第3話 忘れた感情
誤字脱字はご了承ください。随時修正します。
人の心がわかったらどんなによかっただろう。
もしかしたら助けることができたかもしれない。
小さな俺でも何かできたかもしれない。
今になれば後悔しかない。いえるのは心の読める能力があればいいのにと今でも思う。
だが、そうなったところで亡くしたものは帰ってこない。俺が生きている限り、この事実は消えないんだ。
今日も藤馬さんに校内案内をしようと柏木さんは考えていた。
「今日はどこ案内しよっか?」
「すみません。早く帰らないとなので」
藤馬さんはそういって帰り支度をしていた。
「なんか、言われたのか?」
「なんで?」
「いや、なんとなく?」
俺の勘はよく当たる。春生ねぇの予言とは違うけど、何かあったのは確かな気がする。
「別にないですけど、ただ早く帰ってこいと言われたので」
「月島くん、無理強いはダメだよ。凜華ちゃんがそういうならそうしよう」
柏木さんはすこし残念そうにしていた。
「それでは、また」
そういって藤馬さんは教室を出た。
「柏木さんはあきらめないね」俺は関心した。
「うーん。なんていうか、凜華ちゃん、朝言ってたことが本心じゃない気がするんだよね~。だから本心はどうなのか気になるんだけど、そこまで踏み込んでいい仲にはなってないし」
「それ、俺にもわかる」
よかった。俺だけじゃなかった。ほかの生徒たちとは違う意味で俺たちは藤馬さんのことが気になっていた。
「ま、ゆっくり歩み寄ればいいかなっ」
そういって柏木さんも帰り支度をする。
「さてと、帰ろうかな」
「今日は体育館にはいかないの?」
そういうと柏木さんの顔が少し赤くなっていた。
「月島くん。私あなたに何も話してないんですけど」
「ははは、バレバレだよ。で、会いに行くの?」
「もーーそういうこと言わないでーーーー」
照れながら柏木さんは怒る。
そういうのは俺じゃなくてそいつに見せなよといつも思う。
「ごめんごめん。早くいかないと部活終わるんじゃない?」
「わ、わかってるもん!」
そう言いながらいそいそと支度をして教室をでた。
柏木さんにはどうやら気になる異性がいるらしい。本人からそう聞いたわけではないんだけど、見ていたらモロわかりだ。目が好きって言っている。
気になる彼はバスケ部所属で、部活姿をみるのが日課になっているんだと思う。そういうところまでは俺の推測。昨日、体育館を案内したときに確信はしたけどね。
柏木さんのかわいい顔もみれたので、俺も帰ることにした。
下駄箱まで来た時、藤馬さんがまだそこにいた。
「あれ?帰ったんじゃなかったの?」
俺が声をかけると無表情でこちらを振り向いた。
「迎えがきてないので」
「そうなんだ」
藤馬さんは自分のスマホを見ながら連絡を待っていた。
「藤馬さん、もしよかったらでいいんだけど、お茶しない?」
「え?」いかにもいやそうな顔でこっちをみた。
「この近くに春生ねぇ・・・俺のもう一人の姉がバイトしているんだよ。よかったらあっていかないかな?と思って」
「ですが、私は早く帰らないとなので」
「その割には迎え遅くない?」
「・・・・わかりました」
藤馬さんはどこかに連絡していた。確認をとっているようだ。
「・・・・少しですが、許可がでました」
「よしっ!じゃあ行こう!」俺はなぜか嬉しくなった。
***
春生ねぇのバイト先『喫茶モンド』は昔からある喫茶店で昭和の雰囲気漂う喫茶店だ。常連客も地元の高齢者が主で世間話をする集会にしているらしい。
カラン~
入り口の扉に来客を知らせる鐘がつけられている。この音もなつかしさを漂わせてくれる。
「いらっしゃいませ」
「お疲れ様春生ねぇ」
出迎えてくれたのは春生ねぇだった。
「あら、なつには珍しいわね。柏木さんの他に女の人をつれてくるなんて」
「一つ言っておくけど、俺は柏木さんと付き合ってるとかじゃないからね」
「え、そうなんですか?」なぜ藤馬さんがそこで驚く!
「とりあえず空いてる席に座りなさい。お水お持ちします」
ということで俺たちは席に着く。一番落ち着くのがお店の中の端なのだ。いつも俺はここでコーヒーをいただく。今回もその席に藤馬さんを案内して座る。
「ここの喫茶店は昔からあってコーヒーが自慢なんだよ」
といいながらメニューを見せる。
「私、コーヒーは苦手なんです」
「あーなんかわかる~。あ、そうだ。ねぇ藤馬さん」
「なんでしょうか」
「学校の外で会っているときは凜華ちゃんって呼んでいい?」
「別に、構いません」
「よし、んじゃ凜華ちゃんは何が飲みたい?あ、それとも食べたいものある?」
メニュー表をじっくりみている。そんなに珍しいものはないはずなんだが。
「私、キッサテン?というものに初めてきたんですが、私の家でいうティータイムのようなものなのですね」
「さすがお嬢様・・・。そうなっちゃうかな?違うのはお金を払わないといけないところだと思うけど」
「月島さん、私これがいいです」
藤馬さんがさしたのはプリンアラモードだった。
「凜華ちゃん、プリン好きなの?」
「いえ、別に。よく、食べていたので」
すこし顔が赤くなっているように見えた。
注文が決まったので春生ねぇに注文をした。
「家の人、怒ってなかったの?」
「家の人というより、運転手の方に少し遅く迎えにきてほしいと伝えました」
「なるほどね。ていうか藤馬家ってほんとスゴイ家だよね」
「そうですか?」
「だってほんとにリムジンで迎えにくるお嬢様って漫画でしか読んだことないし」
「私の場合、特別なのかもしれません。ほかの藤馬家の人にはそういった専属ドライバーはついていないので」
「凜華ちゃんって何者なの?藤馬の中でもスゴイ人なの?」
「それは・・・・」
答えようとしたときに
「お待たせいたしました。プリンアラモードです」
春生ねぇが生クリームたっぷり果物のトッピングもいつもの倍にしあげたプリンアラモードを持ってきた。
「あ、ありがとうございます」
藤馬さんが動揺していた。
「改めまして、月島春生です。よろしく」ニコリと春生ねぇは笑いながらいう。
「あ、はい。よろしくおねがいします」
まだ動揺していた。
「あ、そうそう春生ねぇ!この子がこないだ土手で歌ってた子だよ!」
「あらそうなの?」そういって春生ねぇは藤馬さんをじろじろみる。
そのせいで余計動揺しているように見えた。
「あの・・その・・・・えと、あの・・・・」
「ふふふ、大丈夫よ。私は心が読める人間じゃないから」怪しさが余計そうさせてるよ!
「は、はい」
「ゆっくり話がしたいわ。なつ、今度の休みに我が家に招待しなさい」
「え?」
「興味があるの。藤馬っていう家柄もそうだけど。凜華さんにも少しね」
にやりと意味深に笑みをこぼした。これは春生ねぇが企んでいるときの顔だ。
「あの、私、その、許可がでるかどうか、わからないので」おどおどしながら春生ねぇに言った。
にやりと意味深に笑みをこぼした。これは春生ねぇが企んでいるときの顔だ。
「あなたの都合のいい時でいいわよ。いつでも歓迎するわ、なつが」
「お、俺かよ!!」急に俺に話を振られて驚いてしまった。
「では、ごゆっくり」そういって春生ねぇは職務に戻った。
「あ、あの。あなたのお姉さんは本当に心の読める人ではないんですよね?」
「う、うん。時々的をつくことを言うけどそんな能力はないよ?」
「そう、ですか。なにやら見透かされているように思えたので」
藤馬さんにはやっぱり何か秘密があるんだ。俺はそう思った。
見透かされてはいけないような大事な秘密が。
「さ、たべなよ」そういって藤馬さんにスプーンを渡す。
「ありがとうございます」スプーンを受け取りプリンを食べ始めた。
その様子をみていると本当に高校一年生に見えない。まるではじめて外食に連れてきてもらった子供みたいだ。連れてきてよかったと思いながら俺はコーヒーを飲んだ。
食べ終わった後、藤馬さんのスマホから着信音がなった。
「あ、じいじから」
「じいじ?」
「私の専属ドライバーです。迎えがきたみたいです」
「そうか。んじゃいこっか」お会計は俺が払うというと藤馬さんは恐縮した。
ここは男が払うもんだよと思いレジに向かうと春生ねぇがクスクスと笑っていた。
「な、なに?」
「いいえ、なつも男の子なんだと思ったらほほえましくなってね」
「なんだそれ。当たり前だろ」まだクスクス笑う。
「またいつでもプリン食べに来なさい」そう藤馬さんに伝えるとまた動揺していた。
「あ、ありがとうございます」
店をでるとそこに黒いリムジンが止まっていた。
なぜこの店が分かったのだろう。
「こんにちは」運転席からでてきたのは紳士なおじいさんだった。まさに漫画にでてくるような執事だ。じいじと呼ぶのも納得できる。
「すみません。付き合わせてしまいました。俺、月島夏貴といいます」
「私、凜華様の専属ドライバー兼執事の井上と申します。こちらこそ迎えが遅くなってしまったのでかえってよかったです」
「そうですか」気を使われたように思えた。
「それでは帰りましょう、凜華様」そういって井上さんは後部座席の扉を開けた。
「月島さん、今日は、その・・・ありがとう」
少し照れたような言い方で藤馬さんがいう。感謝されるとは思わなかった。
「どういたしまして」
井上さんが扉を閉めた後、俺のほうを向いて微笑んだ。
「月島様、今日はありがとうございました。こんな機会を与えてくれて。今後とも凜華様をよろしくお願いしますね」とにこやかにいう。本当に紳士だ。
「そんな大層なことしてないですよ」
「いえ、凜華様にとっては大層なことなのですよ。よき友達ができて私は嬉しいです」
友達・・・・か。
「それでは」そういって井上さんは運転席に座り、車を出発させた。
その車を見送りながら、俺も家に帰る。
***
今日の晩御飯は時間がなかったので、鍋にした。味は姉たちのことを考えて豆乳鍋。
「やっぱり鍋を囲みながらの食事はいいよね~」といいながら秋音ねぇは鶏肉ばかり取っていた。
「秋音ねぇ、野菜もたべなよ」
「そうよ、大きくならないわよ」
「むむむ!それはどこが大きくならない話ですかーぁ?」
「さぁ?どこでしょうね」ニコリと笑いながら春生ねぇは白菜を大量にとる。
喧嘩になりかねないので俺は話題を変えた。
「今日、凜華ちゃんとモンドにいってきたよ」と秋音ねぇにいう。
「そうなの?なんで私誘わないのよぉ~って私部活中か」
ノリツッコミは秋音ねぇの得意技だ。俺のツッこむ隙もなかった。
「あの子、すごく私に対しておびえていたわ。なぜかしら」
「すごく動揺してたよね」
「それは春生ねぇが脅したんじゃないの?」と秋音ねぇはにやにや笑う。
「そんなことないけども。あ、でもじろじろみてしまったわ」
「凜華ちゃん曰く見透かされてるように思えたっていってたよ」
「あーなるほど、確かに~春生ねぇ、そういう目するときあるよね~」
「人聞き悪いわね二人とも」やばい、キレる5秒前だ。
「秋音ねぇ的には凜華ちゃんのことどう思う?」
「え、私?んー、人見知りする子なのかな?とは思ったけど」
「私は感情をコントロールできない子なんだと思ったわ」
「俺は何か秘密を抱えているように思った」
三人とも感じ方が違った。でも一つ言えることは
「もっと知りたいとは思うわね」
「同感。もっと話してくれたら私たち何かできそうなのに~」
「うん」
後悔はしたくない。何か隠しているなら話してほしい。
俺たちにはそういう気持ちがある。
「あーだめだめこんなしめっぽい空気耐えられない!鍋もさめちゃう!」
さすが秋音ねぇ。空気を読んで話題を変えるのがうまい。
「とりあえず、うちに連れてきなさい」
春生ねぇは俺にいう。それが可能かどうかはわからないけど。
「わかった」
「なっくんがうちに女の子を連れてくるとかないわ~って思ったんだけど、凜華ちゃんなら許せるわ~」
「何それ」
「妹ができた気分?」
「そうね、そんな気分よね」
そういいながら豆乳鍋を完食した。
洗い物をしている俺のところに春生ねぇが来た。
「なつは、あの子のことどう思ってるの?」
「なんだよ急に」
「あの子、今日ずっと無表情だったでしょ?」
さすが春生ねぇよく見ている。
「それ見て、この子は感情のコントロールができない子なのかとおもったの」
そういいながら春生ねぇは冷蔵庫からミネラルウォーターを出して一口飲んだ。
「でもあの子、プリンアラモードをみて、すごく嬉しそうだったの」
「え、でも嬉しそうな顔してなかったよ?動揺してたけど」
「それよ。こういう時にどんな表現をしていいのかわからない子なんだとおもったの」
「春生ねぇはすごいな。俺、てっきり春生ねぇに怯えているのかと」
「ふふふ、なつもいうようになったわね」
「すみません」
「藤馬の環境がどうなのかは私もわからないわ。ただ、きっと私たちみたいに平気で笑ったり泣いたりできない環境で育ったのではないかと思うの」
これはきっと春生ねぇならの藤馬さんへ対する心配なのだ。
「そう、だね。俺たちの予想もできないような生活の中で今まで過ごしていたならどうしたらいいのかわからないのかもしれない」
なら藤馬さんには楽しいことをもっと教えてあげたい。いろんなことをもっと。
「だから、井上さんはこういう機会をっていったのか・・・」
「井上さん?」
「あぁ、凜華ちゃんの専属ドライバーであり執事さん。今日帰りに言われたんだ。
こんな機会を与えてくれてありがとうって」
「ならなおさらね。人生まだまだ長いもの。色んなこと見て聞いて知ってほしいわね」
春生ねぇが言うと重みがある。その重みの理由は俺にもわかる。
「そうだね」
俺は洗い物を終え自室に戻った。
今日は一日いろんなことがあったように思える。
藤馬さんのこと、わかったように思えて本当は何もわかっていない。
春生ねぇからみた藤馬さん。秋音ねぇからみた藤馬さん。柏木さんからみた藤馬さん。
そして俺からみた藤馬さん。
それぞれ感じ方は違うけど共通するものがあった。それは
「他者にかかわろうとしないこと」
もしかしたら家のひとがそういうように仕向けているのだろうか。
彼女を縛っているのだろうか。
あの時もしかしたら抜け出して、あの河原へ来たのだろうか。
あの時きていなかったら俺は彼女をここまで気にしてなかったのだろうか。
そう思いながら明日は藤馬さんとどんな話をしようか考えていた。




