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剣たちの鎮魂歌 〜理想高き白銀の王〜  作者: ゆーやミント
第一楽章〜聖杯の探求者たち〜
9/12

〜再会〜

魔王を剣精にして早くも2週間が経ったが、依然として彼女は無言の幼女様のままである。

俺の膝の上でうたた寝をする様などは外見年齢そのままであるが、俺は子守がしたくて魔王を剣精にしたわけではない。・・・まあ、急な入り用がある訳でもないが...せめて初期投資の魔力分は貢献してほしいものだ。


コクリと、魔王の頭が船をこぐ。


・・・だが、この寝顔を見せられてはふつふつと湧いた不満も萎んでしまう。まるで猫みたいだ。


ソッと頭に手を置いて、撫でてやる。

最初の頃は痛がっていたが、最近は上達したのか素直に撫でられる。

彼女がまぶたを閉じたまま薄っすらと微笑むところを眺めていると、その容姿の所為もあってか、本当に娘でも出来たかのような錯覚に陥った。


「そうしてると、唯の親子だねぇ」


正面のソファーで寝転ぶ師匠が薄ら笑いを浮かべて揶揄(からか)ってくる。


「冗談は止めて下さい。切りますよ?」

「なら私は燃やしてやろう」


意地悪な笑みを浮かべながら、師匠は指先に小さな炎の作り出す。


「止めてくれマスター。また工房を燃やされては敵わん」


2階から荷物を抱えて降りて来たフォックスが冷めた意見を飛ばす。


「本気じゃないさ〜、フォックスはその辺のジョークがわからないんだから〜」

「そう言って、実際何軒燃やしたと思っている?」

「ん〜、3つまでは覚えてる」

「まったく、事後処理をするこっちの身にもなってほしいものだ」


ぼやくフォックスが外へ消えたのを確認すると、指を振って炎を揺らめかせた後に魔力供給を絶って消火した。


そして代わりにコンパスを放り投げてくる。


「注文の品さ。簡易的だけども地の果てに居たって探し出すよ」


渡されたのは人探しの術式が組み込まれたコンパスである。

探したい人物の一部を媒体としたもので、直線的な探知範囲はほぼ無限と言っていい。

ただし空間魔力に影響されやすく、生死もわからないといった欠点も抱えた魔道具ではあるが、やはり抜群の探知能力から憲兵などが愛用することが多い。


「シロの魔力探知があれば空間魔力にも影響されない筈さ。でもまあ、いかんせん急ごしらえだから誤差は上下左右に100mってトコだろうね」

「ありがとうございます」


むしろ簡易的なものでそこまでの精度なら上出来だ。街中では自前の魔力探知を併用すれば屋内にいたとしてもある程度の検討はつく。


「帰りはいつくらいになりそうかい?」

「1ヶ月から2ヶ月です。それまで帰らなければ死んだと思ってください」


これから俺と魔王は旅に出る。

どうしてもメアリーたちの動向が気になって仕方がなかったのだ。


ハタ迷惑なお節介。そう言われれば反論はできない。


ーーーだが、それでも俺は気になった。

あの純粋な少女と英賢な英霊の真意が。

何を目指し、どこへ向かっているのか、が。


「行くぞ、魔王」


そっと肩を揺すって魔王を起こす。

しかし、この幼女様はうなりを上げて船をこぐだけで、ちっとも起きやしない。


「ほらほらパパ〜。寝た子を起こしちゃ駄目でしょ〜」

「マスター...いい加減にしないと本当に斬られるぞ」


戻って来たフォックスにまたも叱られた師匠は、ムッと頬を膨らませる。


「まったく、どうしてこの狐はこんなに頭が硬いんだか!」

「生憎と生まれつきだ。馬鹿者とは違って死んでも治らなかったらしい」

「お前が言うと妙に説得力があるんだよな」


実際死人だし。

これ以上ない体験談だ。


「さてと...話はここまでにして、もう行きます。フォックスは荷物の積み込みありがとう」


魔王を抱きかかえて席を立つ。

日も落ち、外は暗いが、お尋ね者の旅立ちにはぴったりだ。

フードをした男が幼い子供を抱えて馬に乗っていたら、真っ当な神経の持ち主であれば人攫いだと思うだろう。少なくとも俺は思う。


外套を着てフードを目深に被る。

魔王を抱えたまま馬に乗るのは大変だったが、何とか鞍の上に腰を据えた。


「起きてさえいれば、剣にして腰に差せるんだがな」

「彼女の剣種は【刀】だ。振り方は教えた通りでいい」

「ああ。フォックスがこれの使い方を知っていたのは意外だったけど助かったよ」

「覚えのいい弟子で教え甲斐があったさ」

「さて最後にだ、シロ」


ようやく出て来た師匠が、あくびをしながら空中にルーンを描いて飛ばしてきた。

ルーンは宙を飛んできて俺の心臓の辺りに触れると、溶けるように体内へ消える。


「ペアリンクの魔術だよ。何処にいても、これで互いの生死はわかる。帰って来なけりゃ死んだと思えって、そんな悲しい事言わないの」


ニコッと笑う顔からは、エルフ特有の清楚な美しさを感じる。俺もフォックスも、何度これに騙せれて来たことか。

駄目だと知っていても、騙されてしまうのは男ゆえの(さが)だ。

そんな顔でも、見送ってくれる人がいるのは悪い気がしなかった。


「・・・ありがとうございます。では」


笑みを返して手綱を取る。

馬は勢い良く走り出した。


師匠たちの気配は、俺の姿が森の街道に消えるまで動かなかった。




それから、いくつかの町や村を回った。

師匠のコンパスの精度は凄まじく、針に従って動けば必ず目撃情報があった。


「今日はこの道をしばらく行った先にある城塞都市で休もう」


剣に変身させて吊るした魔王に語りかける。

返事は相変わらず無かったが、何となく頷いている気がした。


ーーー不思議な繋がりだ。単に剣精と魔剣士という間柄ではない。

適正、記憶、髪の毛...無視できない縁があまりにも多い。

何故1000も昔の少女と繋がりがあるのか、いつか魔王(かのじょ)は語ってくれるのだろうか?


「なあ魔王....」


疑問を口にしかけて止める。

幾度となく語りかけて来た内容だったが、返事はおろか反応さえ返ってきた試しはない。


「えっと...アレが今日泊まる街だ。久しぶりにベッドで寝れるぞ」


ふわりと剣が光の粒に変わって、俺の腕の中で幼女に再構成される。

買った服はまだ出来ていなかったが、フォックス謹製の服は魔力置換が可能で変身のたびに着替えがいらない。


ぴっとり寄り添う彼女は、子供故か温かく気持ちがいい。

手綱を片腕で操り、左手で魔王を抱く。

もちろん落馬しないようにという意味合いもあるが、人肌のぬくもりに最近はドップリと浸っている。


過去の生業で手に入れた魔剣士の証を見せ、城門を抜け、馬を預けた後に地図を貰う。


「ーーーッ!」


何気に立ち寄った街だったが、運良くアタリを引いたらしい。コンパスの針が頻繁に動き、魔力探知にも反応があった。

なにせあの魔力量だ。どれだけ抑えても流出量の桁が違う。図書館で感じた波長が近くから響いてくる。


いくつかの店や宿を巡り、やはり精密な観測が出来ないと厳しいかと思ったところで路地裏から剣精の気配を感じた。

目を凝らしても暗がりの中には何も見えない。


大通りを外れ、影に隠れた瞬間を狙うように3発の斬撃波が飛んできた。

2発は避け、1発は剣で弾く。

直撃しても即死はしないであろう威力だったが、斬撃に魔力を乗せて放つ単純な技にしては桁違いな攻撃力だ。


「ほぉ、賊か追っ手かと思ったが...懐かしい顔だな」


狭い路地に聞いたことのある声が響く。


「未だ記憶に留められていたとは光栄です。英雄王」

「己は優秀な人材は忘れん。がしかし」


ゆらりと空間が揺らめいて蒼く輝く刀身の直剣が現れる。

神話に出てきた聖剣 エクス=カリバーそのものだ。


「マスターと己に仇をなす存在であれば切って捨てるのみだ。シロよ」


王の気迫とでも言うのだろうか。

威圧感には強いと思っていたが、一睨みされただけで体が硬直して動かない。


身動きできないでいる間にピタリと刃が首へ添えられる。

口も動かないので弁解も不可能。これは詰んだと覚悟を決めたところで魔王が変身して刀身を弾く。


ーーー守られた?

今まで反応が皆無だった魔王の助太刀に驚きつつも、転がるように退避する。


「すまん、助かった!」

「・・・」


魔王はその小さな体に見合わない、大きな刀を両手で構えてアーサー睨んでいた。

しかし一方でアーサーは目を丸くしていた。


「貴様、まさか魔王か?」


驚きの次は笑いに変わる。

いつのまにか剣もしまっており、戦闘態勢ではなくなっていた。


「カッカッカッ!そうか、貴様そうなったのか」


笑いが治ると、今度は慈しみの目で魔王を見つめると静かに近寄ってきてポンと頭に手を置いた。


「すまなかったな。貴様の幸福を邪魔する気は無かった。許せ。ーーーシロもだ、すまなかったな」


こちらが置いてけぼりを食らうほどの豹変に面食らう。

クシャクシャと魔王の頭をかき乱したアーサーは改まってこちらを向く。


「久しい友との再会だ。マスターの元で共に祝杯をあげようではないか」


展開が早すぎて、処理もリアクションも追いつかない。

王様と言う奴は、皆んな人の話を聞かない生き物なのだろうか。

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