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第7話 優しさのカタチ

月島家の家族会議開講です。


我が家のリビングにて


「それでは月島家定例会議を始めます」

秋音ねぇは腕を組んで、俺たち三人で家族会議を始めようとしていた。

今日の議題のリーダーは秋音ねぇらしい。

俺はこの家族会議で藤馬さんのことを話そうと思っていた。

すると秋音ねぇが俺をみる。

「早速だけど、なっくん。なっくんは凜華ちゃんのことどう思っての?」

いきなり直球だな。さすが秋音ねぇ。

「どうって。守ってあげたいなと思うよ」

「なつ、それはどういう意味で?」

春生ねぇが口をはさむ。

「どういう意味って言葉そのままだけど?」

「ちっがーーーーう!なっくんわかってない!」

秋音ねぇはバンッと机をたたき立ち上がる。

「何が?二人だってそうだろ?」

確かにという顔をしているがどうやら違うようだ。

「なつ。私たちの思う『守る』はあなたの『守る』とは少し違うの」

「わっかんないよ、それ」

「んじゃー質問を変える!なっくん。まだあの事を気にしてる?」

「あの事?」

そうきいてピンと来てしまうあたりまだ気にしているのだろう。

「秋音、その話はいま・・・」春生ねぇが秋音ねぇを止めようする。

「春生ねぇ。この機会だし、私はっきりしておきたいの」

今日のリーダーは秋音ねぇだ。覚悟はしている。

「ねぇ。まだ自分のせいだって思ってる?なっくんは、あの日以来ずっと後悔し続けてるの?」

「やめなさい」

春生ねぇはこれ以上話さないようにする。

でも俺は何も言わず秋音ねぇの言うことを聞いていた。

すべて答える覚悟で。

「うん。思ってるよ。自分のせいだって」

「なつ・・・」

「その後悔を繰り返さないようにするために、凜華ちゃんのこと守ってるんだよね?」

今日の秋音ねぇはずばずばいう。

確かにそうだ。繰り返さないために俺は彼女を守ろうとしている。

何を?何から?

「なつ、それはあなたのせいではない。私たちも責任はあったの」

「そうだよなっくん。私だってなっくんと同じ気持ちだもん」

こういう空気になるのが耐えられなくて話題に出さないようにしてた。

「お母さんは、助けてあげられたかもしれないって今でも思うもん」

秋音ねぇが泣きそうにいう。

沈黙する。

「いい機会なのかもしれないわね」

春生ねぇがいう。

「私たちはなつの気持ちを考えてお母さんの話をしなかったし言わなかった。でもなつは話せる覚悟はあるのね?」

俺の顔を2人がみる。

「俺、もう高校生だよ?中二だったころの俺とは違うし、考え方も変わった。だから大丈夫」

悲しい過去を話すことにこんなにも勇気がいることを俺は初めて知る。

藤馬さん。君はどんな気持ちで俺たちに話してくれたのだろう。


俺が中学二年の春だった。

月島家はお父さん、お母さん、あの姉たち、俺の五人家族だった。

何の変哲もない、家庭だった。

きっかけはお父さんの不倫だった。

お母さんより愛する人ができたのが理由で離婚が決定した。

俺たち三人はお母さん側につくことにした。

お父さんの隣に知らない女がいることに三人とも耐えられなかったからだ。


離婚が成立して、お父さんは家を出た。

その時から少しお母さんの様子はおかしかったけど、母子家庭になった以上、今の仕事と早朝のコンビニバイトを掛け持ちするようになった。

朝早くて夜遅い仕事だったため、家にいるところを見るのは早く帰れたときぐらいだった。

春生ねぇはお母さんのためにとバイトをするようになった。

あれは二年の冬だった。進路のことで三者面談が行われた。

俺は母親と話をすることがなくそのことを伝え忘れていた。

『夏貴、あなた三者面談あるならあるっていいなさい』

夜遅くに帰ってきたときにたまたまリビングにいた俺にそういった。

『言えっていわれても家にいねーじゃん。』

そう俺は言った。

『せめてお知らせの紙をここにおいてといてくれたら言わなくても分かるわよ』

無性にイライラした。母親の都合で世界は回っていない。

俺自身、進路に悩んでいたしお金ないから私立はダメだろうし、でも俺の偏差値でいけるところが限られていた。姉たちはまだ両親が離婚前だったため、親に相談ができていたが、俺は親に相談すらできていなかった。

秋音ねぇと春生ねぇ二人にも話すことはなかった。

『都合のいいこといってんじゃねーよ。俺のこと考えてもないくせに』

『考えてるわよ。ただ時間が合わないだけで、ちゃんと・・・』

『そんなんだからお父さんが離れていったんだよ』思ってもないことを言った。

その言葉はお母さんにとっては相当ショックだったのだろう。何も言い返さなかった。

『何も言い返せないんなら何もいうな』そういって俺は外に出た。

俺は家にいたくなくて外に出た。

もうかかわってほしくなくて、俺のこと考えてほしくなくて俺は外に出た。

河原までたどり着いて少し座って星空をみる。

俺はきっと月島家では邪魔な存在なのだろう。お母さんだって、俺がいるからあんなに朝早くから夜遅くまで働くんだろう。俺なんていないほうがいいんじゃないか。

そう考えながら河原の土手から坂になる途中の草むらで座り星空を見ながら思う。

涙が出る。でも俺は一人では何もできない中学生だ。

その現実を知って、俺は涙を拭き、家に帰ろうとした。


その時だった。


家の前に救急車とパトカーが数台止まっていた。

近所の人も家からでてきて様子をみている。

秋音ねぇの声が聞こえる。

『おかあさん!!』

叫んでいる。そのあとに春生ねぇの声も大きく聞こえた。

俺の心臓がバクバクいう。何が起きているのかわからない。頭が真っ白になる。

近づいていくと、道路には血液がついてた。車が電信柱に衝突していた。

ガラスも散らばっていた。靴が片方飛んでいた。

救急車がサイレンを鳴らしながら走っていく。

『月島さんとこの奥さんよね』

そう聞こえて俺は血の気が引いた。

『おかあ・・・さん?』

俺は混乱した。何が起きているのか把握したいのに、何も考えられなかった。

俺の姿に気づいた近所の人が

『夏貴くん!大丈夫?いま救急車で運ばれて…』

そんな声も俺の頭に届かない。

分かったのは今、救急車に乗せられて運ばれたのが自分の母親だということだった。



そのあと、俺は家で一人だった。家に電話があった。春生ねぇからたった。

俺の安否を心配してくれたらしい。

そして衝撃的なことを聞かされた。


『おかあさん。亡くなった』


俺はそれを聞いて座り込んでしまった。涙が止まらなかった。

震えも止まらなかった。

そのあと、親族の方がすべてやってくれて葬式のあと火葬場に三人で向かった。

あっけなかった。

こんなにも人の命の終わりがあっけないのかと火葬場の煙突からでる煙を眺めながら思った。

俺はその時から何も話したくなくて学校にも行きたくなくて何か月かやすんだ。

時々お父さんが俺たちの様子を見に来ていたらしいけど、姉貴たちが来ないでと追い払っていたらしい。

あの時の記憶はあいまいで、何かがきっかけだったか時間が解決してくれたのか俺は今の状態になった。



「俺は今でも、後悔してる。あの時お母さんにあんなひどいこと言わなければよかったって。もっとお母さんのこときづいてあげれたらよかったのにって。今でも思う」

でもそう考えたってお母さんは戻ってこない。帰ってこない。

「だからその後悔を凜華ちゃんに置き換えているのね」

「正直そうかもしれない。藤馬さんをお母さんと被らせているのは否定しない。でももし、この気持ちを俺が持っていることで藤馬さんを守れるなら俺は守りたい」

苦しいならそういってほしい。大変ならそう言ってほしい。

一人で抱え込まないでほしい。もしそれに気づかずにひどいことを言ってしまうかもしれない。

俺はそれがもう嫌だ。

「なっくんがそういう気持ちで凜華ちゃんのこと思っているんだね?」

秋音ねぇがそう聞く。それ以外何もないんだけど。

「議題からずれたわね」クスっと春生ねぇが笑う。

「え、どういうこと?」

「でも、よかった。なっくんがお母さんのことで女性と接することにトラウマがあったら正直どうしようかと思ってた。むしろ逆になっちゃってるけど」

「ふふふ、そうね。私たちは心配損したわね」

「え、どういうことだよ?」

「ひーみつっ!さて、以上で月島家定例会議を終わります!」

なんか腑に落ちない会議の終わり方だ。

「なつ、秋音は心配してるのよ。凜華さんのことをしって、無理をするんじゃないかって」

「無理なんてしてないのに」

「私たちは心配なのよ。なつのことが。あの時みたいになってほしくない」

春生ねぇは心配そうに俺をみる。

「ありがとう。でも大丈夫だから」

そういって俺は自室に戻った。


久々に母親のことを思い出した。

覚えているのは事故の前後の記憶だけ。それからの数か月は断片的にしか覚えていなかった。

今思い返してもあの時の俺はどう過ごしていたかすら覚えていないのだ。

ただいえるのは自分をずっと責め続けていたことだった。

あの時ひどいこといってしまったから。外に出て行ったから。

お母さんのこと何も考えなしにけなしてしまったから。

ねぇ、お母さん。何を思って生活していたの?何を思いながら俺を探したの?

そんなことを考えていた時期があった。

でもそれを考えないようになった時期があって今がある。

いつのタイミングだったんだろう。立ち直れたきっかけが確かにあったはずなんだ。

その時ふと藤馬さんの口ずさんでいた歌を思い出した。

「あの歌と俺の記憶が関係しているのか・・・」

それは俺にはわからないけど。でも引っかかる。

明日、学校に行ったら藤馬さんに聞こう。そして秋音ねぇに会ってもらって歌ってもらおう。

俺はそう考えた。

「もう、寝よう」

少し疲労感があった。きっとあの日のことを思い出したから。

ゆっくり目を閉じて明日藤馬さんに会えると思いながら俺は就寝した。

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