Episode:28
◇Imad
「――マジかよ」
本気でそれしか、言葉がなかった。
タシュア先輩のあの魔法、どうみたって普通のやつじゃねぇし。それにシルファ先輩、噂は聞いたことあったけど、あれほどとは。
つか、水着姿でサイズ振りまわすってのも、結構見ものだった。
とりあえず海竜が首を切り飛ばされて、片付いたらしい。俺は豪快に凍った海見ながら、ルーフェイアの方へ歩き出した。
それにしてもあのでかい海竜が氷に押さえつけられた挙句、コゲて首のない胴体になってるのは、けっこう情けない姿だ。
首は首で、あっちの方に転がってるし。
――え?
今、首が動いた……?
一瞬目の錯覚かと思ったけど、そうじゃなかった。
間違いなくヤツ、動いてやがる。信じらんねぇ生命力だ。
しかもシルファ先輩、さすがに気を抜いてる。
とっさに、魔力の付与に入った。狙いはあの海竜の首に叩き込まれた、ミルの弾丸だ。
集中して、波動捕らえて、ねじ伏せる。込められてた魔法を、強引に違うものに切り替える。
――行けっ!!
この魔法なら、絶対にルーフェイアとぶつからねぇはずだ。根拠はねぇけど自信はある。
海竜の身体に残ってた幾つもの弾から、重力魔法が発動した。
◇Tasha side
(泳ぎ足りなかったのですかねぇ……)
万全を期したのかもしれないが、足止めされている海竜に、シルファがあの荒業を出してくるとは思わなかった。
泳げない後輩の相手ばかりで、力が余っていたのだろうか?
見かけからは想像しづらいが、シルファは意外なくらいの前衛派だ。いざとなれば即座に前へ出て、切り込んで刃を振るう。
いずれにせよ、おおむね片付いたようだ。
もっとも、気を抜くつもりはなかった。なにしろ相手は海竜だ。その生命力は尋常ではない。完全に死ぬのを見届ける必要がある。
(――シルファ、緊張を解くのが早すぎますよ)
首を切り飛ばしただけで戦闘体制を解くパートナーに、軽いため息をつく。あれほど普段から、言っているのだが。
人間にせよ魔獣にせよ、死に際の一瞬は危険だ。何をしてくるかわからない。
案の定後ろの海竜が、首だけの状態でまだ、動いている。
さすがに危険だと判断して、タシュアは再び呪文を唱え始めた。禁呪の連続になるが、もう1度くらいなら差し支えないだろう。
出来れば普通の魔法にしたいところだが、ちょうどいい手持ちがない。使うとシルファを巻き込んでしまう。
生命力を削られるのを承知で、タシュアは呪を発動させた。