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第11話 文化祭①

さぁ、文化祭、開催です!!


「藤馬さん、いくよ」


頭にはウサ耳をつけて白いカッターシャツに黒いズボン。右腕には「見回り係」と書かれた腕章をつけているのは俺、月島夏貴だ。

本日、文化祭一日目。

この日まで着々と準備してきただけあって、クラスのみんなはテンションが上がっている。

なんせ、この模擬店の三日間の売上がいいクラスは焼肉券という裏賞品がいただける。

公にはしていない(生徒会から話はない)もので、この賞品の出所は理事長からだとかそうではないとか。

そんなことより、俺たちは今日見回り兼客引きをしなければならない。

50枚ほどのチラシをもって俺たちは教室の廊下にいる。

「あの、この格好は、どうかと思うんです」

俺に対して藤馬さんは女性だ。衣装はクラスの女子が凝って決めたものになっている。

不思議の国のアリスをモチーフとして藤馬さんは着ている衣装は水色のメイド服、白と黒の縞模様のニーハイ。靴はショートブーツ。なかなかかわいらしい。某夢の国のお姫様の衣装をきた子供のように見えた。でもそれを言うと怒るだろうから言わないでおく。

もちろん藤馬さんの頭にもカチューシャはつけられていた。

動物ではなく、大きな赤いリボンのカチューシャだ。

「めちゃくちゃかわいいけどな~」

そういうと藤馬さんの顔が赤くなる。

「そ、そういうのは、いい。早く配りましょう」

「そうだよ~月島くんはナイト様なんだから、かわいい藤馬さんが襲われないように見張るのも仕事だよ~」そういうのは柏木さん。柏木さんは店内の接客役だ。

「わかってるよ。ていうか柏木さんもなかなか」

そういってあまたからつま先までみる。藤馬さんと同じアリス風の衣装。でも身長の違いと髪の毛の長さでこんなにも違うものなのか。

「はいはいいいから! 私のことはいいから!」そういって両手で俺たちを押す。

「いってきます。柏木さん」

「いっぱい宣伝してきてねっ」

そう見送られて俺たちはチラシ配りに出た。

「このチラシ、クラスの男子が作成したらしいです」

俺たちのクラスの模擬店宣伝チラシは絵の得意な男子が率先して作ったらしい。

「あぁあの漫研のやつらだろ?すごいよな」

「はい。最近の人はこんなにうまく絵が描けるんですね」

内容はこうだ。

『1年B組 喫茶ぷるんぷりん』というタイトルに周りに風船がちりばめられている。

アリスとウサギの絵もあるのだが、これはどこぞのライトノベルの表紙の絵ではないか?というぐらいの高クオリティ。これを男子がしかも俺のクラスのやつらが書いたと言ったらみんな驚くだろうというほどの出来だ。しかもパソコンでかいているらしい。

「そいつらに聞いたんだが、なんだっけ液タブ? を買ったから試しに描いてみたんだって。にしてもすごいよな~どうやって描くんだろうな」

俺は絵をかくのが苦手だ。ましてや人物はもっとも苦手。頭を描いてそのあと体を描こうするとバランスが全然取れず二頭身になってしまう。

「あ、液タブ、知ってます。私少し興味ありました。絵はそれなりに描けるのですが」

かけるのか?

「どうも私が絵を描くと、黒や紫といった暗い色が多くなってしまって」

やばい、それはひどい。

「だんだん心が暗くなるので、やめましたけど」

「どんな絵を描くのか俺は興味あるな~。今度描いてみてよ」

「・・・はい」

少し間があった。なんだろう?

「あ、プリンのお店よかったらどうぞ」藤馬さんが通りすがりの一般客にチラシを渡す。

「こちらよろしかったら来てください。割引券もついてます」ほかの人にも渡す。

先ほどの話を紛らわしている? 深入りするなってことかな?

そう思い、俺もチラシを配る。

運動場にでて、屋台村になっているところもチラシを配る。見回りもついでに。

「あっれーー? お二人ともいらっしゃーい」

この陽気な感じの声は。こないだ俺をにらみつけていた赤紫の短髪先輩ではないか?

「あなたは・・・」藤馬さんが一歩下がり俺の後ろに隠れた。

「凜華ちゃん、かっわいいー! 写メとっていい?」

ポケットからスマホを取り出して撮ろうとする。

「先輩、嫌がってますから」

「いいじゃん~親戚のよしみで~」

俺の話きいちゃいない。しつこいから本気で止めようとしたら

「はーい、ストップ! 葉月、仕事仕事ー!」と先輩の腕をつかんだのは先輩のクラスの女子だった。

「えーー?」

「えー? じゃない! 葉月はうちの看板なんだからっ」

「藤馬ってだけで客がくるだけだろ~?」

「それだけじゃないから~はやく持ち場にもどって!」

「ん~~、しゃーないなー。ほんじゃ凜華ちゃんに月島くん! 今度はお客としておいでね~あ、凜華ちゃんは例の券、ちゃんとつかってね♪」

そういって自分の屋台へと戻っていった。

「なんだったんだ、あの人」

「月島さん、知り合いだったんですね」

そういって俺の後ろから藤馬さんが出てきて俺を見る。

「こないだ、茶化された。名前聞いてびっくりしたけど」

「はい。私あの人、嫌いです」

藤馬さんが俺の服の袖をぎゅっと握る。本当に子どもみたいだ。

いますぐにでも頭を撫でたいが、大きな赤いリボンが邪魔をしている。

「あの人には注意してたほうがいいな。俺まで監視しているらしいから」

「やっぱりそうなんですね。すみません。月島さんまで巻き込むつもりはなかったんですが」

「いや、いいよ。俺は大丈夫。それより藤馬さんのほうが心配だから」

「私、ですか?」

「あの先輩はなんか危険なにおいがする」俺の嗅覚は犬クラスだ。

というのは冗談で、勘はいいほうだと思う。本当に危険な気がする。

俺たちはそのあと屋台村を一周してチラシを配り歩いた。

だいぶチラシもなくなってきて時計をみると13時だった。


「お疲れ様二人とも~」

教室に戻ったら柏木さんが出迎えてくれた。

「どう? 売れ行きのほうは?」

「うーん、ぼちぼちかな? 月島くんたちのチラシ効果もあるよ! 割引券もってくるお客さん結構いたし」

俺たちの配っていたチラシにはドリンク一杯無料券がついていた。その効果もあるらしい。

「私は休憩とったけど二人まだだよね? とっておいで」

「そうだね。休憩にしようか藤馬さん」

「はい」

俺たちはいったん衣装を着替えていつもの制服に着替えなおした。

「藤馬さん、どっかまわりたいところある?」

「特に」

「おなかすいたし、屋台村いってみる?」

「そうですね、そういえばあの先輩からこんなのもらってました」

藤馬さんのポケットから紙切れが出てきた。

「超絶うまい焼きそば一皿無料券?」

「先輩の屋台でだしているものだと思います」

そういいながら俺たちは屋台村へと歩いていると前から聞き覚えのある声がした。

「あれ~なっくんと凜華ちゃんじゃーん!」

「あ、秋音さん。こんにちは」

「こんにちわー!どうよ? あなたたちのお店は? 繁盛してる?」

「ぼちぼちかな? いま休憩とってるところ。秋音ねぇは?」

「私もおなかすいたから屋台村にいこうかなーと考えているところ」

そういって秋音ねぇの右手にはどこかの屋台のチケットがある。

「それどこの屋台の?」

「あ、葉月先輩のところの! 超絶うまいたこ焼き一皿無料券だよー!」

な、なんだって?

「どうして秋音さんがそれを?」

「いやー、さっき腕相撲グランプリの女子の部で優勝しちゃって~賞品がこれ」

なるほど。

「なんでしたら一緒に行きましょう」

「あれれ? 凜華ちゃんも超絶うまい屋台の無料券もってる!」

「秋音ねぇ。あの人、葉月先輩は藤馬の人だよ」

そう伝えると驚いた顔をして、そのあと納得した顔になった。

「なるほどね。親戚だからもらったというわけか。うまいな~」

客引きのテクを秋音ねぇはほめていた。


***


屋台村に着いた。

さすが看板の人、藤馬葉月先輩は頭にタオルを巻いて、まじめに焼きそばを焼いている。

「葉月せんぱーい、きましたよー!」

「おお、秋音ちゃんじゃん♪ いらっしゃーい」

おいおい、顔見知りかよっ!

「凜華ちゃんと弟つれてきたよー!」

「あ、そうか、秋音ちゃんの弟くんだったね、月島くんは」

知っていただろうに、なんだその言い方は。

「先輩からもらった例の券を使いに来ました」

「ありがとうー秋音ちゃん! おや? たこ焼き券ってことは腕相撲勝ったのかい?」

「もちのろんです!」そういって先輩に秋音ねぇは無料券を渡す。

「ほら、凜華ちゃんもだすだす!」先輩は右の手のひらを上にして前に出す。

「・・・」おそるおそる藤馬さんは無料券を先輩に渡した。

「今から作るからちょいその辺でまっててよ」

「はーい」

少し離れたとこに屋台村用のイートインコーナーがあったので俺たちはそこに座って待つことにした。

「ところで、なんで秋音ねぇは葉月先輩しってるの?あの人、有名なの?」

俺の横に座る藤馬さんのうなづきながら興味を持っている

「先輩、めちゃ歌がうまくてね。去年、有志バンドでライブやったんだよ~今年もすると思うけどめちゃもりあがってね♪」

なるほど、それでどの学年からの女子からも好かれているわけか。

先輩の屋台の周りには女子がたくさんやってきている。

先ほどのクラスの女子が先輩のことを看板だと言っていたのがわかる気がする。

「そういわれると照れるな~♪」そういいながら俺たちの注文したものを持ってきてくれた。男の俺がみてもイケメンだ。願わくばこんな先輩に俺はなりたい。ただし外見だけ。

「ていうか、先輩はなんで姉のことしってるんですか?」

「は? お前、姉貴の人気度しらねーの?」

知りたくないわい。

「そんなに人気だったんですか?」藤馬さんが驚く。

「そりゃーこんな美人で運動神経抜群で、男女問わず友達が多い女子なんて、だれがほっとくよ?」

おいおい、先輩それはほめすぎだ。

「は、葉月先輩そんなことないですよわたし!」意外にも動揺している。

「三年の男子にも結構人気あるもんなー。来年あたり生徒会長するんじゃない?」

なんだろう、俺の家系はそういう遺伝子でもあるのか?

「と、とりあえずいただきます!」秋音ねぇの顔が赤い。

「あははは、ごゆっくり」

そういって自分の屋台へと先輩は戻っていった。

「あの人、よくわかりません」藤馬さんがいう。

確かによくわからない人だ。人のことをよく見ているようなのにどこか小ばかにしているところもある。つかめない人だ。


食べ終わった後、秋音ねぇは自分のクラスの様子をみに帰るといって先に席を外した。

俺たちはまだ時間があるので、ほかのクラスの模擬店を回った

「本当にスゴイですね。文化祭」

田舎から都会に出てきた子みたいな反応で校内の隅から隅までを見渡す。

まるで目に焼き付けておこうといわんばかりに。

「祭り、だからね。でも藤馬さん、あと二日あるんだよ?」

「そうでした。今日で終わりではありませんね」クスっと笑う。

いつにもまして可愛い。気づいたら頭をわしゃわしゃしていた。

「な、なんですか?!」

「いや、今日の藤馬さんは本当に可愛いなって」

俺はにこにこしながらさらにわしゃわしゃする。

「か、かわいくない」

顔が赤くなる。まるでゆでだこだ。

「あははは、ごめんごめん」

「謝る気ないくせに」そういって頬を膨らます。

もう本当に可愛いんだから~

そんなイチャコラタイムはすぐに終わってしまった。

教室にもどりまた衣装に着替える。後半のチラシ配りだ。


午前中同様、今度は校門付近で配ることにした。

100枚刷っていたチラシはすべて配り終えた。

一日目の売り上げは予算達成していたとのこと。

途中でサイドメニューの焼きプリンが在庫切れする事態になってしまうほどだ。

そして一日目が終わる。



「楽しかったね、藤馬さん」

「はい。明日も、ですよね」

そういって藤馬さんが笑う。今までにみたことない可愛い笑顔だった。


明日もその笑顔が見れたらいいなと、思いながら俺たちは帰宅した。


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