第17話-2 パンドラの箱②
凜華視点の話②です。
私があれほど言っていたのに、月島さんはしつこかった。だから私はわざと力を使った。わからせてやろうと思った。あんな事態を見たら今度こそ諦めてくれるだろうと私から離れてくれるだろうとそう思っていた。なのに彼は動じなかった。
感情を表に出したのは本当に久しぶりだった。
風が吹いている。髪の毛が乱れる。部屋にあるものが風に操られている。目も開けれない。涙で見えない。でもはっきり見えるのは月島さんの姿だった。
初めて藤馬の人間ではない人に怒った。感情をむき出しにした。
ここまですれば諦めてくれるだろう。そう思ったのに、諦めてくれない。
それに対する怒りもあった。貴方を傷つけたくないのに、私のせいで傷ついてほしくないのに、なんで諦めてくれないんだろう。
風がだんだん強くなる。私は更に気持ちを吐露する。もう、嫌われてもいいや。諦めてくれないなら私が諦めよう。どんどん傷つけて私の事を嫌いになればいい。
だから、月島さん、私の事、嫌いになって!
そう願いながら私は泣きじゃくる。あの時から泣いていない私は思う存分泣いた。
もうどうにでもなれ。
だんだん風が強くなる。私の力が暴走しているんだと気づいた。ああ、もう私、学校に行けない。楽しいことたくさんあった。月島さんに出会って、柏木さんやクラスのみんなと仲良くなって、月島さんのお姉さんたちとも仲良くなった。私はこれからも笑って過ごせると何処かで思っていた。閖華だって、本当は学校に行きたいはずなのに。私ばかり楽しい思いをしているのは申し訳ないと思った。私より閖華のほうが学校に行くべきだ。なんの心配もない。私なんかより、もっと楽しいこと知れるはずなのに。私のせいで行けない。私のせいでみんな不幸になる。
この命、もう終わればいいのに。
そう思っていると腕を引っ張られた。気づいたら月島さんの胸の中にいた。頬にガラスの破片があたり血が流れている。そんなにまでなって私の元へ彼は来た。
そして「俺は凜華が好きなんだよ」と告げた。嘘かと思った。なんの冗談かと。こんなことしてまで彼は私を好きだという。どこが? 何が? なんで?
分からない。分からないのに、私の気持ちは落ち着き
始める。きっと人に認めてほしかった。否定せずちゃんと私の気持ちを聞いて欲しかった。私という人間を受け入れて欲しかった。好きでいてほしかった。そんなわがまま、誰も聞いてくれないと思っていた。御爺様だって閖華だってじいじだって、本当は私なんかいなくなれと思っていたに違いない。他人なんてなおさらだ。なのに、月島さんは私を好いてくれた。受け入れてくれた。それがとても嬉しかった。
風が止む。涙がぼろぼろと流れる。この涙は嬉し涙だ。月島さんの胸の中はとても暖かい。人のぬくもりを私は久しく味わっていなくて無意識のうちにそのまま眠りについていた。
目が覚めたときは自室のベッドの上だった。そばに月島さんがいた。私の力の暴走でついた傷が何箇所かあった。だからアレほど言ったのに。そういうと彼は生きてるから大丈夫と何回も言う。もういなくならないと伝えたかったんだ。不思議だ。彼の一言一言が私を安心させてくれる。気持ちが軽くなっていた。その後閖華と葉月先輩が部屋にきて閖華と二人きりになった。
「凜華、今どんな気持ち?」
「どんなって・・・。申し訳ない気持ちです」
「じゃなくてー、言わせないでよ」
閖華が私の手を握る。少し震えてる?
「月島さん。どうしてあの小屋にきたんですか? 閖華は止めたよね?」
「止めたわよ。でもあの人譲らなかった。凜華のこと、譲ろうとしなかった」
ふてくされたように閖華は怒る。少し笑いたくなる。
「しつこいよね。でも、そのしつこさのおかげで私いまここにいる」
「ふふふ、たしかにそうね。凜華、今までごめんね」笑いながら目から涙が流れる。
「うん、知ってた。ちゃんと閖華は私のためにやってたことぐらい」
クスっと笑う。本当は言われるのは嫌だったけど、ちゃんと分かっていた。言われて当然とも思っていたんだけど。私たちはお互いを抱きしめた。私たち産まれてからずっと一緒だから、分かっちゃうんだよ、閖華。あんなひどいこと言われてても、私を守るためだって傷つかないためだって、分かってたよ。
「私だって凜華の苦しみ、悲しみ、ちゃんと分かってたからね」
そうして私たちは笑いあった。何年ぶりだろう。
「それより、凜華。御爺様に報告しなければ」
「そう、だね。どうしよう。もう力を出すなって言われているのに」
「不可抗力でしょ? 原因のつきしまさんを連れて行くのも手だけど」
「そこまで迷惑かけれない。私一人で言いに行く」
「その願い、叶わなそうな気がするけどね」
「?」
「何かあれば私も行くから。もう遠慮しない。行くなら一緒に」
閖華は私の手をまたぎゅっと握る。
今までの時間を取り戻すかのよう。私たちはそれぞれ望んでいた方向へと気持ちが向いていた。これも月島さんのおかげだと思う。
本当に、あの人は、優しくて愚かだと私たちは笑った。
***
全てをさらけ出すと人はもう何も悩む必要がなくなると確信した。
私の中にある人には言えない秘密を彼にすべてさらけ出した。
もうこれ以上隠しているものはない。さぁ貴方は嫌いになる?それとも・・・。
閖華と話が終わった後、部屋から出たら扉の横に月島さんが座っていた。
「もう、大丈夫?」
ドキドキする。どさくさ紛れにこの人は私に告白をしたのだ。どうしてそんな平然としていられるのか不思議だ。私は小恥ずかしい。こんな気持ちになるのは初めてだ。
「うん。大丈夫」少し小声になる。よいしょと言いながら月島さんは立ち上がる。
改めて彼の顔を見る。こんなにかっこよかっただろうか。こんなに凛々しかっただろうか。というか頬が痛々しい。
「そんなに見つめられると、照れるんだけど」そう言いながら顔が赤くなっている。
「あ、その、すみません」私も恥ずかしくなって、下を向く。
「月島さん。私いまから御爺様に報告に行きます。この事態を謝らなくちゃ行けない。しかも今回は他人を巻き込んでしまった。罰は大きいかもしれません」
罰? 神の力が暴走したら、罰が与えられるのか?
「前の暴走のときはあの小屋でずっと過ごすコトでした。今回はもっとひどいかもしれません」
「ひどい・・・とは?」
「死ぬかもしれません」
月島さんの顔が青ざめた。そして怒った顔になった。
「凜華ちゃん。怒るよ」怖い。月島さん本気で怒ってる。
「ごめんなさい。でも御爺様ならそうしかねない。幽閉されるのもほとんど死んでいるのと同然だと思いましたから」
「凜華ちゃん。俺も謝りに行く。そして君の周りにある束縛を全部解き放す!!」
私の両肩に手を乗せて力強く言う。本気度が半端ない。
月島さんは神様なのだろうか。私の願いをすべて叶えてくれそうな気がした。
だけど、御爺様に合わせるわけにも行かないと思った。
「大丈夫です。私だけで行きます。罰が重くならないようにちゃんと説明します。だから、大丈夫ですよ」ニコリと笑って月島さんを安心させる。でもこの人はしつこいのだ。
「嫌だ、もう、会えなくなるのは、嫌だ」
この人はこんなにわがままだっだろうか。可愛らしさも感じてしまった。
思わず頭をなでてしまった。
「大丈夫。ちゃんと戦ってくるから」泣きそうな彼に言う。そういえば言っていた。一番怖いことは私がいなくなること。そんな恐怖を味わせてあげたくない。絶対。彼の悲しい顔は、見たくない。
この気持ちは一体何なんだろう。
ワタシハキモチノフタヲアケタ
鼓動が早くなる。ドキドキ言っている。息が苦しい。私、どうしたんだろう。
月島さんの顔をみる。さらに鼓動が早くなる。そばにいてほしい。もっと一緒にいたい。御爺様に何と言われようとも私は彼と一緒に高校生活を送りたい。私のそばに・・・。
「どうしたの? 凜華ちゃん?」
ハッとして月島さんを見る。どうしてだろう。キラキラして見える。
「わかりません。わかりませんが、いまの私なら御爺様に勝てそうに気がします!」
御爺様に叱られるより月島さんが離れてしまうことが一番辛い。
「そう、ですね。月島さんの言うとおりかもしれませんね」
クスっと笑う。今、理解した。
「私が一番恐怖に感じることは、月島さんと会えなくなることです」
そういって私は満面のえみで伝える。もう感情は捨てない。今までの分拾っていく。彼のそばにいるためにはそうしないといけない。
「あ、ありがとう」
照れる彼をみて私は微笑んだ。
心臓がキューッと締め付けられる感覚になる。
最終難関。私は私の人生をかけた戦いに挑みに向かった。




