第12話 文化祭②
どうぞよしなに~
本日、文化祭二日目。
今日は春生ねぇが来るとのこと。
昨夜の月島家のリビングにて。
「明日、土曜日だし、バイトもないからお邪魔しようかしら」
「きてきて!凜華ちゃんめちゃんこかわいいから!」
「そうだな、めちゃくそかわいい」
「そうなの? なつ、べた惚れじゃない」
「だってかわいいんだもん」
「ふーん」
「え、なに?」
「秋音、私明日絶対行くわ。案内して」
「あいあいさー!」
というわけで春生ねぇは来ることになった。というかたくらみの笑みを浮かべていたのを俺は忘れていない。
今日は猫耳、白いカッターシャツに蝶ネクタイを付けている。藤馬さんは昨日と同じ衣装だった。
「今日は猫さん、なんですね」ちらちらと俺を見る。
「な、なんだよ」
「いえ、別に。しっぽつければいいのに」
しっぽつけたら猫化してしまう!!それこそ春生ねぇにからかわれてしまう!!
「よし、今日もチラシ配りするぞ」
本日二日目も俺たちは見回り兼チラシ配りという名の客引きに繰り出した。
「え、春生さん、くるんですか?」
「うん。もうすぐかな?秋音ねぇが案内するっていってた」
藤馬さんが少し怯えている。
「どうしたの?」
「つ、月島さん家の三兄弟がそろうの見るのは初めてで緊張します」
なんで緊張する必要性が?
「あの、春生さんはなんで違う高校に?」
「あー、あの人、女の子好きだから。あと頭いいのもあるし」
「爆弾発言ではありませんかそれ」
俺には普通なのだが。俺は首をかしげる。
「そういう藤馬さんは、どうなの? 閖華さん、いつ来るの?」
「へぅい!」
なんちゅう声出してんだ?
「あ、あああああの、その、わ、わかりません。来るとなればじいじから連絡が来ると思います。今のところありませんが」
一般客の出入りは昨日と今日の二日間になる。
なのでくるとすれば今日になる。俺は少し心構えている。
「でも、今日中には来るだろうね」
「は、はい」
本当のところは来てほしくないのだろう。でも俺は閖華さんにも楽しいを知ってほしいと思う。まだしっかり話をしていないけれど。きっと藤馬さんと同じ気持ちだと思う。
***
ピンポンパンポーン
『あー、ゴホン。みんなーもりあがってるかー!今日、昼14時から校庭で俺の一年に一度のライブを開催しまーす!ぜひききにきてねー!』
ピンポンパンポーン
この放送した主はあの人に違いない。
「あの先輩、本当に歌うんですね」
「みたいだな」
俺たちの周りで女子たちがキャッキャいう。
それまでになんとしてでも客引きをしなければならないと思い俺たちは必死にチラシを配る。
「おねがいします!おいしいですよ」
そういってチラシを渡した人は、俺のよく知る人だった。
「そうね、なつのお願いなら行きましょうか。ふふふ」
黒い長髪をなびかせてやってきた美少女は俺の姉だ。
「は、春生ねぇ!」
「あらあら、かわいいネコ耳。かわいいわよーしよし」
頭をなでる。やめてくれ、頼む、藤馬さんの前ではやめてくれ。
「は、春生さん。こんにちは」
「あらあらあらあらあらあら」
春生ねぇの声色が変わった。やばい、ロックオンした。
「なにこの可愛い生き物。この衣装のチョイスをしたのはだれ?」
「クラスのみなさんですが」
怯えている。藤馬さんがおびえている。
「秋音と連絡とれないから、あなたたち案内してよ」
「わかったよ」
そういって俺たちは春生ねぇを俺たちの教室へ案内する。
その道中、生徒たちがざわついていた。
まるで芸能人がやってきたかのような反応をしている。
「私、何かおかしいのかしら」
「美人すぎるからだろ」
「あら? なつからそんな言葉がきけるなんて、うれしいわ」
クスクス笑う。楽しんでいるみたいで何よりだ。
「ここだよ」
「いらっしゃいませ~・・・春生さんじゃないですか!」
「こんにちは、暦美さん。来たわよ」ニコリと笑う。
クラスがざわつく。
「だ、誰だよ」「美人キター」「すげー美人」「モデルさん?」
いろんな言葉が飛び交う
「春生ねぇ、こっち。柏木さん、ティラミスお願い」
「了解~♪」
「あら、ティラミスあるの? さすがだわ。ぷりんだけかとおもったら」
「ぶりんだけだと来ないからちゃんとサイドメニューだしてるんだよ」
俺たちの会話をしている周りでみんなが驚いた顔をしている。
「お、おまえら兄弟なのかよ・・・」
「嘘だろ?」
そんなに驚かなくてもいいのでは?
「ご挨拶遅れました。私、月島春生、夏貴と秋音の姉です」
サラっと髪がなびく。シャンプーのCMか?
「うおおおおおおお!!!」クラスの男子の雄たけびが教室内で響く。
噂をきいたほかのクラスの奴らものぞきに来る。
「ふふふ、お手柔らかに」ニコリと笑う。これはたくらみ笑みだ。
「春生さん、めちゃ人気ですね~はい、ティラミスでございます」
「ありがとう、暦美さん。御代金はなつからもらってね」
そういってティラミスを食す。
一瞬にしてクラスの人気者になった春生ねぇはわが模擬店の看板娘になってくれた。
「長居はできないから、少し回るわ。秋音のところにも行きたいし」
「大丈夫か?迷子にならない?」
「うーん、少し不安だから、藤馬さん借りてもいいかしら?」
「え?!」
「大丈夫よ、たべたりしないから」ニコリと笑う。
「藤馬さん、大丈夫?」
「は、はははははい」断れば何かされるかのほうが怖いと悟ったのだろう。
「では、借りていくわね」
「何かあれば連絡ください」
そういって二人は教室を後にした。
「あーあ。お姉さまにとられちゃったね、月島くん」
「ほんとだよ~今日も一日一緒にいれると思ったのに」
「あれ?あれれ?どうしたの?月島くん、もしかして~?」
「な、なんだよ」
「ううん。べっつにー」こちらもニコリとたくらみ笑み。
俺の周りの女子たちは侮れない。本当に。
「一人じゃさみしいだろうから、接客やってよ。月島くんもそれなりにかっこいいんだから、お客さんはいってくると思うよ!」俺のどこがかっこいいのだろうか、わからん。
「実はあそこのお客さん、月島くんがかっこいいからって来てるみたいよ?」
「はいはい」
俺は接客役に変わった。
***
「どう? 文化祭は楽しいかしら?」
「え、あ、はい。楽しんでいます」
私は怯えながら答える。春生さんはどこか心の中を見透かされている気がする。
「そんなに怯えなくても食べちゃわないわよ。かわいいけど」
いや、今にも食べられそうだ。
「ねぇ、藤馬さんはなつのことどう思う?」
「そうですね。優しい人です。でも寂しい人だと思います」
「どうして?」
「彼、私に話してくれました。お母さんのこと。私も両親を小さいころなくしてしまったので、気持ちがわかります。ただ、私は、その、特別な人間なので、月島さんとは違いますが」
「あの子、お母さんの話、したのね」
春生さんは嬉しそうに笑った。
「私たちの中でお母さんの話題はタブーだったの。もう、あんななつを見たくなくて、話しにださなかった。でもあなたにあって少し変わったわ。あの子がいま頑張っているのはあなたのおかげね」春生さんはニッコリと微笑んだ。
月島さんから過去の話はきいていたつもりだった。でもその本心、奥のほうまでは聞けていない気がした。本当はすごく辛かったに違いない。
「私も月島さんがいてくれたから変われたことあります。現にこうして他人と関わっている。本当はすべての感情を捨てて最期まで生きようと決めていたんですが」
月島さんに出会った。
月島さんの優しさを知った。
それ以外の人たちの暖かさをしった。
私はもう、知らない間に戻れないところまできていた。
「そうね。それはもう運命の赤い糸でつながっているからなのかもしれないわね」
春生さんは右の小指を立てて、ニコリと笑いながらいう。
「い、いいいいいいえいえいえそんなことありませんんんんん」
動揺してしまう。そんなこと許されないことだ。
「ふふふ、半分冗談よ。」
春生さんは楽しそうだ。私の気持ち、きっと見抜かれている。
「あっ春生ねぇと凜華ちゃんだー!」
私たちの前から元気よく右手を上に左右振りながら走ってきたのは秋音さんだ。
「秋音、遅いわよ。もうなつの店いってきた」
「どう?どう?かわいかったっしょ、なっくんの衣装」秋音さんはにこにこしている。
「えぇ、ひそかに写真撮ってきたわ。後でなつをからかうの」
二人ともお姉さんの顔をしている。月島さんは愛されているんだな。
キョウダイって多分こういう関係なんだと思う。私には眩しすぎる。
「で、藤馬さんもひそかに写真撮ったわ。あぁ可愛い」
「春生ねぇ、たべないでよ?」
月島家では春生さんが女の子を食べてしまうという決まりでもあるのだろうか。
「食べないわよ。それより、案内してよ秋音」
「了解~」
そして女三人で校内を回ることになった。
ピンポンパンポーン
『みなさーんそろそろ藤馬葉月による有志ライブはじまりまーすぬ!校庭の特設ステージまでおこしくださーい』
ピンポンパンポーン
「藤馬葉月? 藤馬さんの親戚かしら?」
突然の校内放送で、私たちは足を止める。
「はい。あ、でも私はよく知らない人です」
「春生ねぇ、この人、めちゃ歌うまいよ!ききにいこうよ!」
「そうね。気になるわあのテンション」どうやら春生さんの興味対象になったみたいだ。
私たちは校庭へと足を運んだ。
***
「はい、もしもし。もう着きますか?迎えに行きますよ。あ、そろそろ葉月のライブも始まるので、聞いていかれるといいですよ」
電話をしているのは俺の担任で、電話の相手はきっと閖華さんだ。
「先生、もしかして閖華さんですか?」
「さすが月島。ご名答。そうだ、お前に頼もうかな。俺は少々忙しいので」
「ん?」
「閖華を迎えに行ってくれ。井上さんが連れてきていると思うから」
「わかりました」すこし心構えをする。
「なーに、閖華自身はそんな怖い奴じゃあない。なんていうか、ただ素直すぎるだけ。凜華に感情がないのに対して閖華は感情がありすぎるというところだ」
先生なりのフォローなのだろう。俺もそれは思っていた。
「はい、ありがとうございます」
俺はネコ耳だけ外し、校門のほうへ向かう。
葉月先輩のライブまであと10分。




