Episode:25
彼女と一緒というのが、かなりの足枷だった。
あたしひとりなら発動範囲なんて気にしないで魔法が使えるけど、彼女は巻き込まれたらただじゃ済まない。
せめて足止めに魔法を使いたいけど、丁度いいものがない。その手の睡眠魔法やなんかは、効果の信頼性がいまひとつだ。
いつあの暴れぶりに巻き込まれるか分からないのに、効くまでかけなおしているわけにはいかない。
かといって、一人じゃ足止めもできないし……。
と。
「――矢?」
向こうから飛んできた十数本の矢が、次々と海竜の身体に突き刺さる。そしてすぐ海竜のウロコと周囲に、小さな氷が出来始めた。
――そうか!
イマドはあたしと違って、魔法を発動させるよりも付与させる方が得意だ。今はたぶん矢に、冷気系の魔法を付与させたんだろう。
その間にもある程度持続して効果を発揮する冷気魔法は、徐々に凍る範囲を広げつつあった。
これなら、足止めができる。
「幾万の過去から連なる深遠より、嘆きの涙汲み上げて凍れる時となせ――フロスティ・エンブランスっ!」
立て続けに、氷系の最上位を放つ。思惑通り、海竜の周囲が凍結した。
驚いた海竜が咆哮を上げたけど、もう身動きが取れない。
もっとも、ただ単に魔法を撃ち込んでもこうはいかない。イマドのおかげで水温が下がっていたからこそできた、ムチャと しかいえないやり方だ。
「――フロスティ・エンブランス!」
こんどは後ろへ振り向いて、冷気魔法を魔法を海中に叩き込む。こっちはまだ水温が高かったけど、それでも何度か繰り返すと、どうにか渡れそうなくらいの橋が出来た。
「ルーフェイア、すごいね」
「だっていま、海竜……動けないし」
襲われながらじゃさすがに、こんなことしてる余裕はない。
「えーっと多分、あたし言ったのと意味違うかも。でもたしかに、海竜動いてたら、こんなことしてられないよね」
「……え?」
微妙に話がかみ合わない。
「ともかく、今のうちに行かなきゃね。よいしょっと……」
足をかばいながらナティエスが立ち上がって、顔をしかめた。かなり痛むみたいだ。
「だいじょうぶ?」
「痛いけど、逃げなきゃだし」
見たところ、血だけは止まってる。でもこれ以上は魔法でムリに治すより、ちゃんと治療したほうがいいだろう。