表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣たちの鎮魂歌 〜理想高き白銀の王〜  作者: ゆーやミント
第一楽章〜聖杯の探求者たち〜
5/12

〜白の英霊〜

窓から射し込む朝日で目が覚めた。

身体の怠さは完全に無くなっていて、体調も上々である。


ベットから起きて窓を開くと、少し冷たい爽やかな空気が部屋を抜ける。

時計を見ると・・・いかん、1時間以上も寝坊していた。


道理で目覚めスッキリな筈だ。


それでも師匠に叩き起こされていないという事は、フォックスが労ってくれたのか、師匠もまだ起きていないかのどちらかだろう。


「おはよう、シルフ」


伸びをして、剣架に掛けてある2本の剣のうちのやや細身な方を取った。


その剣は、元より今使っている剣よりも軽いが、鞘から抜くと更に軽くなる。

別に軽量化(そういった)類の魔術がかけられている訳ではなく、理由は極単純で、中程から先が折れて欠損していたからだ。


破片は全て回収してあり、鞘の中に納められているので物理的な総重量は以前と変わらないが、その芯たる精霊が居なくなってしまった所為で俺には異様に軽く感じられてしょうがない。


しばらくして朝の黙祷を済ませると、剣を交換して下に下りる。

工房の中に2人の姿は無く、魔力探知では馬で1時間程の街の方角から反応があった。


買い出しにでも行っているんだろうか?


昨夜のフォックスの話によればどうも戦闘があったらしいし、師匠の魔力消耗も激しそうだったから魔力回復系のポーションが足りなくなったのかもしれない。


ふと玄関のドアを見ればメモが貼り付けてあった。


やはり買い出しに出かけたらしい。

ついでに、夜までは自由にしていいとの事なので鍛錬等の日課が終わり次第俺も街に行ってみよう。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


想像以上に鈍っていた体でのいつも通りの鍛錬はかなり堪えたが、それでも昼過ぎには片付けまで終え、コートのフードを目深に被って馬に乗っていた。

そして馬に揺られること数十分。

ようやく街に辿り着いた。


堀を越え、城門を(くぐ)ると、視界一面に赤煉瓦造の文化的な建物が広がる。

街の規模としては中ぐらいだが、不釣り合いに大きな図書館があるので昔から足繁く通っている。

それと、山脈と海で他と隔絶されている魔族領で唯一陸路で人間領と繋がっている事から、街を歩いているとチラホラ人間の姿を見かける。


何故この街に...というよりは大きな図書館のある所に来たかと言えば、当然魔王関連の情報収集だ。

一応、一通りの逸話ならば知っている。

しかし、知っているのは経歴だけであって、人柄などを詳しく問われれば殆ど答えられない。


「まあ、ここだよな」


十王というタグの付いた長く高い本棚の前に立つ。

彼らの情報はピンからキリまでここに詰まっている。

魔王関連ならば帝都の帝国図書館が一番なのだろうが、あそこは役人や魔術師、魔剣士といった資格を持つ者しか入れない。

ノラの俺では立ち入れないのだ。


やれやれと溜息を吐きながら空気を吸うと、古くなった紙とインクと革の匂いがして落ち着く。

図書館の匂いだ。


人目も少ないのでフードをとって散策を始める。

適当な本を見繕ってから、人気も少ないので閲覧スペースへ行こうと角を曲がった所で、高い所の本を背伸びをして取ろうと必死になっている少女が目についた。

少女 ーーと言うには若干幼い気もしたがーー の種族は人間で、金髪をツーサイドアップに纏めている。

小柄だが身なりは良く、貴族の令嬢と言われても疑問は感じはない。

強いて言えば、独りきりなことが引っかかる程度だ。


「これで良いかい?」

「あ、ありがとうございます!」


代わりに取って渡してあげると、彼女は明るい笑みを浮かべて、ペコリとお辞儀をした。


渡した本は伝記で、タイトルは『世界を統べた蒼き王』

子供の読む童話ではなく、旧文体で書かれた専門の知識が必要となる歴史書だ。


「・・・随分と難しい本だね。ご両親に頼まれたの?」

「いえ、私が読むんです」


少女は、小さいが明るい声で答える。


ここは交易で栄えているとはいえ、所詮は辺境の都市だ。背伸びしたい年頃の娘が居ても別に変では無い。

ただ、さっきからこの娘に妙な違和感を覚え仕方がない。


「お兄さんは...魔王さんについての本ですか」


俺が小脇に抱えていた本が目がいったらしい。


「読んだことは?」

「あります!・・・ただ、どの本にも経歴は書いてあっても、人物像については記載されてなくって...」


その一言で、彼女も相当な読書家であることが解った。

魔王について書かれた書物は五万とあるが、その容姿・性格等の、個人像について書かれたものは未だ見かけたことが無い。

精々、その戦略から勘と観察眼が恐ろしく優れていたことが読み取れる程度だ。


「確かにね。そういえば、エルフ領の魔の森にある書館には魔王の側近だったという人物の手記があってーーー」


そこからはもう本好き同士の会話だった。俺と少女ーー名前はメアリーというらしいーーはすぐに打ち解けて語り合った。


「あの、すみません」


話が一段落して、談話室で落ち着いた頃にメアリーが尋ねてきた。


「何だい?」

「お兄さんは何の種族なんですか?」

「俺は魔族だよ。この髪のせいで気づかれないことが多いけどね」


確かに、純血種にせよ混血種にせよ、白髪の種族は存在しない。

唯一老衰で髪が白くなるのは純血の人間だけだが、この尖り耳があるからその可能性も消えるし、そもそも俺はそんなに歳を取っていない。人間で言えば、十代終盤から二十代の初めくらいだ。


「綺麗な髪の毛ですね。触っても良いですか?」

「・・・ああ、構わないよ」


綺麗な髪、か。

そう言われたのはいつぶりだろう?今では俺の悪評のトレードマークだ。

まあ、幸いにも彼女は俺の噂は知らないらしい。

髪留めを解き、手ぐしで梳かすと、髪が背中まで届いた。


・・・流石に、切った方がいい頃合いか?


「失礼しますね」


メアリーも解けばそこそこの長さの髪があるだろうから、扱い慣れている。


他人に髪を触られるなんて久しぶりだった所為か、少しくすぐったい。


それと彼女が髪に触れた瞬間に、先ほどまで俺が感じていた違和感の正体に気がついた。

彼女は魔力量が異常に大きいのだ。

師匠や、サーヴァントであるフォックスさえも凌ぐ途方もなさで、2人が大小の水かめならばこの娘は海ほどである。

俺などは精々頑張っても、水たまりが限界だろう。


「・・・さん、お兄さん。大丈夫ですか?突然固まってしまいましたよ?」

「え?...ああ、ごめんね。平気だよ」

「ですが...」


少し、ぎこちない笑みを浮かべると、流石に不審がったのか、メアリーは心配気な表情で俺の手をとる。


「そうだ!私の泊まっている宿がこの近くにあるので、よろしかったら休んで行ってください」

「それは流石に...」


悪いよ、と遠慮するつもりが、グイグイと手を引かれてあれよあれよと貸出口を抜けて街へ出ると、一軒の高級宿屋まで引っ張って行かれた。


おい、ここは地方官クラスが泊まる宿屋だぞ。


呆然としたままロビーを抜け、部屋に連れ込まれると、中では金髪の整端な顔立ちの青年が椅子に腰掛けていた。


「なんだ、客人か?」


彼はゆったりとした口調で問いかけた。

口調とは裏腹に、その声には威厳がある。まるで宮城(きゅうじょう)にて皇帝へ謁見した時のようだ。


そして、俺は一目で彼が生者でない事にも気がついた。

気配がフォックスと同じ、サーヴァントのものなのだ。


「うん、あのお兄さんに手を貸してもらったんだけど、体調が悪そうだったから来てもらったの」

「そうか、なら茶でも振る舞うべきだな」


揚々と語るメアリーの頭を撫でながら、彼はジッと俺のことを見つめている。

その瞳には、不思議と同情や懐かしみに似たモノが渦巻いていた。


「お初にお目にかかります。私はノラの魔剣士で、シロと呼ばれています」


通り名と肩書きを名乗って礼をする。

彼らはノラと聞いても態度を変えなかった。


(おれ)の名はアーサー=エリス=カートライトだ。魔族の白き魔剣士よ、旅先で相済まぬが貴公を歓迎するぞ」

「先ほど申しましたが、メアリー=カトレアーナです」


彼の名前を聞いて、ピタリと線が繋がった。

たぶん、メアリーは俺と同じ動機であの図書館へ立ち寄っていたのだろう、目の前に座るこの男こそが【世界を統べた蒼き王】本人だ。


道理で威圧感がある訳だ。


しかし、お辞儀をしたまま眉をひそめる。

どうして彼は俺が魔族だと見抜けたんだ?


「己が貴公を魔族だと見抜いたことが不思議か?」

「はい」


顔に出たのか、尋ねられたので素直に答える。

すると、アーサーは笑って手を横に振った。


「なに、単に昔の知り合いに、同じく白髪の魔族が居たというだけの話だ。訝しむことはない。・・・しかし、よく似ている」

「そうですか」


相槌を打って、メアリーが出してくれたお茶をすすった。


かの英雄王の時代に伝わる白髪の魔族など、魔王1人しか居ない。

それにしても、昔の知り合いか。

2人の仲が良かったという伝承は残っていないが、本は全てを受けとめ、伝えられる訳ではない。

そんな裏側を想像するのも読書の楽しみか。


しばらくアーサーと話を続けるうちに、彼は途方もない知識人であるという事が伺えた。

知恵・語彙・話題性。どれも豊富であり、いつまで話していても人を飽きさせない為、ついつい話し込んでしまった。


そのうちに日も暮れて夜の帳が降り始める。

後ろ髪を引かれるが、これ以上長居すると定時を過ぎてしまう。


「遅い時間になりました。自分はお暇させていただきます。美味しいお茶と素晴らしい話をどうもありがとうございました」


頃合いを見計らって席を立つと、俺は別れの言葉を紡いだ。


「シロよ、やはり己は貴公を気に入った。己等は根無し草だが、(えにし)があればまた会おう」

「さようなら、お兄さん」


2人に一礼してから部屋を出た。

夜はもうすぐに迫っている。早く工房に戻らなければ、儀式に間に合わない。

馬屋に走ると、手綱を解いて愛馬に飛び乗った。


何事もなく工房に着き、馬を停めると地下室へと下る階段を駆け下りる。

炎ではなく、光系統の魔術で灯りを放つランプに照らされた石造りの室内は濃密な魔力で満ちていた。


ここは師匠とっておきの降霊ポイントで、約400年前にフォックスが喚び出されたのもここだ。

実を言えば、このポイントのカモフラージュの為にこの工房は建てられているのだ。


扉の向こうからフォックスの気配を感じた。相手も同じなようで、ドアノブに手をかけた瞬間に扉越しで話しかけてきた。


「やあシロ君。もう十分も遅かったならマスターに絞られていたぞ?」

「悪い、つい街で話し込んじまった」


部屋の中では、彼が1人で水銀の魔法陣を描いていた。


「ほう、人付き合いの嫌いな君がかい?良い事だ。交友は広めておいたほうが良い」

「嫌いなんじゃなくて、相手から避けられるんだよ。ノラの魔剣士と仲良くしたいなんて物好きは少ないさ」


そうだ。主人を持たず、金という餌を貰えれば人だって殺すノラなんかを、一体誰が好くと言うのだ。


「でも、今日会った彼らは俺がノラだと判っても態度を変えなかったんだ。フォックスや師匠以外と、あんな風に話したのなんて何年ぶりだろう...」

「・・・君も、マスターと出会ってから随分と丸くなったものだよ。以前のような刺々しさが無くなり、本来の優しい君が顔を出したんだろう。その内に、自然と交友も広まっていくさ。シロ君はまだ若いんだ、何事も焦る必要は無い」

「・・・ありがとう」


雑談のつもりが、いつの間にか慰められていた。

本人に言えば否定するが、フォックスだって大概にお人好しだ。


「さて、スクロールの内容は写し終えた。後はシロ君が召喚に成功するかどうかだな。オレはマスターと共に上で吉報を待っているよ」


ポンと肩を叩いてから彼は部屋を出た。

俺はコートを脱ぎ、机に置かれた小包から【欠片】を取り出して祭壇に供える。

・・・これで儀式の準備は完了だ。


「ふーっ」


深いため息を吐いて目を閉じる。


本当に、魔王を召喚してしまっても良いのだろうか?

それは彼女(シルフ)への裏切りにならないか?

シルフの事は裏切れない。

俺の身勝手で折ってしまった彼女から、俺の身勝手で別の剣精に鞍替えするなんてことがどうしてできようか。

そもそも、使役を望まぬ主の元へ精霊が降りてくるかさえ怪しいものだ。


・・・ただ、まあ。どん底にいた自分を、ここまで引き上げてくれた恩師の厚意なのだ。無下にすることは出来まい。


そう、これは恩返しなのだ。そして、師匠も言っていた通り試験なのだ。半世紀近くも俺を育ててくれた彼女に成果を見せる時が来たのだ。そういう事にしよう。


「降臨せよ。」


心を鎮めると、体内を循環する魔力の回転率を倍に上げるながら一句目を唱える。


「汝は鉄。 焔に巻かれ、刃となる。 されど、その芯は鋼にあらず。その真は白き魔王なり。

  壊れた時計には歯車を。 ありし日の栄光は蘇り、逸話より出で、現世に至る因果を降下せよ。」


高速で体内を蠢めく魔力が神経や血管に負荷を与え、内側から熱が溢れると同時に、ギチギチと身体が歪む様な感覚に襲われた。

自身の行使できる魔術の何段階も上の儀式による過負荷(オーバーワーク)が身体を破壊していくが、それでも尚、詠唱を止めることはない。


 「応じよ--応じよ--応じよ。

  召集は三度繰り返された。

  世の理は此処に打ち砕かれ、棄却する」


詠唱に呼応して魔法陣が輝き出し、祭壇に祀られた欠片が浮かび上がり、俺から魔法陣へと流れ出た魔力と膨大な空間魔力を吸収し、その欠損部を補ってゆく。


 「――――願え。

  我は汝の願いを聞く者、汝は我が剣となる者。

今宵七三の盃を交わし、我が意に呼応するならば応じよ」


初め、刀身の形をしていたソレはゆっくりと楕円になり、五体が現れて人型に近づいていく。

やがて細い手足や流れる髪の毛などといった細部が構築されると、(うずくま)った状態の人影が浮かび上がった。


俺はそれを確認すると、最後の一句を紡いだ。


  「汝、古より来たる英霊、

 盃を干し 、我が剣となるならば此処に出でよ

―――理想高き白銀の王!」


何て事もない、(いと)も簡単に召喚の儀式が終わった。

だが同時に、自前の魔力も空間魔力もすっかり枯渇して、まるでいきなり乾燥地帯に喉がカラカラに渇いた状態で放り出されたような衝撃が全身を襲って意識が飛びそうになった。

しかも収束していた魔力が一気に解放されて軽い突風が部屋を凪ぎ、埃が舞った。


「うげっ!ゲホッゲホ」


召喚が終わって気の緩んだところにこの惨事である。

目といい気管といい、好き勝手に埃が入って来て思わずむせた。


目を擦っていると、袖を誰かに引かれた。

誰か...と言っても、師匠たちの気配は依然動いていないので、当然新たに現れた魔力元が正体なのは語るに及ばない。


涙でボヤけた視界に白くて小さい物体が目に入る。


・・・白いのはまあ、魔王の伝承に白銀と有るのだから解らなくはない。

だが、何故小さい。


掴まれていない左の袖で涙を拭い、視界をクリアにして驚いた。


一糸纏わぬーーそれは召喚直後なので問題無いーー白髪の少女が、心配気に俺のことを見つめていたのだ。


歳は俺より2回りほど幼く、メアリーといい勝負だ。


流石に思考が停止した。


いや、一先ず冷静になってみよう。思い返せば湖畔の小屋にあったのも女性物の衣服であったし、遺物(かけら)も細身で薄いのものだった。


成る程、予測は可能だったのか。回避は不可能だったが。


頭の整理がついた事もあり、先に脱いでおいたコートを魔王にかける。

・・・絵面が犯罪的だ。


わざとらしく咳払いをしてから問いかけてみる。


「貴女が、伝承に残る【魔王】だろうか」

「ーーー」


口は開けるが声が出ないらしい。

焦点の定まっていないような、光の無い瞳で俺を見上げていたが、魔王という単語を聞いた瞬間に一瞬怯えた表情を見せた。


それからはペッタリと俺にしがみついて、小さく震えている様だ。

その時、上でフォックスが移動する気配がした。


いくら奴が相手だとしても、流石に全裸に俺のコートを着せただけの幼女に抱きつかれている現状を見られるのはマズイ。


「君も一旦離れてくれ!」


引き剥がそうと努めるが、ガッチリと抱えられていてビクともしない。


この娘の腕は万力か?


そうこうしている内に、扉を隔てた向こう側からフォックスの気配がする。


「やあシロ君。マスターに言われて様子を見にーーー」


努力は、必ずしも報われるとは限らない。

ドアノブに手を掛けたまま硬直し、絶句したフォックスとの間に気まずい空気が流れた。


「いや・・・オレも昔、同じ様な経験があるから気持ちは判る。そこまで小さな娘じゃあなかったけどな。まあ兎に角だ、気落ちする事は無いぞ」

「フォックス、時に善意は刃となる事を覚えていた方が身のためだと思う」

「そ、そうか、すまん」


昨夜、あれほど過去を話すことを拒んだ彼がポロリとそれを口にする程の同情は俺の心に深々と突き刺さった。


やめてくれ、優しさには馴れてないんだ。

恥ずかしさで死にたくなる。


差し出された魔力回復のポーションを一気に呷り、一息をつくと気持ちと体調が幾分か回復した。


「しかし、その子が...魔王?」

「あの欠片から召喚できたんだから間違いないだろう。ただ、どうも喋れないらしいんだ」

「召喚時に不手際でも有ったのか?」

「んー、そんな兆候は見られなかったんだけどなぁ・・・」


フォックスと共に首を傾げて、しばし熟考する。

そして、一つの説が浮かび上がった。


「剣の欠片は心の欠片だから、不完全とか?」


パッと思いついた考えであったし、それだと昼間に出会ったアーサーの件が解けない。

彼らの剣は、全てが砕かれて破片しか残っていないはずなのだから。


「可能性としては非常に高い。十分に説得力のある説だ」


余計な事で悩んでいると、フォックスがしきりに頷いている。

そして、何かを取り出そうとわずかに手を動かすも、気が変わった様で引っ込めてしまう。


「どうかしたか?」

「いや、何んでもないよ。取り敢えずはマスターへ報告に行こう。話はそれからだ」


彼はそう言ってから魔力で小さなブーケを作り、魔王に羽織らせた。


「マスターに会わせるのに、その格好はいろいろと不味かろう」

「そうだな」


フォックス、お前は本当にどこまでも気の利くサーヴァントだ。


・・・さて、相変わらずベッタリな魔王(このこ)を師匠にどう説明したものか。

次々と出てくる問題に、俺は頭を痛めるしかなかった。


〜〜魔剣士官学校 基礎概要集:第一項〜〜


《魔剣士と剣精》


文字通り剣に宿った精霊や剣に宿った記憶から再生された英霊のこと、あるいはその剣自体を指す。

どの剣精も固有魔法が使え、召喚獣に見られる行動規制(防御魔術による妨害)が無い。


剣精にも何種類かが存在して、大まかに分けると以下の3種。


【精霊降下によって作られる人造剣精】


【自然界に存在するエレメンタルと空間魔力が混ざり合って出来た天然剣精】


【過去に存在した英霊の強い思念が宿った剣からその記憶と魂をサルベージして擬似的に剣精とした転生剣精】


順に強力なものになっていき、且つ数が少なくなっていく。


これらを操る剣士は、専門の教育機関で厳しい修練を積んで国家資格を得た『魔剣士官』(通称魔剣士)と先天的に精霊と干渉できる『ノラ』と呼ばれる二種類だが、前者の方が圧倒的に数が多い。


ほとんど全ての剣精は精霊としての姿を具現化することができ、剣の状態でもテレパシーで会話ができる。また、剣精の性格は生物と同じく十人十色だが、属性持ちの場合は火属性には荒々しい性格が多かったり、木属性には大らかな性格が多かったりと見当を付けやすい。

基本的には主人に忠実で友好的に接するが、中には恋愛感情を抱く者や、逆に相性の悪い者も居なくは無い。


主人の呼び方は個体によりけりだが、代表的なものは『マスター』や『ご主人様』で、他にも本名に尊称を付けたり、呼び捨てや『君』と気楽に呼んだりなど、割と好き勝手である。


剣が折れるか精霊が死ぬと剣精は消滅してしまう。また、召喚獣と同じく怨念には弱い。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ