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第10話ー2 パンドラの箱

この回は凜華視点での話しになります。番外編みたいなものです。

絶対とか永遠とか、なんで信じてしまうのだろう。

そもそもそんなものなど存在しないのに、いつかは終わるし無くなるものだし。

それなのに人間はどうして絶対や永遠を信じてしまうのだろう。


そんなこと信じながら生きるのは辛いと思った。


思っていたはずなのに。


帰りはいつものどおりじいじの運転で帰った。

元気がないようにみえたのだろう、じいじは何回かバックミラーで私のことを見ていた。

家に着き、無言で車から降りる。じいじは何も言わなかった。

部屋に着き、制服から私服に着替える。

自分でも今日の自分がおかしいことはわかる。それより月島さんのほうがおかしかった。いつものように会話をしていたはずなのに、急に様子がおかしくなって教室をでてって、追いついたとき月島さんは私のほうを見てくれていなかった。

それをさみしく感じてしまった。

相手にされなかったからだろうか。私のことを見てくれなかったからだろうか。

月島さんの優しさに甘えていたからだろうか。


ワタシハキモチニフタヲスル


彼を最初は軟派な方だと思った。

こんな無表情な感情の欠落した女など、誰が興味をもつだろう。

でも彼はそんなことを気にせず私の話を聞いてくれた。

むしろ楽しんでほしいとすら言っていた。

この私に楽しいという感情を教えようとしていた。

そんなことしなくてもいいと言っているのに。

離れていくと思ったのに。

彼はそれでも私といてくれる。

「優しい人は、だめだ」

私の近くに優しい人はいらない。

いてはいけない。

だから、今のうちに、文化祭が終わるまでには

彼らの思い通りに接しよう。

文化祭が終われば元に戻ろう。


ワタシハキモチニフタヲシタ


食事の時間が来たと付き人が呼びにきたのでダイニングルームへと向かう。

「凜華様、最近学校は楽しいですか?」

付き人がそう聞く。

「特に」

「そうですか?楽しそうに見えますが?」

楽しそうに見えているのか? これが?

「それは間違いだ。私は何も変わらない」

もしそう見えているのなら直さなければ。あの子に悟られないように。


藤馬家のダイニングルームは洋室だ。約5mほどの長い高級な机に高級な椅子が左右に8脚ある。

私の定位置は右側の一番端。その反対側は閖華の席だ。

「凜華、学校はたのしい?」

「別に」

「そう?文化祭を楽しんでいるように聞いているのだけれど」

「それは、クラスのみんなのことで私は特に楽しんでなどいない」

「ふふふ、凜華は嘘が下手ね。顔にでてるわよ?」

思わず両手で顔を触った。いつもと何が違うというのだ?

「楽しいのね? それはつきしまサンがいるから?」

「そんなわけない!」顔を触っていた両手で机を叩く。

「ふふふ、どうしたの? そんなムキになって?」

「ごめん」ふと、我に戻る。

私が一番怖いのは閖華に悟られることだ。

悟られて周りに被害がいくのが一番いやだ。

「私もつきしまさんと話がしたいわ。こないだゆっくり話せなかったし」

ごくりと唾をのむ。閖華の目が怖い。何か企んでいる顔だ。

「ねぇ、凜華。私、文化祭にいってもいいかしら?」

そういうと思って私は覚悟を決めていう。

「いいよ」

これが吉と出るか凶と出るか、月島さん次第なのかもしれない。

私には何もできない。できることは月島さんたちに被害がないようにすることぐらい。

「ふふふ、案外素直ね凜華。ありがとう楽しみだわ」

閖華にとって外の人間に会うのは何年ぶりだろう。私同様、藤馬の屋敷の外からは用がない限りでたことはない。こないだ私を迎えに来たのは稀なことだった。

本当に楽しそうに閖華は運ばれた食事を口にする。

私は当日どうなるのか不安で食べ物がのどを通らない。


昔はこんなに険悪ではなかった。

私が神の子だと分かってから、両親が私を可愛がっていたころだと思う。

閖華が突然私に対していじわるを仕掛けてくるようになった。

気に留めてほしかったのか、私のことが気に食わなかったのかわからない。

それがきっかけで私たちは両親を失った。

あの日、閖華は体の水分を全て涙で流したのではないかというぐらい泣いていた。

泣いて泣いて声がでなくなるほど泣いていた。

私はそれを見ていることしかできず、そのあと私は屋敷の中でも誰も立ち寄ろうとしない奥の部屋へと幽閉された。

その間は閖華と会うことはなかったが、閖華が次期当主となることが決定したとき、私のいる部屋へお付きの人とやってきて教えてくれた。

「凜華、あなたは16歳までここで暮らすの。御爺様からの伝言よ」

何年振りかにみた閖華は白くて細い、髪の毛も手入れが行き届いていない、まるで幽霊のよなう少女になっていた。

それからは時々私の部屋にきて、あの時の話を聞かされた。

「凜華が悪いのよ」「あなたが神の力を使ったから」

「あなたはもうここから出てはいけないの」

「楽しいこともうれしいこともあなたには教えてあげない」

まるで呪いをかけられているかのような錯覚になって、閖華の言うことが本当のことのように思えてきて、私は感情を抑え込み最終的には捨ててしまったのだ。


もうその状態が10年以上続いているのだ。私もそれが当たり前になっていた。

月島さんに会うまでは。


「ごちそうさまでした」

私は閖華より早めに食事を済ませ自室に戻る。

「凜華、文化祭が終わったらまた早く帰ってくるのよ。貴方は外にいてはいけない存在なのだから。あくまで御爺様の命令だということを忘れないで?」

「わかった。おやすみ」

閖華から妬み嫉みが言葉のすべてから伝わる。


なぜあなたのような人間が外にでているの?

なぜあなたのような人間が平気で生きているの?

なぜあなたのような人間が存在しているの?

そういわれているように聞こえる。


部屋を出た時、私は耳を塞いだ。聞きたくない。彼女の口から放たれる呪いはもう聞きたくない。

私が聞きたいのはあの優しい声だ。

月島さんの声が聞きたい。

「いえ、だめです。だめ」

自分に言い聞かせる。

甘えるわけにはいかない。

迷惑をかける。私はいらない存在。そんな人が他人に頼ってはいけない。

自分に言い聞かせる。


早く、この命、終わってくれないだろうか。


部屋について扉を閉めたら暗い部屋から明るい光が机で放たれている。

スマホの光だ。

「なんでしょう」

手にしたとき心臓が飛び跳ねた。

「月島さんからだ」

彼からのLINEが来ていた。

「今日は、変な態度とってごめんなさい。でももう大丈夫だよ」

何が大丈夫なのだろうか。

「いえ、こちらこそすみません」

何がすみませんなのだろうか。

このよくわからないトークでも嬉しく思う。

「・・・・・・私?」

今、なんて思ったの?

「・・・嬉しいと思ったの?」

まさか、そんなこと。おもってはいけない感情を。

「とりあえず月島さんに返事を・・・」

返事を書き込もうとしたら突然通話着信がなる。

月島さんからの着信だ。

「え、え、どう、して?」

動揺する。これはとるべきなのか。でも鳴らし続けるわけもいかず、私は電話に出る。

「あの、その、お疲れ様です」

『お疲れ様、凜華ちゃん』

「ど、どうしたんですか? 急に電話なんて」

『え、ダメだった?』

「だめ、じゃない」

『そっか、よかった。今日少し変な態度とっちゃったからLINEより直接言葉で伝えたくて。ごめんな凜華ちゃん』

「いえ、別に」

なにこれ、手が震える。言葉も、心臓も震える。

『いつもの凜華ちゃんでよかった。いよいよ来週、文化祭だね!楽しもうな』

月島さんが何を言っているのか半分聞き取れなかった。

自分の心臓の音が耳元で鳴り響いて、優しい声を聞き逃している。

「はい、楽しみ、です。」

『だな。んじゃまた明日。おやすみ』

「は、はい」

ツーツー

「はあーーーーーーー」大きなため息がでる。

緊張した。普段あんなにあっているのに。あんなに話をしているはずなのに。

「耳元で聞くだけでこんなに緊張するものなのでしょうか」

スマホを持つ手がまだ震えている。なんだろうこの状態。

今まで味わったことない感情がこみあげてどう処理したらいいのかわからない。

だいぶ落ち着いてベッドの上に寝転がる。


この気持ちがなんなのかわかなくて寝付けない。

私にとって月島さんの存在はすごく大きくなっていた。

考えるだけでまた心臓の音がうるさくなる。

スマホを開き今までのラインのやり取りを読み返す。

心臓の音は鳴りやまない。

「どうしたんでしょうか。私」

水分でもとって落ち着こうと思い飲み物をとりに部屋をでた。

キッチンまでは長い廊下がある。閖華は別館で当主としての仕事をしている。

私のいる館は私や付き人、じいじの自室がある。もちろん親族も出入りしている。

でも私がしる人はじいじと私専属の付き人以外は知らない。ほとんど。

だから声をかけられても名前すらわからない。

「どうしたの?凜華ちゃん」

なんて、声をかけられても誰かわからないのだ。

「どちらさまですか?」

飲み物を取りにいく途中で男性に出会った。身長は月島さんと同じぐらいの高さで赤紫の短髪、黒縁眼鏡をかけている。

「同じ藤馬で知らないなんて無礼だな~君は」

「それは失礼。ですが、まず名乗らないのも無礼かと」

「いうようになったね、凜華ちゃん」

「いえ、別に」

「あはは、で、何してるの?」

「飲み物を取りにキッチンへ」

「あー俺も俺も~。ていうか、君に会いに来たんだよね~一緒にいこうか」

なんて軽い男なんだろうか。というか、私に用事とは変人に違いない。

藤馬の人間は私を恐れている。例の事件があった頃から私は幽閉されていたが、その理由がまわりにまわって悪い噂になっているとじいじから聞いたことがある。


『藤馬凜華は魔女だ』と


きっと彼にもその噂は耳に入っているだろう。それなのに相手にするとは相当の変人だ。

「凜華ちゃん、学校楽しそうだよね~。文化祭も積極的に参加してるし♪」

ハッとする。この人、私の学校の生徒?

「え、もしかしてしらなかったの? 俺結構有名なのに~でも月島くんも知らなかったもんな~」

「え、月島さんにあったんですか?」

驚いた。いつの間に彼と接点があったのだ。月島さんはそんなこと一言も。

「凜華ちゃん、すごく気に入ってるよね? よく笑っているし~」

「そんなこと、ないです」

台所に着き、巨大冷蔵庫からミネラルウォーターをいただく。

「んじゃぁさ~凜華ちゃんにとって月島くんって何?」

「は?」危うく飲みかけていた水を吐き出しそうになった。

「あれれ~顔が赤くなってよ? どうしてかな~?」

茶化しながら彼も水を飲む。

「あなたが変なこと聞くから」

「ふーん。てか、君、これ以上彼に近づかないようにね」

ごくりと二人とも水を飲む。

「閖華サンが何しでかすか、きみだってわかってるだろう?」

「なぜ、あなたがそれを」

「さーて、なんででしょう?」と言いながら満面の笑みを見せる。

この笑い方、閖華に似ている。そう、企んでいるときに見せる顔だ。

「あなた、何を考えているんですか?」

「なーーんにも。ただ、忠告だよ~同じ学校の生徒として君のこと監視はしているけど、月島くんのことも監視しているってことを忘れないでね」

「彼は関係ない」

「ありありだよ~? だって君、彼のこと気に入ってるでしょ?」

そうなれば閖華が黙ってないよ?と目で言っている。

私だってわかっている。月島さんが私のことを気に掛ける前から知っている。

だけど。

「そんなことないです。彼が勝手に私を気にしているだけなので」

「ふーん。ならいいけど。でもま、文化祭までは何してもいいって閖華サンは言ってたし、将さんも許してるんだろうな~」

「将、さん?」

彼は唖然とした顔をした後、爆笑する。

「な、なんなんですか」

「あははははは、ひぃーー、腹いてぇ~くははははは」

そんなに笑うことなのだろうか。

「あー笑った。そうか、将さん、名字変えてるんだった。凜華ちゃんの担任だよ」

担任?

「水原将先生。君のクラスの担任の先生だろ? あの人、藤馬の人間だよ?」

「嘘・・・」

「嘘言うわけないだろ~ちなみに将さんも監視役だから油断禁物だよ~」

まだクスクスと笑う。馬鹿にしたような笑いだ。

だが、その笑いが終わった後、彼はにらみをつけて私を見る。

ぞわっとする。

「君の知らないところで仕組まれているんだよ? なぜあの学校なのか、あのクラスなのか。君に自由はないんだよ? 藤馬という檻から出られたと思って安心してたかもしれないけど、お前に自由はない。君だけ羽を伸ばして外にでるなんて、許さないよ?」

ゴクリ。唾をのむ。

「ま、そんなわけで、文化祭、楽しもうよ♪ 俺のクラスは超絶面白いもの売るから月島くんつれてきてくれよ。これ無料券プレゼント!」

超絶うまい焼きそば一皿無料券を彼からもらった。正直いらない。

「一枚しかないから二人でワケワケしてたべてね」

そういって彼はペットボトルをもって台所を出た。

「な、なんだ。あの人は」

正直びっくりした。怖い。閖華と同じように怖かった。

少し浮かれていたのはある。でもいつも通りに過ごしていたつもりだった。

だけど、忠告されて図星だと思った。私に自由はない。

いつだって誰かに監視されている。私自身、藤馬にとっては起爆剤。

目を離せない存在なのだ。たとえこの数珠があったとしてもあの被害はもう繰り返さないために。

「思い出せ。私」

今までの感情は捨てよう。捨てなければならない。

月島さんは私にとってただのクラスメイトだ。

ただ、私の生い立ちをしってしまっただけのクラスメイト。

それ以上でもそれ以下でもない。

その思いと同時に水を飲み干す。


ワタシハキモチニフタヲシタ





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