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Episode:37

◇Rufeir

「先輩、その……さっきは、すみませんでした」

 少し落ちついたところで、あたしはタシュア先輩に謝りに行った。

 ほんとうは行かなくてもいいのかもしれないけれど、それだとあたしの気が済まない。


 言われて初めて気がついた。あたしには、ちゃんと両親がいる。

 イマドも、先輩たちも、シーモアもナティエスもミルも……両方、あるいは片親がいないのに。

 自分がこんなに多くのものを持っていたことに、どうして気づかなかったんだろう?


 結局あたしは辛かったことだけを抱えて、そこで泣いていただけだったのだ。

 逃れたいといいながら、自分でその手に辛さを抱きしめていた。これで逃れられるわけがない。


――この手を、放さなくちゃ。


 そうして身軽になって、歩き出さなくちゃいけない。

 怖いけど。不安だけど。でもやらなきゃ……。

 いろいろなことが頭をよぎる中、真っ直ぐにタシュア先輩を見る。

 こんなふうに先輩を見ることができたのは、初めてかもしれない。


「何を謝るのですか? 何か悪いことでもしたという、意識があるのですか?」

 それが先輩の返答だった。

 とたんに何を言ったらいいのかわからなくなる。


――だめ、考えなくちゃ。

 自分が何を言いたいのか、今どうしたいのか、必死に考える。

「えぇと、あの、あたし先輩に……」

「ですから、何をしたというのです?」


 タシュア先輩って、どうしてこう意地悪なんだろう? おかげでまたどう言ったらいいのか、分からなくなってしまった。

 なかなか適当な言葉が思い浮かばない。

 泣きそうになるけど、それはどうにかこらえて、また必死に考える。


「ルーフェイア、いい顔になったな」

「え?」

 突然のシルファ先輩の言葉に、驚いた。

「あたしが……?」


 信じられない言葉。

 困惑してイマドの方へ振り向く。

「俺もそう思う。お前今、いい顔してるぜ」

 同じことを言われて、ますます困惑する。


「どう見てもまだ、ヒヨコですがね」

 タシュア先輩……怒らない?

 そして気が付いた。

 もしかしてこれ、みんなあたしのこと、褒めてるんだろうか?


――うそ、みたい。

 こんな風に正面切って、あたしにいろいろ言ってくれるなんて。

 今までそんなことはなかった。「グレイス」という名のせいで、誰もあたしの傍へは来なかったし、普通に扱ってくれる人もいなかった。

 それに何もかも、「出来てあたりまえ」にされてたから……。


 こんどは、涙をこらえきれなかった。泣いちゃダメだと思うけど、どれほどぬぐっても、あふれてくる。


「ごめんなさい……あたし、やっぱり……」

「ま、そういうのなら、泣いてもいいんじゃねぇか?」

 イマドが笑った。


「――わたしも、こういうことなら悪いとは思わないが」

 シルファ先輩もそう言ってくれる。


「やれやれ……泣き虫は相変わらずですね。

 あなた1人が、重いものを背負っているわけではありませんよ。自分だけが悲劇の主人公などと、思いこまないことですね」

「――はい」


 あたしのことだ。きっとまた泣いてしまうだろうし、座りこんでしまう時だってあるだろう。

――でも、みんないるから。

 だからきっと、立ちあがれる。

 波が無限の回数、よせては返すように……。


Fin




◇あとがき◇

7作目を最後まで目を通してくださって、ありがとうございます。

なお明日からは、第8作目「力の行方」の連載を開始します。

いつもどおり、“夜8時過ぎ”の更新になります。

感想・評価大歓迎です。一言でも、お気軽にどうぞ♪

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