Episode:33
◇Sylpha
「……こんな力、いらない……」
かける言葉が見つからなかった。
まさかこんな少女が、これほど重いものを背負っているとは……。
場が沈黙する。
だが、それをあっさりと打ち破った者がいた。
「だから何だと言うのです?」
タシュアのまるで、「くらだならい」とでも言いたげな口調。
口調だけでなく、彼にとっては事実そうだろうと思う。何しろタシュアは、他人に関心がない。
他人に干渉されるのをとても嫌う代わりに、一切他人にも干渉しない。それがタシュアの生き方だった。
幼かったり障害があったりという、やむを得ない事情があればまた別だが、そうでなければ自分にも他人にも同じように厳しいのだ。
学園内でも一、二を争うのではないか、それほどに過酷な中を自力で生き抜いてきたことが、よけいにそうさせているのかもしれなかった。
「欲しくないといっても、現に持っているのでしょう。逃げることばかり考えないで、立ち向かってはどうです」
辛辣な言葉。
だが、私にしか分からないかもしれないが、その声は決して冷たくはない。やっぱりタシュアはこの子について、何か知っているのだろう。
「泣いているだけで何かが変わるのでしたら、一生そうしていなさい。自分が何を持っているかにも気づかない愚か者には、それがお似合いです」
この厳しい言葉の意図が、ルーフェイアに分かるだろうか?
分かって欲しかった。
なぜならタシュアは……。
「もう一度、よく考えてみるのですね」
最後にそれだけ言って、タシュアは背を向けた。いつものように音も立てず、気配もさせずに立ち去る。
「ルーフェイア、タシュアの言うとおりだと思う。辛いだろうが……よく考えてみるんだ」
私もルーフェイアの頭を撫でながら、言った。
まだ11歳でしかない少女に、しかも本人の意思とは関係なく重いものを背負わされているのに、こんなことをいうのが酷なのは、私にも分かる。
だが人は、誰でもいつかは独りで歩き出さなくてはならない。
――だから、ルーフェイア。
「タシュアの受け売りだが……一歩を踏み出さない限りは、何も進歩はない。何でも良いから、一つはじめてみるんだ」
そして私も、タシュアの後を追った。