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第5話 楽しみの向こう側に

文化祭編はじまります。

春生ねぇにも藤馬さんのことを伝えた。

「そういう理由だったのね」と納得していた。

まるで予想通りといわんばかりの顔だった。

「彼女の秘密を知った以上、私たちは彼女を守らないといけないわね」

俺もそう思った。春生ねぇも秋音ねぇも同じ気持ちだった。


次の日、俺は藤馬さんの秘密を知ったことで少し優越感だった。

校門で例の黒いリムジンが止まっている。

「おや、おはようございます。月島様」

「おはようございます井上さん」

「昨日は大変ご迷惑をおかけしました。凜華様から事情は聴かせていただきました。私でよければなんでもお手伝いさせていただきます」

紳士な笑顔とはこのことだろう。大人の余裕すら感じた。

「こちらこそ、力不足ですが、今を楽しんでもらうよう頑張ります」

「じいじ、余計なことはいいから早く開けて」

車の中から藤馬さんの声が聞こえた。

「それはすみません。どうやら早く登校したいらしく、今朝の目覚めはすごく早かったんですよ」

「へぇ~」

「いいから!はやく!」

井上さんはそんな藤馬さんをほほえましくおもったのだろう。

「はいはい」とにこやかに後部座席の扉をあけに回った。

「おはよう。藤馬さん」

「お、おはようございます」ごもった。

「?」いつもとは少し違うように感じたが、それはいい意味で違うと俺は思った。

井上さんはその様子をみながらクスクス笑っている。

「はやくいきましょう月島さん」

そういいながら俺の腕をつかんで下駄箱へ向かう。

「いってらっしゃいませ、凜華様」

井上さんは終始にこやかだった。車が出発したのを見届けて俺たちは教室に向かう。


教室に入ると柏木さんが嬉しそうに迎えてくれた。

「凜華ちゃん体調大丈夫?」

「はい、大丈夫です」

「よかった~」

「え、何がよかったのですか?」

「だって、踏み込みすぎてもう学校がいやになってないだろうか心配だったんだもん~。私時々空気読めなくて、よくしつこいっていわれるんだよね~」

柏木さんがしつこいのは好意が行き過ぎているからだと俺は思うんだが。

「そんなことないです。すみません」

「まって!そんなに謝らないで!」

柏木さんは必死にいう。

「ところで、話変わるんだけど」

柏木さんの方が感情をコントロールできていないような気もする。

「なんで二人一緒に登校してきたの??」

そこか!!

「校門で出くわしたので」いや、間違っていない。間違っていないけど!!

「へぇ~ふぅ~ん」柏木さんの顔がたくらみ顔になっている!!

「となれば必然的に一緒に教室にくるだろ?」

「ふぅ~ん」疑い顔で俺をみる。

「柏木さん?どうかしましたか?」

「ううんっ!少しこれから楽しみだなって思って♪」

俺をからかう気満々な顔だとわかった。これは柏木さんなりの仕返しだ。

「?」藤馬さんの頭にはハテナがでていた。

「藤馬さん、わからなくていいことだから、うん」

そんな会話をしているとチャイムがなった。朝のSHLが始まる。

「おーい席につけー」

先生が教室に入りながらみんなにいう。

俺の担任こと水原先生は20代後半の若い男性教師だ。どうやらここの卒業生なんだとか。

俺たちにとっては大先輩になるわけだ。

「日直、号令」

先生の一言で一日が始まる。号令が終わり、先生からのお話がある。

「え~と、今日は来月ある文化祭について話がある。お前たちは初めての文化祭になるから何をするかわからないだろうからまず実行委員を男女二名決めて、委員会に参加してもらい、そこからクラスで情報を共有して、準備していく流れだ。てことでだ」

黒板に先生が文字を書く『文化祭実行委員』と。

「この時間にパパっと決めたいんだが~立候補はいるか?」

俺が思うに柏木さんあたりが手を上げそうだなと思って隣に目をやる。

「え、私やらないよ?」

ええええ、やらないのかよっ!

「誰もいないなら先生が決めるぞ~」となると先生は誰を選出するだろう。

「男子は月島な~」

「お、おれかよっ!!」

「意義ある人は挙手」と先生が言うと、挙手の代わりに拍手喝采だった。

「お前は秋音がいるだろ?あいつは去年大活躍してなんでもしってるから教えてもらえるだろうから男子はお前な」

な、無責任な。ほかに兄姉がいるやついるはずなのに・・。

「わかりました。その代わり、相方は俺がきめてもいいですか?」

「お、柏木か?」

先生もクラスの奴らもなぜか俺たちのことをそういう目でみているらしい。

「私はやりませんよ~先生!私、ほかの委員会で違う仕事があるので」

「なんだ、じゃあ誰にするんだ月島」

「藤馬さんにします」

「「「えええええええ!?」」」

クラス全員がざわつく。その中でもまず本人が驚いている。

「ちょっと待ってください。私転入してきたばかり・・・」

「大丈夫、俺がいるから」小さい声で藤馬さんにいう。

「藤馬さん、まだ来て間もないし、これを機にクラスの奴らと仲良くなれたらいいと俺は思うんだけど。異議ある人は?」

なぜか俺に反論する人はいなかった。秋音ねぇのバックボーンとはこのことなのか?

「月島くんなら任せられるし、藤馬さんにとってもいいかもね」

「藤馬さんの意外な一面みれるかもじゃん?いいんじゃね?」

俺の知らないところでクラスのみんなは藤馬さんの心配をしていたらしい。

「じゃーそれでいいか?月島。藤馬も、いいのか?」

「反論する理由はありません」

というわけで俺と藤馬さんは文化祭実行委員になったのだ。



***


昼休み

校庭でお弁当を食べようと柏木さんがいった。

俺と藤馬さんと三人で。よくよく考えたら俺は両手に花なのか??

「柏木さんはいいの?このメンツでご飯とか」

「いいのっ!私は月島くんのこと男の子って思ってないからっ!」

いや、そういう意味ではない。

「柏木さんって少し残酷ですよね」

少しどころじゃないけどね!

「ここの文化祭、私去年見に来たんだよね~。とても楽しそうで私もここに入学したら楽しい文化祭にしたいって思ったの」

柏木さんは入学動機になった文化祭をすごく楽しみにしているみたいだ。

「ところで、文化祭とはどんなものをするのですか」

「そうか、藤馬さん、知らないんだ」

「えっとね~要は祭り♪普段つかっている教室を喫茶店にしたりお化け屋敷にしたり、いろんなお店にしたりする模擬店だったり、展示会場にしたり、かな?」

「あとは外で屋台したり、最後の日には後夜祭っていって、生徒会主催の祭りみたいなものがあるみたいだよ。去年、秋音ねぇが屋台がすごい楽しかったってはしゃいでた」

実際俺もそれが理由でこの学校を選んだくちだ。

「そうなんですか」

「三日間使ってやるんだよ~授業ないんだよ~楽だよ~」柏木さんは楽しそうだ。

「その分、準備は放課後になっちゃうけどね」

「なるほど」

「凜華ちゃんが楽しんでくれるように私たち頑張るからねっ!」

柏木さんは知らないはずなのに藤馬さんのことを知っているかのように話す。

「そうだな。楽しもうな」

そういって藤馬さんを見た。目をそらされてしまった。


帰りのSHLに先生から「文化祭実行委員会が放課後入ってるから二人とも参加するように」と言われたので筆記用具の準備をしていた。

「月島さん、すみません。じいじに連絡してみます」

「あ、そうか。迎えが来ているかもだな。うん、わかった」

そういって藤馬さんはカバンからスマホをだして電話をする。

「じいじ。今日帰りが遅くなる。閖華に、伝えてほしい」

閖華。藤馬さんの双子の姉だ。藤馬さんにとっては大きな存在なのは昨日感じた。

束縛している原因がもしかしたら閖華さん、なのか?

「えと、月島さんと委員会に参加することになったので。それを伝えてくれればいい。きっと大丈夫。うん。ありがとう。帰る時まだ連絡する」

そして電話をきった。

「許可おりました。いきましょう」

俺たちは生徒会室の隣の教室にある会議室に向かう。

生徒会が部長たちを集めてミーティングしたり、今回みたいに実行委員会を開いたりするときに使用する生徒たちのための会議室だ。

「藤馬さん。君にとっての閖華さんは、なんなの?」

会議室に向かう道中に藤馬さんに問いかけた。

「閖華は、次期当主なんです。お父様がいなくなり、次期当主つまり藤馬の跡取りが閖華しかいないので」

「藤馬さんは、違うんだね」

「はい。私は特別ですから。それもあって、閖華の言うことは絶対なんです。藤馬の大人たちも閖華の言うことに反論できない。私も、じいじも。」

「今はだれなの?」

「御爺様。今は老衰していて、寝たきりになっていますが、話すことはできるので、いまいろいろ引継ぎをしているそうです」

「本当に藤馬の家って大変なんだ」

「いろんな意味で、ですけど」

少しくすっと笑ったように思えた。

「藤馬さん。最初のころよりよくしゃべるようになったね。嬉しい」

「そんなこと、ないです。はい」顔が赤くなる。

俺はそんな藤馬さんの顔をみるのが楽しくなっていた。

そんな会話をしている間に会議室についた。

一年の違うクラスの実行委員、二年の実行委員、三年の実行委員、そして生徒会の面々が勢ぞろいしていて少し緊張してしまった。

「あれー?なっくんじゃんー!凜華ちゃんもいるー!」

この元気な声は・・・・

「秋音ねぇ、実行委員になったの?」

「あったりまえじゃーん!去年よりパワフルにするつもりだしっ!」

「月島さん、ロケット花火案は却下ですからね」

そういったのは生徒会の人だった。

「ええ~~~たのしいのに~~花火はほしいのに~~」

「予算がありません。そもそもどんだけお金かかると思ってるんですか!」

どうやらその人は生徒会会計の人らしい。

「秋音さん、いつもパワフルですね」

「だろぉ~?黙っているところを俺は見たことないよ」

「月島さんはどちらかというと春生さんに似てますよね」

「あーそれよく言われる」

秋音ねぇをほっとして俺たちは俺たちの席に座る。

「ねーねーなっくんからもなんかいってよー!」

「いや、俺は特に」

「月島!お前はもうだまっとけ!」そう叱るのは秋音ねぇのクラスらしき人だった。

「むむむ。だったら望月くんも考えてよ~」

「お前の楽天的考えはいいことだと思うが、度が行き過ぎている。花火がダメだなファイヤーイリュージョンでどうだ!」

「おおおおそれいいね!!」

いやまて!よくないだろっ!学校中が火事になっちまう!

「はいはーい!静粛に~」パンパンと手をたたいて前に立つ男性はこの学校の生徒会長だ。

「初めましての方もいるので、自己紹介します。生徒会長の草野といいます。よろしくね」

黒縁眼鏡の黒髪の清楚な男性だ。身なりもきちりとしていて、まさに生徒会長の名にふさわしい人だ。

「僕は三年で、この文化祭が終われば生徒会を引退します。なので僕的にはこの三年間で一番よかったといえる文化祭にしたいと思っています。まず、コンセプトを決めているので紹介します」

文化祭でのコンセプト。それをテーマにした模擬店や劇や屋台を生徒たちは準備する。

生徒会長はホワイトボードいっぱいに二文字書いた。


『笑顔』


「今年の文化祭コンセプトは笑顔にしたいと思います!人を笑顔にするにはどうしたらいいか、それを考えていろんな出し物を考えてください。学年によってすることは違います。それに関してはわが生徒会で準備させていただきましたマニュアル冊子をお配りしますのでそれに目を通してください」

生徒会の人が冊子を配る。俺のところに配られてペラペラめくる。

一年の出し物は飲食系の模擬店だった。二年は商品販売の模擬店。三年は屋台。という風になっているらしい。その他部活での出し物もあるみたいだ。

「私たちは飲食系、なんですね」

「みたいだな~」

「で、今月までにどんな模擬店、屋台をだすか、クラスで話し合って生徒会に願書を提出してください。同じものにならないようによろしくお願いします」

生徒会からのお話は終わりで、質問タイムにはいった。

「とりあえず、クラスでどんなのにするか話し合う時間を先生にもらうしかないね」

「そうですね」

「ちなみに藤馬さんはどんな模擬店やってみたい?」

「え?」

「あー、模擬店っていうのはそのー」

「それはわかります。どんなのがしたいのか、そういうの考えたことなかったので」

「そうか。ごめん」

「いえ、私がいけないので。考えておきます」

藤馬さんは長い間、幽閉されていたせいで世間に少し疎かった。

そうだよな。俺たちが当たり前にみているものがもしかしたら彼女にとっては初めてなものかもしれないんだよな。そう思うと、少しほほえましかった。不謹慎かもしれないけど。

そのあと生徒会の人が今後文化祭当日までのスケジュール説明と費用の話をして会議は終わった。

「遅くなったけど、藤馬さん大丈夫?」

「今からじいじに連絡いれます」

そういってポケットからスマホを取り出し、電話を掛ける。

というか、世間に疎い藤馬さんがスマホを使いこなしているのは不思議だ。

電話がおわり、そのことを聞いてみる。

「スマホ、ですか?これは持たせてもらえてたので。一人部屋でいろいろ使っていました。一人日記というアプリがありまして、それに表に出せない負の感情をかきだしてたりしていました」

なるほど、愚痴の吐き口はちゃんと自分で作っていたのか。

「インドアのニートみたいなものです」

どこで覚えたその言葉!!

「藤馬さんは疎いようで疎くないんだってわかったよ」

「インターネットでぷりんの検索をしていました。こないだ食べたプリンアラモードはその時見つけたもので、実際に目の前に出てきたとき驚きました」

あの時の動揺はそっちのか!

「あ、そうです。月島さん」そういって俺のほうをみる。目が合う

「ん?」そして目をそらされた。今日の藤馬さんは少しおかしい。

「月島さんも、その、スマホもっていますよね?」

「うん。あ、連絡先交換する?」

「いいんですか?」と聞いてくる顔は少し嬉しそうに見えた。

「いいよ。こないだ柏木さんも連絡先聞いておけばよかったって言ってたから、もし藤馬さんがよければ教えてあげてね」

そうして俺たちは連絡先を交換した。少し進歩だ。

「これで、何があっても大丈夫ですね」

「ん?なんか言った?」

「いいえ。文化祭、楽しみですね」

俺は思わず微笑んだ。藤馬さんから「楽しみ」という言葉が聞けるのがこの上なく嬉しかった。



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