第13話 文化祭③
みんな集合回です。
まるで逆風に向かう気持ちだ。
俺は少しドキドキしながら、藤馬さんに会わないように閖華さんを迎えにいく。
下駄箱まできて校門のほうへ向かう。ほかの人は校庭に向かうのに俺だけ違う方向へ歩いていく。
いつもの校門にあの黒いリムジンが止まっている。井上さんだ。イコール、あの車の後部座席にはあの子が乗っている。
俺は車に近づく。井上さんが運転席から出てきて俺に会釈をする。申し訳なさそうに俺をみる。井上さんが何を言いたいのかはだいたいわかっていたので俺も会釈をする。
「月島様、こんにちは」
「こんにちは。水原先生に迎えに行ってくれと言われたので来ました」
井上さんが少しため息をつき。納得の顔をする。
「月島様は知っていらしてたんですね。ではお願いします」
井上さんは右側の後部座席の扉を開けた。
黒色のヒールから黒いワンピースドレスに紺色のコートを羽織った軽くウエーブのかかった長髪の女性が車から降りてくる。
「ありがとう、じいじ」
藤馬さんと同じ声がした。
その子は横髪を右耳にかけて俺にひやっと微笑む。
「お久しぶりです。つきしまさん」
「お久しぶりです。閖華さん」
俺は彼女に近寄る。イメージしていた以上に彼女は笑顔だ。でもこの笑顔は少し怖い。恐怖すら感じる。冷や汗がでる。
「楽しんでいるかしら?凜華と」
ここで変な返答をしたらきっと藤馬さんに被害がいくと思った。でも変な嘘はつけない。
「楽しんでいますよ。もちろん。文化祭ですから」
食い下がる訳にはいかない。
「あら、そう。では案内していただける?時間がそんなにないのだけれど」
「分かりました。そろそろ藤馬葉月さんのライブが始まりますが、聞きに行かれますか?」
ニコリと閖華さんは笑う。
「ふふふ、アタシと貴方は同い年よ?凜華にだってそういう話し方、しないでしょ?」
気を使っているのはバレバレだった。
「わかった」
「ふふふ、葉月のライブはぜひ行きたいわ。あの人、はりきっていたし」
少し意外だ。閖華さんも藤馬さん同様、他人に興味がないのだと思っていた。
「さあ、案内してください」
「あの、閖華さん。閖華さんも、ここは家じゃないわけだし、敬語使うのなしにしない?」
彼女は少しぽかんとした顔をしている。
「アタシはもともとこういう喋り方なので、今更変える必要はありません」
「そう? 距離が縮むと思ったんだけど」
「アタシの今日の目的は凜華が学校生活をどのように過ごしているかの視察。貴方と親睦を深めるために訪れているわけではありませんので」
閖華さんは少し膨れた顔をしていた。後ろを振り返るといつの間にか井上さんは校門前からいなくなっていた。多分職員用駐車場で待機しているのだろう。井上さんを長い時間、車で待機させるわけには行かないと思い、俺は目的地に閖華さんを連れて行くことにした。藤馬さんに会うようなことがないように。
「ところで、つきしまさんは凜華のことをどう思っているの?」
よし、敬語じゃなくなっている。この調子で溶け込んでくれると助かるな。
気を使わなくてすむ。
「簡潔にいうと、妹みたいな存在かな?」
「いもうと?」
「ほっとけない感じがするでしょ?世話をしたくなるんだよ」
兄心がうずく。といっても俺は弟や妹なんていないのだが。
「そうですか。異性としては魅力がないと?」
クスクス笑いながら閖華さんは俺に問う。なるほど、そのことが知りたいのか。
「そうだね。彼女小さいし、何を考えているのかわからないところもあるし。でも守ってあげたいなという気持ちはあるよ。もっと楽しいを知ってほしい」俺は少し嘘を交えた。
「つきしまサンは、凜華のコト確か知ってるはずですよね? なぜそんなことするんですか? 凜華がまたしでかすかもしれないのに」
またしでかす? それはあの十数年前の山火事のことを言っているのだろうか。
「あの子は神の子よ? それも知っていますよね? それでも貴方は凜華に楽しいを教えたいのですか?」
教えたらどうなるのかなんてわからない。実際藤馬さんの力をこの目で見たわけではない。
目で見たことある閖華さんのほうが危険だということを知っている。
でも、それでも、俺は・・・。
「笑ってほしいと思うよ」俺は閖華さんに笑って答える。負ける訳にはいかない。藤馬さんを縛っているものから俺は逃げたりしない。
「そう。アタシは今も許していないわ。あの子のせいでお母様とお父様をなくしたの。だから許さない。あの子ばかりいい思いなんてさせない」
そんなわけない。藤馬さんだけいい思いなんてしているわけない。俺は思う。藤馬さんの産まれてから今までの人生すべてを考えた。俺が藤馬さんのような人生だったらどうだっただろう。感情をださずに生きる道を果たして選んだだろうか。いや、俺はまず自殺を考える。人の命を奪った上、変な力を持ち合わせている。特別な力があるだけで、俺は生きていこうという気力はない。藤馬家のように死ぬまで幽閉でも構わない。だけど、そんな状況下でも藤馬さんは生きていてこうして学校にきている。感情をすべて捨てたということはそういうことなのだろう。すべての喜怒哀楽を感じない人間を選んだんだ。
俺には到底無理だ。それを俺は尊敬する。だけど閖華さんは
「閖華さんは嫌いなんですか?藤馬さんのことを」
「嫌いよ」
はっきりいう。
「両親を自分から奪ったから?」
「そうよ。アタシ本当は・・・」
閖華さんは両手で口を覆った。この仕草は藤馬さんもよくする仕草だ。
「どうしたの?」
「なんでもない。なぜ貴方にそのようなことを言わなければならないのか、留めただけよ」
本当のことを言おうとしたのだろう。もしくは言い過ぎるのを止めた?藤馬さんがその仕草をするときは大抵そういう時だ。
「ふーん。あ、そろそろ校庭だ。葉月先輩のライブが始まる」
「それより、凜華に会いたいのだけど」
「あとで俺のクラスまで案内するよ」
校庭には野外ステージにパイプ椅子が50席ほど用意されていた。どうやら生徒会が手配したらしい。放送部と演劇部、軽音部と部活の部員にステージ準備をさせている。そのメンバーはみな黒いTシャツで後ろに「STAFF」の白い文字が書いてあった。なんだ、この本格的裏方メンバーは?
バンドのギター、ベーズ、ドラムの人たちが音調整をしている。リハーサルみたいなものか。
あとはボーカルのお出ましだ。バンドたちの音が本格的に響く。観客もだんだん増えて、ファンらしき人たちは前列を確保して手拍子をしながら先輩の名前を叫んでいた。バンドたちの音が一瞬静かになり、先輩の声が聞こえる。
「さぁ、ショータイムのはじまりだー!!」
その声を合図に一曲目が始まった。
激しいロック調の歌。どうやらオリジナルらしい。
「高校生でこんなことできるのか」
「めずかしい?葉月はバンドボーカルを夢見ているみたいよ」
正直圧倒した。うますぎるでしょ。秋音ねぇが推していたのもわかる。だんだん観客が増える。その中に俺の知る美人が歩いているのに気づいた。
「あ、春生ねぇ」そういったあとすぐに気づいた。
春生ねぇの横には秋音ねぇと藤馬さんがいた。
まずい。こんなところを見られるわけには行かない。
「何か?」
「ううん、なんでもない」なんとか誤魔化す。
「あんなに歌がうまくなったてたのね」そうつぶやいた閖華さんは普通の女子だった。
その姿を見て俺は思う。こんな宿命の中、産まれてきたこの二人はもっと平凡で普通の生活がしたかっただろう。学校にいって友達を作ったり、時には先生に怒られて、時には友達と喧嘩して、好きな異性の話で盛り上がって、恋をして。俺にはできることをこの二人はできないんだ。だったらこの時間はたとえ藤馬の次期当主でも楽しんでもらおう。
俺達の通う学校の祭りを楽しんで貰おう。
「さて、凜華に会わせなさい」
俺の方をみて閖華さんがいう。俺は降参して俺の教室へと案内する。藤馬さんはきっとまだライブを聞いているだろう。
「ところで、閖華さんはプリンすき?」
「は?」バカにしているのかと言わんばかりの返事をされてしまった。双子なら好きな食べ物が同じだという固定概念が先走ってしまった。
「好きに決まってるでしょ」あ、やっぱり双子だった。
「俺達のクラスの模擬店がプリン専門カフェなんだよね。気に入ってくれると嬉しいなと思って」
「なるほど。それは凜華の案?」
「そう。俺が賛同した。藤馬さんには楽しんでほしくてね。君は嫌がるだろうけど」
「ふふふ、つきしまさん。アタシのこと分かってきたみたいですね。アタシは凜華のすることなにもかも気に食わないわ。だってそれはアタシも・・・」
また両手を口で塞いだ。先程と同じ仕草だ。
「アタシも? 何?」
「な、なんでもない」どうやら機嫌を損ねたみたいだ。その後会話がなく俺の教室へと到着した。
「月島くんおっそーい・・・え、またナンパしてきたの?」
柏木さんがテーブルの上にあるお皿を片付けながら俺にいう。
「またってなんだまたって。藤馬さんは?」
「まだ春生さんの案内していると思うよ~まだ帰ってきてないし」
「凜華、いないの?」
俺に睨まれても・・・。
「それより月島くん、この人は?」
「あ、このひとは・・・・」
「アタシは藤馬の次期当主、藤馬閖華。凜華の双子の姉です」
食い気味にそしてしとやかに挨拶をした。クラスの奴らが一瞬にして静かになった。
あ、なるほど、藤馬さんの転入初日の期待はこの反応が正しかったのかもしれないな。
「私、クラスメイトで友達の柏木暦美です。よろしく」
柏木さんは右手を差し出し握手を求めた。だが、閖華さんは握手をしなかった。
「あ、凜華ちゃん、呼びましょうか?」
「いえ、結構よ。つきしまサンと探して回ります」
あれ、俺気に入られてる? 逆に柏木さんに対しては敵対している?
「そう、ですか。ならプリンアラモード食べていってください」
そういって柏木さんはプリンアラモードの準備をしにいった。
「あの子、凜華の友たちなの? 何様よ。あの子に好意を抱くなんて」
なんだろう。すこし閖華さんのことが分かってきた。
「まぁまぁプリン食べていってよ。俺のツケでいいから」
閖華さんに席を案内し、座ってもらった。クラスのみんながザワザワとざわついている。でもその声をきいた閖華さんは少し睨みつけて「何か?」と答え、みんな恐れて近づかなかった。俺は閖華さんの真正面に座る。
「何故貴方がアタシの前に座るのですか?」
睨まれた。俺は藤馬家の人に睨まれる宿命なのだろうか。
「いいじゃん。こんな機会ないでしょ?」
自分で言っておきながらどんな機会だよ。むしろ俺にとってこんな機会はない。
藤馬さんから聞いていた閖華さんの印象は怖いイメージしかなかった。何か一言いうとそれに対して冷水のごとく返してくるイメージだった。文化祭に来ると聞いたときは疑った。
で、実際ここに来てみた時思った印象は、大人びた服装と雰囲気ながら表情と話し方は俺達と同じ16歳だった。だからなのか、だんだん緊張がとけて藤馬さんと話ている気分になる。
「おまたせしましたっ♪」柏木さんがプリンアラモードを持ってきてくれた。
「ありがとう。閖華さん、どうぞ」そういって閖華さんを見た。
あぁこの表情知っている。たしか藤馬さんがしていた表情だ。
「いただきます」俺はその食べている姿をずっと見ていた。目が合うと睨まれた。
すごく嬉しそうに食べていて俺は連れてきて良かったと思った。
「お、来ていたんだな。閖華」模擬店の様子を見に担任が教室に入ってきた。
「叔父様。何してるんですか。凜華がいません」
最後の一口を食べてフキンで口周りを吹いたあと、そう告げた。
「ホントだ。月島、凜華は?」
「俺の姉に校内案内している」
「貴方のお姉様もきているの?」
やばい、閖華さんが興味をもった顔をしている。
「う、うん。」
「それは一石二鳥だわ。早速探しにいきましょう」
「お、おい!!」
俺は閖華さんに腕を引っ張られて教室をでた。
「なんだ。仲良くやってんじゃん、月島」関心しながら
先生はいう。
「ていうか先生って藤馬親族の方なんですね~」
「柏木、なぜわかった!」
「ゆりかさんが叔父様って言ってました。ので」
「このことは秘密な」
***
美少女に腕を引っ張られて廊下を走る。これ以上ないシチュエーションだ。俺のクラスの漫研のやつがガン見している。
「月島!あとで詳しく教えろー!」という声を放った。何を教えろというのだ。
閖華さん、ヒールの靴なのによく走る。このイメージもまったくなかった。髪の毛からいい匂いもする。これがみんなの言うお嬢様だと思う。
「で、どこに凜華はいるの?」
走りながら俺に聞く。目的地を知らずに走っていたのか。
「俺に聞くなよ。ていうか走るのやめないか」
息が切れている。結構走ったと思う。俺たちは走るのを止めて息を整えた。
「こんなに、走ったの、何年ぶりかしら」
髪の毛が乱れていて少し手で直しながら閖華さんはいう。
「さっき、葉月先輩のライブの時実は見かけたから、校庭に行けば会えると思う」
「なら、行くわよ」また走ろうとする。
「待て待て、君はこの学校の構図を知らないでしょ? この先の階段を降りたら下駄箱だからそこから行こう」
今度は俺が閖華さんの腕を手に握り返して俺が先にでる。
「あ、あの、手を握らなくても大丈夫」
「だめ、こんな祭りのときは迷子になるから」
閖華さんの手が少し温かい。緊張? しているように思えた。
「こんなこと、あの人ですらされたことないのに」ほぞっという。
「何?」
「なんでもない。早く凜華のところへ」
井上さんの気持ちがわからなくもない気持ちになった。
校庭に戻ったら葉月先輩のライブは終盤にかかっていた。
先程より観客が多くなっている。この中から姉貴たちを探すのは困難か。
「まって、アタシが探す」どうやって?!
「あ、あそこ」閖華さんが指を指した先には春生ねぇと秋音ねぇの姿が
見えた。ということはそこに藤馬さんもいる。
閖華さんはそこへコツコツと歩いて行く。
俺は大丈夫だったが、藤馬さんは別だ。くるというだけで緊張していたんだ。
会うには心の準備がいるだろう。
「お、おい!!」
俺は閖華さんのあとを追う。
「凜華、みつけた」そういって閖華さんは藤馬さんの腕をぐいっとひっぱり人混みから抜け出す。
「ゆ、閖華・・・」
「藤馬さん!!」
ドッドッと心臓の音がなる。
葉月先輩の歌が更にヒートアップしている。
会場の雰囲気とこの状況がマッチしていて、俺は少し興奮した。
「会いにきたわよ、凜華」
ひやっとした笑みと血の気の引いた顔が2つ、並んだ。




