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剣たちの鎮魂歌 〜理想高き白銀の王〜  作者: ゆーやミント
序曲
4/12

〜黄昏の晩〜

目を開けると、そこは荒野だった。

空は土色に濁り、乾いた風が凪いでいる。

地面は赤茶に焼けていて、至る所でひび割れが走っていた。

そんな荒野の中の小高い丘に、1人の少女が剣を杖代わりにして体を支えて立っている。


少女の容貌は俺と同じ白髪で、細くて華奢な体には、金属が胸当ぐらいにしか使われていない半壊した軽装の鎧を身につけていた。


可憐や幻想的、という表現がこの場合正しいのだろうか?

一方で、荒野に黄昏る妖精の様な哀愁も漂う。


「何をしているんだ?」


放心したように空を仰ぐ彼女に尋ねようとしたが、どういうわけか声が出ない。

近づこうと歩み寄るが、一向に距離は縮まらない。

手を伸ばして駆け寄ろうとするが、少女に反応は無い。


ふと空を見上げると、キラキラと光る何かが落下してきて地面に突き刺さる。

それは血で濡れた無骨な剣だった。


俺はもう一度空を見ると、今度は無数の輝きが降ってくる。

血の気が引いて咄嗟に逃げようとしたが、相変わらず自分の位置は変わらない。


剣が音を立てて地面に刺さる。一本、また一本と、降りはじめた雨のように、次第にその速さと密度を強めていく。


やがて豪雨となった剣の雨に全身を切り裂かれて、紙切れのように散り散りになっていく俺は、薄れゆく意識の中で少女が微かにこちらを見ているように思ったが、次の瞬間には世界が暗転した.....


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「はっ...」


妙な悪寒と恐怖に飛び起きた俺は、それが夢の所為だと気がつくのに数秒を要した。

どんな夢をみていたのか、その記憶は既に無かったけれど、ビッショリとかいた冷や汗と痛いくらいに脈打つ鼓動から良い夢ではなかったことは簡単に推察できる。


頭の周りに取り憑いたモヤを振り払うように頭を振ってから窓の外を眺めると、空はまだ夜の帳につつまれている。

星の高さから計算しても、まだ深夜だと言っていい時間だ。


体は疲れているのにも関わらず、妙に目が冴えて眠気がまったく無いから、だるさが残って気分が悪い。


ふと冷静になると、自分が何処にいるのかが気になったが、見回せばなんて事はない。いつも俺が寝起きしている師匠の魔術工房の一つだ。

問題は何で自分のベットで寝ていたのかである。


「確か師匠たちと森で探索をしていて...」


順調に欠片を見つけ出して退散しようとしていたはずだが、どうもそこからの記憶が曖昧だ。


「イデッ...」


思い出そうと熟考すると、激しい頭痛がして思わず呻き声を上げてしまう。

まるで記憶に(ふた)がされているみたいで気持ちが悪い。


ベッドから降りて部屋を出ると、軋む階段を下りて一階のリビングに入った。


「やあ、やっと起きたか。一週間も寝たきりだったよ。気分は如何かな?」


ゆったりとした部屋着を身に纏い、1人で晩酌を楽しんでいたらしいフォックスがグラスを揺らしながらこちらに尋ねてくる。


「そんなに寝てたのか。あの湖畔で一体何があったんだ?どうも思い出せないんだけど」

「そうか、記憶はないか。無理もない、シロ君は高濃度の呪怨にあてられたんだ。直接触れれば我々サーヴァントでさえ掻き消されかねない程のね」


フォックスに告げられて朧げながら思い出してきた。

何か恐ろしいモノと目が合った気がする。それが何なのか、気にはなるが本格的に本能が警笛を鳴らしているので聞き出さないでおこう。


「そうか、世話をかけたな。だいぶ体が鈍ってるけど、体調はまちまちだ」

「その割には青い顔だが?」


笑って誤魔化したが、やはり彼の目は鋭い。


「隠さずに言ってみろ」

「いや、隠す程の事じゃないんだけど...」


流石に子供じみた理由過ぎで、面と向かって言うとなると恥ずかしい。

だが、彼の厚意(おもいやり)に満ちた目で見られると黙ってもいられない。


「悪い夢を見てさ...内容は覚えてないからそんな気がするだけだけど」

「夢...か」


彼は曖昧にしか説明できないを俺に、含みのある笑みを浮かべてグラスをテーブルに置くと、前屈みになって両手を握る。


「君はサーヴァントを召喚した経験はあるかい?」

「いや、無いけど?」

「そうだろうな、君は魔剣士であって魔術士じゃないからね...おっと、そんな顔するなよ。からかった訳じゃないんだ。まあ、一種の確認だとでも思ってくれ」


俺が小さくムッとしたのがわかったのか、彼はそう弁解しながら脇の小包に目を向ける。

見覚えのある布だ、魔王の佩刀を包んでいるものだろう。


「今回の召喚は一般的な剣精のそれとは違って、サーヴァントの召喚術的な要素が含まれている。これは単純に剣に精霊を降ろすのではなく、剣の中にある記憶を...魔王という人物の逸話を再生・実体化して、擬似的な剣精とするからだ」


彼はそこで俺の顔を覗き込んで理解しているかの確認をする。

俺が黙ったまま頷くと、彼も言葉は発しなかったが了解と認識したらしく話を続けた。


「当然だが、消費する魔力の量は通常の召喚とは桁が違う...が、まあ今はそんな事はどうでもいい。重要なのは先にも言った様にサーヴァントの召喚術の要素が含まれる事だ。剣精とは、乱暴な言い方をすれば、知識と技術さえあれば誰でも喚ぶことができる。しかし、サーヴァントはそれらに加えて召喚者(マスター)被召喚者(サーヴァント)の内面的な繋がり、いわゆる相性が良くないと、術者がどれだけ優れていても魔獣一匹さえ召喚はできないんだ」

「その辺はけっこう昔に師匠から習ったよ。属性図から種族的な相性まで叩き込むのは大変だったなぁ」

「だろうな。短命な人族じゃ努力しても一騎しかサーヴァントを召喚できないのはそれが要因でもあるしね」


苦笑いしながら当時の俺の苦しみっぷりを思い出しているようだ。


「おっと、論点がずれたな。相性の計り方は無数にあるが、主な方法は2つ。前者は実際に喚んで見ることだ。ぶっつけ本番ではあるが、ある程度の相性があれば可能だからね。そして後者は夢に見ることだ。これは非常に相性が良い事を示していて、滅多なことじゃ喧嘩も無いだろう」


あんなに悪寒を感じる夢であっても同じ事が言えるんだろうか?

そう考えずには居られない。


「なら、俺は魔王との相性は良い方なのか」


ぽそりと呟いたつもりだったがフォックスの耳には届いたらしく、眉が微かに動いて口が引きつった。


「ま、まあ・・・よく愛されてはいるんだろうな」

「?」


え、なに?その苦笑混じりの視線は何なの?

暗に頑張れと言っているのは伝わるけど、何についてなのかが解らない。


フォックスはワザとらしい咳払いをすると、魔法陣の描かれた羊皮紙も取り出した。


「さて、この前はよく見る時間が無かっただろう。許可は下りているから、構築式をよく解析しておくといい。土壇場で焦っても意味は無いからな」

「ああ、ありがとう。・・・そう言えば師匠は?」


ふと思えば師匠の姿がどこにも無い。

真夜中なんだから寝ていてもおかしくはないが、師匠はベッドで寝るときにはフォックスの尻尾を抱き枕代わりにするので、ここに彼が居るなら寝ていないという事だろう。


「マスターなら屋根の上だよ。今夜はいい月だから瞑想にでも行ったよ」

「・・・魔力の回復はイマイチなのか」

「まだ若いつもりらしいが、ああ見えても六百歳近いからな。持久力も落ち始めているんだろう」


そう言って彼は遠く夜空を眺める。

昔の事でも思い出しているのだろうか?


そういえば俺はフォックスの生前(むかし)を全く知らない。

本人はもちろん、師匠も彼の過去について口を開いたことは無いのだ。


「---初めて会った時は、まだ本当に小娘だったんだが、いつの間にか追い抜かれていた。まるで、娘の成長を見ている様だったな」

「なあ、フォックス。お前の昔話って聞いた事無いよな、聞いてもいいか?」

「オレの過去かい?---長い長い月日の中で、記憶の殆どが摩耗してしまったからもう断片的なものしか残っていないよ。...それに、その記憶も自分を否定し続けた愚か者の物語にすぎない。聞くだけ無駄だね」


そう、嘲笑気味に言う。


「そうか、話したくないなら強要はできないけどさ」

「聞けばいずれ、オレに殺される未来しか待っていない。オレの使役はそういう契約なんでね」


グラスを傾けながら顔では笑うが、彼の目は微塵も笑っていない。

一瞬だが、狩人(フォックス)らしい獰猛さの片鱗を垣間見た気がする。


「なら止めとく」

「それがお互いの為だな。---それにしても良い月だ、オレも屋根(うえ)へ上がろうか」


窓から顔を覗かせている月は、宝石を散りばめた様な夜空の中でも、一層明るく輝いていて美しい。


それに、その月光を浴びて黄金の髪や尾をキラキラと輝かせるフォックス自身の姿は、神々しく感じた。

流石は九尾狐、神獣と敬われるだけはある。


「どうした、シロ君?」

「え?ああ、いや...」


何と言ったものか?

見惚れていた。というのが素直な感想なのだが、それをそのまま口にするのは誤解を生みかねない。


「フォックスの金毛は月の光に良く映えるなーってだけだ」



彼はキョトンとしていたが、突然笑い出した。


「・・・はっはっは!おいおい、男が男に言う台詞じゃないだろう。それに生憎、オレにはそっちの気は皆無でね」

「なっ!そういう意味じゃねぇよ」


彼は、俺が反射的に反発するのを見てニヤニヤと笑う。酒が入っているからか、珍しく巫山戯ているのだ。


この男がこういう対応をとるのは確かに珍しい...が、今やるんじゃねぇよ!


「おい、フォックス。ちょいと遊びが過ぎるんじゃないか?」

「そうかい?投げかけに対して、非常に適切な返しだったと思うんだが」


青筋を立てつつも、作り笑顔で免罪の最後通帳を渡すが、彼はワインを舐めながらそれを跳ね除けた。


この神秘性を持ちながら、この人臭さ。

相変わらず、理想と現実の二律背反(むじゅん)を併せ持った男である。


と、まあ内心では感心しても、表面上では無言の(にら)みの応酬が続く。


「すまんよ、冗談が過ぎた。病み上がりにそう怖い顔をするな」


先に折れた--というよりは噴き出した--フォックスが降参とばかりに両手を挙げた。


「怖い怖い、若いのに良い気迫だ。ほら、シロ君も一杯付き合え」


彼は笑いながら空きグラスを取り出すと、ワインを注いでグラスを滑らせた。


手元まで滑ってきたグラスには半分程の酒が入っていたが、移動中に中身が揺れもしなかった。


芸のある奴だ。


「ん?」


一舐めしてみると、果実の変わった風味が鼻に抜ける。


「どうだ?生前によく飲んだ銘柄でね。武具と同じ要領で取り出せないか試したところ上手くいったんだ」

「何でもありだな、他のサーヴァントにもできるのか?」

「出来るんじゃないか?思いつくかどうかは別だがね」


うん、普通はやらないだろう。

考えてもみろ、武器庫の中から酒を見つけ出すんだぞ。まず発想が無い。


棚から牡丹餅どころの騒ぎじゃない。

ほとんど財宝発掘だ。


「香りが良い。上物か?」

「いや、量産品の安酒だ」

「はぁ⁉︎これでか?」


驚いて思わず聞き返してしまった。

フォックスは何気ない顔で、俺の反応に逆に驚いている。


「驚くほどでもないだろう。風味が違うからそう感じるだけで、分かる奴が飲めばすぐに気づく」


そんなものなのか?今は兎も角、昔はそれなりの場所に招かれる事も度々あったんだが...やはり鍛えた舌には敵わないか。


「そうか。・・・でもこれ、大衆向けに売り出したら、一儲けできるぞ?」

「おいおい、君はいつから商人になった。マスターの金汚なさが感染ってるぞ」

「・・・」


フォックスの言葉がトゲとなって突き刺さる。


よりにもよって、あの師匠(残念な美人)の残念な部分が伝染したというのか?

素直にショックだ。


「まあ兎も角、売り出す気はないよ。貴重な故郷の味だ」

「何だ、物騒な事を言うから、昔の事が嫌いなのかと思ったけど、懐かしむんじゃないか」

「嫌いなのは自分の過去だけだよ。故郷自体はむしろ好きだ」


フォックスはそう呟くと、再び遠くを仰いだ。


「さてっと」


俺はグラスに残った少量の酒を飲み干すと席を立った。


「休むのかい?」

「ああ、一応は病み上がりだからな。今夜はゆっくり休むよ」

「そうか、まあ無理はするな。明日は大仕事が待ってるからな」


フォックスチラリと小包に視線を流す。


魔王、か。そんなものを俺に召喚させる意味が何処にあるんだろうか。

俺は、嫌だ。


「そうだ、今度フォックスの故郷の話を聞かせてくれよ。そっちならいいんだろ?」

「ああ、その話なら大歓迎だ。いつでも聞きに来てくれ」


嫌気を振り払おうとして、ふと思いついた考えではあったが、彼は快く快諾してくれた。


部屋に戻り、羊皮紙のスクロールを机におくと、ベッドに身を投げ出してそのまま目を閉じる。


未知の世界を空想しながら床につけば、嫌な気分も少し和らいだ。

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