きたかったことを口にする。
「――先輩のいたヴァサーナって、どんなところなんですか?」
この間送られてきた手紙に、そう先輩の出身地が書いてあったのだ。