Episode:26
「えっと、ちょっと待って」
せめてと思って、ナティエスに浮遊魔法をかけてみる。
彼女の顔が明るくなった。
「あ、これなら楽かも。さっきより平気」
その声にほっする。
「2人とも、大丈夫か?」
振り向くと、シルファ先輩の姿があった。あたしたちがもたもたしている間に、氷の橋を渡ってきたみたいだ。
「はい、大丈夫です」
「そうか。
――2人とも、下がるんだ。あとは、私たちがやる」
「わかりました」
視線は海竜に向けたままの先輩に、そう答える。なにしろあたしたちは丸腰だ。ここは、お願いするのがいちばんいい。
まずナティエスを先に行かせる。続いてあたしも行きかけた時、咆哮が響いた。
振り返ってみると、氷にヒビが入り始めてる。さすがに長時間は、持たなかったみたいだ。
そのとき、不思議な光が視界に入った。不審に思って光源を探す。
――シルファ先輩?
先輩の身体が、燐光を発しているように見える。
それも物理的な光じゃない。強力な魔法を使うときに起こる、魔力の発光現象だ。
同時にあたしは、もうひとつ独特の気配を感じ取っていた。あたしにとってはあまりにも馴染みすぎた気配――精霊。その気配が強まっていく。
けど召喚される様子はない。
代わりに、シルファ先輩の髪から色が薄れだした。漆黒のはずの髪が徐々に色を失い、やがて輝く白になる。
その時にはすでに身体のほうも、残光を描くほどになっていた。
これ、もしかして……?
精霊を憑依させて力を借り、戦闘能力を上げる方法はよく知られてる。
ただこれはけっこう危険もあって、処理された精霊の、一部の力しか引き出せない。力欲しさに完全憑依させたら、乗っ取られて狂うのがオチだ。
でもごくまれに、それが出来る人がいる。
もちろんそれほど長時間は持たないし、使える精霊も限られる。なによりとても危険だ。ただその間は、通常の憑依を遥かに上回る力を、得ることが可能だった。
けれどそれをシルファ先輩が使うなんて、想像もしなかった。
「早くさがるんだ」
「あ、はい」
煌く白光に彩られた先輩が、あたしに声をかけた。確かにこの状態で武器を振るうには、あたしは邪魔だろう。
大きくなる氷のヒビを見ながら、急いで下がる。