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剣たちの鎮魂歌 〜理想高き白銀の王〜  作者: ゆーやミント
第一楽章〜聖杯の探求者たち〜
7/12

〜事件〜

一通りの買い物を終えた俺たちは、適当な店で食事を取っていた。


剣精にとって人の食事とは嗜好品のようなものであって、生命活動の維持には特別に必要なわけではない。

召喚獣(サーヴァント)などは摂取した食料を魔力に変換できるらしいが、剣精はそれが出来ない。

似通った魔術公式で構築されているのに、微妙な差異があるから双方を併用すると管理は面倒になる。


そんな理由で食事はしないという剣精も多いのだが、魔王(こいつ)の場合はどうなのかと試しにサンドイッチを与えてみたところ綺麗に完食してみせた。


「美味かったか?」


問いにコクリと頷いた。

しかも、もの足りないのか俺のシチューに視線が釘付けであった。


「・・・欲しいなら食っていいぞ。正直、少し持て余していたんだ」


器を押してそう言ってやると、パッと表情を明るくして食べ始めた。


周りのザワつきから情報収集をしつつ、肘をついてコップの水を飲んでいると後ろで店の扉が開き、店内が静まり返った。


「・・・人間の衛兵隊だ」


誰かが呟いた。


「我らが王都の教会から修道女が一名連れさらわれた。不審人物に心当たりのあるから者がいたら申し出て欲しい」


二人組の人間の衛兵の内、金髪を短く刈り込んだ体格の良い男がそう語って出入り口で仁王立ちし、もう一人の武装した衛兵が店内を巡回した。

視線が自然と俺たちの方に集まる。


「そこの男、両手を上げろ」

「・・・」


静かな声で命令され、それに大人しく従う。

フードが取られ、白髪が露わになると店内に小声が飛び交った。


「ふん、ノラ犬か。噂は聞いてるぞ、最近は丸くなったと言うが・・・そこの娘を取り調べさせてもらうぞ」


チラリと視線を流した魔王へと近寄っていく。

強い口調で一方的に要求し、自らの正義がまかり通ると疑わない傲慢さは如何にも人間らしい。


魔王に買ってやったつばの広い帽子が払われると再び、しかもより大きなどよめきが起きた。


「娘を作っていたとは驚きだ、人殺しにも情はあったのだな。水入らずを邪魔してすまなかった」

「お気遣いどうも。紛らわしい格好で仕事を妨げてしまって申し訳ない」


サラリと毒を吐いてやると、面白いように眉をひそめて不機嫌になる。

ついでなのでもう一煽りしてみよう。


「ところで、攫われた修道女の容姿などをできればお教えいただきたい。こうも情報が無くては提示も出来ますまい」

「それもそうだ」


彼は一度咳払いをしてみせると、カバンの中から人相書きの羊皮紙を取り出して見せた。

見覚えのある顔だった。


「攫われた修道女の名はメアリー=カトレアーナ。種族は人間で、歳は14である。誘拐犯は金髪で青目、背が高く腰に青い剣を帯びている」

「修道女様の方はわかったが、犯人が人間族の在り来たりな容姿じゃねぇか」


奥のテーブルから最初のヤジが飛び、店内にざわめきが戻る。

だがそんな中で、誰かが呟いた。


「その娘ならこの間、図書館から出てきたのを見たぞ」

「それはいつ頃だ?」

「昨日の...夕方近くだったか?フードを深くかぶった男と一緒だった」

「ふむーーー譲歩提供に感謝する。他に見かけた者は居ないか?」


今度は皆一様に首を横に振る。

俺はどうしたものかと選択に迷った。

普段ならば、いらぬ面倒を抱えたくないからと宿まで教えただろう。

だが、今回はどうにも探索側がキナ臭い。

メアリーの魔力量を鑑みれば捜索も尤もだが、彼女とアーサーはどう見ても被害者と加害者の関係ではなかった。

むしろ、彼女からはアーサーに対する尊敬と恋愛感情に似たものさえ感じた。


ーーーなら、駆け落ちか?


不意にそんな考えも脳裏をよぎったが、あの歳でそれは流石に無いだろう。


しばし迷った結果、俺は少しだけ情報を流すことにした。


「その図書館の近くにある高級宿へ入っていくのを見た。見かけただから、どの宿だったかは覚えてないがな」

「そうか、では探してみよう。行くぞコルマン!」


彼らは店員に一礼すると、入ってきた時と同じ様に素早く退店して行った。

しばらくして、店の中に会話が戻り始める。


「けっ、偉そうにしやがって」

「ここは魔族(おれたち)の国だってっんだ」

「しかし人攫いとは...ここも物騒になって来たな。聞いた話じゃ、人間の王が殺されたって噂もあるそうだぜ」


横柄な態度の衛兵たちや噂話に火が点き、酒や料理の手も活気を取り戻す。


「満足か?」


俺は皿を平らげた魔王に拾っておいた帽子を被せ、店員に勘定の合図を送る。


「代金はここに置いておく。迷惑料で釣りはいらん」

「要らないよ!迷惑料なら今度あの衛兵らから搾り取ってやるからね」


駆け寄ってきたおばちゃんに釣り銭分を突き返され、呆然としていると背中を痛いくらいにはたかれた。


「まいど!」


威勢の良い女将だ。

しかし、気に入った店だったが身元がばれた以上はもう通えない。


「はあ、新しく良い店を見つけないとなぁ」


こちらを見上げて首を傾げる魔王の頭をポンポンと軽く叩く。


「悪いな、気に入ったみたいだったのによ」


この言葉が通じているのかいないのか、それは分からないが不思議と平気だと言っているように感じる。

変な話だ。森での一件以来俺と魔王との間に関係があることは何となく分かる。・・・同じ白髪だし。


問題はそれがどんなに繋がりなのか、だよな。


「・・・」


髪の毛をクシャリと撫でてやる。

疑問符を浮かべて見上げてくるので、もう二、三度繰り返して微笑んだ。


「今日はもう疲れただろう。早く帰ろう」


小さな手を取って帰途に着く。

初めは複雑な気持ちで始めたお守りではあるが、今では楽しいと感じるようになっていた。



翌日、一軒の宿屋で殺人事件が起こった。

殺された人数は2名、昨日の衛兵たちだった。

両名とも胴体を横一閃されて絶命していて、相当の手練れが屠ったであろうことは一目瞭然ーーーと言っても、誰がやったかは見当が付く。宿からして、アーサーとメアリーだ。

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