Episode:24
「ナティエス、足、大丈夫?」
もういちど魔法で海竜をけん制しながら、必死に気持ちを切り替えて、ナティエスに話しかけた。
それにしてもミル、いないとこ見ると、ちゃっかり逃げ切ったんだろうか?
「慌てて岩に引っ掛けたみたいで……こんなに切っちゃうなんて」
ちらっと見ると、たしかにとても泳げそうにない傷だ。
「自分で魔法、かけられる?」
「やってみる」
治療はナティエス本人に頼んで、あたしは次の呪を唱える。
「遥かなる天より裁きの光、我が手に集いていかずちとなれ――ケラウノス・レイジっ!」
詠唱に呼応して、天からいかずちが降り注いだ。海竜の身体に、放電がまとわりつく。
さっきも雷撃が効いただけあって、海竜がひるんだ。
でも、これだけじゃ……。
ナティエスは今泳げない。それを安全に岸へ返そうと思ったら、海竜を倒すしかなかった。
かといってここで全力を出せば、間違いなくナティエスを巻き込んでしまう。
――どうしよう。
足止めが出来ればまだいいけど、それもあたし一人ではムリだ。
せめて、誰かの手助けがあれば……。
そう思いながらも何か手がないかと、魔法にひるむ海竜を見る。
と、立てて続けに銃声が響いた。
「この距離で、全弾命中って……」
距離からすればけして大きくない頭部に、きちんと弾が当たっている。ただ遠いのと相手が大きいのとで、思うほど効果は 出ていない。
「あ、ミルだよ、きっと」
「……うそ……」
人は見かけによらないって言うけど、本当だ。
でも、なんだか海竜の様子がおかしい。なんて言うんだろう、苦しんでると言うよりは、闇雲に暴れてるような……?
少し考えて思い当たって、ちょっと背筋を冷たいものが伝う。
でもたぶん間違いない。
「ミル……暗闇魔法の弾、使ってる……」
視力を奪われて暴れてる海竜は、見境がない分ある意味、狙って襲われるより危なかった。
ミルのばか、そう思いながら、ナティエスを押し倒して覆いかぶさる。
あたしの背中のすぐ上を、海竜の頭が通り過ぎた。
これじゃ倒そうにも、近寄ることさえ出来ない。かといって一気に勝負に出たら、やっぱりナティエスを巻き込んでしまう。