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金属恐怖症

作者: matu

本郷先生は私のこと金属恐怖症なんて言うけれど、まったくもってデリカシーの無い先生だこと。


そんなだから、開業医なのにうだつがあがらないのよ。


いつもドイツ語で何か書いているけど、きっと日本語がわからないのね。お笑い草だわ。


金属なんて毛ほども怖くなんかないわ。ただ、きらいなだけなの。


だって、金属のお下劣なことったらないわ。


冷やせば冷たくなるし、あぶれば熱くなる。


とどのつまり、自分の温度すら保てない下等な存在なの。


それにあの匂いね。とても耐えられたものじゃないわ。


あら、いけない。そんなことより今日は、年に一度の2月7日よ。


年に一度しかこない2月7日をお祝いしなくちゃ。


そうときまれば、15時の方向へ全速前進。めざすは我が家よ。


あら、なにかしら。19時の方向に障害物発見よ。面舵一杯、方向転換ね。


中年男性が倒れているようだわ。意識もないみたいね。


駅のホームでAEDがあってよかったわね、中年男性さん。


私に出来ることは、AEDをたくみにあやつり懸命の救助活動にあたるか、それ以外のことをするか。二つに一つよ。


多数決で決めるしかないようね。


救助活動にあたる寄りのひと。


それ以外のことをする寄りのひと。


うん、7対2ね。


さあて、レバーを開けてAEDを取り出すとするわ。


あら、あのレバー、金属じゃないかしら。


さっきからお下劣なにおいがしていたもの。


どうしましょう、この状況は予測していなかったわ。


朝の占いでもこんなこと言ってなかったはずよ。


一旦家に帰って熟考しようかしら。そうよ、家に帰れば玄関や廊下や壁が私のことをお出迎えしてくれるのだから。


一度帰ってよーく考えましょう。おじさんを助けるために金属のレバーを開けるか。おじさんの元来持つ生体エネルギーに安否を委ねるのかを。


われながらこれは名案だわ。きっと、中学時代に塾に通っていたおかげね。


じゃあね、おじさん。しばしのお別れね。


あれれ、よく見れば、あのおじさん、平泉成じゃないかしら。


絶対にそうだわ。だってあの右耳の下にあるほくろの8cm左にあるニキビは平泉成のチャームポイントですもの。


なーんだ、それなら早く言って下さればよかったのに。


せっかくだから握手でもお願いしようかしら。あっ、でもプライベートだから迷惑かな。


ううん、芸能人は握手やサインも仕事のうちなはずよ。きっと笑顔でお決まりのギャグも披露して下さるわ。


ちょっと待って、今はそんなことをしている場合じゃないの。一度帰宅して平泉成を助けるか否かを熟考するのだから。


よし、そうときまれば14時の方向に全速前進。目指すは我が家よ。


あら、私の右足ってば、地の底から足を引かれているように重たいわ。


右足ってば、いくつになっても甘えんぼね。


今日の右足は1万7千206歩も歩いたのだから仕方ないわね。


代わりに左足に頑張ってもらいましょう。


あら、私の左足も、地の底から足を引かれているように重たいわ。


左足ってば、いくつになっても甘えんぼね。


今日の左足は1万7千206歩も歩いたのだから仕方ないわね。


あらあら、あなたたちってば、お互いの歩数がぴったりじゃない。


あなたたち、本当に仲がよいのね。


まるで、私の右手と左手みたい。


あなたたちに負けず劣らずの名コンビよ。


よーし、あなたたちの仲のよさに免じて、今日のところは休ませてあげる。


今日はこれ以上、なにがあっても絶対に歩かないことにするわ。


おや、どこからともなく、金属のにおいがするわね。


気づけば、足元に100円玉がおちてるじゃない。


いやだ、お下劣なあのにおいが体中にまとわりつくわ。誰か、あの100円玉を向こうへ追っ払って。


本当に誰でもいいの。誰か、誰か。


そうだわ、平泉成さん。100円玉を追っ払って下さらない。


ねえってば、お願いなの。


あらら、目を細めてよく見れば、平泉成じゃないようね。


小さくてガリガリで、なんて乏しい体なの。


きっと、下層階級の人間ね。


お肉なんて一度も口にしたことの無いような。


そんな最下層の人間を助けようとしていたなんて。


孫の代まで恥をかくところだったわ。くわばらくわばら。


あらら、もっと目を細めて見れば、ただの2足歩行の動物じゃないかしら。


どうして2足歩行の動物が駅のホームにいるのかしら。


世の中、不思議なこともあるものね。


あの窓ガラスに映っているのも2足歩行の動物だわ。


なんだか私にそっくりね。


おかしくて声がでちゃう。


あはは、あはは。


こっけいだわ。本当に、こっけいだわ。


私にそっくりな2足歩行の動物がいたなんて。


あはは、あはは・・・。

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