フォックス・タイム
薄暗い森の中。シロ君の消えた木を見つめて三十分が経った。
既に空は白み、日の出が近いことが見て取れる。
「流石に遅いな」
偵察...彼はそう言っていた。故に、結界の中が巨大な迷路だとか、城塞だったというならば直ぐに帰ってくるはずだ。そうでないという事は、内部の見晴らしは良く、建物等があったとしても平屋程度だろう。彼ほどの剣士ならば危険予測等の状況判断は瞬時に行える。
では何故戻ってこないか?幾つか仮説が立てられる。
一つ目は、やはり出てはこれない結界であった場合だ。相手は魔王、あの程度の詮索は見抜かれ、対策されていた可能性が大いにある。
二つ目は、探索に夢中になっている場合だ。だが彼は素人ではない。これはあり得ないだろう。
三つ目は、何かに襲撃された場合だ。最もあり得る仮説だが、それならば彼が生きている可能性はほぼゼロだ。
鋼鉄の剣一本を頼りにこんな長時間戦うのは、熟練剣士とはいえ不可能だ。
「・・・マスター、時間だ。シロ君の様子を見に行こう」
「ん...もうそんな時間かい?少し.....寝入っていたよ」
眠そうに目をこするマスターの顔には大分血の色が戻っている。魔力の最大量の割には回復速度は平均的な彼女でも、これだけ休めば活動はできる。
とはいえ、オレへの魔力供給は今も途切れたままなので、こっちは本気で動くのは無理なのだが。
「肩を貸そうか?」
「・・・そうだね。言葉に甘えさせてもらおう」
そう言って彼女はオレの腕に抱きついてくる。その頭を優しく撫でてやると、嬉しそうに...という表現が正しいのかは解らないが、まあ甘えた表情を見せた。
変なところで甘えたがりなマスターには呆れるが、オレ自身もいつの間にか彼女の頭を撫でていると、自然に口元に笑みを浮かべる様になっていた。
サーヴァントでは無い、生前の自分の記憶が刺激されているのだろう。
磨耗し、消えかけた思い出。
大いに誤った、握りつぶしたい記憶。
「フォックス、怖い顔してるよ?」
一瞬の感情が表に出てきたのか。それとも彼女が機敏にも察したのか。抱きつく腕の力が微かに強まった。
「いや、何でもない」
すぐに笑みを浮かべて頭をもう一撫でする。そんな程度で誤魔化せる女だとは思っていないが。
「また、昔の事かい?」
「・・・昔とは限らない。サーヴァントは過去・現在・未来を問うこと無く、全ての時間軸から登録される。マスターにとってすれば、未来の出来事かもしれない」
「でも、フォックスにとっては昔の事だろう?」
「そうだな。マスターの言う通りだ」
これまでにも何度となく行ってきたやり取りが繰り返される。よくもまあ飽きないものだ。
「さあ、時間になっても帰ってこない馬鹿弟子を迎えに行こう」
「うむ」
景気付けだという様にマスターは笑う。
彼女のこういう何気無い性格にはよく救われる。
・・・その何倍も頭を抱えさせられたものだがね。
未知の領域へ丸腰で進むのは流石に気がひけるので、適当な剣を見繕うことにする。
頭の中で剣を想像すると、目の前に幾本かの長剣が地面に突き刺さって見える。その中から刃渡りが長く、肉厚な十字の剣を選んで抜き取ると、オレを構成する魔力がわずかに削られ、練り上げらると剣として具現化した。
サーヴァントなら皆が持っている特技で、生前や逸話の中で使用した武具を呼び出すものである。【武器庫】から取り出す。とも言われている通り、解りやすく要領を説明しろと言われればオレもその言い方を使うだろう。
因みに、先にシロ君へ渡した短剣も同じものだ。
かつて使った数だけ呼び出せ、折れて壊れればそれまでである。
「さて、行くぞ」
まずは例の木に手を伸ばして結界に付加された魔術が無いかを確認する。
生身のシロ君が無事に通ったのだからマスターには危害は及ばないだろうが、対魔力性の防壁でも張られていたら、身体が魔力で作られている我々サーヴァントは入れない。
しかし心配は無用で、微かな抵抗を感じたものの難なく結界を潜り抜けた。だが、その後が問題だった。
まず感じたのは怨嗟の声。重々しく、息の詰まる様な呪いに意識が刈り取られかけた。
次に目に入ったものは此処から少し先、ちょうど奥の小屋とオレとの中間点に気を失って倒れるシロ君と、それに絡みつく《何か》だった。
それは、一見すると土塊と藻と枯れ枝で作られた人形の様に見えるが、一方では薄汚れてはいるものの一糸纏わぬ線の細い乙女の姿にも見える。
「《ファイア》!」
オレが呪いに眩んでいる間にマスターが火球を一発撃ち出した。
魔力が殆ど練られていないので火力自体は低いが、そこそこの高速で飛んでいって手前に命中した。
彼女は弾かれた様に顔を上げると此方を睨んでくる。
「・・・ナイ・・シノ・・・・ヒト」
小さな、けれども妙に空間に響く濁声で《何か》は話す。
声から意味を聞き出すのは困難だが、代わりに辺りを漂っている呪いの魔力が言葉を紡ぐ。
「【渡さない、私の愛しい人】か。シロ君も大層な娘に好かれたものだ」
「あれの言葉が解るの?」
「空気に念がこもっているからな」
マスターには呪いは聞き取れないらしい。肉体という殻が羨ましい限りだ。
突然湖に水柱が立ち上がり、そこから一振りの刀が飛び出して彼女の手に収まる。一度愛おしそうにシロ君に頬ずりすると、地面を蹴って走り出した。
「来るぞマスター!離れろ!!」
突き飛ばす様にマスターを跳ね除けて剣を両手で構えると同時に刃が激突する。
至る所で刃こぼれとひび割れが目立つ錆びた刀を、肉の少ない華奢な腕で操っているというのに非常に重たい。
激突の衝撃で数メートル。鍔迫り合いで更に1メートル押し込まれる。加えて刃越しに彼女の呪いが染み込んできて、自分の存在がかき消されそうになる。
「クッ...」
食いしばった八重歯が欠けそうな程力んでも押し負ける。
そこで、彼女は強い想いが固まって生まれた思念体なのだと気がついた。
呪いを纏った思念体は、サーヴァントにとっては天敵と言っていいだろう。
「君は何者だ。名乗るだけの知性があるのなら答えろ」
「・・・オウ、・・・・シロガネノマオウ・・・」
「なに?」
吠える様に名乗った彼女は確かに白銀の魔王と言った。
それはシロ君が剣精として呼び出す予定の英霊の名前である。よもや召喚に失敗でもしたのかと思ったが、見れば羊皮紙も遺物もシロ君の側に転がっている。開きかけた紙面上には陣が描かれたままなので、既に召喚を終えた様子も無い。
となればあれは何か?思念体である事に間違いは無いが、剣精もなければサーヴァントでもない。ただの怨念の塊が自我と実体を持って動き回っているとでもいうのか?
・・・あり得なくは無い。そんな前例を見たことがある。遠い昔に...
「くっ!」
渾身の力を込めて刃を弾き返す。今までの間に呪いで犯された右腕は肘の辺りまで炭の様に黒くなって干からびている。
この腕と剣はもう駄目だな。
「君を見ていたら嫌な過去を思い出したよ。愚かな男をな!」
今までの剣を捨てて、もう一度武器庫から剣を呼び出す。捨てた剣は地面に落ちると同時に鈴の音の様な澄んだ金属音を立てて砕け、魔力の粒に戻っていった。
呪いの侵食を進めないために右腕を肩口から切り落とす。瞬間的に激しい痛みが走り、鮮血が飛び散るが、瞬く間に傷口は塞がって痛みも引いた。
こちらと相手との距離は二十歩程度。互いの身体能力ならば、瞬時に詰め寄れる間合いの中だと言っていい距離しかない。
先に動いたのは魔王の方だった。やはり瞬時に詰め寄られる。しかも途中で腰を落としたので思ったよりも姿勢が低く、今のオレの構えでは攻めには入れない。仕方がないので守りに徹するが、連撃の繋げ方も非常に上手いので押される一方だ。
こっちは腕一本で戦っているので、手首のスナップを利かせながら弾いていく。それでも数回の攻撃の度に剣を交換しなければならないので、兎に角一本の腕が忙しい。
「フォックス!避けろ!!」
マスターの強い命令口調はサーヴァントに対してある程度の強制力を持つ。
半ば無理矢理に身体が動かされて横へ跳ねると同時に巨大な火球が魔王に命中して激しく燃え上がる。
彼女は炎の衣の中で、筆舌しがたい叫び声を上げて苦しんでいた。
だが、強力な魔術を行使したために、ようやく繋がりかけていたオレとマスターの魔力の供給線も再び消えてしまう。
「マスター、君は戦うんじゃない!命に関わるぞ!!」
「エルフの寿命は長いんだ。多少は使っても堪えないよ」
顔を青くし、汗を流しながら言われても信憑性はゼロだ。それに...
「君はもう大口叩いて若いと言える歳ではないだろう」
「ん?何だって?」
「反応する余裕があるならまだ平気だな」
「もちろん!」
不満げな顔で返事をしながら小瓶を呷る。
賢者の石を使って魔力を回復させたらしく、顔色は良くなって供給線も復活した。
「ガァ!」
魔王が刀で炎を振り払って出てくる。幾らか傷は負った様だが、火傷や髪が燃えた様子は無い。
「メイ・・ジ?・・・・キャスター!」
初めて魔王が怒りを露わにした。過去に魔術師に嫌な記憶でもあるのだろうか。
またもや湖から、しかも複数の水柱が上って古びた武器が飛び出した。
長剣・刀・短剣・長槍など、その数は十にも上り、回転しながら真っ直ぐとマスター目掛けて飛んでいく。
「マスター!」
すぐに駆け寄って防御を代わりたかったが、魔王自身に激しく切り込まれている為に動けない。だが、サーヴァントの最優先事項は自身の命を守ることではなく、マスターの救命である。
強く切り返して、隙が生まれた一瞬を突いて全力でマスターへと駆け寄る。
彼女自身も二、三本は撃墜していた様だが、既に凶刃は眼前に迫っていた。
もはや弾く時間が無い。
マスターの前に飛び出して仁王立ちした。
直後に七本の武具が背中に突き刺さって胸や腹から切っ先が飛び出してくる。
血が口や傷口から鼓動に合わせて吹き出した。
痛みは後から広がり、その前に熱が全身を襲って、身体の中をグチャグチャにかき回されている様な不快感が堪らない。
目が見えなくなって膝が折れる。
「ごめんよ、フォックス」
遠くの方でマスターの謝罪の声が聞こえる。
感覚は既に死んでいたが、身体から何かが引き抜かれていく感触は感じた。
後には何も感じない。
---どれだけの時間が過ぎたか。暗闇に沈んでいた意識と思考が急速に浮上すると、全身の感覚や視力が回復していく。
魔力路...稼働。
構築式...正常。
供給線...確認。
損傷部...無し。
肉体の再起動...可能!
文字通りに飛び起きて武器庫から手頃な短剣を二本取り出して両手で握る。
駈け出すと同時に金毛の尾が一本、ふわりと風に溶ける様に魔力の粒となって消滅した。
マスターは一定の間合いを保ちながら色とりどりの魔術を展開させて応戦し、魔王は多くの属性魔術に翻弄されている様である。
オレは空かさずマスターの前に出た。
「すまないマスター。思いの外に復帰の時間がかかった」
「まったくだよ、魔術師を前衛に放置するんじゃないの」
致命傷からの復帰...というのは少し間違った解釈であるが、説明しやすいのでよく使う。
だが実際は、猫又や大蛇そして九尾など、複数の尾や首を持つ神獣はその数だけ蘇生するのだ。つまり、オレならば後八回は蘇ることができる。
「アイツには防御魔術が一切効かない。全部一太刀で斬り裂かれる」
彼女の呪いは魔術すら搔き消してしまうのか、それとも的確にディスペルポイントを突くことができる天性があるのか。だが、先程からのマスターの攻撃魔術が有効だったことからどちらでもないのだろう。
余計にややこしい。何にせよ、情報の無い強敵と正面切って戦うのは無謀もいいところだ。
・・・一つ、まだ試していない手もある。だが先ずは撤退が先決か。
「マスター、シロ君を連れて引いてくれ。その時間稼ぎと殿はオレがする」
「・・・いけるのかい?」
「さあね」
不安に表情を曇らせるマスターの目を見ながらいつもより砕けた口調で言うと、何かを考えてからクスリと笑う。
「じゃあ、頼んだよ!」
「ああ」
マスターは後ろに、オレは正面に走り出す。魔王は動かない。
急速に間合いが詰まっていき、敵の間合いまで後数歩という場所で地面を蹴った。
サーヴァントが本気で跳躍をすれば、かなりの高高度まで飛ぶことができる。まだ垂直上昇が終わらない内に状態を立て直して両手の短剣を投げた。
しかし、魔王は回転しながら高速で飛来した二つの凶刃を難なく弾き飛ばしてしまった。
流石に武功の英霊様は格が違う。
マスターを見れば、ちょうどシロ君とその荷物を抱え終えたところである。
魔王は遥か上空で豆粒に様になっているオレは驚異ではないと判断したのかマスターの方を向いた。無理もない、この時代、この世界の常識で考えれば、こんな上空からでは何もできやしない。そう常識で考えれば、な。
何もオレがこんな空高くに飛んだのは回避や逃亡の為ではない。これからする攻撃は近くに第三者が居たり、敵との距離が近かったりするとやり辛いのだ。
オレは武器庫から一つの武器を取り出した。それは鉄で出来た歪な杖の様にも見えるが、中程に望遠鏡の様な筒が付いている。
大凡、ファンタジーなこの世界には不相応な代物"対物狙撃銃"
一風変わったこれがオレの固有武器の一つだ。
サーヴァントとは数に個体差はあれど、必ず一つは固有武器を持っているものである。
固有武器はそのサーヴァントの代名詞になる様な武具の事であり、従って通り名や逸話を多く持つ英雄ほどサーヴァントとなった時に持つ固有武器は多い。
武器に合わせて服装も変化する。
麻で出来た地味な服と少し厚手な布地で織られたコートの代わりに、丈夫な合成繊維で作られた衣服と太ももまで届く革製のロングコート。色は黒で統一され、銀の装飾が優美である。
最後にゴーグルと防塵用のマフラーが顔を覆った。
そして徐々に上昇が終わって降下が始まる。
オレは下にいる魔王めがけて銃口を向けた。
高速で落下していく中で、彼女の腹部辺りにレティクルを合わせる。
下手に頭や心臓を狙うよりも体の中心を撃てば何処かに当たる...らしい。魔王の直前ではなく、少し手前で飛んだのはこのためだ。
ゴウッと爆音が轟いて25mmの弾丸が駆ける。
それと同時にオレの身体を強烈な衝撃が襲った。サーヴァントであるから出来た無茶であり、生身でやっていたら半身が吹き飛んだかもしれない。
魔王が攻撃に気づいて防御態勢をとるが、音速以上の速度で飛来する弾に比べれば止まっているに等しい。
どんなに優良なサーヴァントや剣精であっても音に追いつける者はない。
故に、魔王は腹部に直撃弾を受け、その圧倒的な運動エネルギーの暴力によって上半身と下半身が断裂した。
「・・・さて、次はオレの番だな」
この高度の自由落下からの着地は流石にサーヴァントでも堪えるだろう。
だが、悪あがきを幾つか重ねれば助かる可能性がある。
まずは銃を消して、足元に魔力を集中させた。
「『水の盟主が告げる:汝は清き水の精なり。汝は大気を潤す水の精なり。その加護をもって迫る厄災を受けとめよ』」
詠唱が終わると、足元に何層もの薄い水の膜が浮かび上がった。
その一枚一枚が水属性の防御壁で、強度で攻撃を弾くのではなく、水の抵抗で勢いを殺す類の対投擲攻撃用の防御術である。
平たく言えば、水の中に突っ込むのと同じ原理だ。
直後、全身を強く打ちつけた様な衝撃を味わう羽目になる。我ながら、他にも手はあっただろうにとツッコミを入れたい気分になった。
防御壁に突入した時点での高度は約30m、計算上では余裕をもって着地できる。問題点は痛みとずぶ濡れになる2つのみだ。
無事に接地を終え、分断された魔王に歩み寄る。
体が断裂したと言っても大まかな話であって、実際は銃弾の衝撃で破片が至る所に散らばっているので直視は少々気が引けた。普通にグロい。
しかし、血液は一滴も無く、破片も泥の塊の様である。まるで泥人形を壊した後だ。
念には念をと、剣を一本取り出して頭に突き刺す。
ビクンと上半身が痙攣し、何度か蠢いた後に糸が切れた木偶さながら静止した。
さて撤退だと踵を返した直後、ざらりと魔王の体が砂状に崩れ、中から折れた刀の切っ先が現れた。
もう一度振り返って破片を見てみる。
切っ先から物打ちの中ほどまでの短い破片であるが、仕立て直せば短刀として使えなくもない。
そして何より、それが魔王の遺骸から現れたということが気になる。
「現存する佩刀の欠片は一片だけではなかったのか?」
思わずそんな疑問が浮かび上がった。
言い伝えでは、一つの欠片は骸と共に埋葬され、残る全ては火口へと葬られたはずである。
呪いを恐れて慎重に手にとってみたが、破片自体は唯の折れた刀の様だ。
さて、こいつをどう処分したものか。
召喚の媒体として利用するのも手だが、そんな事をしてまた奴と戦うのは嫌だ。今回は裏をかけたから勝てたものの、手の内の一つが知られた今後は二度と相手をしたくない。
・・・まあ、今は隠し持っていて、必要に迫られたら出すのが得策か。
適当な布を取り出して手早く包んでからマスターたちを追って結界を出た。
二人とも焚き火の跡地近くに居たが、シロ君はまだ目を覚ましていなかった。
「やあフォックス。戦果はどうだったかい?」
マスターは貧血の様に青い顔のまま手を振っている。オレが帰って来た事から勝利を確信したようだ。
いつもより少し上機嫌に見える。
「並のサーヴァントでは勝てなかっただろう。流石はマスターだ、良い戦力を引き当てたものさ」
「それは自画自賛ってやつ?」
「まさか。他の誰かを褒めることはあっても、それだけは有り得んよ」
吐き捨てる様に言うと、流石の彼女もしまったという顔をした。
隠していても、オレが無事に戻ってきた事を喜んでくれているらしく、それは素直に嬉しい。
「いや、こちらこそすまなかった」
「ええっ⁉︎何でフォックスが謝るの?」
可憐な顔をポカンとさせているので、思わずその額を指で小突いてしまった。
彼女は、オレの突然の行動に先ず戸惑いを見せ、それから口を尖らせて拗ねる。
「・・・・何さ」
「深い意味は無い、ほんの出来心だ」
面白いので、続け様にもう二、三度突いた。
「だーかーら!」
「すまないな、マスター。強敵に勝って、どうも少しばかり浮かれている様だ」
「それで私の頬を突くのは止めてほしいんだけど」
「まあ、そう言うな」
最後にワシャワシャと頭を撫で回してからシロ君を肩に担いだ。
「さあ帰ろう。お疲れ様だ、マスター」