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剣たちの鎮魂歌 〜理想高き白銀の王〜  作者: ゆーやミント
第一楽章〜聖杯の探求者たち〜
6/12

〜無言の幼女様〜

久しぶりの投稿となってしまい申し訳ございませんでした。

生活も落ち着きを見せてきたので、今月からは安定しそうです。

部屋の中は奇妙な静けさに包まれていた。

俺は自室のベッドに腰掛け、魔王らしい幼女様は無言で膝の上に居座っている。


「・・・・。」

「・・・・。」


いくら経ってもお互いに無言。

そりゃそうだよ、半世紀近く血生臭い生活を送っていた(おれ)が、向かい合わせで半裸のロリに抱きつかれてみろ、どうすりゃいいかなんて解らない。

もう少し育っていれば、やましい気も湧いたかもしれない。

だが、どれだけ可憐でも子供は子供だ。


そもそも、何故こんな状況になったのか。師匠に烈火の如く絞られたのは当然だとして、全貌を語れば長くなる。

よって、要点のみを掻い摘んで話せばこうだ。


魔術的な欠陥は一切無かったにも拘らず、召喚されたのが明らかに心を失った口も利けない幼女なのは何故か。


だというのに、妙に俺に懐いていて離れないのにはどういった理由があるのか。


しょうがないので、経過観察及び日々の世話は俺が自分でやる事。


こういった次第だ、勘弁してくれ。

この年で父親の真似事をしろだなんて無茶言ってくれるよ。


「とりあえず、そこに座ってくれ」


そう言うと、彼女はコクリと頷いてから膝を降りて、指定した椅子に腰を下ろした。

話せずとも言葉が通じるならいい。


「これから幾つか質問をするけど無理強いはしない。答えたくないか、わからないなら素直に首を横に振ってくれていい」


もう一度頷いたのを確認してから俺はベッドに座り、一通りの質問をしてみることにした。


「じゃあ始めに、いきなり本題に入るが、君は魔王か?」


相変わらず、辛そうな表情でぶんぶんと頭を横に振る。


この話題はどうにもタブーらしい。


「そうか、じゃあ次は俺たちの関係についてだ。君は剣精で、俺は君のマスターだな?」


今度はコクリと頷く。

やっぱり目に光は無いが、頷いた彼女は微笑んでいる様にも見えた。


「じゃあ次は、師匠・・・下の階に居た女の人は恐いか?」


今回は激しく頷いた。

・・・だよねー、俺やフォックスでもおっかないもん。

師匠は昔から子供や小動物には懐かれない(タチ)なのだ。代わりに、大人の間での顔は良くも悪くも広い。


「次に、その女の人横に居た男の人はどうだった、彼も恐かったかい?」


質問が言い終わっても、頷くことも首を振る事もなくジッと虚空を見つめた。

ボーッとしている様にも見えるし、深く考えている様にも見える。

彼女は熟考した後に首を横に振った。


確かに、召喚直後にフォックスが現れても、驚きこそすれども怯えはしなかった。

それは単に師匠が嫌われ者なのか、それとも何か彼女を惹きつけるものをフォックスが持っていたのか。


・・・そういえば、あの時フォックスは一瞬何かを取り出そうとする動きをした気がしなくもない。


「シロ君、お邪魔しても平気かな?」


考えていると、件の彼がドアをノックした。


「え、ああ。大丈夫だぞ」

「お邪魔する。さっき妙に声が上ずった気がしたが?」

「気のせいだろ」


平静を装って答えると、彼は然程気にとめた様子もなく手荷物を下ろした。


「それは?」

「その子用の衣服だ。そのケープは魔力で編んであるから、明日の昼までには消えてしまう。急ごしらえですまないが、まあいつまでも半裸で過ごさせるわけにもいかんだろう」

「ああ、助かった」


手早く受け取るやいなや、さっさと彼女に着せてしまう。

確かに質素ではあるが、町娘風で違和感はない。それに、本人も気に入っている様だ。


「こっちはもう溶かしてしまうからな」


そう言ってフォックスは受け取ったケープを手早く魔力に還元してしまう。


「よくあの子にピッタリな服が出てきたもんだな」

「マスターのお古を仕立て直したんだ。オレを召喚した最初期の彼女はあんなものだったんだよ」

「え?」


いくら長命のエルフ族だからと言って、この魔王と同じ容姿な期間は人間と変わらず、精々10〜12歳ほどの短期間のみだ。

そんな幼少期に召喚獣を使役した魔術師や魔法使いなど聞いた事が無い。


「今更だけど、師匠って実はすごーく優秀な魔術師なのか?」

「本当に今更だな。マスターは魔法使いに最も近い魔術師なんだ。・・・あぁただ、誤解の無い様に言っておくが、昔のマスターは今とは大違いで慎ましやかな体型の少女時代を送っていたんだ。オレを召喚時の彼女は大雑把に勘定して100前後だったんじゃないかな?」

「へ、へー・・・随分と楽しそうだな」


上機嫌で語るフォックスは饒舌に様々な事を語って聞かせてくれた。


「しかしまあ、あのスケベボディーの師匠がこんな体型だったとは信じられないな」

「急激なスタイル変化が起こったのは200を超えた辺りからだったかな。・・・いや、流石に裾上げ等々の調整はしたさ。いくらなんでも、ここまで背は低くなかったからな」

「はははっ、まあ師匠には後でお礼を言っておかないとだな。とは言え、あの師匠が裁縫が出来たってのは意外だったな」


仕上がり方をまじまじと見ながら言うと、フォックスが吹き出した。


「おいおい、彼女に針が使えると思うか?縫ったのはオレだよ」

「えっーーー」


流石に言葉に詰まるというか、どれだけ有能なんだよ、この狐は。


「でもまあ、ありがとう。本当に助かった」

「明日にでも街へ行ってちゃんと仕立てて来るんだ。その髪なら実子だと思われるはずだから気兼ねはいるまい」

「ぐっ、妙に重い言葉だな。昔何かあったのか?」


お互い笑いながらも薄目で圧力を掛け合う。


俺は余計な御世話だと。

彼は詮索はするなと。


「・・・はぁ、そう睨みを効かせるな。何も取って喰いやしないよ」

「お前の主食は何だったかな?」

「さて?食事のいらない召喚獣(サーヴァント)生活が長いせいで覚えていないな」


再び睨み合いの応酬が始まる。しかも今度のは露骨にだ。

偶然ではあるが、俺はフォックスが食すものが(ヒト)である事を知っている。


「フォックス、ちょっと手伝ってもらいたい事があるんだけど!」


緊張は師匠の空気を読まない叫びによって綺麗に砕けた。


「はぁ、マスターが下でお呼びだ。身内で噛み合うのも止めにしよう。何だかバカバカしくなってきた」

「まったくだ。この子も恐がっている」


先ほどのやり取りから何かを感じたのか、彼女は俺の影に隠れてすっかりと怯えていた。


「そうか、すまなかったな。」


フォックスは謝ると、しゃがみ込んで目線を合わせ、彼女の頭を撫でてから部屋を出て行く。

魔王も大人しく撫でられていた。


「さてと、今日はもう遅い。君はこのベットを好きに使ってもらっていい。俺は適当に長椅子か何かで休む」


そう言って立ち上がろうかと思ったが、首がもげそうな程に横に振って腕を離そうとしない。


「遠慮はしなくていい。正直なところ、ベットで寝るよりも椅子や地面で寝た方がよっぽど楽なんだ。野宿生活が長かった恩恵というか、弊害というか、困ったもんだよ。という訳だ、遠慮するな」


諭してみたが効果は無い。

相も変わらず首を横に振るだけだ。


「眠るまで側にいてやる。心配するな」


本で読んだだけの知識で、ベットの側に腰掛けて寝付くまで介抱してやるつもりだったが、それでもベッタリと張り付いて離れない。


「仕方ない...」


ベットに入って手招きしてやると、今度は素直に転がる。

適当にあやして、眠ったら頃合いを見て抜け出そう。


そう思っていたのだがーー

何ということでしょう。まさか抱き枕にされるとは...


迂闊だった。

そうだよね、あれだけくっついて来てたんだから予想出来ただろうに、馬鹿野郎。


「はぁ...剣精にここまで振り回されるなんて、ブランクが長過ぎたか?」


ため息を吐いてから、ジッと魔王を見つめた。

かの少女は既に眠りの国へと旅立っている。見習いたいくらいの早業だ。


「こんな小さな女の子が・・・本当に魔王なんだろうか?ーーーッ」


また【魔王】という単語に反応を見せた。

この子は一体何なんだ、どうして自分の称号にこうも過剰反応を示すのか?

頭を撫でてやっている内に彼女の緊張は解けていくが、俺にはそんな疑問が残って頭の中でグルグルと渦巻いた。


怯えた彼女の背に手を回して抱いてやると、少し痛いくらいにしがみついてくる。

面倒な子を拾ったものだとは思いつつも、久しぶりに他人のいるベットは居心地が良くて俺も簡単に眠りに落ちた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


翌朝になって、師匠らに(いいくる)められた俺たちは昨日も行った街へと買い物に出かけた。

誰のためにと言われれば、当然この幼女様の為である。


ーーーが、予想外に視線が痛い。

まあ当然か。フードを深く被った男がこんな子供を引き連れていれば勘違いされても文句は言えない。

衛兵に追われていないのは、彼女がむしろ自分からくっついて来ているからか?分からないが今は大助かりだ。


「とりあえず、服からだよな」


これだけの街だ。キョロキョロと辺りを見回せば、衣料店などピンからキリまで揃っている。どうせならそれなりの(もの)を買ってやるべきか?

手持ちの金銀だけでもちょっとした贅沢が出来る程度はある。

剣の手入れ用具以外には師匠の酒代くらいにしか使うあても無かったので、偶には浪費というのも経験してみるものだろう。


「いらっしゃいませ」

「この娘に合いそうなものを、夜用も含めて何着か頼む」

「かしこまりました。こちらのテーブルにてお待ち下さい」


手頃な店に入って、人当たりの良さそうな店員に適当なオーダーをする。

俺たちは用意された席でお茶を飲みつつ待つだけだ。高級店は買い物が楽で良い。


「お待たせいたしました。こちらなど如何でしょうか?」

「ふむ」


三着持ってきたうちで、最初に持ち出したのは白いシルクで織られたワーンピースだった。

主張し過ぎないレースが、いかにもお嬢様といった雰囲気を醸し出す。


「良いんじゃないか?少し単調な色合いだが、お前に良く似合いそうだ」

「・・・ッ!」


魔王は目を輝かせて見入っていた。

これは決まりだな。


「次を頼む」

「かしこまりました」


続いて桜色のドレスが出てきた。

リボンが多く使われているが、バランスは良くてあざとさを感じず、人形の様だ。

しかし、どうにも彼女のイメージとは噛み合わない。


「んー・・・それはナシだな。最後のを頼む」

「少々お待ちくださいませ」


最後に出てきたのは薄紫色のドレスだった。

デザインは一番初めのワンピースと同じく、凝った意匠こそ無いものの洗練された美しさがあった。


「ほぉ、良いじゃないか」


色合いや形状からして、もう少し年を重ねてからでも良い気はするが、それでも他とは一線を画して似合っていた。


「こちらの品は先日あるお客様が発注されたものなのですが、完成品をお見せしましたところお気に召されなかった様でして、サンプルとして陳列させていただいていたのですが、そちらのお嬢様を一目見た折より是非と思いましたのでご用意させていただきました」

「これは良い、いただいていこう。さっきのと2つを作ってくれ。ーーー忘れてた、この子は剣精だから糸は魔力置換可能なものにしてほしい」

「かしこまりました。そうしますと完成まで一月ほどお時間をいただきますが、よろしいでしょうか?」

「急ぎでもない。ゆっくりやってくれ」

「ありがとうございます」


買う物が決まり、魔王が採寸されている間に俺は必要な書類にサインをしていった。


・・・うわぁ、高っっけぇ。

顔には出さないけど、2着で金貨(レーブル)3枚かよ。

馬が買えちまう値段だぞ。


「決済は分割払いになさいますか?」

「いいや、一回でいい」

「かしこまりました」


戻って来たかと魔王と引換券を受け取ってここは終わりだ。


「ありがとうございました」


にこやかに見送られながら店を出たものの、資金は一気に3分の2が消し飛んでしまった。


やっぱり、慣れない事はするものじゃないな。


「あとは靴と日用品か。外套なんかもあった方がいいな。他に欲しい物があったら適当に教えてくれ」


一応訊ねてみたが、プルプルと首を横に振って要らないと意思表示した。


「わかった。ここからなら靴が一番近いな。その後に外套、日用品と回っていくか...」


あれこれと用事を考えながら、魔王の小さな手を握って街を歩く。

何でもない事のはずなのに、痛く懐かしく感じてしまって仕方がない。


ーーーそういえば、もう何十年もこんな風に買い物なんてしていなかったな。

偶にやる師匠のお使いは買い物というよりかはパシリだ。自分で考え、誰かと相談し、手を取り合って行う買い物とはこうも楽しいものだったか。


「さて、次の買い物に行こう」


俺は機嫌良く彼女の手を引いて歩いた。

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