Episode:01 浜辺
◇Rufeir
「海だ〜♪」
ミルがやけに嬉しそうな声で、浜辺へと駆け出した。
――別に今日じゃなくたって、海はなくならないと思うけど。
でも確かに、入れるという意味じゃ、特別かもしれない。
あたしはよく知らなかったけど、海っていうのはいつでも入れるものじゃないらしい。一年のうち期間を区切って、その間だけ、泳いでいいって決まってるんだそうだ。
ただなぜわざわざ、そんな面倒なことをするのかは、よく分からなかった。
しかも面白いことに、その解禁日――つまり今日――は、シエラの生徒が全員で海へ入ることになってる。
ちなみに理由をイマドに聞いてみたら、どうもケンディクの街側が「せっかくの解禁日なのに誰もいないのは寂しい」と言って、以来こういうことになったらしい。
――世間って、けっこうヒマかも。
ともかくそんなわけで、学院の全生徒で浜辺はあふれてた。ただこの海岸はかなり広いから、それなりにゆったりした感じだ。
「やっぱりいいよね〜」
「ほんと、夏が来たって感じ」
ナティエスとミルが、おおはしゃぎだ。シーモアもけっこう、嬉しそうにしてる。三人ともわざわざ水着を新調してるんだから、よっぽど楽しみだったんだろう。
「ほら、ルーフェもおいでよ?」
みんなに呼ばれて、あたしも浜辺に足跡を残した。
なんだか、足がさらわれそうだ。波が引いていく感触が、気持ち悪い。
「どしたの? なんで入らないの?」
「あたし……海は、あんまり……」
うまく答えられない。何より、言いたくない。
「どうして?」
よっぽど不思議らしくて、みんなが一斉にこっちを見る。
やっぱり言わないと収まりそうになくて、仕方なしに、あたしは口を開いた。
「だって、あたし……泳げない……」
「えぇ〜〜っ!!」
みんなの驚きの声が、きれいに揃う。
「ホントなの?」
聞かれて、慌てて言いわけした。
「あ、えっと、ぜんぜん……泳げないとかじゃ、ないの。 でも、あんまり……上手くない……」
言ってるうちに、だんだん自分が情けなくなってくる。
「信じらんない。ルーフェってなんでも出来るから、泳ぎも得意だと思ってた」
「うんうん」
なんかあたしが泳げないの、いけないことみたいだ。
「でも、だから……泳ぎとか、習うヒマ、なくて……」
「あー、そっかぁ」
あたしの説明に、みんなが納得する。
「たしかに前線じゃ、悠長に泳いでるワケにゃ、いかないだろうしねぇ」
「けどさ、やっぱりルーフェって、習わなくても泳げそうなんだけどな」
「言えてる〜」
あたし別に、そんな何でも出来るわけじゃないのに……。
なんだか落ち込んであたし、ちょっとため息をついた。