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第6話 存在理由

家に帰宅したのは19時だった。

だいぶ会議が長引いたようだ。今夜は簡単にどんぶりものかな?

「なつ、今日は私が夕飯の支度しておいたから」

家に帰ってみたら台所で春生ねぇがご飯の支度をしていた。

「今日は私の好物のカルボナーラよ。お手製よ。」といいながらニコリと笑う。

「ありがとう、ごめんね春生ねぇ」

「いえ、これぐらいお茶の子さいさいよ。それより今日は遅かったのは何かあったのかしら?」

「うん。文化祭実行委員に抜擢されて、会議に参加してきた」

「あなたたちの文化祭は本当にお祭りだから、是非楽しんで」

「春生ねぇの文化祭はすごく静かだもんね」

「えぇ、どちらかというと展覧会や個展かしらね」

さすが女子高の文化祭。たしなんでいらっしゃる。

「なつ、ごはん先にする?」

「うん。いただく」

二階の自室に荷物と制服を脱いで部屋着に着替えた。

リビングに戻ってきたときには机にサラダとカルボナーラが用意されていた。

さすが月島家の長女。いつでも嫁にいけるね。

「なつ、私なりに藤馬さんのこと調べたんだけど」

といいながら眼鏡をかけて資料をみる。というかその資料はなんだ?

「調べたってどうやって・・・」

「ウィキペディア?」のってんのかよっ!

「というのは半分嘘よ。でも、わかったことが一つ」

「何?」

「12年前ぐらいに藤馬の家の裏山が大火事になったという新聞記事を見つけたわ」

その新聞記事をコピーしたのがその資料だった。

「原因は藤馬の人の火の始末が悪かったらしいわね。たき火でもしてたのかしら」

「たき火でそんなひどい火事にはならないでしょ」そういえば誰かが言ってたなぁ藤馬の家で大火事があったとか・・・。

「その事件が一つ気になるの。もしかしたらその大火事で藤馬さんのご両親は亡くなったんじゃないかしら?」

アバウトにしか話の内容は聞いていないので確かとは言えなかった。

「可能性はあるね。もしかしたら、何か引き金になって、藤馬さんの力が暴走して大火事になってしまった・・・それに両親が巻き込まれた・・・・?」

「だとすると辻褄が合うと思わない? 藤馬さんがその辺の話をしてくれるかわからないけど」

きっと原因は藤馬さん自身の負の感情。それは悲しみ辛さが主だと藤馬さんは言っていた。悲しいことでもあったのだろうか。制御できないほどの、悲しみが。

「俺も少し気にしておくよ」

「お願いね」

食べ終わったので洗い物はすべて自分でした。

家事仕事がおわり、ひと段落ついたところでスマホに手をやる。

連絡先を交換していたので、さっそく藤馬さんにLINEをしてみる。

『月島です。今日はお疲れさまでした』

すぐに既読になり、返事がきた。

『お疲れさまでした。』

文章まで淡々としていた。

『帰宅後に、閖華に怒られました。これも試練』

怒られた?

『大丈夫なの?』

『いつものことなので。おやすみなさい』

聞きたいことがあったが、LINEのやり取りはここで終わらされた。

閖華さん。あの時初めてあった時、なんだか雰囲気が怖かった。触れるだけで壊れてしまいそうな、そんな感じの子だった。藤馬さんとは全然似ていない。

俺は自室に戻り、ベットの上で寝転がりながら考えていたらいつの間にか眠りについていた。



翌日、6時限目に文化祭の出し物を決めることになった。

「昨日の会議で、コンセプトが笑顔と言われました。一年は飲食系の模擬店になります。何か候補があればお願いします」

ひとまずクラスのみんなに説明した。

候補として挙がったのは喫茶店だった。

「でも違うクラスもきっと喫茶店よね~」と柏木さんがいう。

「執事喫茶とかイケメン喫茶とかあるじゃん?そういうのにしたらいいんじゃない?」

「だめだめ違うクラスの子に本格的コスプレイヤーがいるから多分それやるよ」

女子たちが意見をいいあってる。

「メイドは? メイド!」ノリノリの男子がいう。

「それもだめ~」

「何かないかな~」

みんな考えていた。

「プリン専門カフェ・・・」ぼそっと俺の横で声がした。

「え、藤馬さんなんかいった?」

「いえ、その・・・・プリンはだめですか?」

「だめ・・・とは?」

「プリンだけのメニューしかないカフェはいかがですか?」

藤馬さんがみんなに要望している。少し新鮮だった。

「プリンかぁ~」

「あ、モンドのプリンアラモードおいしいよねっ!それかパフェカフェとか!」

「トッピングの種類いろいろにして、選んでもらうのは?」

「いいねそれっ! 楽しそう!」

女子たちの甘いトークはさらにヒートアップしていた。

男子たちも甘党な奴らはすごく賛同してた。

「凜華ちゃん! これでいこう!プリン専門カフェ!パフェもあるよ!的なカフェ!」

クラスのみんなのり気になっていた。

「では、その内容で生徒会に願書を出します。それまでにどんなメニューにするか、どんな店にするのか、また時間を作ろうと思います。何か要望があればこちらから生徒会に話を持っていきますので、俺か藤馬さんに言ってください」

俺なりの藤馬さんへのコミュニケーションをとるきっかけを作った。

「よ、よろしくおねがいします」

藤馬さんは動揺していたが、なんだかうれしそうだった。

これをきっかけに「楽しい」をもっと知ってくれたらいいな。


***


願書を早めに出さないといけなかったので、そのあと俺と藤馬さんは教室で願書を書いた。

「よかったね。みんな賛同してくれて」

「いえ、別に」

「またまた~。よし、これで生徒会に出せば第一関門クリアかな」

「月島さん」

「ん?」

「私、その、楽しいことは、嫌いではないんです。前に言いましたけど、ああなるまでは凄く明るい子だったんです」

「うん」

「でも、私、楽しみたい反面、自分の力が怖くて、素直に楽しめないんです」

そういって藤馬さんは下を向いていた。

きっと申し訳なく思っているんだろう。

俺や柏木さん、姉貴たちにクラスのみんなが楽しんでいるのに、自分だけ楽しむことができないことに。

「もしかして心配?空気を壊してしまうことが」

藤馬さんは下を向いたまま黙っていた。

「前に話しましたよね。私のせいで両親が亡くなったこと」

何かを決意したのか、そういいながら顔を上げた。

「うん」

「私、楽しみにしてたんです。お父様とお母様と閖華と私で旅行にいくことを」

たぶんあの12年前の大火事の原因の話だ。そう思い真剣に聞くことにした。

「旅行へいく朝、閖華がこの数珠をどこかに隠したんです」


『凜華の大切なもの、あの山のどこかに投げちゃった』

朝起きたとき閖華がそういった。

『閖華、だめだよそんなことしちゃ。あれがないとダメだって御爺様に言われているのに』

『私しらない。なんで凜華ばかりそうやって守られてるの?』

『それは私が(きせき)の子だから』

『そんなの知らない。大事なものなら探しにいったら?カラスに取られてもう戻らないかもしれないよ』

確かに大事なものだったので私は裏山の麓へと探しに行った。

草が生い茂っていてどこにあるかもわからない。

楽しみにしていた旅行にいけない。

閖華が憎い。

なんで私ばっかりこんな目に。

なんで藤馬に産まれてきたんだろう。

なんで閖華じゃなくて私なんだろう。

涙がぼろぼろこぼれ落ちる

混沌とした感情が私の心を蝕んでいって気づいたら周りが火の海になっていた。


それに気づいた両親が私を探しにきた。大火の中を探しに。

『凜華~どこなの~』せき込みながら火の海に入るお母様の声

『凜華どこだ!』必死に声をかけるお父様。

私は来てほしくなくて、叫んだ。来ないでって。見つけないでって。

だんだん声が聞こえなくなって、火も強くなって、もしかしたらお父様とお母様はと考えたら悲しくなって、二人のことを叫んだらもっと火が強くなって、私は煙を吸ってしまって、意識を失った。



「だから、悲しいことはもう起きてほしくないし、私が楽しくしていることで閖華がまたいじわるをしないか心配です」

淡々と過去の出来事を俺に話す。

正直言おう。かなりの衝撃だ。

「あ、すみません。こんな重い話、こんなところでする話ではありませんね」

またしゃべりすぎたと思ったのか両手で口元を隠した。

「いや、うん。かなり衝撃だったけど、納得できることがあった」

「閖華のこと、ですよね」

「うん」

「あの子はあれ以来、癇癪を起す頻度が上がりました。私に対しても責め続けていました。それに関しては言われる通りなのでなにも反論しないんですが」

自分のせいで両親をなくしてしまったことを責められているんだろう。

「だから、月島さんや柏木さん、お姉さん方には私にはかかわってほしくなかったんです。今の閖華は何をしでかすか分からないので」

他者と関わろうとしない理由がそこにあったのか。

「さて、帰りが遅いとまた怒られます。早く願書だしにいきましょう」

そういって席をたつ。

「藤馬さん。どうして俺にその話をしてくれたの?」

こんな重い話、教室でするような話ではない。ましてやとても勇気のいることだ。俺だったらまずできない。むしろ、もっと信頼していければできない。

「月島さんは、優しい方ですから」

「優しい、から?」

「あと、信用もしています。最初は軟派な方だなとは思っていましたけど」

「藤馬さん、いうようになったね」

「ふふふ、月島さんにしかいいませんよ」

どきっとした。これがもしかしたら本来の藤馬さんの姿なのかもしれない。

今まで見てきた藤馬さんの姿は本来の姿を隠すための偽物の藤馬さんだったのか。

「いきましょう」そういって俺たちは願書を生徒会室へもっていった。


願書の提出が終わり、藤馬さんは例のごとく井上さんに迎えの連絡を入れる。

「今日はなんだかすごい一日だった気がするよ」

「私もです」

「それはそうと、その数珠は大切なものっていってたけどなんでつけてるの?」

「これは、力を制御する装置みたいなものです。力の暴走を食い止めるようにしてあるとかないとかです。本当のところはわかりませんが、私の力が暴走したときはたしかにこの数珠をしていませんでしたから」

そういうことか。

「なるほどね」

「それにしても、月島さん」

「ん?」

「こんな深い話をしてもいつもどおり私と話できるんですね」

「うーん。人ってさ、人生で一番幸せなことを味わっちゃうとほかの幸せが幸せに感じなかったりするじゃん?それと同じだよ」

「と、いいますと?」

その時藤馬さんのスマホから着信音が鳴った。

「じいじが迎えに来たみたいです。私行きます」

「じゃ、明日な」

「はい」

そういって藤馬さんは井上さんのもとへ走っていく。


いつも通りなわけないよ。

めちゃくそドキドキしているよ。

そんな深くて重い話を聞かされて、俺はドキドキしている。

手も震えている。

そんなことがあったのにあの小さな体で背負っているんだ。

知りたいだの守ってやりたいだの俺は何も知らないで藤馬さんに言い続けてた。

とりあえず藤馬さんの話してくれた内容を整理するため、考えながら帰る。

俺はこの内容を姉貴たちに説明しなければならないのだ。



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